第十七話 シオ-ムスビを携えた依頼《クエスト》攻略、いとめづらし・その二
一応、注釈です。本作の陰陽師や陰陽術は、実際のものとは異なります。
【登場人物】
ヴィオラ・ディフォルツァ
主人公。金髪碧眼だが、一筋だけ黒髪が生えている。
陰陽師の才能を持つ。
ヨーリ
ヴィオラのペット。「ぽーん」となく。変身することが出来る。
ドウラン・アリマ
ツルバミの陰陽師。いずれツルバミの地に救世主が現れると予言していた男。
日焼けした肌、顎髭があり、触るのが癖。
「ほいじゃあ、まずは、そのゴウラってのと合流するかね。まあ、そんで先に小鬼に合えば小鬼退治、薬草見つければ薬草回収で」
ドウランさんと一緒に森の中を進んでいきます。勿論、ヨーリと一緒です。
冒険者ギルドでは、薬草採集と小鬼退治の常時依頼を引き受けました。
小鬼はスライムに次いでとにかく増えやすい魔物で、しかも、繁殖のために人間を襲うので、グロンブーツ王国でもかなり問題になっており、常時依頼となっていました。また、薬草採集も冒険者にとってあって困らないものなので、こちらもグロンブーツ王国でも常時依頼でした。
こういう共通点を見つけると嬉しくなりますね。
「しかし、小鬼は万国共通での問題か。そのぐろんぶうつ王国でも冒険者がチマチマ狩ってたのか?」
「そうですね、巣を壊滅させれば、増える速度は落ちるので定期的に、冒険者を誘って巣潰しに行っていました。巣は、痕跡さえ消せば、また、小鬼がやってきて同じように作るので場所を探す必要もありませんでしたし」
「事も無げに言うねえ……」
ドウランさんは頬を掻きながら仰いますが、一番効率的なんですが。
「まあ、お嬢ちゃんの実力をちゃんと今日測ったら、挑戦してみるのもいいかもな。それくらい小鬼は面倒だ」
「そうですね。まずは、私の実力を見極めましょう」
「……はっは」
ドウランさんが私を見ながら、よく分からない笑い声のようなものをあげます。
「なんですか?」
「いや、昨日の術で自信を持ったかと思ったが、随分謙虚なんだな」
「……? 正しく自分の実力を知ることは何より必要な事だと思いますが?」
「いや、全く仰る通り。でもな、それが出来ない人間が少なからずいて、そいつらが頭痛の種なわけだ」
今度は頭を掻きながらドウランさんはぼやくように仰りながら歩いていきます。
まあ、気持ちは分かります。
力を持てば、人は自身を持つ。それが過信に変わり、破滅する。
そんな人間は多く見てきましたから。
そして、そんな人間に私は追放されたのですから。
私は、隣を歩くヨーリを拾い上げ、頭を撫でます。
「ぽーん!」
ヨーリは嬉しそうに鳴きながらもっと撫でてと言わんばかりに頭を揺らします。
「いや、しかし、気になってたんだが、なんでその狸『ぽん』って鳴いてんだ?」
「私がそう教えたら、そう鳴きはじめたのです。なんというか、ぽんって感じでしたので」
「お嬢ちゃんのせいか。まあ、ソイツが満足なら何も言わねえけど……」
ドウランさん曰く、ヨーリは狸という種族で、しかも、魔力を宿すバケダヌキというものなんだそうです。
ですが、そのバケダヌキのいそうな所がオウニらしく、オウニは近いとはいえ海を渡らねばならず、ヨーリを仲間に合わせてあげるのは暫く時間がかかりそうです。
「ぽん?」
「なんでもないわ。待っててねヨーリ。私が必ずあなたを仲間に合わせてあげるからね」
首を傾げるヨーリの頭を再び撫でてあげていると、ぱっとヨーリが私の腕から飛び出て唸り始めます。
「ドウランさん」
「……はあ、魔力を宿す獣ってのは大したもんだね。まだ距離はあるな。ほいじゃあ、数を見てみようか」
「はい」
私は、ゲンブ様から預かった式盤を取り出し魔力を込めます。
すると、魔力は光に変わり、五体の小鬼の姿に変化します。
「五体、ですね……ドウランさん?」
