期末テストとプレゼント
学期末テストが終わる。
それは、僕にとって初めて手応えを感じたテストだった。
学期末テストが始まった。
僕らは生徒達は、教師が持ってくるテスト用紙と一緒に教室の中に缶詰にされては口をつぐみ、窒息しそうな頃になると蓋を開けられるのを繰り返した。
それでも今回の期末テストでは、僕が息が詰まって冷や汗が流す事は無かった・・・。
それは勿論、テスト問題を理解して回答できた問題が多かったからだった。
全ては藤谷のお陰だった・・・って言うか、お陰では無く、実質として、藤谷の指導と協力に依って僕は学力が上がったのだ。
それは、僕が生まれて始めて他人から受けた『恩恵』なのだろうと思った。
そんな学期末テスト最終日の金曜日の朝。
いつもより早起きした僕は、テストに必要な物と一緒に、テストには不要な物を鞄に積めた。
それは、藤谷にプレゼントする為に買った、赤色と青色のペディキュアが入った、青い空に白い雲が描かれた紙袋だった・・・。
僕はそれを小さなコンビニ袋の中に入れて、いつもよりも30分も早く家を出て学校へと向かった。
そして、まだ登校してくる生徒が少ない学校の玄関に入り、上靴に履き替える時に鞄からこっそり取り出した。
そして、ペディキュアを靴箱の中に入れた・・・。
(ちょっと臭いかも知れないが・・・我慢してくれ。)
僕は心の中で、ペディキュアにそう言った。
テスト期間だから持ち物検査があるとは思わなかったが、それでもわざわざこんな方法を取るのは、万が一、クラス・メイトが僕の鞄を漁った時に、このペディキュアが見付かってしまったらと思っての、一応の用心の為だった。
僕の靴箱が勝手に開けられる事は、誰かがラブレターを入れる事でも無ければ、ほぼ無いだろうし・・・って、それって、何か、自虐的な考えだが・・・まあ・・・無しだろうし。
それに万が一、誰かが僕の靴箱でペディキュアを見付けてしまっても、僕はそれを「知らないぞ、誰かがイタズラで入れたのでは?」等と言って言い逃れが出来るだろうと思ったからだった・・・。
こんなやり方を思い付くのは、自分でも姑息な気がしたけれど・・・(これは、要領がよいとか、機転が利くとかって、そう言うやつだ。)と考え、自分の行動を恥じないようにした・・・。
そんな事をしてから、僕は学期末テストの最終日に望んだのだ。
全く無事にテストが終わり、そしてHRも終わった後だった。
「今日も、家に来ない?」
それはいつもの、藤谷からの誘いだった。
多くの学生にとっては、今は学期末テストが終わった週末なんだから、本当だったら、今日ぐらいは勉強の事は忘れて、何かパーっとした事をしたくなるのではないだろうか・・・。
しかし、藤谷はいつものとおりに僕を誘ってきた。
「テストが終わったのに、今日も・・・?」と、僕が藤谷に聞くと、彼は「勿論、今日のお勉強は、軽めにするよ・・・。」と言った。
(軽めのお勉強会・・・って、時間が短いって事か?)と思った僕は「それじゃあ・・・後は?・・・おやつパーティーとか?」と、藤谷に聞いた。
藤谷は、何故か少し戸惑って「そ・・・そうだね。それもいいね。」と、ちょっとソワソワした感じで答えた。
僕は、それなら藤谷の家に行く前に、少し遠回りしてコンビニに寄って、藤谷が好きなオヤツを何か買ってあげようと思った。それで「それなら、たまには僕が藤谷のリクエストに応えるよ。」と、言った。
「え?・・・本当に?」
「ああ・・・。いつも世話になってばかりだから、応えられる範囲なら何でも。」
「そ・・・そんな事・・・急に言われると思わなかった・・・。」
そう言って藤谷は何故かモジモジしだしたので、僕はそんなに喜んで貰える事が嬉しくなった。
こんな日に、僕は藤谷へのプレゼントというサプライズを用意してる(今は靴箱の中だけど・・・。)のだから、僕は、この前の自分の行動力に感謝した。
僕が「じゃあ。帰る途中でコンビニに寄ってこうか?」と言うと、藤谷は嬉しそうに「うん!」と言って、笑顔を見せた。
藤谷と一緒に学校の玄関に着くと僕は、藤谷は勿論、その他の生徒にも気付かれないように、ペディキュアが入ったコンビニ袋を鞄に詰め込むタイミングを見た。
しかし朝と違って・・・しかも、普段とも違って、クラブ活動も休みな所が多いのもあって、玄関は普段以上に混んでいた・・・。
しかし、僕は藤谷と一緒に帰らなくてはならないし、藤谷に渡すプレゼントを先に見られて感付かれる訳にもいかなかった。
だから僕は、藤谷が自分の靴を履くのに集中してる一瞬の隙に、コンビニ袋を鞄に入れた。
そうして無事に玄関を出た僕は、自分が思ってる以上に誰からも注目されてない事に感謝した・・・。
