第二十七話 カナボウという敵をぶっ潰す武器、いとおもし・その二
ヨーリに向かって【金】の術を放つ黒衣の陰陽師。
あの人が今回の黒幕で間違いないでしょう。私は、ドウラン先生と目が合い頷きあいます。
少し手前で白馬の術を解き、我々は様子を窺いながら近づいていきました。
そして、しっかり姿を捉えられるところまでやってきて確信します。あの人は間違いなく、
「只人族、か……!」
リンカさんが呻くように呟きます。複雑な心境でしょう。
そう、あの人は只人族。我々と同じ。
里を襲わせたのも只人族、救ったのも只人族。
「魔物達だけによる大襲撃ではなかったのだな。だが、何故……?」
「恐らく、私達ツルバミの人間の仕業に見せて、鬼人達と争うように仕向けたかったのではないかと」
「小賢しい真似を……」
確かに小狡い手口と言えます。
そもそも、鬼人の里にはなんの罪もありません。彼らは彼らなりに自分たちの生活を守ってきただけですから。そんな鬼人をけしかけ、ツルバミに逆恨みさせ、罪を犯させる。
許さざる行為です。
いや、その上、もっと前々から鬼人達を悪者に仕立て上げた可能性さえ見えてきたのですから万死に値するとも言えるでしょう。
「リンカ殿、貴女の気持ちは分かる。だが、まだ想像の域だ。ひとまず、アイツをどうにかするのが先決だろ? なあ、お嬢ちゃん」
「そうですね。ドウラン先生の仰る通りです」
私が同意すると、リンカさんとドウラン先生が構え、私の合図を待ちます。
弟子の私が指揮をとるのもどうかと思ったのですが、
『俺は自由な方が合ってるからな。それに、お嬢ちゃんの指揮の方が楽でいい』
と、仰るものですから、私が指揮をとることになってしまっています。
とはいえ、引き受けたからには、最善を尽くす。私は、黒衣の陰陽師が放った一撃をヨーリが飛び退いた瞬間を狙って声を掛けます。
「行きましょう! 先手必勝、一気に押し切ります!」
式盤で見た限り、周囲に伏兵や罠も見当たりませんでした。
であれば、増援の可能性もある限り、即座に捕縛撤退が理想。
「はいよお! 伸びろ! 『蔦鎖』」
ドウラン先生が【木】のオフダを掲げ魔力を込めます。すると、地面から固そうな蔦が生え、黒衣の陰陽師に襲い掛かります。
「な……!」
突然の襲撃に驚いた様子ではありましたが、流石というべきか素早く身を翻し避ける陰陽師。
「なんだ!? 貴様ら、このバケダヌキの飼い主か!? 邪魔を、するなあ!」
陰陽師は、素早く体勢を立て直し術を繰り出そうとオフダを取り出します。
しかし、その隙を逃すはずがありません。リンカさんと私も仕掛けます。
私はリンカさんと目を合わせると、二手に分かれ、ナイフを抜き放ち、一気に黒衣の陰陽師の懐を目指し、足に魔力を込めます。
リンカさんが距離をとった事を確認し、慌てて私の方へ向き直り、術を放とうとする陰陽師に対し、私はその場で急転換し、射線から逃れます。
そして、身体強化で一気に脚力を高めたリンカさんが背後に回り、太刀を構え、
「もらったああああ!」
「っと!」
リンカさんの動きに反応し、放ちかけた術を自身の衣にぶつけた陰陽師は、袖を金属に変え吹っ飛びながらも受け止めます。
なるほど、そんなやり方もあるのですね。調和の五行陰陽術らしい術です。
「な! 防いだ、だと……!」
「危ないなあ」
陰陽師は息を漏らしながら後ずさりし、態勢を整え、こちらを確認しているようです。
「ちょっと、多いな。これは、本気を出さないと、な」
黒衣の陰陽師はニヤリと笑うと、懐から何かを取り出します。
「それは……まさか!」
ドウラン先生が顔を歪ませ叫んだ視線の先には、大量の黒ずんだ紙の束が。
「ああ、そうだ。同業なら分かるよなあ。式神召喚! 小鬼よ参れ!」
黒衣の陰陽師が笑いながら、大量の紙を撒き散らします。
「馬鹿な! これだけ呼び出すだと!? どれだけの魔力が必要だと……」
「ああっはっはあ! 我らには黒桜様の御力がある! 故に魔力は無限! 限りなし!」
黒衣の陰陽師が袖を捲るとそこには、夥しい文字が黒く刻み込まれた刺青のようなものが、そして、そこから魔力が溢れ、一枚一枚の紙を更に濃く黒く染めていきます。
真っ黒に染まった紙は地面に落ち、広がり、影のように張り付き、その陰から小鬼達が大量に現れたのです。
「さあ、小鬼共! 我らが黒桜様の餌となる黒の地を広げるために……死を恐れず戦うのだ」
黒衣の陰陽師がそう命令を下すと、小鬼達は悲鳴にも似た叫びをあげながら、再び波の如く襲い掛かってくるのでした。
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