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第78話~希望の遺跡、最深部その3 ~真なるオリハルコンの入手 そして、神獣の子供を預かることになったヴィクトリア~

 アリスタが真なるオリハルコンの入手条件について話し始めた。


「真なるオリハルコンを得るためには生贄が必要なのです」

「生贄ですか」


 生贄と聞いて俺は嫌な気分になった。

 フソウ皇国でのアキラ皇子の件を思い出したからだ。

 幸いアキラ皇子は助かったが、人を生贄にして物事を成就させようというのは蛮行だと思う。


 そんな俺を見てアリスタがクスクスと笑う。


「お前は何か勘違いをしているようだね。何かの命を生贄にするとでも思ったのかい?仮にも神ともあろう者が、そんな要求をするわけがないじゃないか。生贄にするのはもっと別の物さ」

「えっ、そうなんですか」

「そうだよ。だから、一つ、昔話をしてやろう」


 そう言うとアリスタは、その昔話とやらを語り始めた。


「昔、ある鍛冶師が王様に宝剣の作成を命じられた。しかし、鍛冶師は中々思うような宝剣を作れなかった。ところで、その鍛冶師の妻は長く美しい髪を持つことで有名だった。ある時、ふと鍛冶屋は思い付き、妻に髪を切らせ、それを炉に入れ、神に祈った。そして2本の宝剣を完成させた。……これが私の知る物語さ」

「つまり必要なのは髪の毛だと」

「そいうことさ」

「わかりました」


 そこで俺とアリスタの会話を聞いていたエリカが一歩前へ進み出た。

 そして、髪ヒモを取り出すと、腰まであるきれいな黒髪を首のところでサッと一つに結んだ。


「そういうことでしたら、私の髪を使ってください」

「えっ、でも」

「そうですよ。そんなに長くてきれいな髪なのにもったいないですよ」

「そうだよ。その髪を維持するのは大変だって前にアタシたちに言っていたじゃないが」


 みんなで口々に説得するがエリカは首を縦に振らない。

 強い目で拒否する。


「私、前にも言いましたが、旦那様のためなら髪の毛なんて惜しくないです。皆さんが無理に止めるというのなら、根元から剃ってしまいます」


 そう言うと本当にナイフと取り出し自分の髪を剃ろうとしたので、俺は慌てて妥協することにした。


「わかった。そこまでしなくていいから。エリカの髪を使わせてもらうから」

「わかりました。それでは私の髪は旦那様が切ってください」


 エリカはナイフをしまうと、かわりにはさみを取り出し、俺に差し出してきた。


 え、俺?とは思ったが、エリカのまなざしは真剣そのものだ。

 エリカは俺が長い髪が好きなのを知っている。エリカは子供の頃は肩くらいのおかっぱ頭だったが、俺が長い髪が好きだと知って以来長くしていると本人は言っていた。


 だから、それを手放す時は、俺の手で切ってもらいたいと考えたのだと思う。

 俺はそんなエリカの思いに応える義務がある。


「わかった」


 俺はエリカからはさみを受け取ると、髪の毛に手を伸ばす。

 じょきり。じょきり。

 ものすごく重い音がする。俺はこの音を聞いてすぐにでも逃げだしたくなった。

 だが、この重さこそ、エリカの思いそのものだ。

 俺は我慢して最後まで切り続ける。


「終わった」


 ようやく切り終えた時には、俺の全身は汗だくになっていた。


「スッキリしました。子供ができたら髪を短くしようと思っていたので、ちょうどよかったです」


 肩くらいの散切り頭になった自分の髪を触りながら、エリカがそんな感想を漏らす。

 あれ?意外に気に入っている?

 エリカの様子を見てそんなことを感じたりもしたが、女の子の気持ちは複雑なのでよくわからなかった。


「それじゃあ、材料もそろったようだし始めるよ」


 俺の感傷はアリスタのそんな一言で中断された。

 そうだ。まだ儀式の途中だった。


「お願いします」


 俺はエリカの髪の毛を渡す。


「ヴィクトリアも、オリハルコンを出しな。そんなにたくさんは作れないからちょっとでいいよ」

「はい。ただいま」


 アリスタに言われてヴィクトリアがオリハルコンを出す。

 そんなに量は多くない。

 剣を1本作れるかどうかといったところだ。


「うん、生成できるのはこんなものだね。さあ、始めるよ」


 いよいよ儀式が始まる。


★★★


「それじゃあ、始めるよ」


 そう言うと、アリスタはエリカの髪束を無造作にオリハルコンの上に置き、祈り始める。


「聞け。大地の聖霊よ。豊穣の髪アリスタが命じる。今からオリハルコンの真の力を解放する。協力せよ」


  アリスタが呪文を唱え終わると、オリハルコンが輝きだす。

 その輝きは段々と強くなっていき、最後に爆発したかのように強く光り輝くと消えた。


 その強い光に思わず目を閉じた俺たちが再び目を開けた時、オリハルコンの上からエリカの髪の毛はなくなっており、かわりにオリハルコンが神々しいオーラを放つようになっていた。


