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君の足指 僕 色ぬって・・・。  作者: 天ノ風カイト


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26/27

夏の市民プールを藤色に染めて。

思い切った質問だった。

でもそれは、僕の中にずっと募ってた思いが吹き出した質問と言えた。



 「その答えを聞いたら、君は僕の友達では居られ無くなるかも知れないけど・・・それでも良いの?」


 それが答えだと僕は半分気付いて居た・・・。

だから本当は、ちゃんとした答えを聞くまでもなかったのかも知れない。

それはお互いに薄々・・・いや、それよりも、ずっと濃いぐらいには感じてた事だった筈だからだ。

それなのに僕はまだ、直ぐ隣に座って僕の目を見る藤谷の目を、真っ直ぐには見られずに居た。

それは、とても大事な事を聞いたのに、藤谷の目を見る勇気が足りないからだったが、まだ質問の答えをハッキリと聞いてないのに、卑怯にも次の質問へと逃げようとしてたからでもあった。

でも、それでいて僕の身体は、逃げたいのか、この場にしがみ付きたいのか分からないが、プラスチック制の椅子の手摺をギュッと握り締て居た。

だからなのか・・・それでなのか、僕は・・・。

それでも、自分でも意外な程にハッキリと聞きたい事がもう一つあったから、僕は逃げず。そして、つづく質問を止めなかった。

「じゃあ・・・じゃあ藤谷は、女の子は好きなの?」

それはさっきの質問よりも、もっと大事な事だと僕は思ってた。

藤谷は「好きだよ。・・・僕が相手にしてもらえるかは分からないけど・・・僕は女の子も好きなんだ・・・。」と、躊躇なく答えてくれた・・・。


答えはハッキリした!!


『藤谷は男子も女子も恋愛対象として見られる』って事だった!

藤谷の答えと一緒に、さっきからの雨音が痛い程に耳に刺さった。

「君は!?」

こんな会話なのに。藤谷の顔は僕の直ぐ横なのに。彼は驚く程大きな声で僕にそう言って「君は、どうなの?!男の子も女の子も恋愛対象になるの!?」と・・・。

彼の僕への質問の語尾は、心なしか震えて聞こえた。

それが、雨音に書き消されないように声を張ってるからなのか、藤谷の感情の揺らぎからなのか、分からなかった。


僕が彼の目を見るまでは・・・。


藤谷の質問に答えようと、僕は掻き集めたやっとの決心で、彼の目を見た。


見た事の無い瞳の潤み・・・。

暑さなのせいなのか、寒さなのせいなのか分からない、蒸気した頬。

震える唇・・・。

それらの藤谷の表情が、僕の質問に対して質問返しをした彼の並々ならぬ決意を物語って居た。

僕は彼の真っ直ぐな意思に圧倒されて、この場から逃げ出したい衝動に駆られ、一瞬だけど立ち上がろうとして、掴んでた椅子の手摺に両腕の力を込めた。

その時だった!

カッ!!っと空が青白く光り、同時に辺りをストロボで照らし出したかの様に見せたのは!

途端!!

藤谷が僕にしがみついた・・・!?

僕は彼の突然の行動に混乱したのと、その柔らかな身体の・・・肌の感触に包まれて動けなくなった。

「来る!」

僕の耳元で、そう藤谷が言った瞬間!!

ドーン!!!っと、凄まじい雷音が大気と耳を(つんざ)いた!

僕の耳元で「怖い!」と言った藤谷の言葉に、僕は思わず「え?」と驚いた!

それは、彼との勉強会の時などでも、雷雨の時があった気がしたからだった。

僕の背中を掴む藤谷の両手の爪が僕の肌に刺さるのを感じた。

「大丈夫だ。この近くには避雷針もあるから、ここには落ちない。」(きっとだけど・・・。)それは、多分間違って無い答えだったけれど、希望的観測とも言えなくも無かった。

それ程までに、今の雷は近かったのだ。

僕はさっきまでの質問の事よりも、今の藤谷の行動に驚いてばかり居た。

それは『怖いから』と言う理由だけで、男が男に、こんなにもしがみ付いてるって事よりも、スコールが始まった時の藤谷は、寧ろその状況をはしゃぐ程に楽しんでるのだと思ってたからだった。

「雷雨が好きなんじゃ無かったのか?」

「遠くの雷鳴は好き・・・でも、近いのは怖い!」

「なんだそれ・・・?って、大丈夫だ。積乱雲の雨なっら、短時間で終わるさ・・・きっと。」(線状降水帯ってヤツじゃ無ければだけれど・・・。)と僕が思うと「線状降水帯なら、ずっと続くよ・・・。」と、藤谷が言った。

僕は「ああ・・・やっぱり、それ、思った?」と言って「スマホがロッカーだから、雨雲レーダーとか見られないからなぁ・・・。」と、付け加えた。

「じゃあ・・・いつまで続くかわかんないじゃない。」と、藤谷は駄々っ子の様に僕を責めた。

それでも僕は雷は平気だったので「そうだな。取り敢えずパラソルの下で椅子に座れてるし、水着だから濡れても平気だし・・・それに長引いても・・・。」と言うと、藤谷は半泣きの声で「長引いても・・・?」と囁いた。

