第四十一話 サムライという生き方の男、いとこのまし
「……ということがありまして、黒桜とキュウビ様が繋がり、サクラの国へ向かいたいと思います」
ツルバミの屋敷で、私達ツルバミ百本鳥居ダンジョン攻略組と、ゲンブ様、ドウラン先生、ヤスケさん、そして、家臣の方々が居る中で、私の説明が終わると、ドウラン先生が頭を掻きながら溜息を吐かれます。
「ああ~、証拠が揃って喜ぶべきか、揃ってしまってそんな理由が出来てもう後に引けなくなったことを嘆くべきか、はああああ」
「いずれにせよ、ジパングの事を思えば行かねばならないでしょう」
ドウラン先生を嗜めるようにゲンブ様が仰います。
「ええ、なので、サクラの国へ向かおうと思います」
「ヴィオラ殿、期限は九か月がギリギリと仰っていましたが、どのくらいで此処を経つおつもりですか?」
「一か月以内には」
「「「「えぇええええええ!?」」」」
皆さんが一斉に驚かれました。あら。
「ヴィ、ヴィオラ様! ヴィオラ様が、しっかりとした準備が必要と仰ったのでは!?」
大人しいさや様が珍しく大声で私に迫っていらっしゃいます。
「落ち着いてください。さや様。キュウビ様をお救いする為には、出来るだけの準備を整える必要があるでしょう。ですが、あまりにも」
「情報が少なすぎるよなあ」
流石、ドウラン先生。
「ええ。何がどれだけ必要で、どう立ち回るべきか、ほとんど情報がないのです。ゲンブ様達がサクラの国の黒桜の情報を持っていないとなると、国ぐるみの秘匿、もしくは、国さえも騙す集団の存在が考えられます。なので、なので、まず一度、情報を集めに行く必要があるのです。出来るだけ早く」
「で、ですが、何もヴィオラ様が行く必要が……」
さや様は心配そうに私を見つめられるので、少し髪を梳くように撫でて差し上げます。
「私が、都合が良いのです。異国の者は今、冒険者や商人として大手を振って渡り歩ける状況。そして、戦闘力、判断力、探索能力、そういった面でも、失礼ながら、私が行けば確率は上がるでしょう」
「……は、はい……でもぉ」
髪を梳いて頬を赤らめ大人しくはなって下さいましたが、それでも少し納得できないご様子。困りましたね。
「さや。ヴィオラ殿は、我々、そして、ジパングの為に、動いてくださっているのだ。困らせるでない」
ゲンブ様はそう仰ると、優しく微笑まれます。
「で、でもぉ、さやは寂しゅうございます。お兄様はそうではないのですか?」
「さ!? 寂しい、のは、寂しい、だが……!」
顔を真っ赤にして俯かれるゲンブ様に、私まで顔が熱くなってしまいます。
そして、私の横では、ドウラン先生が苦笑いを浮かべられています。
「こほん!……とにかく、私は一か月後にツルバミの都を出て、サクラの国、千本鳥居の情を集めに向かいます。皆様には、申し訳ありませんが、そのつもりで準備を進めていただくようお願い致します」
「はい……」
さや様が寂しそうな顔をして俯いてらっしゃいます。
準備の間は出来るだけ一緒に行動するようにしましょうか。
「ところで、ヴィオラ殿」
「はい?」
ゲンブ様の声に、そちらを向くと真剣な顔でこちらをご覧になっています。
「まさかとは思いますが、一人で、いえ、ヨーリだけを連れて行くというわけではありませんよね? 私達が同行できれば良いのですが、アリマ殿は、ツルバミの防衛、私やさやは立場上動くことは叶いません。鬼人達も、目立つので難しいでしょう」
「え、ええ、勿論そのつもりです。一応、人の目星はつけておりますし、冒険者ギルドにも相談しようとは思っています。ですが、サクラの国へ行くためにはどうすれば良いのか。まだ、分かっておりませんので」
「地図を持て」
「は!」
ゲンブ様が家臣の方が持ってこられた地図を広げられます。
ジパング西方にあるサクラの国とツルバミの国は隣同士。
ですが、都同士はかなり離れているようです。
「サクラの国の千本鳥居は都から少し北に離れた所に此処に。そこまでで何事もなければ、馬さえあれば半月程度かと思われます。サクラの都に此処から向かうには、大きく分けて三つの道が、北の海沿いを進む『西陰道』」
