表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/26

受験に勝つ彼?

7月は暑い。

8月はもっと暑いだろうが、それは夏休みであるし、だから長く続いて欲しいって思うから、そんなに辛くは無い。

だから7月は辛いんだ・・・。

でも、今年の7月は良い意味で違うと、僕は確信していたのだった。

 週明けは、既に7月だった。

僕は朝から元気な真夏の太陽に照らされて、いつもどうり家から徒歩で登校していた。

7月上旬・・・。

それは、今さらだけど、汗ダラダラの学期末テストの週間だった・・・。

汗ダラダラとは、夏だからってのもあるが、教室はエアコンが効いてるので、そうした意味では汗を掻かない。

けれど、良く考えないと分からないテストの問題とか・・・どう考えても分からないテストの問題とかと睨み合ってると、知恵熱を超えて冷や汗が出るから汗ダラダラとなるのだった・・・。

この1ヶ月ちょっとの間、僕は藤谷と一緒に勉強会をしてきたが、学期末テスト間近になっても、彼は特にその事について、対策らしい対策をしてた感じはしなかった。

しかし、思えば彼は初めから先生の傾向を分析していた。

それに、プリントの問題集を宿題に出されたら、それを模擬テストとして活用していた。

それは詰まり、テスト対策を日常の勉強で行ってたと言う事であり、それに付き合って一緒に勉強してた僕も、知らず知らずの内に、テスト対策をしてたって事になる・・・筈である・・・。

まあ・・・藤谷の勉強の仕方を凄いと思ってる僕だけれど、今回の学期末テストを乗り越えた時の結果を持って、その客観性が見えてくるのではないかって僕は思ってるのだった。

そして、学期末テストを終えれば、そこから少し我慢すれば、楽しい夏休みが待っているだ!!

去年の夏休みはネットゲームに明け暮れて、それはそれで充実してたと思ってた僕だったが・・・今年の夏は、憧れの『リア充!』になれるのかも知れない!!

それは、僕に『親友』が出来たからだ!!

『親友』・・・なんて良い響きだろうか・・・。

藤谷との関係が近しくなる前の、この1年と数ヶ月・・・高校生ネットゲーマーの僕には親友は無く、ゲーム内の『戦友』すら居なかった・・・。

(ずっと『野良ぼっち』だったからな・・・。)

思えば、中学生の時には、同じクラスの友人と一緒に楽しめたゲームも、今ではやらなくなっていた。

それは今では通う高校が違うのに、ネットゲームだけで会って一緒にゲームをするのも気恥ずかしいからだったが、その『気恥ずかしい』の一番の理由は、当時の友人の中の数人は高校に入って間も無く彼女が出来てたので『そっち関係』で忙しくなったり・・・しかも自慢気に『そっち関係』の話をされたりされ、その上「お前も頑張れよ!」的な事を毎回のようにされたので、僕や、同じく非モテ度の高かった友人らはリア充組を敬遠するようになり、かといって非モテ組ばかりが集まってチームプレイをするのも・・・。となって、結果として彼らが好まなそうなゲームで僕だけが楽しめるようなゲームをするようになったからだった・・・。

因みに、僕は全くモテなかった訳ではない。

高校1年生の時には、とても中の良い女友達が1人居たのだが、その()は、僕に恋愛感情を抱いてたのだった。それなのに僕がどこまでも友達で居ようとしたので、高校1年生の最後の頃になると、逆に僕の陰口を言ってたらしく、それがクラスメイトから僕の耳に入り、僕もそれで彼女と距離を置くようになり、気が付けば2年生のクラス替えとなって、お互い別のクラスへと移ったのだった。

そして、今では互いに、たまに廊下ですれ違ったりする事があるぐらいで、きっと向こうも内心は意識してるのだろうけど、声を掛ける事は無かったのだった・・・。

それは、去年の苦い経験・・・。

色に例えるなら、きっと『黒』だろう・・・。


だが今年の夏は違ってた!

そして、きっと夏休みも違うはず!!


