ペディキュアとプラカラー
僕は藤谷から、彼がペディキュア塗る意味を聞かされて、その意味を考えさせられた。
そして、藤谷以外の男がペディキュアを塗ってたのならどうなのかと考えた。
僕は、藤谷の理屈と、自分の感性が一致出来ないもどかしさを感じた。
ただ、ハッキリしてたのは『僕は藤谷のペディキュアが好きだ。』って事だった。
だから僕は、その事に関しては、何処までも藤谷の味方だと言った。
藤谷の涙を見た後。僕は暫く彼の側に居て、彼の足の指に触って居た。
それは彼を宥めるための行為だったのだけど、同時に僕が彼に癒されるための行為でもあった。
彼の足に触ってるだけで、僕は不思議な程に安心したからだ・・・。
そうして暫くした後、藤谷が「有り難う・・・もう、大丈夫だよ。」と言うのを聞いた僕は、それで一安心して彼の足を解放した。
藤谷の脚の重さと引き換えに、僕は手持ちぶさたになった気がした。
すると急に、僕は彼の持ってるペディキュアを見せて欲しくなって「持ってるペディキュアを見せてくれる?」と、僕は藤谷に言った。
彼は「うん。良いよ。」と言ってベッドから立ち上がり、学習机の方へ行くと、そこの引き出しから、4個の小瓶を取り出しローテーブルの上に並べてくれた。
今さらの様だけど、僕らは勉強の途中で休憩に入ってたので、ローテーブルの上には教材やシャーペンや鉛筆が載せられたままだったから、その風景は奇妙な雰囲気を醸し出していた・・・。
(教材と・・・ペディキュア・・・。)そう思った僕は、その相反する感じがする光景と言葉の響きに、ドキドキするのを感じた・・・。
「・・・手にとって見ても良いのか?」と、僕は藤谷に聞いた。
藤谷は「うん。好きに見て良いよ。でも、キャップは開けないでね。」と言うので「どうして?」と、僕が聞くと「凄くシンナー臭いから。」と言って笑った。
僕は「そうなのか?」と、ちょっと以外だと言ったら、藤谷は「マニキュアとかペディキュアとかって言うけど・・・プラモデルとか、塗料を使って何かに色を塗った事があるなら、基本的には、それとそんなに変わらないなって思うんじゃないかな。」と言った。
藤谷の説明が意外すぎた僕は「ふ~ん・・・そんなもんなのか?」と、納得のいかない返事をした。
そんな僕に藤谷は「初めてペディキュアを塗った時の臭いと、刷毛で自分の足の指に塗った乾く前の色を見た時は、自分の足の指がプラモデルか何かになった様な気もしたからね・・・。」と、体験談をし、はにかんだ。そして、続けて「だから、初めての時の感想は、キャップを開けるまでがドキドキで、塗ってる時は、う~ん・・・って感じで。塗り上がりを見たら、またドキドキとワクワクが一緒に戻って来たって感じだったかな・・・。」と、そんなに前でも無い筈の出来事を懐かしそうにして言った・・・。
「そうか・・・。」と、返事をして、そこまでの藤谷の話を聞き終えた僕は(お洒落な小瓶に入ったプラカラーって事なのか・・・?)と思いながら、ペディキュア・・・又はマニキュアの小瓶を、一つずつ手に取って見比べる事にした。
それで最初に[青色]が入った小瓶を手に取って見た。
小瓶の角度を変えたり、逆さまにすると、中の塗料がゆっくりと動くのが見えた。
そんな僕の様子を見た藤谷が「使う前には、小瓶を振って中身を混ぜるんだよ。」と、説明してくれた。
僕は「ふ~ん・・・その辺もプラカラーみたいだな。」と言って、[青色]のペディキュアの小瓶をローテーブルに戻し、別のペディキュアの小瓶を手に取った。
それは[ピンク色]が入った小瓶だった。
僕は、これもさっきと同じ様に、小瓶を回したりして見た。
すると藤谷は「さっきの青色も、薄い色には見えなかったでしょ?」と、言うので、僕は「うん。塗ると違うのか?」と聞いた。
「うん、そうなんだ。」と藤谷が言うので、僕は「藤谷は、ペディキュアを塗ってるのを隠せる色を使いたいから、薄い色を探したと思うけど、それって塗る前に分かるものなのか?」と聞いた。
「店頭にイメージ・カラーが表示されてる場合もあるし・・・小瓶のキャップの色で、塗った時の色を予測したりする・・・。」と藤谷は言うので「それで、上手く行くの?」と、更に僕が聞くと「今のところはね・・・。上手く行ったよ。」と、藤谷は答え、続けて「まだ、4個だけだけどね。」と言って笑った。
