第十一話 ゴギョーという四大元素魔法と異なる概念、いとしるし
【登場人物】
ヴィオラ・ディフォルツァ
主人公。金髪碧眼だが、一筋だけ黒髪が生えている。
オンミョージという謎の天職を持つ。
ヨーリ
ヴィオラのペット。「ぽーん」となく。変身することが出来る。
ゲンブ・ツルバミ
黒髪長身。礼儀正しそうなサムライさん。
ヤスケ
黒髪。騒がしいシノビさん。
サヤ・ツルバミ
ゲンブの妹。お姫様。
「呪紋……」
ゲンブ様の上半身に描かれた怪しげな紋様をしっかり見ようと近づいているといつの間にか触ってしまっていた様で……
「ヴィ、ヴィオラ殿!?」
「あ! す、すみません! 私ったら!」
慌てて手を放し、距離をとります。夢中になるとこういう事をしてしまうので反省ですわね。
「こ、この呪紋は、魔力を送る為の模様らしく、戦闘や普段の生活関係なく、半分近くの魔力が随時送られていきます。王の血族は魔力が高い為、いえ、違いますね。魔力が高いからこそ各国の王となれたために、その一族の魔力を吸い取って何かしらに活用しているそうです。そして、同時に」
「相手の力をそぐことが出来る」
私がそう言うとゲンブ様は頷きます。
「その通りです。姫を嫁がせるのも、魔力の高い血筋を取り込んでおきたいのでしょう。各国それぞれで得意な属性が違いますしね」
「属性……ツルバミの国は……」
「我々は、【金】と【水】の属性です。【金】は、西方ではあまり馴染みのないものだと思いますが……五行では一般的な属性です」
「五行……なんでしょう。凄く昔から聞いていた言葉のような気がするのですが、本当に知らなくて……」
「そうでしょう。そして、忘れ去られていく思想なのかもしれません」
「え?」
私が驚いてゲンブ様の顔を見るとゲンブ様は苦笑いをしながら、詠唱を始め、手の中に水の球を浮かべます。
それは、私も良く聞いた詠唱で……
「水球」
「その通りです。今、ジパングでは魔物に対抗すべく四大元素魔法の習得が各国の急務となっているのです。そこにない【金】の属性については、扱い自体よくはなく、いずれ〔土〕魔法に吸収されることになりそうです」
「そんな……!」
思わず声を漏らした自分に驚きます。それほどまでに私の中では悲しい衝撃でした。
このゴギョーがあれば私は魔法を……。
「四大元素魔法は非常に合理的で、使いやすい魔法です。クレナイの国では上級魔法を扱える者も増えてきているという話です。どこの国もクレナイに負けぬようにと先生を迎え、四大元素魔法の習得に躍起になっています。ですが、私は、ヴィオラ殿、あなたに可能性を感じているのです」
「私、に……?」
ゲンブ殿は手の平で転がしていた水球をゆっくりと握りしめ、霧へと変えてしまいます。
ふわりと浮かぶ霧は、その場を薄く白く包み、そして、すぐさま消えていきます。
その先にいたゲンブ様は笑っていらっしゃいました。
「先の大襲撃等で多くの名高い陰陽師が命を落としました。そして、陰陽術自体が廃れていってしまい、消えていってしまうのだろうと。でも、貴女が現れてくれた。我々が待ち望んでいた貴女が」
「え?」
「ある者が言ったのです。『海の彼方より流れてやってくる碧き宝石埋め込まれた黄金。その黄金は赤き炎を呼び、黒の国に新たな灯を生む。碧は【木】、黄金は【土】、赤き炎は【火】、黒の国は【金】と【水】の地。これすなわち五行の流れ、新しき運命の起こり、救世主の誕生』と……」
サヤ様がうっとりとした瞳でそれをまるで劇の台詞のように高らかに歌い上げながらこちらを見ていらっしゃいます。
「金髪碧眼を持ち……赤き鬼を私たちに引き合わせた貴方こそ、ヴィオラ殿こそ、我々の待ち望んでいた救世主だと。この国を共に救って下さる方だと、我々は、そう考えているのです!」
ゲンブ様が力強く、そして、確信に満ちた目でこちらを見ていらっしゃいます。
救世主?
私が?
グロンブーツ王国で忌み子と蔑まれ、追放された私が?
ふわりと消えたはずの霧が私の頬を撫でます。
私の心を洗い流すように。
そして、流れていた涙に気付かせるように。
「ヴィ、ヴィオラ殿!?」
「すみません……いけませんね。もう泣くまいと追放される時に誓ったはずなのに……! ……ふぅ。ありがとうございます。そう言って頂けてとても嬉しいです。どうせ寄る辺なきこの身、皆様の御力になれればと思います」
そう言うと、ゲンブ様やサヤ様は見るからに嬉しそうに表情を崩されました。
ヤスケ様や他の家臣の方たちも悪い感情は持っていらっしゃらないようです。
これでも、グロンブーツ王国で散々腹黒い貴族連中とやりあってきましたから人を見る目には自信があります。
この方たちは、真っ直ぐで、そして、民の事をしっかりと考えている。
そして、真っ直ぐに私を見てくれる。
金髪碧眼の私を。
異国の怪しいものではなく、ただ助けてくれた恩人として。
力になろう。私の全力をもって!
「では、一旦この涙は置いといて」
私は涙を拭いて話を戻します。
「それを置いといていいのか!?」
ヤスケ様のツッコミが入りますが無視します。
「一先ず、私のこの力の謎が知りたいのです。何故私はゴギョーやオンミョージュツが感覚的に使えるのか? そもそもどういったものなのか」
「そ、そうですね……それについては、人を呼んでおります。貴女に会って頂きたい者が……」
「それは、ワタシの事かえ?」
声が聞こえたその瞬間、白い風が巻き起こり、部屋の明かりが揺れています。
そして、風はひとところに集まると、人の形を作り……真っ白な肌をした女性が現れたのです。
「久しぶりだな……フウコ」
フウコ、そう呼ばれた女性は、細めた目で笑みを浮かべながらこちらを見ると
「ほぎゃあああああああああああああああああああああああ! な、な、なに!?この化け物!?」
そう叫んで柱の陰に隠れてしまいました。
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