ゲリラ豪雨と言う名のスコール
藤谷と僕は、真夏の市民プールと満喫する為に、パラソル付きのテーブルにある、プラスチック制の椅子に緩い感じで腰掛け、ポテチとコーラを楽しんで居た。
少し雲行きの怪しい空を見上げながら・・・。
ポテトチップスとコーラ。
この相性の良さは、きっと永遠なんだろうと僕は思いながら、口の中のポテトチップスをコーラで流し込んだのは、さっき食べ始めてから、今ので三度目だった。
それで僕は、四度目のポテチを袋から取り出して、数枚纏めて口に入れた・・・。
そして、心の中で思った。
(う~ん・・・ポテトチップスの風味と塩味。それと油との三重奏!・・・さらに、それに加えてのパリパリとした、この食間・・・それも合わせれば、ポテトチップスの味わいとは四重奏と言えるだろう!・・・う~ん・・・たまらん!!)そこで僕は満を持して、コーラの入った紙コップを手にし、そのストローを口に加える!(そして、そこに、このコーラをグッと流し込んだとき・・・!!くっはぁ〜!!口の中で弾ける炭酸は、その素晴らしい四重奏の演奏が終わった時の万雷の拍手!スタンディング・オーベーション!!飲み込んだ後に鼻に抜けるコーラの香りは、紳士淑女の上品な香水・・・その、残り香のようだ・・・!!う~ん・・・さながら僕の口の中は、クラシックのコンサート・ホールじゃないか!!)
この時の僕は市民プールに居ながらにして、コンサート・ホールへとダイブしたいたのだ!!
「なに悦に入った表情をしてるの?」
「え!?」
藤谷の突然の突っ込みに僕は我に帰った。
それで、つい照れ隠しの思い付きで「ポ・・・ポテトチップスとコーラは相性抜群だからコーラ味のポテトチップスを作ったらどうかな?」と、パラソルの縁から曇り空を見上げながら藤谷に言った。
僕に習ってなのか、藤谷も怪しい雲行きを見上げながらも、少し面倒臭そうにして「それは無いと思うよ・・・。」と、キツイ返答をして来た・・・。
「そっか・・・。」と言った僕は「結構、良いアイディアだと思ったんだけどなぁ・・・。」と、気怠い感じで答えた・・・。
正直、自分でも全然良いアイディアだとは思って無かったのだけれど・・・。
(そんなに真正面から否定しなくてもなぁ・・・。)なんて思った。
そんな時だった・・・。
パラソルからハミ出てる僕の右半身に、生ぬるい水滴が勢い良く当たったのは・・・。
それはポツンと言うよりはパチンって感じで当たった。
「来たね・・・!」何故か嬉しそうに言った藤谷は、それまで寝転ぶように浅く腰かけてた椅子での体制を直すと、プラスチックの椅子を両手で持ち、お尻にくっ付けながら持ち上げて、パラソルの中へと身体全体を入れた。
僕は「雨だよ?プールだよ?水着だよ?」と、藤谷の行動に少し疑問を持ったが、藤谷は僕のそんな言葉を気に留める様子も無く、降り始めの大粒の雨を見ながら、身体はテーブルに噛り付くようにして、口はポテチに噛りついた。
するとどうだろう。
大粒の雨は、20秒もしない内に一気に土砂降りとなったのだ!
プールに入ってた多くの人達の騒ぐ声が、さっきまでの明るい感じとは一変して、ちょっとした悲鳴まで聞こえてきた。
「雷が鳴って無いから良いけど。これはちょっとしたスコールだね。」
そう言った藤谷の顔は、驚く程に近くにあった。
それは、パラソルに当たるバチバチと当たる雨の音で、互いの声が聞き取り難くなったからだと直ぐに分かった。
それは、周囲が更に水煙を上げる大雨の光景となったからだった。
焼けたコンクリートに降り注ぐ生温い雨は、コンクリートの熱を奪うのに水蒸気を上げ、それが水煙となってモウモウと立ち上る。
その水煙は、水蒸気だけではなく、コンクリートに当たって弾けた雨によって、地面に近い程、強く煙っていた・・・。
雨水は、あっという間に小川のようになって流れ、僕の足を生温く濡らした。
藤谷は更に椅子を僕の左後ろへと寄せて近付いた。
雨音に混じって、彼がポテチを食む音が左の耳を擽った。
そして藤谷は僕の耳元に唇を近付けると「本当に、凄い雨・・・ゲリラ豪雨って事かな?」と、少し興奮気味な息遣いで言ってきたのだった。
それは矢張、プールの水面やプール・サイドのコンクリートに当たる雨音で、自分の声が聞こえ難いと思っての行動だったと思うが、僕は椅子に浅くダラリと腰かけて半身を雨に晒してたので、パラソルに弾かれ流され落ちる雨水が、傘の骨を伝って一筋の流れを作って、自分の身体に生ぬるい連続的な刺激を受けて居たので困った・・・。
それは、丁度、股関節の近く・・・て、言うか、股間の膨らみそのモノに当たってからだった・・・。
僕のアソコに、断続的で生温い刺激が降り注ぐ!
