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イケメン令嬢は、かわいいものに囲まれたい!~リボンやフリルを愛でていたら、雑貨店の貴公子に溺愛されました~

作者: まるい妖精

おとぎ話みたいなお話が書いてみたくて、書きました!笑

よろしくお願いいたします。

ピンクのリボン、レースのオートクチュール、くりくりの目をしたテディベア......ぜんぶわたしの好きなもの。でも、ぜんぶ似合わないもの。



ベネッタ・オーギュス伯爵令嬢は、すらりとした長身、常に綺麗にきっちりと結い上げられたシルバーブロンド、クールで蠱惑的な目つきから、弱冠16歳にて、社交界で「美男子令嬢」と呼ばれていた。

夜会へ出れば令嬢たちがこぞって彼女にむらがってしまうので、それを僻んだ周りの男性陣がそう揶揄したからだ。


その名の通り、彼女は美しい容姿に加えて、非常に凛々しい性格をしていた。しかも運動神経も良かったので、乗馬に狩りにと昔から社交界で大活躍だったのである。

そして、パーティーに参加するときには男性用のスーツを着ていた。一度、知り合いの令嬢に頼まれて着たところ、あまりにも好評すぎて、脱ぐに脱げなくなったのだ。



どんな紳士も青ざめてしまうような貴公子っぷりに、淑女たちからの視線を独り占めしてきた。自身も淑女であるはずなのに…



―――――なので、今のように変装をして、街の雑貨店にいるたくさんの「かわいい」を、ショーウィンドウに張り付くようにして愛でる、こんな怪しい姿など、だれも知らないのである。



「ああ…なんてかわいいのかしら。なんて愛らしいのかしら。ふわふわのリボンに真っ白なレース…食べてしまいたいくらいだわ…」



ベネッタはぐへぐへと怪しく笑いながら、お気に入りの雑貨店のショーウィンドウを眺めていた。

お忍びとはいえ、「美男子令嬢」の肩書を意識する彼女は、今日も白のシャツに、淡いベージュのスラックスという「休日の貴公子」のような装いである。


ベネッタは、見た目に反し、可愛いらしくて女の子っぽいものが大好きであった。

しかし、気づいたときには男性並みの身長になっていたこともあり、リボンもレースもピンクも水色も似合わなくなってしまった。そのため、持て余した情熱を、街の雑貨店で消化する切ない日々だ。


白いもこもこのウサギのぬいぐるみに目を奪われていると、カラン、という音を立てて店の扉が開いた。

中から現れた男性は、ベネッタを見てにっこりと笑う。


「これはこれは、お嬢様、また来てくださったんですね。嬉しいです」


軽やかな声音で挨拶をした男性の名前はルーと呼ばれている。あだ名らしいのだが、本名は誰も知らないのだという。この雑貨店の店主である。

彼は金色の、美しくやわらかな髪を持つ長身の男性で(なんと、ベネッタよりも大きい)、いつも黒縁の眼鏡をかけている爽やかな男性である。レンズの奥に隠れていて色はわからないものの、美しいのはわかる瞳と全体から漂う気品で、街中の乙女たちのハートを奪っている罪な男だ。


「あ、あ、こんにちは、ルーさん。毎週のように来てしまってすみません…」


慌ててショーウィンドウから目を離しながら、ベネッタは照れた笑みをとともに挨拶を返した。

彼女が毎回ものすごい情熱とともに店に訪れるので、店主であるルーとも、すっかり顔見知りになっているのだ。


「本日はどのようなものをお探しで?」


問いかけたルーに、ベネッタはぱっと顔を輝かせて答えた。


「今日、新作が入ると仰っていたでしょう?だからどうしても見てみたくて…。それに、この間買わせていただいたぬいぐるみの首元に、リボンをつけてあげたいの。薄茶の毛皮のかわいいくまさんだから、明るい色の…例えば赤とかのリボンはあるかしら」


急に饒舌になった少女は、普段の雰囲気とは違い年相応の愛らしさである。

ルーは笑みを深めて、店の中へ彼女を導いた。


「新作を入荷日に見に来て下さるなんて、うれしいです。リボンももちろんご用意がありますよ。ぜひお入りください」

「ありがとうございます…」


いつもの癖で腰をかがめるようにしておずおずと入店したベネッタは、店内の「新作」と書かれた札付きの棚にならぶ商品をみて、再びきらきらと目を輝かせた。興奮のあまり頬も薄紅色に染まっている。


