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知らない自分 放課後の におい

自分の事でも、知りたい事と、知りたくない事がある。

 【クラス・メイトの同性の足の匂いを嗅ごうとする】という、僕の変態的で余りに突飛な行動に、身の危険を感じた藤谷が身体を強張こわばらせたのを、僕は両手で掴んで支えてる、彼のケガしてる左足から感じ取った。

その身体の反応から少し遅れて藤谷は「え!? ちょっ・・・とぉ・・・!?」と、少し身をよじりながら驚きの声を上げたのだが、誰も居ない静かな校舎の中だからなのだろう、彼は自分の声が玄関と廊下に響くのを恐れたので、語気は強いものの、実際の声は小さかった。

だから僕は、強引に彼の足の臭いを確かめる事を止めようとはしなかった。

それよりも、男の本能なのか何なのか分からないが、僕は嫌がってる藤谷の姿に興奮すら感じた。

藤谷は左足のケガを庇う為にだろう。僕の手から、左足を引き抜け無いで耐えて居た。

そんな今の藤谷の幾つかの弱みに付け込む様にして、僕は彼の足の臭いを確かめた・・・。


 僕にされるがままの彼には申し訳無かったが、この時の僕は興奮した半面、何故だか、これが最善の方法だとも勝手に思ってたのだから不思議だった。


 彼の爪先あたりからは、足首に巻かれた湿布のメントールの匂いばかりした・・・。

その事に、僕は何故だか落胆したのだが・・・それでも諦めなかった僕は『もう一呼吸だけ。』と思い、口から息を吐き、彼の足の指の間に鼻を突っ込むようにして息を吸った・・・。

「ええ!?」っと、驚きと批難を込めた藤谷の声が僕に向けられた。

それでも僕は、靴下を履いた藤谷の足の指の間から、鼻を離さなかった。

『・・・。・・?・・・!?』

すると、微かにだった・・・。

ほんの少し・・・。

ほんの少しだけ、彼の汗の匂いを感じた。

と、同時に、僕は後頭部に奇妙な血の廻りも感じた・・・。

「う・・・う・・・。」

声に成らない声の様な・・・或いは小さな嗚咽の様な・・・そんな藤谷の声がしたので、僕は我に返り、藤谷の足のから顔を上げた。

「あ・・・。ごめん・・・。」

僕は、あやまった・・・。

状況としてはあやまった行動だったと言えた。

「もう・・・酷いよ・・・。」

意外な事に藤谷は怒って無かった。

ただ明らかに、さっきよりも恥ずかしがって居た。

「本当に、ごめん。なんか、急に確かめたくなったから・・・。」

僕のその答えに「しょうがないなぁ・・・。」と、彼は少し拗ねた感じだった。

それから「・・・もう、気は済んだ?」と言う藤谷に「あ・・・うん。」と、僕は気の抜けた返事をした。

自分でも理解出来ないが、何故か少しボーっとしてしまったのだ・・・。

「それで・・・どう、だったの?」

藤谷の質問に、僕は「どうって・・・?」と、その意味を理解出来ないで居た。

「そんなの決まってるじゃない・・・。」

すがるような視線を僕に浴びせる藤谷に「え・・・ああ・・・臭い・・・ね?」と、僕は辛うじて答えた。

すると藤谷は無言で頷き、その後に続く筈の僕の答えを待って居た。

彼の赤みの射した頬と、少し潤んで見える瞳が印象的だった。

しかし、彼の気にしてる様な臭いは微塵も感じなかったので「湿布の匂いの他に、何も匂いがしなかった訳でも無いけど、くさいとかは無いよ。」と、素直に言った。

「そう・・・なんだ・・・。でも、湿布の匂い以外の匂いがしたってこと・・・だよね・・・?」

藤谷がそう言うので、僕は感じた匂いを思い出そうと目を閉じ「う~ん。少しだけ・・・洗剤か何かの匂いと・・・それから多分・・・汗の匂いがしたかな・・・。」と、言った。

僕のその答えに、藤谷には何も答えなかった。

だから僕は彼の顔を見た。

彼は、肩をすくめ、さっきよりも真っ赤な顔をして俯いて居た・・・。

藤谷のそんな顔を見て、今更ながら僕は自分がした行為が恥ずかしくなった・・・。

それから二人は気まずくなったので、僕は兎に角、藤谷に上履きを履かせる事に集中した。

それから二人は少しの間、無言のままだった・・・。


 藤谷に上履きを履かせた後にグランドに戻った僕は、早速、担任に藤谷の足の状態と、彼は既に教室に戻り休んで居る事を伝えた。

担任は、体育の授業のサッカーの試合を見ながら「おお。そうか。有り難う。分かった。」と言い、一人で頷いた後「あとは休んでてくれ。」と、僕に言った。

さほど走るのが好きでも無かった僕は、サッカーもそんなに好きでは無かったので内心喜んだのだが、担任には「はい。わかりました・・・。」と、特に感情を込めないようにして答え、グランドの外の木陰へと小走りで戻ったのだった。