それに藤谷の息遣いと声が左の耳を擽ってくるのだから・・・。
(このままじゃ・・・何だかまずいぞ!)と、僕は思った。
だから、どうにかして身体をずらそうとした。
しかし藤谷が「雨だよ?プールだよ?水着だよ?」と言った後に「君は濡れても平気だって言ったんじゃないの?」と言って、後ろから僕の両肩を押さてきたのだった!
「いや・・・確かに水着だし、雨なんて平気だけど・・・!」
「それなら、そのまま雨に当たってたって良いじゃない?」
(いや・・・雨は平気なんだけど、今の藤谷の位置と、雨垂れの位置がちょっと・・・っ!)
僕の両肩には藤谷の柔らかな両手がくっ付けられてて、その温かさに混じって雨か汗を含んだ感触が伝わりドキドキとした。
更に藤谷は、こんな体勢の僕を面白がってなのか、僕の肩を掴む指に力が入ってきた。
同時に彼の顔は僕の直ぐ左後ろにくっ付かんばかりに近くて、そしてクスクスと笑って居るのだから、僕は自分の(敏感な自分自身がどうなっても知らないぞ!?)と、焦り始めて居た・・・。
「これは困った・・・!」
「なにも困んないよ。」
僕は「う~ん・・・!」と唸って、何か言い訳に成る事は無いかと考えた。
そして「この格好じゃ、ポテチもコーラも楽しめないから困る!」と言って、無理矢理に体制を起こしたのだった。
「そ・・・それにほら。僕に当たった雨垂れで、テーブルの上も水が跳ねて、ポテチだって湿気ちゃうよ。」
僕がそう言って体制を直すと「なんだ・・・つまんないなぁ。」と、藤谷はそう言って僕を解放してくれたので、僕も彼に習って、全身をパラソルの下に入れる事が出来たのだが、それは二人仲良く並んで座る格好だったので、僕のドキドキと、アッチの感覚は、まだ収まらなかった・・・。
(あのままじゃ、危うく暴発するところだった・・・。)
僕は心底ホッとして少しぐったりとした。
それから心を落ち着けようとして、ポテチを摘まんで口に入れた。
すると、どうだろう?
確かにポテチは少し湿気たらしく、さっきまでのパリパリ感が少し薄れていたのだった・・・。
(色々と・・・ちょっと残念・・・。)
僕はそう思って、ポテチをモグモグと食べた・・・。
飲み物はそれぞれに持ってるが、ポテチは一つだし、激しいスコールを避けるのもあって、二人は自然にテーブルの真ん中に寄って、顔を近付ける事になった・・・。
辺りは、雨が上がるのを待って雨宿りしてる人も居れば、スコールなど御構い無しに、少し人が減って広く使えるように成ったプールで、思い切り水泳?を楽しんでる人達も居た。
藤谷はそんな光景を、楽しそうに眺めては、残り少なくなったメロン・ソーダを大事そうに飲んで居た。
それで何となく落ち着いた僕は、前々から気になってた、微妙な質問をしようかと思ったのだった。
それは、この雰囲気が後押ししてくれたから出来たのだろうと、後からに成って思った行動だった。
それでも僕は。
「藤谷はさ・・・。」と言って、その先を言い淀んでしまった。
すると藤谷は「え?なに?・・・雨音がうるさくって聞こえないよ!」と言って、僕の口元へと耳を近付けて来た。
それで僕はまた一瞬、次の言葉を言おうかと躊躇したのだけれど、そこから寧ろ、今の彼との距離の近さが、次の言葉を言い易くしてくれたので、思い切って聞いた。
「藤谷は・・・その・・・男が好きなのか?・・・それとも、女の子が好きなのか?・・・その・・・これは、恋愛対象としての話しだけど。」
あの体育の授業で藤谷が足を捻挫してから。
藤谷と改めて知り合ってから。
その時に、僕が彼の身体を庇って保健室へ連れて行ってから。
藤谷の家に遊びに行ったり、勉強をしに行ったりするように成ってから。
藤谷とペディキュアの話しをしてから。
藤谷と井の中の蛙の話しをしてから。
それから、それから・・・。
藤谷との距離が、どんどん縮り、彼を知る程に。
僕は、ずっと、ずっと、藤谷に聞きたかった事を今やっと口にした・・・。
「その答えを聞いたら、君は僕の友達では居られ無くなるかも知れないけど・・・それでも良いの?」
気付けば、辺りを見てた筈の藤谷の目は、僕の方に真っ直ぐに向けられていた。
なのに質問者である筈の僕はまだ、彼の目を真っ直ぐには見られないで居た・・・。
つづく
つづく!