「いやあ、大したもんだ。陰陽師の基本は、吉凶を見ることだ。式盤にそれだけ忠実な姿を映せるなんてどれだけ膨大な魔力だよ。そして、大切なのは、偏りなく見る事だ。でも、それも出来てるんだよなあ。お嬢ちゃんはどれだけのものを見て来たんだか」
グロンブーツ王国では、真実と事実、そして、嘘を見極めるために冷静な判断は必要不可欠だったからでしょうか。まさか、あんな惨状が役に立つなんて……。
「良し。じゃあ、五体か。向こうはこちらに気付いて近寄ってきてるようだし、広い場所で待ち構えますかな」
そう言ってドウランさんは後方の少し開けた場所へ移動し、私もそれにならいます。
「それじゃあ、折角だ。戦闘用の陰陽術を説明するか」
「お願いします。ドウラン先生」
「あー、なんだかむず痒いがまあいいか。まずは、思業式」
飛び出してきた小鬼達を見据えながら、ドウランさん、いえ、ドウラン先生が五芒星を描き始めます。
「この世界を構成する五行の神の御力を借りて、攻撃する方法」
そう仰ってドウラン先生は、【木】の魔力を高め地面に手をつき、小鬼達の足元に生えた草を伸ばし絡め動きを止めさせます。
「まあ、四大元素魔法と同じだな。単純に世界に流れる魔力をそのまま術に使う。だが、昨日も言った通り全ての魔力を使って操作する。単純な力を使う分、操作が難しく面倒だ。そして、次に」
ドウラン先生は、懐からオフダのような紙を取り出し魔力を込め始めます。
すると、魔力が込められた紙はドウラン先生の手を離れ、風の狼となり、小鬼に襲い掛かります。
「擬人式。ある程度式を先に込めておき、具体的な神の力を借り攻撃する。具体的な分、命令しやすい。昨日も言ったが俺達はなんにでも神は宿ると考えているからな。玉でも刃でもなんでもいい。ただ、生き物の方が、威力が強くなる。また、呼ぶ神によっては自分で考え動いてくれる」
四大元素魔法でいう所の精霊のようなものですね。
彼らは、魔力を与えることで働いてくれますから、考え方としてはほとんど同じでしょうか。
「五行の力と神の相性はあるのですか?」
「良い質問だ。結論から言うとある。例えば」
ドウラン先生は再び同じ紙を取り出し魔力を込めます。
そして、投げると、水の狼が小鬼に襲い掛かりますが、先程よりも小さく見えます。
「狼は、【水】とあまり相性が良くない。それらは経験を積み重ねて実践を重ねて、実感していくしかねえな。まあ、まずは人型からやるといい。人型は強くない分、どれも同じくらいの力になる」
「なるほど。では」
私はドウラン先生から紙を受け取り、【土】を高めていきます。
「おいおいおい! お嬢ちゃん! どれだけ高めるんだよ!」
ドウラン先生が驚いていらっしゃいますが、私も驚いています。
昨日の教えを聞いてからというものの魔力が目に見えて上がっているのを感じているのです。
それはまるで、魚がようやく水の中に入れてもらえたような。
私は、あふれ出る魔力を人型の紙に込め、具体的なイメージを流し込みます。
すると、人型の紙の右腕が巨大な土の腕に変わり、
「じょ、嬢ちゃん! コイツは?!」
「土人形です。この辺りにはいない魔物ですかね」
まあ、正直今生み出した土人形の腕は、私たちの十倍くらいの大きさですから、ここまでの大きな土人形は見たことはありませんが、うまくいきました。
「では、潰してしまいなさい」
巨大な土の腕が振り下ろされ、雷が落ちたような音が鳴り響き、絶望の表情を浮かべた小鬼達が潰されていきました。
残ったのは、巨大な拳の跡。
その大きさに自分でも驚きますが、それ以上に自分の意思通りに魔法が、いえ、術が使えたことが私の顔を緩ませます。
「あらまあ」
「お嬢ちゃん……もうお前に教えることはないかもしれん」
紙のように潰れた小鬼達に手を合わせながら、ドウラン先生はそう仰いました。
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