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学期末救世主伝説!!『小瓶に詰められた未来への思い!』

あの日。藤谷とのお勉強を終えた翌日の土曜日に、僕は藤谷にプレゼントしたい・・・いや、本当は僕が彼に塗って欲しいだけなのかも知れないペディキュアを求めて、隣街のドラッグストアへと向かった。

それは、知り合いとの鉢合わせを避ける為の、ちょっとした遠出の買い物だった・・・。

しかし、それは真夏日も猛暑日も超え酷暑日に成ろうと言う『不要な外出は避けるようにして下さい』って日だった・・・。

だが、そんな日でも・・・。

若者(やつら)は、外出をやめはしなかった・・・!

 藤谷との『井の中の蛙の話をした、お勉強会』の翌日・・・。 

僕が『藤谷に似合うペディキュア』を探す旅に出たこの日は、土曜日だった。

そして、この日は、生憎と天気が良かった。

生憎とは、正に『真夏』って感じの天気だからだ・・・。

今日の日中の最高気温は35℃を超えるとかって、スマホので見られる『天気のニュース』では、そうなっていたが。今は、まだ10時にもなってないのに、あんまりにも暑い歩道を歩く僕は、頭からはハロゲンヒーターで焼かれて、足元からは、その輻射熱で焼かれてるんじゃないかって思った。

(なんか・・・そんなんで肉とか焼くやつがあったな・・・。)僕は、そんな事を考えて太陽を見上げ、目を細めた・・・。

それは燦々と輝く太陽って言うよりは、ガンガンと照らす太陽って感じに見えた・・・。

それから僕は、改めて視線を歩道に戻して見た。

すると、この余りの暑さは、僕の家から近くのバス停まで続く歩道の上に逃げ水を作り出していたのだった・・・。

そんな暑さで、頭がボーッとしてきたからなのだろうか?

僕は(今、街や世界が崩壊して、それでさ迷い続けた僕が喉の乾きに襲われてたら、あの逃げ水を喜んで追いかけただろうか?)等と奇妙な事を思い、そして(次の世紀末までは、とても長い世代を生きる僕らは、なんて夢が無いんだろうか?)とも思いながら、灼熱の歩道を汗を掻きながら歩いた・・・。


僕がそんな事を思うのは、わりと最近になって動画サイトで見た『20世紀末は人類史終末論で異様な盛り上がり!』というのを観たからだった。

それは1990年代の先進国の人達の中には『自分達の平穏で幸せな筈の日常が続いて欲しい・・・。』と思う反面『毎日が同じ様でつまらないので、もう崩壊して欲しい!』って思いが強かったって内容だった。

それは『閉塞感』とか言われたりするらしいが、簡単に言うと、それは『人生の冒険に出る勇気が持てないで、明日を保証してくれる生活を選んだ人達の、夢想』なのかも知れないとの事だった・・・。

それで僕は(平和に飽きて閉塞感ってのに悩んでた人達は、面白い感じ方をしてたんだな・・・。)って、思った。

そんな『未来を保証されてると思ってた時代の人達』は『もう少しで、つまらない日常から解放される!』って希望を『人類の滅亡という結末で救って貰える!』と、考えてたそうなのだからだ・・・。

でも、それで僕が不思議に思ったのは、その時代には何故か『世紀末の、その後を生きる人達が描かれてる物語が多い』って事だった。

きっと多くの人達は『自分だけは、その後も逞しく生きられる!』って思ってたんじゃないかって感じが、更に奇妙で面白いなと思った・・・。

企業に勤めて雇用される事を希望してるサラリーマンになってたり、なりたいと思ってる人達が多い時代なのに『逞しく生きられる』と、思ってるって・・・。


・・・それで、明後日からも平和で長い学生生活が続くって思ってる僕も、世紀末を生きた人達のそんな気分を、この真夏の日差しを浴びながら逃げ水を追う事で味わおうとした・・・。

でも、それは『味わおうとした』だけで終わった。

僕がバス停に着くと、そこには街路樹が作ってくれた木陰があったのと、その木陰で3分ほど待っただけで、僕が乗る路線バスが到着したからだった。

更に、乗り込んだバスの中はエアコンが効いて涼しかったからだった・・・。

バスの中の椅子に座らないで立ったままの僕は(エアコンが効いたバスというのは、真夏の救世主なのかも知れない。)と、思った。

本当に助かったと思ったからだ・・・。

そして僕は、揺られるバスの車窓から町を見ながら(恐怖の大魔王がやって来るとか、第四次世界大戦とか核戦争とかよりも先に、本当に温暖化で滅びるのかもな・・・人類は・・・。)と、思い(しかし恐怖の大魔王とは、もしかしたら超大型台風の事なのだろうか・・・。)と、思ったところで「それは冗談にもならないか・・・。」と、小声で独り言を呟いた。