既に暑い月曜日の朝。

肌に浮き上がる汗を振り払いながら登校する僕は、そんな事を考えながら歩き、そして、学校を目の前にした時には、いつものように教室で会えるはずの藤谷の事を思っていた・・・。


 教室に入ると、僕はクラス・メイトに適当に挨拶をしながら、藤谷の席を見た。

彼は、席に着こうとする僕の方を見て立ち上がり、こちらに向かって歩いて来た。

そして、椅子に座った僕の横に来ると「おはよう。」と、ちょっと照れたような表情をして挨拶をしてくれた。そんな藤谷の姿に、ちょっと気恥ずかしさを覚えた僕は「お・・・おう。」と、少し吃り気味に返事をしてしまった。

すると藤谷はクスッと笑い「今日も・・・良いよね?」と、勉強会の事と思われる質問をしてきたので、僕は「ああ・・・良いよ。」と、今度は気恥ずかしさを隠す様にして答えた。

すると藤谷は、またクスッと笑い、自分の席に戻ろうとして振り返ろうとした。

僕は咄嗟(とっさ)に「藤谷・・・は・・・今日も?」と聞いた。

それは『藤谷は今日もペディキュアを塗って来てるのか?』と言う意味だった。

僕の言葉に一瞬戸惑った表情をした藤谷だったが、直ぐにハニカミながら「うん・・・。」と、小さく頷いた・・・。

僕はその瞬間、胸の中にキュットした感覚を覚えた・・・。

(!?・・・この感覚って・・・。)そう思った僕は、一瞬、息を止めて居た・・・。

自分の席に戻った藤谷は、顔を黒板の方に向けながらも僕の方をチラチラと見てきた・・・。

そんな藤谷の様子を見ながら僕は(藤谷はペディキュアを塗った爪先を、誰にも知られていないように隠して、教室で澄まし顔で授業を受けるんだ・・・。)と、思った・・・。

そして、そう思ったら、今さらだけど『それは二人だけの秘密』だって事に気が付いた・・・!

(もしも・・・僕が藤谷の秘密を学校の誰かに話したなら・・・。)

僕はそう思うと(それは彼への裏切り以外では無いし・・・。)と思った後に(それをしたら、もう僕と藤谷の間には『二人だけの秘密』は無くなってしまうって事なのだろう・・・。)とも、思った。

それは、きっと藤谷よりも、僕が辛い思いをするって事なのかも知れない。

それに(この秘密は、僕以外の誰とも共有して欲しくない・・・。)って、僕は思ったのだった。

この時の僕はまだ、自分の中に誰かに対しての強い独占欲があるだなんて、思って無かったのだ・・・。


 昼休み。

食中毒が心配なのと、夏は朝早くから暑いので「お弁当を作りたくない!」と言う母さんのお陰で、僕は、この2週間程は学食に通ってた。

その結果として、いつも弁当持ちである藤谷とは、昼休みに会話するのが少なくなって居た。

しかしだった。

昼休みを告げるチャイムが鳴って、先生が教室を出た直後、僕が急いで学食へ向かおうとしたその時「今日は僕もお弁当を持って来てないんだ。」と、藤谷が声を掛けてきた。

「そうなのか?珍しいな。」と僕が言うと、藤谷は「だから僕も一緒に学食へ行っても良いかな?」と言った。

良いかな?って、学生なんだから良いに決まってる。

それで、そのままの意味と思った僕は「そんなの良いに決まってるだろ?」と、藤谷に言って・・・それで(ん?)っと思った。

「い・・・一緒に来るか?」僕は藤谷にそう言った。

すると「うん!」と、彼は嬉しそうに頷いて「じゃあ・・・急ごっか!」と言った。

そうして僕らは、二人で学食のある1階へと走って向かった・・・。


 学食は大盛況だった。

それはいつもの事だった。

これに僕は割りと馴れて居たが、藤谷は滅多に来たことが無いと言ってただけあって、場の雰囲気に圧倒されてる感じに見えた。

それでも僕は藤谷を連れ、取り敢えず券売機の列に並んだので、そんなに待たずに済みそうだった。

僕らの後には、更に次々と生徒が並んだ・・・。

僕は藤谷に「歩きながらでも、上に張り出されてるメニューが見えるだろ?券売機の前に着くまでに、何を食べるか決めておいた方が、後の人に迷惑にならないから。」と、手慣れてる素振りをした。