「なかなか、お似合いだったぞ。」と、クラス・メイトの男子数人が僕と藤谷の事を冷やかして来たが、僕は「そうか?保健室の先生にも、とても気に入られたから良かったよ。」と、嘘吹うそぶいた。

あの保健室の先生に好意をもってる男子生徒は少なくない。

噂では一部の女子にも人気?らしい・・・。

僕はその事を利用して、彼らの興味の矛先をずらしてみた。

すると男子の何人かは「まじか?」「そんな事なら、俺が行ってたのに。」等と、それぞれ勝手に悔し紛れを言い合い始めた。

僕は、こんな連中と自分が同じクラスなのだと思うと、何だか面白くも思えたが、実際、単純な連中で助かったとも思った。

だから、その後の僕は、さっき迄の藤谷との出来事を、ゆっくりと思い返す事が出来たのだった・・・。

『でも・・・。何だったのだろう・・・あの変な感覚は・・・。』

僕はそんな風に自問したが、その答えは直ぐに見付かりそうにも無かった・・・。



 それから今日の授業も終わり、帰りのホーム・ルームの時だった。

自分の席に座って担任の話を聞いて居た僕は、不意に左後ろから視線を感じた気がし、少し振り替えるようにして、そちらを見た。

藤谷が僕を見て居た。

彼は僕と視線が合うと、周りに気付かれない様に小さく手を振った。

藤谷が僕に対して、今までそんなことをした事は一度も無かった。

だから僕は少々困惑しなが、2~3度、彼の方をチラ見して、その意図を読み取ろうとした。

すると小さく手を振ってた藤谷の手の動きは、今度は指だけの動きで[おいで]の動きをした。

どうやら、ホーム・ルームが終わったら、自分の方に来て欲しいと言う意味らしい・・・。


 ホーム・ルームが終わり、ざわつく教室から担任が出て行くと、クラス・メイト達は、それぞれの放課後の予定に向けて動き始めた。

特に部活に入ってなかった僕は、いつもなら一人で帰宅するのが日課だった。

正直、僕はこのクラスでは、少し浮いた存在なのだと思う。

良く言えば[一匹狼]

悪く言えば[ぼっち]

だから下校時に、何の用でであれクラス・メイトに誘われるのは久しぶりの事だった。

時には自分の平穏な生活の邪魔にさえ思える、下校時の友人からの誘いだったのに、この時の僕は、藤谷からの誘いを嬉しく感じたのが、自分でも不思議だった。

今日は足をケガした藤谷なのだから、きっと少し厄介な頼み事があるだろうと想像できたのに・・・で、ある。


 僕は机に鞄を残したまま立ち上がり歩いた。

そして、既に半数ほどの生徒が教室の外に出て行った教室の中、藤谷の机の前へと向かった。

藤谷はそんな僕を待ってたのだろう、自分の席に座ったままで居た。

「今日の帰り、何か用事とかあった?」

彼の近くに僕が立つと同時に、藤谷は僕にそう訪ねた。

「いや、僕は帰宅部だから・・・。家に帰ったら一休みして、それからゲームをして、後はそれなりに勉強するかな。」と、答えた。

「それならさぁ。」

藤谷は、何を期待してるのか分からないが、奇妙に輝かせた黒い瞳を僕に向け「今日、僕を家まで送って欲しいんだ・・・。」と言った。

僕は驚いた。

「送るって、僕が藤谷を?」

「ダメかな・・・。」

僕は少し考えたのだが、咄嗟の予想外過ぎる頼まれ事に困惑してたので、実際は何も考えられないで居た。

何か頼まれるだろうとは思ってたけど、家まで一緒に・・・か?

藤谷が言うには、校舎の同じ階での移動は、それほど苦労せずに出来るのだが、階段の移動となると辛く、この2階の教室から玄関までの移動と、学校から彼の家までの徒歩20分程度の距離、そして最後は、家の玄関までの階段と、家の中の2階に在る自分の部屋へ続く階段が心配だと言うのだった・・・。

『けっこうそれは、心配だらけなのでは?』と、僕は今日よりも明日からの藤谷の登下校が心配になった。

「そんなんで、あすは登校できるのか?」と、僕は藤谷に言ったのだが「それは多分だけど、大丈夫だと思う。それよりも心配なのは、今日一日だから。」と、今日一日だけ、自分の下校の世話をして欲しいと言うのだ・・・。

藤谷は教室からトイレには一人で行けてるようだから、保健室に運んだ時の様にオンブする必要はないし、世話をするとしたら、靴の履き替えと、階段の登り降りのサポートぐらいなのだろう・・・。