「か、かわいいわ…!」


そこにあったのは、レースやリボンで飾られた数々の髪留めである。

ベネッタはぷるぷると震えながらひとつひとつをじっくり眺める。


「なんて素敵なの…!これなんか、この透けるようピンクのベールと白レースで作られたリボンの組み合わせがとっても愛らしいわ。ああ!このバレッタはなんて上品なのかしら。赤というより深紅ね。ベルベットの生地がベージュのレースとぴったり…!」


なぜか、肝心の商品とは一定の距離を取りながら、早口でまくし立てるベネッタをみて、ルーは嬉しそうに近づいた。


「お気に召していただけたようで何よりです。試しにつけてみますか?」


え!と一瞬を顔を輝かせたベネッタだったが、すぐに思い直したように首を振った。


「いいえ、見るだけで大丈夫です…私、男性のように背が高いし、顔もこんなだから、こういうアクセサリーが本当に似合わなくて…ほら、髪も常に結い上げていますし…」


ごまかすように笑って俯いたベネッタの白い手を、ルーがそっと取った。


「いいえ、そんなことはありません。あなたのような女性にこそ、似合う品物を用意したつもりですよ」


優雅な仕草でそう告げると、そのまま鏡の前にベネッタを誘う。


「少しだけ触れさせていただいてもよろしいですか?」

「は、はい…どうぞ……」


ベネッタが頷くと、ルーは結い上げられていたシルバープラチナの髪の毛をほどき、ブラシで優しく梳かした。その後サイドを器用に編み上げてハーフアップにすると、そっとバレッタで留めた。

バレッタは彼女の瞳に似た薄紫の生地の上に、銀糸で刺繍のされた上品なものだった。絹のレースで縁取られていて、女性らしさもある。


「ほら、やっぱり似合うでしょう?」


そういって少年のように笑ったルーに、ベネッタはものの見事に恋に落ちてしまったのだった。



***



恋を自覚したからと言って、「美男子令嬢」であるベネッタの何かが大きく変わるわけではないので、その後も彼女は暇を見つけては足繁くルーの雑貨店に通った。


もちろん彼に会いたかったのもあるが、何よりもこの店の扱う品は、本当にすべて、ベネッタの好みど真ん中なのである。そう告げると、ルーが「好みが合いますね」と笑ったのでベネッタは真っ赤になった。


あのバレッタは、結局ルーが「いつもご贔屓にしていただいているので」とプレゼントしてくれた。

ベネッタは毎晩眠る前に眺めて、大切に宝石箱に入れてしまっている。

雑貨店に行くときに身に着けると、気づいたルーがほほ笑んでくれるのもうれしかった。



――――――すっかり浮かれていたベネッタだったが、ある日両親から告げられた話ではたと現実を思い出すことになった。


「……縁談、ですか…」


呆然とつぶやいたベネッタに、両親は嬉しそうに頷いた。


「そうだ、色々な事情があって今はお名前を教えられないが、素晴らしいお家柄の方から打診があってね」

「とっても良いお話なのよ。本来なら断るのもおこがましいような方だけど、あなたに配慮して、ぜひ一度お顔あわせをしたいって。ほら、来月に王宮で舞踏会があるでしょう?よければそこでぜひエスコートさせてほしいとのことよ!」


代わる代わる話す両親に圧倒されながら、ベネッタは混乱していた。

貴族令嬢として生まれ、育ててもらった以上、両親の望む相手と結婚することになるのだということは覚悟してきたつもりだ。だが、そう思うたびに、ルーの笑顔がちらつき、心が締め付けられた。


あれよあれよという間に、縁談相手との顔合わせの話は進んだ。

伯爵家夫妻は、自慢の娘に素晴らしい縁談が来てご満悦の様子である。ベネッタが拒むことなどできそうにない。



憂鬱な気持ちを抱えながら、自室に戻ったベネッタは、ふと思い立って、雑貨店に行くことにした。

かわいらしい商品たちに癒してほしかった。あわよくば、ルーの顔が見たい。


今日もいつものように白いシャツにスラックスといういで立ちだったので、そのまま馬に乗っていくことにした。やわらかい栗毛の愛馬にまたがり、駆け出す。


目的地にはすぐ着いた。ベネッタは少しだけ上がった息を整え、馬の手綱を街頭に括り付けると、扉を開けるべく店に近づく。すると、ショーウィンドウの向こう、店内にはルー以外にもう一人いることに気が付いた。


