期待は未来に 【月夜譚No.241】
境内で子ども達が相撲を取って遊んでいる。それを横目で見遣りながら、巫女姿の女性は竹箒を手に掃除をしていた。
青葉輝く初夏の陽射し。熱を帯びた空気は早くも真夏の気配を纏い、少し動くともう汗が滴るような気温だ。
ここ数年は夏がせっかちで、春の心地良さを味わう暇もないくらいだ。四季があるのが日本の良さでもあるのに、春と秋の気配の薄さに落胆を覚えずにはいられない。
これは人間の業なのだろうか。文明と引き替えに失ったものもまた多いのだろう。
しかしながら、それはこれまで生きてきた大人達の行いの末である。無邪気に笑って遊ぶ子ども達は何もしていないし、もしかしたらここにいる誰かが将来的にこの問題を解決してくれるかもしれない。
女性がふふっと微笑むと、爽やかな風が通り過ぎた。
「あれ?」
「どうしたの?」
「今、あそこに誰かいなかった?」
小さな手が示す先を仲間が見るが、そこには何もなかった。
「気のせいじゃない?」
「……うん、そっか」
相撲に戻っていく子ども達を見下ろした女性は、宙を泳ぐように社へと帰っていった。