すると藤谷は「う~ん・・・僕はカツカレーかな・・・。」と言ったので、僕は「それは人気のメニューで、しかも丸数(たまかず)が少ないから、僕らが買う前に売り切れになってるかも知れないので、もう一つ、二番目に食べたいメニューを考えておいた方が安心だよ。」とアドバイスした。

藤谷は「ええ!?・・・そうなの?」と、驚き、更にメニュー表を見上げて居た。


 二人で向かい合って座った学食のテーブルの上には、トレーに乗せられた醤油ラーメンと、カツカレーがあった。

カツカレーは僕の。醤油ラーメンは藤谷のだった。

「まさか、最後のカツカレーを僕がゲットするとは思わなかった。」と、僕は悪びれる訳でも無く藤谷に言った。

「確かに、列に並んでた時の君の助言が、本当に役にたつとは思わなかったよ・・・まさか、こんな形でね・・・。」と、僕の目も見ず、ひたすらにカツカレーを見ながら藤谷はそう言った。

「そうだろう、そうだろう。ちゃんと二番目に食べたいものを考えておいたから、迷わずスムーズに醤油ラーメンが買えたのは、僕のお陰だな。」と、僕は得意気に言った。

すると藤谷は「僕が迷わずスムーズに醤油ラーメンのボタンを押すしか無かったのは、最後のカツカレーを君が注文したからだけどね?」と不満気に言って、割り箸を水平に手に取って、割ろうとした。

「麺は伸びるので時間が無いから手短(てみじか)に言うが、僕に醤油ラーメンをプレゼントしてくれたなら、僕は藤谷にカツカレーをプレゼントするが、どうだろうか?」と、言った。

藤谷は目を丸くして「本当に!?」と、言った。

そんな彼の反応に嬉しくなった僕だったが、ここはグッと感情を抑え「もちろん。」と答えた。

すると藤谷は「でも、値段はそっちが高いから、差額は払うよ。」と言ったので、僕は「ああ・・・これは、僕と勉強会をしてくれてるお礼って事にして、それにオヤツのお礼でもあるから、気にしなくて言い。ってか、ラーメンが伸びるのでもう良いか?」と言って、片出でカツカレーの皿を持って藤谷に差し出した。

そんな僕に向かって、藤谷は嬉しさを隠しもしないで、醤油ラーメンの入ったラーメンどんぶりを両手で持ち上げて、カツカレーが乗ってた僕のトレーに置いた。

そして二人は、割り箸とスプーンを交換するという最終儀式を終えると、直ぐに料理に調印した。

そうして僕らは、短い昼休みの中で、幸せな時間を共有した。

きっとこの時の僕らには、学食でざわめく周りの大勢の学生達が『モブ』にしか感じられて無かったんだと思う。

だからきっと、多くの生徒の視線を全く気にせずに、二人だけのランチタイムを楽しめたのだろう・・・。



 楽しくも、美味しかったランチを終えた藤谷と僕は、食べ終えた食器の載ったトレーを、返却口に置いて二人一緒に食堂から廊下へと出た。

僕は「ちょっと、外に行かないか?」と、藤谷に言った。

「え?外に?こんなに暑いのに?」と、藤谷は驚くと言うよりも意外って感じで言った。

僕は「エアコンが効いてる教室ばかりに居ると、高校での夏を感じられないで終わるんじゃないかって思わないか?」と言った。

藤谷は「僕は別に、それでかまわないけど?・・・なんで?」と、言うので「まあ、そう言わずに。僕と一緒に真夏のムッとした空気を日陰で楽しもう!」と、僕は言って、やや強引に藤谷を誘い、学校の玄関へと向かった。