それで僕は藤谷の背中を撫でながら「藤谷に長くしがみ付かれてるのを我慢してれば良いだけだし」と言った。

藤谷は尚も強く爪を立てて「こっちは怖いのに・・・酷い事を言うね・・・君?」と言った。

仕方なく僕は「あとさ・・・。」と、藤谷を(なだ)めようと思案した。

藤谷は「他に何か?」と。

それで僕は「お腹が空いても、ペロペロ・キャンディーもあるからね。」と、全くの子供騙しを言ったので「なにそれ?バカじゃないの?」と、藤谷は顔を上げ、僕を間近に見上げた。

正直、キスされるかと思った。

「バカじゃないのって・・・藤谷が自分で持って来たんだろう?子供のオヤツのペロペロ・キャンディーを。」

「それはそうだけど・・・やっぱ、バカみたい・・・って!」

と、藤谷が言い終わる寸前。

またも辺りが一瞬、青白く染められた!!

「またぁ・・・っ!!」

藤谷は、またも僕の首筋に顔を埋めて、さっきよりも強い力でしがみ付いてきた!

途端!ゴォオオオオ!!っと、地響きを伴う雷鳴が、僕らの足元の雨水(あまみず)と、プールの水までも震わせた!

「う・・・んっ」と、藤谷のうめき声が、僕の喉に伝わり、僕はその声と同時に強まった藤谷が抱き付く力で「ううっ!」っと唸ってしまった。

それで僕は色々な事から意識が同時に離れた感じに成り、辺りを冷静に見渡した。

といっても、身体は藤谷に拘束されてるので、主に首と目を動かしてだった。

さっきまでプールの中に居た人達の殆どは雨宿りしたり建物に避難したらしく、大雨に打たれながら遊んでるのは、若い男の集団がビーチボールを打ち合ってるぐらいだった。

そして雨宿りしてる人達の幾人かは、僕らの様子を見て、クスクスと笑って居たから、僕らは変に目立ってたらしい・・・。

特に若い女子の集団の注目度が高いように見えたのは、見間違いじゃないと思う・・・。

「これは・・・色んな告白が同時に起きてしまった様な気がするな・・・。」

と、僕は独り言の様に呟いた。


 それから10分ぐらいの間、僕らと辺りのモブ達は、ずっとそうしてたのだった・・・。


 僕は両肩の背中の方が少しヒリヒリしてた。

自分で見る事が出来ないけど、その痛みは藤谷の爪の跡であることは間違いないだろう・・・。

その事を雷雨がおさまった頃に藤谷に聞いたら「そんなの知らない。」と言うから、しょうがない・・・。

藤谷は顔を赤くして、うつ向くだけで、僕の背中を見てもくれないのだ。

それで僕は、帰りにロッカー・ルームへ行った時に自分で鏡に写して確かめるしかないだろうって思った。

まさか、他人に「僕の背中に爪痕が無いですか?」って、聞くわけにもいかないだろうからだ・・・。


 雨上がり。

大勢の人達が、またプールへと戻って来た時、ペロペロ・キャンディーを舐め終えた僕らも、プール・サイドに腰掛けて、両足を水に浸して居た。

僕らの後ろを通る人の何人かが、僕の背中を見てクスクスと笑うのが気になったが、僕らはそうしていた。

(背中に爪痕がある男子高校生が、そんなに面白いのだろうか?)

僕はそうした人達の感覚が分からずに居たので、どうでも良いって思ってた。

しかし、藤谷は自分がしてしまった事を悔やんでるのか・・・それとも、子供っぽかったと恥ずかしがってるのかして、ずっと赤面して僕と顔を会わせようとしないので困った・・・。