柔らかなピンク色の髪の毛をした少女である。年齢はベネッタと同じくらいだろうか。

彼女は白いもふもふのうさぎのぬいぐるみを抱きしめて、嬉しそうにルーを見上げていた。

身にまとっているドレスも髪の色に似た薄ピンクのかわいらしいもので、レースやリボンも、彼女にはよく似合う。


楽しそうに話す2人を見て、ベネッタは動きを止めた。なんてお似合いなんだろう。

美しい男女は並んでいるだけでも絵になるような気がする。


そして、ショーウィンドウに映る自分の姿にも、ふと目をとめた。


女性とは思えない長身に、男性のような服装。化粧だってろくにしていないし、馬に乗ってきたので結い上げた髪型も崩れていて、ボロボロの状態だ。



ベネッタは途端に恥ずかしくなって、そのまま回れ右をして馬に再びまたがった。


(……帰ろう…)


なんだかすごくみじめに思えて、ベネッタはそのまま家に帰った。



***



勝手になんとなく気まずくなって、ベネッタはそれから雑貨店に行けなくなってしまった。



(馬鹿ね…彼からしたら私はただのお客様なのに、勝手にのぼせ上って…こんな男みたいな女、好きになるはずないわ)



もらったバレッタを握りしめながら、ため息をつく日々を過ごしているうちに、あっという間に王宮の舞踏会の日になった。



(お父様たちの言い方からすると、家格が上の方のようだから…きっとこちらから断ることはできない縁談ね…)



憂鬱な気持ちを引きずったまま、ベネッタは身支度をしようとベッドから起き上がった。

母やメイドは「今日こそは!」とばかりにドレスを着せようとしたが、ベネッタは拒絶した。相手が自分の評判を知らないとは思えない。だとしたら、今更取り繕っても無意味だ。いつもの通り男装を選んだ。

心のどこかでは、これで縁談そのものがなくなればいいのに、と思っていたことも否定できない。


そんな心情を知ってか知らずか、両親は肩をすくめて見送ってくれた。

なぜかベネッタだけが早めに呼ばれていて、両親は後から来る予定になっている。


(今日で、私の恋も終わるのね…まあ、勝手に片思いしていただけだけど…)


お守り代わりに持ってきた例のバレッタを握りしめながら、ベネッタは馬車で王宮に向かった。




ついてすぐ、姿勢がいい無表情な執事がベネッタを出迎えた。


「ご案内いたします」

「は、はい…」


ベネッタの男装にも動揺した様子すら見せないので、とても優秀なのかもしれない。

執事はどんどん王宮の中に入って行ってしまうので、ベネッタは慌てた。


「あ、あの…こんな奥にまで入ってしまってよろしいのですか」

「もちろんです。ここはご主人さまに与えられた宮ですから」

「えっ」


ベネッタの焦りは加速した。この王宮が、ご主人様…すなわちベネッタの婚約者(仮)のもの?

これは大変なことになったぞ、と青ざめる。どおりで両親が何も教えてくれないわけである。


(どどどど、どうしよう…)


混乱するベネッタをよそに、執事はある一室の前で足をとめた。


「こちらのお部屋でお待ちください。ただいまお茶をお持ちいたしますので」

「は、はあ…」


あっという間に立ち去ってしまった執事を呆然と見送りながら、ベネッタは扉に向き合った。

とりあえず入ろう、と思い、ドアノブに手をかける。

ゆっくりと扉を開け、部屋の中を恐る恐るのぞき込み…固まった。


部屋の中には誰もいなかったが、代わりに一着の美しいドレスがトルソーにかけられ、置かれていたのである。



ベネッタの瞳の色に合わせた薄い紫色の生地がふんだんに使われた、マーメイドラインのドレスである。

よく見れば細々としたところに上品にレースが取り付けられ、裾には銀糸の刺繍がされているようだ。

首元にあしらわれているのは、まさかダイヤだろうか?