ゲンブ様は、北の海沿いをなぞりながら説明してくださいます。
「ここは、比較的安全で、また、目につきにくい道と言えます。ただし、【砂の迷宮】と呼ばれるダンジョンがあり、そこには、砂鯰と呼ばれる砂の中から強襲する魔物が生息しこの辺りでは最も難しいダンジョンと言われております。また、サクラの国に入ると、海沿いは天の橋と呼ばれるダンジョンを棲家にした鳥人が領域としている為、場合によっては戦闘となる可能性があります」
なるほど、有翼人は亜人の中でも友好的ですが、多少只人を下に見る傾向もありますし、遊びで足止めされる可能性もあります。砂漠のモンスターも対応が難しそうですね。
「次に、南の最も大きな道を進む『西陽道』。こちらは、道の整備が最も進んでいる為、移動に不便はないでしょう。ですが、宿場が多く、人の目が多ければ、怪しまれることがあるやもしれません。また、あの辺りには、鬼ノ城、そして、白ノ城と二つの城を魔物が押さえている為、戦いに巻き込まれる可能性が」
戦いになれば、力を見せることになる。
そうなると、サクラの国に情報を与えてしまう可能性もありますね。
宿場町であれば、諜報の人間も多数おいているでしょうし。
「最後に、その間、山を突っ切る『西半道』です。道のりは険しい上に、一年中雪に覆われた氷ノ山、さらに、獣人が占拠している天空城があり、厳しい旅となるでしょう」
「天空城? まさか、空に浮かぶ城ですか?」
グロンブーツ王国で伝説として聞いたことはありますが、実在していたとは。
「あ、いえ。山に建てられたものでして、雲海と呼ばれる雲の海が城を覆うので、まるで天に浮かぶ城のように見えるという話で……ですが、それだけ高さのある城なのです。奴らは息苦しくなるほどの高さに慣れ、只人は取り返すことが難しくなっている為、周辺も獣人が増え続けているのです」
三つの道。どの道も簡単に通ることの出来る道ではなさそうです。
と、その時、ドウラン先生が手を挙げられます。
「あー、嬢ちゃん。俺からは西半道を薦める」
「理由をお伺いしても?」
「西半道は、神域も多く残っている。お嬢ちゃんが、キュウビ様から頂いた赤鳥居にお入り頂ける神がもしかしたら見つかるかもしれん。あとは……単純に俺の占いではその道が最善と出た」
「では、西半道を参りましょう」
「「「「はや!」」」」
皆さんがまた一斉に驚かれます。
「いや、薦めたのは俺だが、あまりにもあっさりじゃねえか!?」
「獣人は、分かりやすい戦闘民族なので、認めて下さる可能性があります。有翼人……鳥人は気難しい印象ですし、只人も面倒ですから。それに、ドウラン先生の占いを私信じておりますもの」
ドウラン先生は口を少し開いて驚いていらっしゃいましたが、最後には笑い始め、
「あー、そうかい。ったく、お嬢ちゃんは人を動かすのが本当に上手い。この一か月で五行陰陽術に関して詰め込めるだけ詰め込んでやる。ちゃんと最善の道だったと言ってもらえるようにな」
「わ、私もヴィオラ様の為に祈りを込めた衣を作ろうと思います! 何があっても大丈夫なように!」
さや様は両手を握りしめそう仰います。
「我が主は、このクロが守って見せる」
「ぽぽーん!」
クロとヨーリが私を安心させるよう声を掛けてくれます。
「ならば、ワタシらは、ツルバミの地を守ろう。なあ、ゴウラ」
「ああ! リンカ! ヴィオラ、安心して行ってこい!」
鬼人の皆さんと力を合わせれば、きっと大丈夫でしょう。
「ヴィオラ殿、貴女の無事を祈っております。そして、ツルバミは、私は、恩人である貴女を全力で支援致します」
ゲンブ様は優しく微笑みながら、こちらを見つめていらっしゃいます。
その優しい笑顔が私の魂を包み守ってくれているのを感じ、思わず頬が緩んでしまいます。
生きて帰る。
その為に進む、氷ノ山、そして、天空城を行く【西半道】。
その道を乗り越えるための準備の一か月が始まりました。
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