それから隣街の目的地近くのバス停で降りた僕は、またも猛暑に放り込まれ、そこから徒歩で片道10分程の街中のドラッグストアまで歩き始めた・・・。

こんなにも辛い思いをしてまで隣街のドラッグストアへと僕が向かう理由(りゆう)

やはりそれは『藤谷に似合うペディキュアを探し出し手に入れ、プレゼントする』事だったのだけれど、同時にそれは『世紀末には、ほど遠い時代を生きる僕の、希望に似た欲望を叶えるため』でもあったのだった・・・。


 もう少しで夏休みも近いこの時期の週末は、街中(まちなか)には僕と同じ高校生の他に、小、中学生の姿が、いつもよりも多く見られた。その中でも特に女子の数は多くて、その多くが二人以上のグループで歩いて居た。

彼女らは、夏休みを前にした『何かの準備』に追われてる様に見えたけど、それは僕の気のせいなのかも知れない。

何かに追われてるのは、どちらかと言うと僕なので、彼女らも同じに見えてるだけなのだろうと、僕は自分に言い聞かせながら、ドラッグストアの化粧品コーナーに立って居た・・・。

(何で、学校では化粧が認められて無いのに、女子高生だけじゃ無く、女子中学生・・・?それに、どう見ても小学生って感じの女の子が、化粧品を見たり、テストしたりしてるんだ!?)

僕は、さっきまでの日差しに焼かれて掻いてた汗とは違う汗を、エアコンの効いたドラッグストアの店内で掻いてた・・・。

それは、どう見ても・・・(ここに居るのは場違い!)ってしか、自分で思えなかった焦りから流れ出る汗だった。

僕が見たいペディキュアが並べられてるコーナーには、入れ替わり立ち代わりって感じで、女の子達が居た。

一人でペディキュアやその他の化粧品を見てる女性や女の子は、滞在時間が短めだったが、そうした中学生や高校生の中にはグループで来てる女の子も居て、そうしたグループでは、互いに化粧品を選びながら会話が盛り上がる場合も多く、そうなると、暫くはそこから動かなくなってしまうので僕は困った。

(高校生の男が、一人でマニキュアを探すってのは・・・目立つよなぁ・・・。)と、僕は思いながら、ドラッグストアの店内をそれとなくウロウロしては、化粧品コーナーの前を窺い、そして横切るを30分以上も繰り返して居た・・・。

そうしてる時に特に心配だったのは、知り合いに会う事だったが、中でも同じ高校に通う学生に会うのは避けたいと思って居た。それは男女問わず、である。

特に、ペディキュアを探してる段階で見付かって声を掛けられたりなら、まだ言い訳が出来そうだったが、レジまで行ってからだと、どう言い訳すれば良いか検討がつかなかった・・・。

(だからこそ、わざわざ隣街のドラッグストアまで来たんだ。・・・なのに、ここでペディキュア(なにも)買わないで帰るとかって・・・そんな無駄をする訳にはいかないからな。)と、僕がそう思って何度目かの化粧品コーナー窺いをした時だった。

丁度、人の切れ間が出来た。

僕は周りの目を気にして、それでいて辺りをキョロキョロ見る事も無く、ペディキュアが並べて置かれてる棚の前に立った。そして、緊張しながらも、全体の品揃えを見た。

棚は、色別の他にメーカー別でも分けられていた。

上段には、黒いキャップの少し高級そうな小瓶。

下段には、小瓶の中身に合わせた色のキャップの、お手頃な感じの小瓶が並んでいた。

上段が1個700円ほど。

下段は1個400円ほど。

高校生である僕には、値段が安い、ほうが嬉しいに決まっていた。

しかしこれは、僕の為の買い物では無くて藤谷へのプレゼントなのである。

だから、2本買ったとしても、差額が600円ほどなら、ケチっても虚しいだけだと思えた。

だから、大事なのは値段よりも、今は色だった。

(確かに、小瓶に高級感があった方が、プレゼントには良い感じだけど・・・。)

そうじゃ無い。

(僕は彼に似合う色を探しに来たのであって、見映えの良い部品を探しに来たのでは無いのだ・・・。)そう思った僕は、先に下段の方のペディキュアを見比べる事にした。

しかし正直なところ、1本1本を手に取って見ないと分からないと思った・・・。

それで僕は勇気を出し、気になった色を何個か手に取って、目の前に持ち上げ良く見る事にした。

その行為は、昨日、藤谷のペディキュアを小瓶を見させてもらった事を役立てたって事だったろう。

今さらだが、こんな事をしてる僕の視界の左端には、化粧品コーナーを担当してる店員の姿があった・・・。

(・・・これは、恥ずかしい!)