藤谷は、僕が何をしたいのか分からないといった感じだった。

それは、そうだ。

僕はこれからしたい事は、その行為の寸前まで藤谷に知られては成らない事だったのだから・・・。


 玄関で外靴に履き替え、藤谷を従えた僕は、扉を押し開け始めると直ぐに『ムッとする空気』に押し返されそうになった・・・。

しかし、ここで怯んでは目的を果たせないと思った僕は、思い切って外に出たのだった。

「うわぁ・・・暑っ!」と言ったのは藤谷だった。

僕は「夏だからな。」と言って、体育館の方へ向かって歩き始めた。

『教師ら』からは「不要で屋外へ出ないように。」と言われてたが、僕にとってこれは(『必要』な外出だから。)と思ったので問題ない筈である。

僕に()いて来る藤谷は、目的地を知らないのもあり、仕方なくって感じだった。

それでも、質問や不満を言わないのは、これまでの僕らの関係性から来るものだと思ったが、もしかしたら、さっき彼に譲ったカツカレーが効いてるのかも知れないとも思った・・・。

(そんな事で藤谷が気が引けてるのだとしたら、何だか嫌だし、悪いな・・・。)と、思った僕だったが、どちらにしても、これから僕がしたかった事・・・いや、藤谷にして欲しかった事を考えれば、そんな罪にはならない事だろうと思い、歩き続けた・・・。

先のとおり、不要の外出をしないようにとなってた事と、出た所で暑くてしょうがないと思ってる生徒が多いせいで、校舎の周囲には誰も居なかった。

だから僕らは、誰にも会う事も無く、体育館と校舎を繋ぐ廊下の下に来る事が出来た。

廊下の下と言っても、廊下は校舎の1階に繋がってて、その下は廊下を支える柱が並び、地面と廊下の下の隙間の高さは1メートルも無かった。

しかし、廊下に窓があるものの、その窓には網戸が付いてたので、余程の変わり者が網戸や窓を開け顔を出さない限りは、誰にの目にも付かない死角となってる場所だった・・・。

しかも、ここの周りの地面はコンクリートで覆われてるので、虫も殆ど居ないし、多少汚れるのを気にしなければ座る事だって出来る。

そして更に、この時間のここは日陰なのだ・・・。

真夏の真っ昼間の『物陰の日陰』・・・。

(そんな怪しい場所が我が高校にあって良いのだろうか?)

僕は、それだけに、今更になって『知る人ぞ知る』って場所なのかも知れないとも思った・・・。

しかし、それでも『今この時間だけ、誰とも鉢合わせしなければ良い!』と思って、僕は、藤谷に対する小さな欲求のような・・・欲望のような・・・それでいて要求のような事を頼もうとした・・・。

それと知られること無く、僕は廊下の死角のコンクリートの上に胡座(あぐら)をかいて座った。

すると藤谷も、何だろうかと思ってる様だったけど、僕の隣に膝を抱える格好で・・・でもそれは太股を両手で下から抱える格好で座った。

横に座る藤谷を見ると、額にはうっすらと汗が滲んでいた・・・。

藤谷は、ここから見える誰も居ないグランドの方を見ながら「こんな場所があったんだね・・・でも、日陰でも暑いね。」と、言った。

僕らは廊下を背にして座ったので、背中の方からは廊下を行き交う生徒の足音や話し声が聞こえた。

僕は「せっかくだから、靴も脱ぐかな。」と言って、胡座をかいたまま靴を脱いだ。そして「藤谷も脱いだら?気持ち良いぞ。」と言った。

藤谷は「そう?・・・もしかして、何か企んでる?」と、僕に聞いた。

僕はギクッとした・・・。

それでも僕は「別に・・・ただ、蒸れた足を解放すると、風が当たると気持ちいいなって思って・・・。そうだ、靴下も脱いじゃおうか。」と、言って、靴下も脱ぎ始めた。

「やっぱり・・・なんか企んでる・・・。」そう言って藤谷は・・・と言うか『藤谷は、そう言ったのに』靴を脱ぎ始めた・・・。


 つづく


つづく!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