後の主な仕事は[荷物持ち]だろうけど・・・。

「しょうがないから玄関迄は送るけど、家の中の階段は、家族に助けてもらえば良いんじゃない?」と僕は言った。

すると藤谷は「家族は早くても6時頃じゃないと帰ってこないんだ。それに僕は何時も、帰って一休みしたら直ぐに勉強をしたいんだよね・・・。」と言った。

「それは僕に、家の二階に階段で上がるのも手伝っ欲しいって事?」と、僕がそう聞くと、藤谷は「そう!」と元気よく言った。

それから「それに・・・。」と付け加えて来たので、僕は「まだあるの?」と、半ば呆れ気味に言うと、藤谷は「僕の家には色々なお菓子もあるから、ってのはどう?」と、まるで僕を、食いしん坊なのか小学生か何かなのかと思うような事を言って、お菓子で釣ろうとしたのだった。

僕は思わず「なんだよ。それ・・・。」と、少し力が抜けた感じで言った。

そんな僕を見た藤谷は、またも「ねえ・・・ダメかな?」と・・・。


 結局、僕は。

その藤谷の、本気なのかイタズラ心なのか分からない子供っぽい誘いに、まんまとのせられてしまったのだ・・・。

だから承諾した時の僕は「しょうがない奴だなぁ・・・。」と、負け惜しみを言うしか無かったのだった。

そして、なんだかんだ言っても食欲旺盛な男子高校生である僕は、内心『どんなお菓子が出るのかな・・・。』等と思いをめぐらせたのだが・・・ふと、藤谷の柔らかな身体の感触が、両手と背中に甦りハッとして焦った。

それから笑顔で椅子から立ち上がろうとする藤谷を見ながら、たった今、自分の中に起きた、同姓に対しての奇妙な興奮を感じ、戸惑ったのだった。



 分かり切った事だったが、藤谷の教科書の入った鞄は僕が代わりに持つ事になった。しかし、納得出来ないのは体操着の入ったバッグも、持ち帰ると言う事だった・・・。

「体操着なんて、たまに持ち帰るだけで良いだろう?今日はケガもしてるんだし・・・。」と、僕は藤谷に言ったのだが「そんな汚れたのを次回の体育で着るのは嫌だから、持ち帰る。」と言って聞かなかったので、僕は[自分の体操着は持ち帰らないのに、クラス・メイトの体操着は洗濯の為に持ち帰させられる]と言う奇妙な行動をしてる自分に、少しの疑問を感じながら、彼と共に教室から玄関へと向かう階段へと向かった。

藤谷は左足を庇いながら、左手で階段の手すりに手を措きつつ階段を降りようとしたので、僕は彼に自分の左肩をかす事にした。

それは二人並んで階段を降りると言う事なのだが、藤谷は僕のそんな行為を素直に受け入れ、右手で僕の制服の左肩をシワにして強く掴んだ。

そうして二階から一階の廊下に出られた僕らは、何時の三倍ほどの時間と労力を使って、やっと学校の玄関に着いたのだった。

僕は先に玄関で外鞄を措き、早速、例の椅子を取って、靴のロッカーに掴まって体を支えて待つ藤谷の元に持って来て、スノコの横に置いた。

藤谷はスノコに両足を残したまま、直ぐに椅子に座った。

藤谷の前で、玄関内のコンクリートの上に片膝を着いた僕は「左足から履き替えよう。」と言った。

すると僕の方へと向き直った藤谷は、左足を上げて僕に預けた。

ケガの痛みを与えないように気を付けながら、僕は、ゆっくりと彼の左足の靴を脱がし始めた。

靴の中からと彼の足からは、相変わらず湿布の匂いがしたのだが、あれから大分時間が過ぎたので、少しだけ汗で蒸れた匂いも混ざって感じられた。

それでも僕は何も感じない振りをして、外靴を履かせた。

それは、彼に恥ずかしい思いをさせたくないと言うよりは、自分が興奮してるのを悟られたく無いからだった。

「次は右。」

左足の靴を難無く履き替えさせられた事に安心した僕は、藤谷にそう言うと、彼も安心した感じでヒョイと右足を持ち上げ、爪先を僕の前に出した。

その上履きを履いた足を間近に見た時、僕は、どうにも自分の心臓が高鳴るのを感じた。

その理由は分かって居た。

[右足には湿布が巻かれて無い]からだ。

詰まり[藤谷の足の匂いを、さっきよりも強く感じられる]と思ったからだった。

そんな感情の動きは、自分でも変だと思ってるのに、勝手に湧き上がる期待と興奮を無いものには出来なかった。

だから僕は、この瞬間。平静を保つのに必死だった・・・。

ケガをしてない右足だから、僕は思い切って靴を脱がせられた。

その瞬間、藤谷の足の汗の匂いがした・・・。

それは、ほんの少しだけど、(にお)いと言うよりも、(にお)いと書く方が合ってると思える匂いがした。

それで・・・僕は、更に興奮した。

興奮してしまったのだ・・・!

同性の足の臭い・・・いや、履き続けた靴下の臭いに、だろうか・・・?


『おお!! 友人の靴下に興奮するとは何事か!!』


そんな、言葉で何者かに叱られた気がした。


ああ・・・。

今日の僕には、いったい何が起きてしまったと言うのだろう・・・。


自分が今、体感してる興奮材料を考える程に、僕は自分が分からなくなってきたのだった・・・。



 つづく

知ったら後戻りできない事もある。

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