「藤谷・・・。」

「う・・・うん?」

「もう、泳いだりしないのか?」

「う・・・うぅん?」

こんな状態を僕らは20分ほども続けて居た。

それで僕は遂に痺れを切らし、両手でプール・サイドの床に手を付いてお尻を持ち上げると、一人でドボン!っと、生温いプールの水の中に入ったのだった。

すると藤谷は「あ・・・っ!」と小声を出したので、僕は「ごめん。水が掛かったか?」と振り向いた。

すると藤谷は「えっ!?・・・いや・・・そんな事を気にしなくて良いよ。」と言って「そんな事よりも・・・」と言い掛けてから、僕の顔を見た。

「そんな事よりも・・・なんだ?」

「その・・・背中の・・・傷跡が・・・日焼けすると跡がずっと残るかも知れないから・・・日焼け止め。」

「ああ・・・やっぱりヒリヒリしてたのは、藤谷の爪痕だったのか。」

「爪あと・・・って・・・。うん・・・ごめん。」

「別に謝る事は無いし、僕なら傷跡は気にしないよ。」

「駄目だよ、残るといけないから。」

「若いから肌の代謝が早いし、直ぐに消えるって。」

「若いから、そんな跡を残してたら恥ずかしいでしょ?」

「ん?若いから恥ずかしいって?何?」

「そ・・・それは・・・。」

「?」

「本当に分からないなら、僕が日焼け止めを塗ってあげるから、ロッカー・ルームへ行こうよ。」

「そっか。藤谷がそこまで心配してくれるなら、行くよ。」

そんなやり取りをした僕らは、もう一度、プールから離れる事にした。


 ロッカー・ルームに戻ると、藤谷は僕をベンチに座らせた。

それから、日焼け止めよりも先に、消毒液をロッカーに入れてたカバンから取り出した。

辺りは帰り支度をする人達が増えてて、少し混んで居た。

時計を見ると、午後2時50分だった・・・。

「そんな物まで持って来てたのか?」

藤谷は消毒液を僕の両肩の後ろ側にかけながら「当然だよ。プールって、以外と変な所で切り傷とか打ち身とか、そんな怪我をしたりするからね・・・。」と言ったので、僕は「そうだな・・・確かに以外だった。まさか、藤谷の爪で背中に引っ掻き傷が出来るとは思わなかったからな。」と言った。

すると藤谷は、その引っ掻き傷をパチン!って平手で叩いたので、僕は「痛いっ!なに?!なにするの?!」と、驚いた声を出してしまった。

「君が変な事を言うから悪い!」

「変な事って・・・実際にあった事をそのまま言っただけで?」

「そんな所がデリカシーが無いって事だって分からないかなぁ・・・。」

そう藤谷は不満そうに言って、今度は日焼け止めを塗ってくれた。

「今日の藤谷は難解だなぁ。」と言った僕は(分からない事だらけの一日だなぁ)っと思ってた。

そこからは、ただ藤谷に日焼け止めを塗られるままに成って居た。


 ロッカー・ルームからプール・サイドへ戻るのに、プールへのゲートを(くぐ)った時だった。

屋内に照明があるとは言え、晴れた外と屋内との明るさは全く違っていた。

それは夏の昼下がりだから尚更だった。

目が慣れるまでプール・サイドの眩しさに目を細めた僕は、遠くの空に虹が掛かってるのを見付けた。

それは丁度、正面だった。

(おお!虹が出てる!)と、僕が思った瞬間だった。

「ああ!・・・虹がが掛かってるね!!」と、藤谷が興奮気味に言ったのは。

「これから、何か良いことがあるのかな?」と言う僕に「良いことなら、もうあったじゃない・・・。」と、藤谷は小声で言った。

「そうだっけ?」と言う僕に「そうだよ。」と藤谷。

僕は良く分からなかったけど「まあ。虹が掛かってっるって、何故だか嬉しくて、それだけで見れれて良かったって思えるから不思議だからな。」と言って、藤谷と一緒に、三度目のプール・サイドへと向かったのだった。



 雨上がりに虹が掛かってる。

辺りの幾人かも虹を見上げてる。

僕は、虹と人々を見ながら、この美しい一時(ひととき)に居合わせられた事に感謝した・・・。

藤谷もきっとそうだったろうから、感謝したのは『僕ら二人』か、それ以上の人達だったろうと思う・・・。


 藤谷は、消え掛かってきた虹を見ながら、水深の浅い子供用のプールサイドに腰掛け、足だけプールに浸して居た。

藤谷に向かい合って胡座(あぐら)をかいた僕は、腰まで水に浸かったまま、彼の左足を両手で持ち上げて、その足指の爪を見た。

それは貝殻の裏のようにキラキラとして、綺麗な薄紫色のペディキュアを塗られた爪だった。

「虹よりも、ずっと綺麗だ・・・。」

僕は素直にそう言って、水に濡れた彼の足の角度を少し変えたりしながら眺めた。

「君のその言葉は、口説いてるって事になるのかな?」

「え?口説いてって・・・。」

「やっぱり、違ってた?」藤谷はそう言ってクスクスと笑った。そして「今日は、僕らが帰らなきゃ成らない夕方には、空はきれいな紫色になって、このプールの水も紫色になるかも知れないね・・・。」と言った。

僕は「紫色か・・・藤谷のペディキュアも薄紫色だからな・・・空が藤色になれば、このプールの水も、藤谷のペディキュアが溶け込んだような藤色に染まるのかもな。」と、薄紫と藤谷の藤を掛け、僕はそう言った。

藤谷は、何も答えなかった。

彼はただ、薄れ消える虹を見上げて居た・・・。


それから少し僕らは浅瀬のプールで(たわむ)れた。

すると突然。

「夏休みにさ・・・二人でまた、このプールに来ようよ。」と、藤谷が言った。

藤谷にそう誘われた僕は「今居る場所から帰っても無いのに、次の約束の場所がここ?」と言って、言葉の後ろの方では笑ってしまっていた。

そんな僕の姿を見て、藤谷はちょっと照れ臭そうにしながらも、少し膨れてるようにも見えた・・・。


笑いながら僕は(また藤谷を不機嫌にさせてしまったのだろうか?)って・・・思って、途中からは苦笑いに変わってしまっていた・・・。


 づづく



づづく!

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