第四十二話 サムライという生き方の男、いとこのまし・その二
十月中に第一部を完結させたいため、本日五話更新予定です。
お昼に一話更新しています。
「まあ!? ヴィオラ様、ようこそお越しくださいました! 先日のツルバミ百本鳥居ダンジョンのご報告はとても丁寧でギルド職員、皆、絶賛しておりました!」
冒険者ギルドに辿り着くと、イリアさんが受付で嬉しそうに話しかけてくださいました。
「ありがとう、イリアさん。それで、早速なんだけど」
「はい、なんでしょうか?」
「一か月後、ツルバミから離れようと思うのだけど、有望な冒険者を連れて行きたいの」
「え、ええー?!」
突然の大声に、周りにいた方々が何事かと振り向きます。
それに気付いたのか、ハッとした様子のイリアは慌てて口元を押えます。
そんな慌てる様子が可愛らしくてつい笑ってしまいます。
すると、イリアは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯きます。
「いきなり大声出してすみません。でも、ツルバミを離れるなんて……一体どうしたんですか?」
「実は……」
私が説明を始めると、イリアは目を丸くして驚きます。
「な、なるほど……ツルバミの若様の命で……っていうか、その後ろにいるのって……」
「ええ、その若様、ゲンブ様です」
私の後ろにいるゲンブ様に目を向けると、ゲンブ様は先に深々と頭を下げられました。
相変わらず、とても美しい所作です。
そんな彼に、イリアさんは引きつった笑顔を見せます。
それはそうでしょう。
目の前に、ツルバミの王族の方がいらっしゃるのですから。
前回、イガロの悪行を明らかにするために飛び込んできた時は、それどころじゃなかったでしょうし。
「まあ、というわけで、これはツルバミ王家の依頼となります。どなたかご紹介いただけませんか?」
「ううん、そうですねえ……」
イリアさんは困ったように腕を組みます。
そして、うんうん唸っていると、突然思いついたのか、手を叩き、
「……あ、そうだ。あのパーティーなら、あ、ちょうどよく紹介したい人がパーティーの方たちがいらっしゃいますよ」
「あら、そうなのですか」
「はい。あの人ならヴィオラ様の力になってくれるかもしれません!」
イリアさんはそう言うと、酒場の方へと駆けて行きます。
そして、戻ってきた時、連れてきたのは、
「あら」
「またお会いしたね、逞しいお姉さん」
イガロを追い詰めた時に出会った赤髪の男性でした。
「確か……リグさん」
「覚えていてくれたか、嬉しいね」
男性は嬉しそうに笑い、大げさに身体全体で喜びを表現していました。
そして、後ろには女性が二人。黒髪を纏めた女性と、短めの赤髪の弓手らしい女性。
「この人たちは、私も太鼓判を押せる腕利き冒険者パーティー【白の狼】です」
「後ろの二人は、回復術師のキリと、弓手のラナだ」
「よろしくお願いします」
「よろしくぅ~」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
リグさんの紹介に合わせて、頭を下げる二人。
それに返すようにこちらも頭を下げます。
「それで、ヴィオラさんだっけか? 今回はどのようなご用件で?」
「実は……」
私はリグさんに、サクラの国への旅の依頼を話しました。
黒桜の事は伏せていますが、それ以外については全て正直に伝えました。
彼らはそれを真剣な顔つきで聞いてくれました。
そして、話し終えると、リーダーであるリグさんが口を開きました。
「ふうむ、結構な大仕事みたいだな。ただ、その分、報酬はとんでもねえな。……分かった。俺達に任せてくれないか?」
「本当ですか!?」
「ああ、任せて欲しい。必ずヴィオラさんの期待に応えよう」
リグさんの言葉に、イリアさんが嬉しそうに飛び跳ねました。
そして、そんな彼女を横目に、リグさんはこちらを見つめ、挑発的な口調で言い放ちました。
「……だが、そっちのお兄さんはちょっと納得いっていないみたいだが」
リグさんの視線は、私を飛びこえ、ゲンブ様に。
「納得いってないわけではないが、これは重要な依頼なのだ。ヴィオラ殿の命さえ危うい。お主らに任せてよいか不安なのだ」
「は! それを納得いってないって言うんだよ。じゃあ、何か腕前見せりゃあ納得してくれるのか?」
リグさんが剣に手をかけ、ゲンブ様へと向けます。
それに驚いたのか、イリアさんは声を上げようとします。
しかし、それを制したのは、 意外にもゲンブ様でした。
ゲンブ様は静かに、リグさんへと言い放ちます。
「そうだな。是非」
その言葉には、有無を言わさぬ迫力があり、止めに入ろうとしていたイリアさんは気圧され、一歩後ずさるくらいです。
そして、ゲンブ様は刀を抜き放ち、構えます。
「さあ……来い!」
「ああ……!」
リグさんは笑いながら、腰の剣を引き抜き、一気に間合いを詰め、斬りかかります。
しかしその斬撃を、ゲンブ様は軽くいなしてしまいました。
さらに、そこから流れるような動きで、反撃に転じます。
それは、見事なまでに洗練された剣術でした。
「ヴィ、ヴィオラ様! 止めなくて良いのですか!?」
「大丈夫です。二人とも、本気は出していません。いわば、剣で語り合っているようなものです」
眼は真剣。ですが、殺意に満ちたものではなく、互いに確かめ合うような剣筋。
ゲンブ様の繰り出す鋭い一撃を、リグさんは全てしっかりと受け止めていきます。
そして、ゲンブ様最後に放った突きをリグさんが弾きあげ、勝負が決まりました。
ゲンブ様の喉元には、リグさんの剣の切先が当てられていました。
「これで満足か?」
「ええ……宜しくお願い致します」
ゲンブ様は、そう言って微笑んでいらっしゃいました。
「では……お願いできますか?」
私がそう聞くと、リグさんは大きく首肯し、
「ああ、カタナから伝わってきたぜ。これだけヴィオラさんを熱烈に心配する色男がいるんだ。必ず、依頼は果たして見せる。いやあ、愛されてるなあ、ヴィオラさん!」
リグさんが大声でそう叫ぶと、皆の視線が一斉にこちらに向きました。
「ちょっ……」
慌てて否定しようとしましたが、それよりも早く、
「全くだよぉ。ここまで思われているとは、羨ましいぃ~」
「ええ。お似合いのお二人です」
リグさんのお仲間の言葉に、ゲンブ様が顔を真っ赤にされ、俯いてしまいます。
それを見て、リグさんはにやりと笑いながら、ゲンブ様と肩を組み、
「なんだよなんだよ! あれだけカタナは『ヴィオラさんをちゃんと守れるんだろうな、守れないと斬るぞ』ってお喋りだったのに、口はうまくねえのか? おサムライってのは、口下手が多いなあ!」
などと、大声で騒ぎ立てておりました。
それを聞いて、ますますゲンブ様の顔が赤くなっていきます。
私も、頬が紅潮している気がして、思わず両手で押さえつけます。
そんな私たちの様子をみて、リグさんたちは笑っていますが……。
ああもう、熱い!
今に見てなさい、ゲンブ様がツルバミの若君と知って、困らせて差し上げますからね!
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