コンビニに着くと僕は「藤谷が食べたいのを選んで。僕がそれを買うから。」と藤谷に言った。
藤谷は「う~ん・・・特に無いよ?」と、意外な事を言った。
僕は、帰りの教室の中では、僕が「リクエストに答える。」と言った時に、とても嬉しそうにしてた藤谷が、そんな答えをするとは思わなかった。
「リクエストは無いのか?」と、改めて僕が聞くと「うん・・・。特には無いけど・・・?」と藤谷が言うので、僕は少し残念な気持ちになり「それはそれで困るな・・・。」と、言った・・・。
すると藤谷は「ふぅ~ん・・・。」と言って少し考えて居た。
そして僕に「じゃあ・・・『君が食べたいのを買って』ってリクエストをする。」と、言った。
(なんだ?それは・・・?)と思った僕だったが「しょうがないな・・・じゃあ、そのリクエストに答えてやるか。」と言って、小海老の入った白い煎餅を手に取った。
すると藤谷は「それ・・・僕も好きなやつ。」と言って、笑った。
僕は「じゃあ・・・あと1つは・・・苦いチョコレートだな。」と言って、チョコ菓子が置かれてる方へと向かった。
藤谷は「チョコレートは・・・甘い方が好きなんだけど・・・。」と、小声で言うので、僕は「なんだ・・・藤谷にも、ちゃんとリクエストしたいのがあったじゃないか。」と言った後に「それなら、好きなチョコレートを選んで。」と、藤谷に言った。
藤谷は「良いの?・・・ありがとう。」と言ってから、1つのチョコレートを選んだ。
それは、エア・イン・チョコって分類されるチョコレートだった。
そうして僕らは、学期末テスト後のちょっとした反省会的なお勉強会と、打ち上げをしようとしていた・・・。
藤谷家に着くと、藤谷はいつものルーティンに入ろうとした。
つまり、僕を自分の部屋に案内した後に、僕を置いてシャワーに入ろうとしたのだ。
学習机の上に鞄を置いた藤谷に、僕は「ちょっと・・・渡したい物があるんだ。」と言った。
藤谷はキョトンとして「え?・・・なに?改まって。・・・チョコレートとお煎餅でしょ?」と言って、額の汗を手の甲で軽く拭った。
僕は「あ・・・いや。それでは無くて・・・。」と言って、手に持ってた鞄を床に置き、その中からコンビニ袋を取り出した。
僕の様子を見てる藤谷は「別のオヤツ?」と言って小首を傾げた。
僕は何も答えずに、コンビニ袋の中から青い空に白い雲が描かれたプレゼント用の紙袋を取り出し、藤谷に差し出した。
「これ・・・藤谷に・・・あげるよ。」それが、僕がやっとの思いで言えた言葉だった・・・。
「え?・・・なに?・・・これって・・・。」そう言った藤谷は、喜んでるというよりは戸惑てるように見えた・・・。
「あ・・・ありがとう。」そう言って藤谷は、僕が差し出した紙袋を受け取ってくれた。
藤谷は「開けても良いの?」・・・と。
・・・それは、僕が物語の中でしか知らかった台詞と場面とを目の当たりにした瞬間だった。
そして、その物語は、嬉しい事に更に続いた・・・。
僕は「もちろん・・・。」と言った。
藤谷は、無言で頷き、紙袋の口を止めている絵柄のついたテープを丁寧に剥がし始めた。そして、それが剥がし終わる前に、一瞬、ハッとした表情をして、袋の感触を確かめた・・・。
それで彼は、紙袋の中身が何なのか想像がついたのだと思う。
それから、開いた袋の中を見た藤谷は、喜びの表情を浮かべながら自分の左手の平に向かって袋を傾けると、その中から滑り落ちて来たペディキュアの小瓶を受け止めた。
「ペディキュア・・・2つも・・・。」
そう言った藤谷の目は、嬉しさに潤んでいた・・・。
「藤谷に似合う色と思って選んだけれど・・・結局ありきたりな色になってしまった。」
僕はそう言って、何だかむず痒くなった頭を掻いた。
そんな僕を見て藤谷は「ありがとう・・・。嬉しい・・・。」と言うと、2本の左手の中のペディキュアを片手のまま指で器用に詰まみ、自分の目の高さに掲げて見比べた。
「赤と青・・・。」藤谷はそう言ってから「どちらも淡い色では無くて、濃そうに見えるね・・・。」と、言った。
僕は「・・・多分・・・。」とだけ答えた。
それは先日の藤谷が話してくれたからだが、ペディキュアは塗って乾かして見なくては本当の色は分からないからだった。
藤谷は「そっか・・・。確かに、この濃い色は、今の僕なら買わない・・・と言うよりも、買えない色だね。」と言って、少し寂しそうな顔をした・・・。
「塗ってみなよ。」
僕は、そう言った。
それは藤谷の言葉と表情から彼の想いを汲み取った僕からの後押しだった。
藤谷は『こんな濃い色のペディキュアを買っても、人に見られるように塗って外に出られる勇気は無い。』と、思ってるのだ。