長身なベネッタに合わせたデザインなのに、女性らしさや可愛らしさを失わないような工夫が至る所にされている。



「な、な、なんて素敵なドレスなの…」

「それはよかった」



思わずつぶやいたベネッタの後ろから、優雅な声が聞こえる。

ベネッタは飛び上がって驚き、恐る恐る振り返ると……目を見開いた。


扉の近くには金色の、美しくやわらかな髪を持つ長身の男性が立っていたのだ。

エメラルド色の瞳を柔らかく細めて、慈しむようにベネッタを見つめている。



「…私はいつも、あなたにこそ似合う品物を、用意しているんですよ」



聞きなれた、愛しい、焦がれてやまない声がして、ベネッタは目を潤ませる。


「ルーさん…なんですか?」


震える声で問いかける彼女に、ルーはいたずらに成功した少年のような笑顔を見せた。ベネッタが大好きな笑顔だ。


「黙っていてすみません。私の本当の名前はルートヴィヒ、というんです」


金髪にエメラルドの瞳、そしてルートヴィヒという名前…そのすべてを持っている男性は、この国には一人しかいない。


「お、王太子殿下…!?」


ベネッタは飛び上がらんばかりに驚いた。その反応を見て、ルーことルートヴィヒ王子は苦笑する。


「あなたには、名前で呼んでもらいたいな」

「え…?」


呆然とするベネッタに近づくと、ルートヴィヒはいつかのように、彼女の白い手をとり、自身の胸の前まで持ち上げた。そして、彼女の薄紫の瞳をじっと見つめる。


「あなたには、私の妻になってほしいと思っているので」


再び目を見開いたベネッタは頬を桃色に染め上げた。だが、そのあとすぐ、不安げに俯く。


「そ、そんな…私みたいな…背が高くて男みたいな女なんて…殿下とはとても釣り合いません」


あの日ピンク色の髪の少女がちらついて、胸がずきりと痛んだ。

そんなベネッタの手をさらに自分のほうに引き寄せると、唇同士が触れ合いそうなくらい近い距離で、ルートヴィヒは口を開いた。


「あなたは男のようだというけれど……私の目には、いつも美しいひとりの女性にしか見えませんでした。背が高いことは決して短所ではありません。まっすぐ伸びた背筋も、その薄紫の瞳も、とても美しいものです。…それに、あなたの姿がどうであれ、あまり関係ないのです。私は、あの店で目をきらきらさせて、レースやリボンを見つめるあなたの笑顔を、愛おしいと思ったのですから」


美しい顔に見惚れて、言われた言葉が夢のようで…声が出ないベネッタに、ルートヴィヒは「それに、」と照れたように笑うと、


「身長だって、私のほうが高いですしね」


と付け加えた。


ベネッタは思わず笑ってしまった。その拍子に、溜めていた涙がとうとうこぼれ、頬を伝う。

ルートヴィヒは慈しむように、やさしくそっとその涙をぬぐうと、改めて問いかけた。


「ベネッタ嬢、私と結婚してくださいますか?」


ベネッタは花が咲いたような笑顔を浮かべて、大きく「はい」と頷いた。

ルートヴィヒが嬉しそうに顔を近づけてきたので、そっと目を瞑る。

触れ合った唇が温かくて、愛おしくて、また涙がこぼれた。



***


その後、ベネッタは用意されていたドレスに着替えた。どこからともなく現れた王宮のメイドたちの手によってあっという間に化粧を施される。髪型は、あの日ルートヴィヒにしてもらったようにハーフアップにしてもらい、握りしめていたバレッタをつけてもらった。


準備を終えたベネッタを見たルートヴィヒは、バレッタに気づくととてもうれしそうに笑った。



「実はそのバレッタは、元々あなたにプレゼントしたくて、私がデザインしたんです」

「ええ!そうなのですか」

「もちろん、ドレスも私がデザインしました。あの店には私がデザインしたものと、そうでないものがあるのですが、あなたが買っていくものはいつも、私がデザインしたものでした。それもとても嬉しくて…いつか言いましたよね、私たちは好みが合うって」



幸せそうに見つめあう2人が会場に入ると、パーティーの参加者たちは色めき立った。



そこには「美男子令嬢」はおらず、婚約者に見つめられて嬉しそうにほほ笑む、1人の美しい令嬢がいたからだ。


短編を初めて書いたのですが難しいですね…


雑貨店はルートヴィヒが趣味と実益を兼ねてこっそり営業しています。

ルートヴィヒはベネッタを好きになってからは、もはやベネッタのためにしかデザインをしていないという設定もあったりなかったり…

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