第四十三話 サムライという生き方の男、いとこのまし・その三
本日、三回目の更新です。
「す、すみませんでしたー! ゲンブ様がツルバミの若君とは知らずに無礼を」
「い、いえ、リグ殿、顔を、顔を上げてください」
リグさんのドゲザ。
まあ、それは、そうですわね。
ここで、ツルバミ家の名を知らぬ者はいないでしょう。
ゲンブ様は戸惑いながらも、なんとかリグさんを宥めようとしていますが、なかなか上手くいきません。やはり口はあまりお上手でない様子。
さて……どうしたものでしょうか。
「ほら、リグさん。頭を上げましょう。ゲンブ様だって困っているじゃないですか」
私は、リグさんの後ろに立ち、彼の頭を無理やり持ち上げます。
リグさんはまだ不安げですが、渋々といった感じで立ち上がります。
「ゲンブ様、申し訳ありません。本当に」
「いや、いいんです。気にしないでください。それに、その、まあ、ヴィオラ殿を大切に思っているのは、まあ、その通りなので」
照れながらそう言うゲンブ様に、リグさんは噴き出して笑いをこらえてらっしゃいます。
まったく……失礼ですね。
しかし、この方なら背中を任せられそうです。
そう思ってリグさんを見ていると、 私の方をちらと見まて、小さくウインクをします。
……なんですか、そのウインクは。
「こほん。それでは、改めまして、リグさん、そして、キリさん、ラナさん。ヴィオラと申します。これからよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、ツルバミの国からの依頼、一生懸命やらせてもらおう」
リグさんは、先ほどまでのふざけた態度とは違い、しっかりとした口調で言いました。
「それで、ヴィオラさん。このパーティーは、俺達とあんただけか?」
「いえ、私の……使い魔というべきでしょうか、ヨーリと言うかわいらしい狸とクロという従者が」
「あと、ヤスケというシノビがついていく予定だ。ヤスケは罠の解除なども出来る、異国で言うシーフに近い者だと考えてもらえたら」
ゲンブ様の説明に、リグさんがふむと顎に手を当てます。
「前衛が薄い気がする。とはいえ、早めにパーティーに慣れておきたいしな。前衛探しと、訓練を並行していかねえと」
「でしたら! ヴィオラさん達が出られる前に、いっぱい依頼をこなしてくださいませんか? リグさん達が居なくなる事もありますし」
リグさんの呟きに反応したのは、イリアさん。
確かに、それは良いかもしれません。
互いの実力を知りコンビネーションを高めていく経験を積むにはちょうど良い機会でしょうし、冒険者ギルドの負担を減らすことが出来る。
私がそう考えていると、リグさんも同意するようにうなずかれました。
ゲンブ様は、少し考えているご様子で、
「であれば、私も前衛が決まるまでは同行させていただけないだろうか? 今の身体に慣れておきたいというのもあり……」
そう仰いました。
ゲンブ様の身体にある呪紋。
以前、これを、呪いを焼き尽くすことの出来るシュカ様の〈白炎〉で消す事が出来ないか試してみたのでした。
すると、焼き尽くすことは出来なかったのですが、一部の紋が消え、吸われる魔力の量が減ったのです。
吸われる魔力がかなりのものだったようで、一部でも解放されたゲンブ様は、吸われなくなった上に、吸われていた分の魔力を使えるようになり、見違えるほどに戦えるようになったのです。
ですが、呪紋の状態に慣れ過ぎて、調整がうまくきかず、壁に大きな傷をつけ、家臣の方におこられていらっしゃいました。
そんな事はしらないリグさんがまたいやらしい笑顔を浮かべ、ゲンブ様に近づき、
「そうですよね、少しでも一緒に居たいですよねえ、わかります!」
「ちがっ! リ、リグ殿はなぜ、毎度そういう風に考えるのだ!」
ゲンブ様のお顔を真っ赤にさせて楽しんでいました。
ゲンブ様は、本当に王族らしからぬお方ですね。そして、リグさん、ずっとウインクを私にしてこないでください。
「まあ、リグさん、お元気ですね。では、早速参りましょうか? ああ、そうそう。私、グロンブーツ王国の兵からは鬼と恐れられていましたので、覚悟していてくださいね」
「はっはっは! 確かに、真っ赤な顔で赤鬼みたいって……! ちょ、ちょっと、ヴィオラ、さん……?」
その日から、楽しい楽しい依頼攻略が始まりました。
ある時は、鉄鼠退治。
「さあさあ、リグさん、ヤスケさん。位置取りを気にしながら正確に素早く仕留めていかないと、すぐに数でやられてしまいますよ☆」
「うおおおおおおおお! 剣じゃ、手が回らねえぇええええええ!」
「くそう! リグ殿! 負けるな限界を超えるのだ! 拙者とお主ならば乗り越えられる! っていうか、鉄鼠硬いな!」
ある時は、鬼火狩り。
「キリさん、正確な補助魔法を! ラナさん、敵は脆いのですから、一射で二匹は仕留めるつもりで足を動かし射線を作りなさい!」
「うおおおおおおおお! キリ! 回復を! ヤスケに! 早く!」
「ぬああああああああ! い、いや! 先に、リグ殿の〈防御上昇〉を! リグ殿! 拙者を信じろ! 拙者はお主を信じる!」
ある時は、ソーマ銀山ダンジョン攻略。
「ゲンブ様、お待ちください! 二人ならばきっとあの銀巨人を倒せることでしょう!」
「はっはっは! その通りだぜ! 隊長! なあ、ヤスケ!」
「ああ、リグ殿! 拙者ら二人ならどんな敵だって倒せる!」
「「うおぉおおおおおおおお!」」
そして、あっという間に三週間が過ぎ、
「結局、前衛は見つからず仕舞いですね……」
「リグとヤスケのあの様を見れば、逃げ出すと思う……」
キリさんが何か仰っていますが、よく分かりませんでした。
強くなるには必要でしたから。
「あの……やはり、私が……!」
「なりません。ゲンブ様は、国を纏めるお人。お気持ちはありがたいですが……」
ゲンブ様が悲しそうな目をしてらっしゃいますが、こればかりは譲れません。
グロンブーツ王国の馬鹿王子と違い、頭は賢く、心は清い、お人。
この数週間で、十二分に知ってしまいました。
そんな方を危険にさらすわけにはいきません。
「致し方ありません。もしもを想定して、ゲンブ様抜きの、前衛一枚落としの陣形もやってきました。この面子で向かいましょう」
そして、いよいよ旅立ちの日が二日後に迫った夜。
「ゲンブ様……どういうおつもりでしょうか?」
私の目の前には刀を構えたゲンブ様が。
「ヴィオラ殿、私と戦って頂きたい……!」
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