そう思った僕は、とにかく可及的速(かきゅうてきすみ)やかに、ペディキュアの色を確認するしか無かった・・・。

(赤・・・青・・・黄色・・・どのペディキュア見ても綺麗だな)って・・・語呂が合わない変な変え歌が頭の中に流れた。

それはきっと、この状況からの現実逃避だっろうと思う。

それでも、ペディキュアと言えば色の代表は赤だろうと思っていた僕は、上段と下段のペディキュアの赤色を取って見比べた・・・。

(どちらの色が良いのか分からない・・・。)そう思った僕は(それなら、安いので良いのか・・・。)って思った。

それで取り敢えず、赤色は安いのにした。

それから、僕は何故だか分からないが、藤谷には青色のペディキュアが似合うんじゃないかって思って居たのだった。

昨夜妄想では、藤谷が青色のペディキュアをしてベッドに腰かけ、僕が床に座った状態からその足指を見て触ってるのを想像した時に、僕の中の僕自身が目覚めそうになったのだから、青色系統のグッとくるのを探さずには居られなかったのだ。

それらしい色は、上段と下段にそれぞれ2個あった。

僕はその4つの小瓶をまとめて手に取って見比べた・・・。

濃い青・・・鮮やかそうな青・・・紺色に近いの・・・水色・・・。

(鮮やかそうなのが良いな・・・。)と、そう思って見た小瓶は、上段に置かれてた、少し値段の高い方のペディキュアだった。

しかし、少ない小遣いで、それを買うのに迷いは無かった。

何故なら!

僕が藤谷にこれをプレゼントすれば、彼は間違いなく、このペディキュアを塗ってくれて、そして・・・そして・・・。

(その足指を僕に見せてくれるに違いない!)からだった!!

僕は選んだ赤色と青色のペディキュアを、手の平の中に隠し持って、レジに並んだ。

何だか万引きを企んでると思われそうな気もしたが、清廉潔白(せいれんけっぱく)な僕に(やま)しい心など一つも無い。

僕は純粋に『僕が選んだペディキュアを藤谷に塗って欲しい!』だけなのだから・・・。

2台のレジに対して1列に並んでいるレジ待ちの列に並んだ僕の前には、まだ二人の客がレジ待ちをしていた・・・。

しかも、そうして待たされてる間に、僕の後ろには一人・・・二人と並び、更に列が長くなった。

僕は、後ろに並ぶ人には、僕がペディキュアを買うのを見られるのが恥ずかしかったから、嫌だったのだが、今さら列を抜ける方が余計に目立つし不信に思われると思って、待つ事にした。

そして僕は「次の方どうぞ!」と、少し遠い方のレジを打ってた若い女性店員に呼ばれた。

うつ向き加減で進んだ僕は、無言で2個のペディキュアの小瓶をレジの台に置いた。

ピッピッっとバーコードを読み込ませた店員は「当店のポイント・カードかアプリは御座いますか?」と聞くので「いいえ。」と僕が答えると「あと、こちらのポイントもお付け出来ますが御座いませんか?」と、色々なポイントが付くカードとかアプリとかのマークが描かれた表を手で示した。その中には普段から僕が使ってるポイントもあったのだが、とにかく早く会計を終わらせたい僕は「無いです。」と、短い単語を口早(くちばや)に答えた。

なのに店員は「袋の方は有料ですが、どうなさいますか?」と・・・(そんなのはポケットにでも入れれば・・・!)って、そこまで思った僕だったが(そうだ・・・これは藤谷へのプレゼントなんだった・・・。)と思い直した。

それで(ビニール袋と・・・その、プレゼント用になるような袋とかって有りますか?)と、聞いた。

店員は「はい。有料になりますが御座いますよ!」と、さっきまでの機械的な応対とは明らかに違う感じで・・・嬉しそうに言った。

そして、彼女の後ろにある小棚から、3種類の小さな紙袋を見せてくれた。

白地に銀色の花びら。

黒地に金色のライン。

青地に白い雲・・・?

次に並んで居る人をあまり待たせられないと思った僕は、それでも藤谷へのプレゼントとして良さそうな小袋を選んだ。

「あ・・・青いので・・・。」

もう直ぐ夏休み。

咄嗟(とっさ)でも何でも・・・。

藤谷と二人で過ごす夏休みを想像した僕は、そんな夏空を思い描かせる小袋を選んだのだった。


 つづく

つづく!

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