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第三十二話 ジンジャという場所に生まれたダンジョン、いとさうざうし・その二

歩く松(ピヌストレント)

歩く樹(トレント)種のジパング特有のモンスター。枝のような触手からは針の葉が生えているようです。ゆっくりと近づく三つの巨体。見た目は正直気持ち悪く恐ろしいですが、動きが遅いのが救いでしょうか。


「リンカさん、ゴウラさん! あの葉は毒があるらしいので、お気をつけて!」


さや様の声にリンカさんは刀を抜き、ゴウラさんはカナボウを、それぞれ構えます。

さや様は弓を構え、矢を放つ準備を整えています。


「作戦通り、リンカさんとゴウラさんは攪乱を! ゴフは張ってありますが、決して油断せぬよう、大切なのは継続戦闘能力ですよ!」


 その言葉に頷きながら、ゴウラさんもカナボウを振り回しながら、接近戦を仕掛けていきます。


「ッラァアアアア!」


 ゴウラさんはカナボウで右側の歩く松に一撃を当てると、円の動きで歩く松と距離を取りながら横に回っていきます。

 歩く松には、目と同じ機能を持つものが中心部にあり、赤い宝玉のようなものが貼り付いています。カナボウの一撃に巨体を揺らしながらもその赤い目でゴウラさんを捉えようとぐるりと回りながら、触手を振るい、葉を飛ばしてきました。


 無数の針の葉がとんできますが、所詮は苦し紛れの一撃。

 ゴウラさんはなんなく躱し、今度は再び懐に潜るように見せかけて、回り込み中央の歩く松に一撃、そして、また離れます。

 ゴウラさんは身体も大きいし、普段がちょっと抜けている雰囲気なのですが、直感型というか、自分の集中すべき時をよく理解しているようで、無理はせず、歩く松の意識を集めているようです。


「はっはっは! こっちだノロマ!」


 一方、左側から回り込んだ、リンカさんは自身の早さを活かし、触手を少しずつ削り取っていき、相手の手数を減らしていきます。

 派手で目立つ動きではありますが、まだ経験が浅い故の無駄でしょうし、現状問題は感じられないので、静観しておきましょう。


「ヴィオラ様!」


 さや様の方を見ると、準備が整ったようで、魔力の充実を感じます。

 私は頷き、さや様のつがえた三本の矢にそれぞれ【火】のオフダを巻きます。

 そして、魔力を込めると、ナイフを抜き、


「皆さま、今です! 畳みかけますよ!」


 号令を出すと、ゴウラさん、リンカさんが飛び退いて距離をとり、私の突進に合わせて地面を蹴ります。

 そして、円の動きをし相手に的を絞らせないようにしながら、徐々に円を小さくしていきます。

 歩く松の針は闇雲に放たれますが、それでも偶然はあります。


「ヴィオラ様!」


私目掛けて針が飛んできます。ですが、所詮は心のこもっていない一撃。

それをナイフで弾いた時、歩く松の動きが一瞬鈍くなったのを感じ、私はナイフを構え直し、リンカさんと目を合わせると同時に駆け出します。


「はああ!」


 私達が、歩く松の赤い目を狙って切りつけ、直ぐ離れるとゴウラさんが全力でカナボウを叩き込み、一番近くにいた歩く松を吹き飛ばし、他の歩く松にぶつけます。


「今です!」

「……当たって! 〈必中〉!」


 私が言った瞬間、さや様が放った三本の矢は、白い炎を纏いながら、それそれの中心部へと吸い込まれるように刺さり、


「ンギャアアアアアアアアア……!」


 歩く松の幹が中から白く輝き、のたうちまわり、そして、動かなくなってしまいました。


「やり、ましたかね……?」

「ええ、お見事です。さや様」


私が声を掛けると、さや様はほっとされた顔でその場に座り込んでしまいます。


「よかった……わたし、まだ、自信がなくて……」


 さや様は、本格的な戦闘は初めてでとても緊張されていた様です。

 ですが、


「〈必中〉の名の通り、魔物の核を見つけ、追う矢。見事なものでしたよ」


 弓のスキル〈必中〉、しかも、三本同時に放てる弓手(アーチャー)はグロンブーツ王国でもいなかったかもしれません。繊細で魔力の流れを見る癖のついているジパングならではの技術と言える気がします。


「ふん、まあ、素晴らしい技だった。鬼人には強い矢を放つものはいても、そういった細かい事が出来るのはいない」


 リンカさんが少し恥ずかしそうにさや様を褒め称えます。あら、本当に仲が良いですね。

 ゴウラさんもニコニコしながらリンカさんを見ています。


「うん、いい矢だった」

「いえ、その、ヴィオラ様の術があってこその連携でしたし、うまくいって良かったです」


 【火】の術で矢に巻いたのはシュカ様らしき人物から与えられた白炎の力でした。

 この力は、【金】を高めることで、炎を出すのではなく、熱のみを高めることが出来るらしく、核に直接熱を与えると死んでしまうのかと言う実験だったのですが、どうやらうまくいったようです。それに、連携も早い段階で試すことが出来てよかった。


「ええ、良い連携でしたね。大切なのは生きて帰ることです。そして、被害を少なくする事。前衛が攪乱と削り、出来るだけ遠距離での必殺。この形でいきましょう」


 みんなが笑顔で頷いてくださいます。懐かしいですね、グロンブーツ王国でもヴィランとして仮面の冒険者をやっている時が一番正直に生きられていた気がします。

 仮面を付けずに、皆と話し合い、高めあっていく。それがとても嬉しくて……。


「ぽーん!」

「ああ、ヨーリもごめんなさいね。お仕事をしてくれていたのに」


 ヨーリの背後から先ほどのより大きめの歩く松が現れます。移動速度も先程よりも早いようです。後ろの警戒をしていてくれたヨーリの御手柄です。


「無粋ですね。皆で勝利の味を楽しんでいたのに」


 私は、【火】のオフダに白い魔力を纏わせ、近寄ってくる歩く松に飛ばし貼り付けます。


「ッギャアアアアア!」


 すると、歩く松は悲鳴を上げながら動かなくなりました。


「さて、皆さん。その他の陣形も試していきましょうね」

「は、はい……ゴウラは頑張るぞ」

「なあ、さや。アイツ一人で十分なんじゃないか?」

「いけません……! リンカさん、そんな事を言っては……これから、私達のこれからに期待してくださっているのですから!」


 皆さん、何か仰っているようですが、皮をはぐバリベリという音で聞こえないのでちょっと後でお伺いしましょう。

 歩く松の討伐部位と核等を回収しながら、次の作戦は何を試そうか考え、私はわくわくしておりました。

お読みくださりありがとうございます。

また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。


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