それを聞いた僕は(藤谷は、色の感覚が良いか、感が鋭いのかも知れないな・・・。)と、思った。
手に持ってた[ピンク色]と入れ換えに、僕が3つめに手に取ったのは[紫色に・・・ラメ?]のペディキュアだった。
(・・・これは、今、藤谷が足に塗ってる色だろう。)と思った僕は、見比べようとして彼の爪先を見た。
すると藤谷は「それが、今、僕が塗ってる色だよ。」と教えてくれた。
(やっぱりそうか。)と思った僕だったが、手に持ってる小瓶の中の紫色から比べると、やはり藤谷の足の爪の色は、ずっと淡い色だと思った。
「ね?」っと藤谷。
何が「ね?」なのかって僕は言いたかったが、確かに「ね?(小瓶の中身の色よりずっと薄いでしょ?)」って感じが伝わったので、僕は納得するしか無かった・・・。
[紫色にラメ]の小瓶と入れ換えで、僕が最後に手に取ったのは[オレンジ色]の小瓶だった。
藤谷の説明では、これは淡いとか薄いとかの色では無く、ハッキリとした濃い色のペディキュアらしい・・・。
(これは塗料の色だけでは、さっきまでの淡い色との違いを予測するのは難しいな・・・。確かに、キャップの色は濃いけど・・・。)と、僕は思った。
それで「キャップの色って、どのメーカーも、中身に会わせてるのか?」と、僕は藤谷に聞いた。すると藤谷は「実は、そうとも限らなくて、メーカーに依っては、全部が黒とか、白・・・とか、黒に金縁とか・・・。高級感を出すのに色々なんだよね。」と言って「男子高校生である僕には、ドラッグストアとか、100円ショップで買えるペディキュアぐらいしか、まだ集められないから・・・。」と、そう言った藤谷は、ちょっと残念そうな表情で「ふぅ・・・。」と、溜め息をついた・・・。
僕は藤谷の言葉の意味が、『男子』なのでデパートのような高級化粧品売場で買える気がしないと言う意味なのか、それとも『予算』が足りないと言う意味なのかがハッキリしなかったが(それは多分、両方なんだろうな・・・。)と、思って、何も聞かない事にした。
全部の色を見せて貰った僕は、ふと気になる事があった。
それは(今日は体育があったのに、藤谷はペディキュアを塗ったままで登校して来た)って事だった。
「今日は体育があったのに、藤谷はペディキュアを塗ったままで登校してたんだな。」と、僕は独り納得するようにして言った。
すると「驚いた?」と、藤谷が言うので、僕は「うん。・・・まあ、初めて見たときも藤谷はペディキュアを塗ってたって事だったけど、あの時のは、こんなにキラキラしてなかったからな・・・。」と言った。
だから、僕は(あのときのペディキュアは、きっと塗ってから日が経ってて、だいぶ剥げてたのだろう。でも今日の爪先の色だと、藤谷がまた足の怪我をして、この前みたく、保健室で靴下を脱がされるような事があったら・・・言い逃れが難しいのでは・・・?)と、思って心配になった。
すると藤谷は「抵抗半分・・・ドキドキ・・・半分・・・かな。」と、小声で言った。
その言葉を聞いた僕は、思わず「え?」っと聞き直した。
藤谷は慌てて「え?・・・ああ・・・何でも無い!」と言って頬を染めた。
「ドキドキ・・・半分?」藤谷の顔を見て、そう質問した僕は、自分がドキドキしてくるのを感じた。
「あ・・・呆れちゃった?」と、藤谷は少し不安そうな顔をした。
僕は藤谷の『ドキドキ半分』と言う意味が、分かるような分からない様な、掴めそうで掴めない様な・・・そんな感覚をもどかしく感じた。
それで「僕が藤谷のしてる事に呆れるって思うってこと?」と聞いた。
すると藤谷は、僕の質問の意味に戸惑ってる様だった。
藤谷は申し訳なさそうに「それは、さっきまで真面目な話だったのに。急に変な話になっちゃったから・・・。」と、答えた。
「変って?・・・藤谷がペディキュアをする事を変とは思わないよ。」と僕が言うと、彼は「本当に・・・僕が言ってる意味が分からないの?」と、遠慮がちに聞いてきた。
僕は完全に『?』って感じだった。
それで僕は「藤谷は、社会への些細な抵抗としてペディキュアを塗ってるって以外に、別の意味もあるの?」と聞いたのだけれど、直ぐに(これこそ愚直な質問だったろうか・・・。)と、居心地の悪さを感じ、尻の辺りがムズムズするのを感じた。
後で思ったが、きっとこの時の僕は、僕の質問への藤谷の答えが予想できてたのに、藤谷の口から、ハッキリと、その答えを聞きたかったのだと思った・・・。
