第四十四話 サムライという生き方の男、いとこのまし・その四
本日更新四話目です。
ゲンブ様は月明かりに照らされながら、油断なく刀を上段に構えこちらを見つめていらっしゃいます。
「本気のようですね……」
「ええ」
私は鉄扇と、ナイフを握り、対峙します。
ゲンブ様は刀の達人。
一撃目をかわしても、流れるような二撃目が待っている。
ゆらりとゲンブ様の身体が揺らめいて見えたその瞬間、一気に距離を詰め、刀を振り下ろす。
速い!
私はギリギリでそれをかわすと、鉄扇で受け止めたものの、重い一撃に思わず体勢が崩れそうになり、慌てて逃げる。
ゲンブ様は、そのまま体勢を変え、追撃の刃を。
私は必死でそれをかわし、今度はゲンブ様に向かってナイフを投げ放つと同時に後ろへと飛び退く。
お互い、距離を取ったまま睨み合う。
ゲンブ様は強い……。
術なしであれば、私よりずっと……!
ですが、引くわけにはいきません。
そう思い、再び仕掛けようと足を踏み出すと、ヒュンという風切り音と共に、刀が迫ります。
私は慌てて鉄扇で防いだものの、やはり勢いを殺しきれず後ろに吹き飛ばされてしまいます。
なんとか着地すると、ゲンブ様が目の前に!
鉄扇を顔の前で開きナイフで支え、防御の姿勢を。
カンッ!
金属音が響き渡り空気を震わせる。
そして、目の前にはゲンブ様が、本気の目、その目で私を見つめていらっしゃいます。
黒く美しいその瞳。
本当に口下手なお人です。
行かないで欲しいとでも仰っているのでしょうか。
それとも、無事を祈って……。
ただ、分かるのは、私の身を案じて下さっているという事。
本当に刀の方が雄弁なお人。不器用な人。
こんなにも心配してくれる方がいらっしゃるなんて。
嬉しいものです。
だからこそ、この人の為に戦いたい。
私は鉄扇を開き、ゲンブ様の攻撃を受け止めました。
そして、ゲンブ様が放った渾身の一撃を受け止め、大きく飛び退きます。
「ヴィオラ殿……!」
ゲンブ様がごちゃまぜの感情そのままに声をあげます。
「ゲンブ様……ありがとうございます。貴方のお気持ち、嬉しく思っております。ですが……」
私は言葉を切り、ゲンブ様に微笑む。
「ご安心下さい。必ず戻って参ります。」
私は、お返事とばかりに、魔力を高め、風を巻き起こし、ドウラン先生直伝の気配を消す歩行術で近づき、紫黒ノ扇での一撃を狙います。
ですが、私の一撃はいともたやすく受け止められ、
「ゲンブ様には、視えるのですね」
「ええ……。貴女がどこにいても見つけてみせましょう」
そう仰るゲンブ様の黒い瞳に映る私はふっと消え……気付けば、抱きしめられていました。
「どうか……どうか、ご無事で……!」
私は、残念ながら、戦闘経験は豊富ですが、こういった、その、経験が不足しておりまして、どうしてものか……硬い手の平や腕、胸板に意識が奪われ、ゲンブ様の汗の匂いにくらくらしてしまいます。
「あ、あにょ……!」
噛みました。
「あにょ?」
聞かれていました。
ゲンブ様が聞き返すように、離れ、こちらをご覧になられます。
そして、目が合うと、互いに笑いあい、
「ヴィオラ殿、これを……」
ゲンブ様から、ワキザシ? と言ったでしょうか。短い方のカタナを受け取ります。
「よろしければ、これを私の代わりに連れて行っていただけないでしょうか? 貴女と共に戦わせてはいただけないでしょうか」
ゲンブ様が真っ赤になって必死に言葉を紡いでくださいます。
私は、
「では、使い慣れたら、実戦でも使わせていただきます」
ゲンブ様は一瞬きょとんと可愛い顔をされて、笑い、
「それでこそ、貴女です。貴女の帰る場所は、私が守ります。だから、必ず」
「ええ、必ず帰ってまいります。……そうですわ、では、こちらのナイフをゲンブ様に」
私は、投擲用ナイフを一本お渡しします。
「では、行ってまいります」
「ええ、行ってらっしゃい」
「ですが、もう少しお付き合いいただけますか? 私、このままでは眠れそうにありませんもの」
「ええ、喜んで」
そして、結局朝日が昇るまで、私達は刃を交え、私たちなりの語らいを楽しんだのでした。
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