僕の言葉に、藤谷は少し迷って居た。
そして「そうだね・・・せっかく君がプレゼントしてくれたんだから・・・君だって、これが実際にはどんな色になるのか見たいよね?」と言った。
僕は「うん。・・・そう、今すぐ見たい。」と答えた。
「今?・・・直ぐ・・・。」藤谷はそう言って、ちょっと困った顔をしたが、それから学習机の方を見て直ぐに「じゃあ・・・良いよ。」と言った。
そして「ちょっと、待ってて。」と言って、学習机の上に右手で持ってたペディキュアが入ってた青色の袋を置いて、その手で引き出しから、何か透明な液体の入った小さなペットボトルのような物と、白い綿の様な物が入った小袋を片手で取り出した。
「これは・・・除光液って言うんだ。」と言った藤谷は、その容器を僕に見せた。そして「こっちはコットン。除光液を染み込ませて・・・そして、ペディキュアとかを溶かして落とすのに使うんだよ。」と、言った。
それを聞いた僕は「つまりペディキュアが『プラカラー』だとすると、除光液ってのは『薄め液』って事か。」と言った。
すると藤谷は「う~ん・・・だいたい合ってる・・・。」と、何故かちょっと残念そうな言い方で答えた。そして「だいたい合ってるけど・・・それじゃ・・・なんて言うか・・・夢が無いって言うか・・・女の子は納得しないかも。」と言って、最後は笑った。
僕は「そうか・・・。」と言って(藤谷が言いたい事は、きっとイメージとかそんな感じの事なんだろう。)と、思った。
そんな僕の様子に納得した感じの藤谷は、除光液とコットンと、それに2本のペディキュアをローテーブルに置いてから床に座った。
僕も藤谷に合わせて床に座ったのだが、これから藤谷がする事を見たかった僕は、彼と向かい合わせに座った。
きっと僕は『興味津々』って顔をしてるに違いなかった・・・。
そんな僕を前にした藤谷は、ちょっと照れくさそうにしながら「靴下を脱ぐんだけど・・・。」と、言った。
僕は「そうだと思った。僕は構わないから脱いで。」と言った。
藤谷は「前みたいに、変な事をしないでね・・・。」と言って、僕に釘を刺した・・・。
しかし僕は(いや・・・そう思ったけど・・・もしかして、これはお笑いで言う『フリ』なのでは?)とも考えた。
しかし(今は藤谷の足の臭いとか・・・に、も興味はあるが、それよりも、これから彼がしようとしてる事を見させてもらうのが大事だ。)と、思った。
僕の前にして緊張してるからなのか、藤谷が靴下を脱ぐ動きは遅く、僕が手伝った方が早いのではと思えた。
それでも待ってると、彼は右足の靴下を脱いだ。
そこには、今日の昼休みに見た薄紫のペディキュアが塗られた足指が並んび、キラキラとした色合いを見せてくれた・・・。
すると僕は、それを見てるだけで、さっきまでの焦れったが消えていった・・・。
(何だか・・・落ち着く・・・。)
僕は、そう思って、藤谷の仕草を見ていた・・・。
左足の靴下も脱いだ藤谷は、両足の靴下を床に置いた。それからローテーブルに置いてたコットンを千切って左手に持ち、右手で除光液の容器を取ると、左手の薬指と小指の間にコットンを挟むと、親指と人差し指を使って除光液のキャップを開けた。
そして、その中の液体をコットンに染み込ませた。
その途端。僕は懐かしい臭いを感じた・・・「シンナーの臭いだね・・・。模型に色を塗った時に、何度も嗅いだ事がある。」
藤谷は除光液のボトルをローテーブルに置きながら「だいたいそうだけど・・・でもちょっと違うでしょ?」と、聞いてきた。
それで僕は、目を瞑って臭いに集中してみた・・・。
すると、確かに・・・ちょっと違う気がしてきた・・・なんと言うか・・・。
「う~ん・・・何か、『おしゃれっぽい変な臭い』が混ざってるかな・・・?」と答えた。
僕の答えに藤谷『はぁ?』って顔をすると、下を向いてクスクスと笑い肩を震わせた・・・。
僕は自分が言った内容には何も面白い事を混ぜて無かったので、そんな彼の反応に、ちょっと不機嫌になった・・・。
それから「はぁ~」っと息を吐いて笑いがおさまった藤谷は、右の膝を立てて、その足裏を自分の左足の踝の上に置いた。
そして除光液の染み込んだコットンを、右足の親指に当てて、少し待った。
藤谷は「こうして、ペディキュアを溶かして落とすんだよ。」と言った。
「そうか・・・。」と言った僕だったが、正直なところ、これは大した驚く事でも無かった。
それから藤谷は、自分の足の親指に当ててたコットンをキュキュっと押す感じにして拭き取った。
すると確かに、彼の足の爪からはペディキュアの光沢が消えてたのだった。
つづく
つづく!