藤谷は「そっか・・・僕の言った意味が分からないなら、君にはその方が良いよ。」と、ホッとした様に言って、僕に微笑んだ。
それで藤谷に『あらぬ思い』を勝手に期待してた僕は「何だよ・・・それは・・・。」と、肩透かしを食らったような気がして、少し嫌な気分になった・・・。
そんな僕を見透かしてか、藤谷は「はい。もう、この話しはお仕舞い。そろそろお勉強の続きをしようよ!」と言って、僕と一緒に座って居たベッドから、腰を滑らせる様にして床の座布団に座り、そそくさとローテーブルの上に置いてあったペディキュアの4っつの小瓶を手に取ると、振り返る様な仕草で、それをベッドの枕元の棚に置いた。それから僕の方を見て「座って!座って!」と、僕にもローテーブルの前に座る様に促すので、僕は謎が解けない・・・と言うか、聞きたかった答えを聞けなかった『もどかしさ』を抱えたまま、彼の前に座る事にした。
それら1時間ちょっとの間、藤谷は勉強に集中してしまったので、僕は先の彼の言葉の意味を聞く機会を失ってしまったのだった・・・。
だから結局、その『もどかしさ』は、藤谷とのお勉強会が終わって、彼の家の玄関で彼に見送られてもまだ、消えなかった・・・。
僕の心の中は、あれからずっとモヤモヤとしていたので、そこからの藤谷との、お勉強会は、あまり集中できなかった・・・。
僕は家への帰り道の途中で。まだ明るいにも関わらず、既に点灯してる外灯が立ち並ぶ道筋は、僕の中のモヤモヤとした気持ちを照らすには光量足りなすぎると思った・・・。
そして、そんな詩的な感情や言葉が自分の中から沸いて出た事に少し驚いた。
きっと、これも藤谷のお陰なのだろう・・・。
僕は、何だか憎らしく思える外灯の明かりを見つめ、立ち止まった。
「藤谷の言うドキドキが・・・何か・・・。」と、僕はそう呟いて、暮れかかった空へと視線を移した。
薄暗い空は雲が少なく晴れていたが、まだ星が見えないせいか、そんなに綺麗には見えなかったけれど、これから星が瞬くのだろうと言う期待感だけが唯一の希望と言えるのかも知れなかった・・・。
そして、そんな僕の期待は、この日の夜に現実のものになった。
それは僕がベッドで眠りに就こうと、薄暗い天井を見上げながら、薄紫色にラメがキラキラと光るペディキュアが塗られた、藤谷の足指を思い浮かべてた時だった。
「藤谷の足指を・・・僕が選んだペディキュアで塗りたい・・・。」
僕は、そんな自分の独り言に、驚いた・・・。
そして(そうか・・・僕は藤谷の足指に、僕が選んだ色を塗って欲しいんだ・・・!)って気が付いたのだ!
それで興奮してしまった僕は、ベッドの上で布団を抱え(藤谷の足指には、どんな色が似合うだろうか?)と、文字通り色々と妄想し続けてしまった・・・。
そうして疲れて眠りに就けたのは、結局、明け方になってからだったのは覚えていた・・・。
寝不足の翌日。
机にカバンを掛けようとする僕に近寄って来た藤谷は「おはよう。」と、声を掛けてきた。
僕も、眠いながら「おはよう。」と返事をする。
そして、ふっと思い出した僕は「今日も?」と、小声で藤谷に聞いた。すると藤谷は「あ・・・うん。」と、同じく小声で答えた。
見ると藤谷は、少し頬を染めてる・・・。
だから僕は(昨日、僕が見たペディキュアを藤谷は落とさないで登校してるのか・・・)と、分かった。
そして僕は(そんなに恥ずかしいなら、無理をしなければ良いのに・・・。)と思った・・・。
そして・・・ドキドキした。
「今日は体育は無いけど、気を付けなよ。」と、小声で藤谷に言った。
藤谷は「あ・・・うん。」と、コクリと小さく頷くと「ありがと。」と、嬉しそうに小声で伝えてきた。
そして「今日も一緒に、お勉強をしようよ。」と言うと、僕の返事も聞かないで、でも二度振り返ってから、自分の机に戻って行った・・・。
僕は(もう、毎日お勉強会って決まってっるって思ってるなら、わざわざ言いに来なくても良さそうなのに。)と思い、藤谷の方を見ながら、少し呆れ気味に・・・でも、ちょっと嬉しく思いながら席に着いた。
そして僕は思った。
と言うか、実は昨夜の内に決めて居た。
それは。
(明日は土曜日で休みだから。藤谷に塗って欲しいペディキュアを、隣の街まで探しに行く。)って事だった・・・。
それも、藤谷に内緒にで・・・だった。
つづく
つづく!