「これが真なるオリハルコンですか」


 俺は出来上がった真なるオリハルコンを触ってみる。

 触った感覚は普通のオリハルコンと変わらないような気がする。

 だが、何というか、とにかく神々しく、うちに何か力を秘めているような気がする。


 満足した俺はアリスタにお礼を言う。


「こんな素晴らしいものをいただいて、どうもありがとうございます」

「いや、礼なんかいらないよ。それよりもこれを使って使命を果たしてくれよ」

「わかりました。必ずやり遂げて見せます」


 俺は改めてアリスタに誓うのだった。


★★★


「さて、真なるオリハルコンと熱砂のハンマーも手に入ったことだし、後はこれを使って、剣を作るだけだな」


 と、そこまで言って気が付いてしまった。

 肝心なことを忘れていたことに。


「誰か、これを使ってオリハルコンの剣を作れるような職人ているのかな」


 オリハルコンは加工の難しい金属だ。

 並の職人では扱うことさえできないと聞く。

 そして、俺はそんなすごい職人を知らない。


「どうしようか」


 3人に聞いたが全員首を横に振る。

 予想通りだったが、愕然とした。


「なんだい?オリハルコンの剣を作って売れる鍛冶師を探しているのかい?」

「はい。でもちょっと伝手が無くて困っているんです」

「そんなことはないだろう。ほら、すぐ身近に作れる鍛冶師がいるじゃないか」

「え、そんな人、いましたっけ?」

「そこの赤髪の娘の父親がそうさ」

「え、うちのお父さんがですか」


 いきなり言われて、リネットが驚いている。


「そうだよ。あんたのお父さんは伝説の鍛冶師の一番弟子で、その技術を遺憾なく受け継いでいる。十分オリハルコンの剣を作れるはずさ」

「うちのお父さんて実はすごかったんですね。初めて知りました」

「まあ、子供というものは案外親のすごさというものを知らないものだからね」

「はい、知りませんでした。帰ったら早速お父さんに頼んでみます。お父さん、日ごろから、『死ぬまでに師匠のように歴史に名を残すような武器を作りたい』とか、言ってますから、オリハルコンと聞けば、他の仕事を中断しても、引き受けるでしょう」

「そうかい。なら、そちらはあんたに任せるとしよう」


 そこまで言うとアリスタは一旦話を止め、俺たちの方へ向き直る。


「さて、これでオリハルコンの剣にも目途が立ちそうだし、ここでのイベントも終わりかね。それでは、そろそろ地上に……おっと」


 アリスタの話が急に止まる。

 どうやら何か忘れていることがあるみたいだ。


「おっと、私としたことが忘れるところだよ。お前さんたち、一つ私の頼みを引き受けてくれないか」

「頼みですか。なんでしょうか」

「入ってきな」


 アリスタがポンポンと手をたたくと、入り口のドアが開き、1匹の白い子狐が入ってきた。

 というか、この子って。


「アンタらも知っていると思うが、ナニワの白狐の下の娘の銀だよ。ほら、銀、挨拶しな」

「皆様、お久しぶりです。銀です」


 子狐はぺこりと頭を下げた。


「頼みというのは他でもない。この銀をあんたたちの所で預かってほしいんだ」

「俺たちで、ですか」

「そうだよ。狐が神獣になるには神の下で修業をする必要があるんだが、生憎と私の所は定員オーバーでね。困っていたのさ。だから、あんたのところで預かってくれないか。一応、神もいるわけだし」


 アリスタの視線がヴィクトリアに向く。


「え、ワタクシですか」

「お前以外に誰がいるんだい。お前は自分の存在意義すら忘れてしまったのかい。この頭トウフ娘が!」


 実の祖母に悪態をつかれてヴィクトリアが落ち込むが、事実だから、言い返せないようだ。

 それでも多少の抵抗をする。


「そんな神獣を育てるなんて大役、ワタクシにできるのでしょうか」

「できるできないじゃなくて、やるんだよ。神獣を育てるのも神の大切な仕事の一つだからね。お前も神を名乗るなら、やり遂げてみな」

「はい」


 アリスタの有無を言わさぬ迫力にヴィクトリアはただ従うのみであった。

 ついでにその矛先は俺たちにも向き。


「アンタたちも、この子に協力してやってくれよ」


 そうヴィクトリアと子狐のことを頼んで来るのであった。


「「「はい」」」


 もちろん、俺たちも断れるはずがなく、元気よく返事をした。

 こうして、また一人居候が増えたのであった。


★★★


「それじゃあ、今から地上に帰すからね。元気にやりなよ」

「「「「はい、お世話になりました。ありがとうございました」」」」


 用件がすべて終わると、アリスタは俺たちを地上に送り返してくれた。

 一瞬光に包まれた後、気が付くとダンジョンの外にいた。


「青いな」


 ダンジョン入り口の大理石はいつも通り青く輝いていた。

 どうやら、一番最初の入り口に帰ってきたようだった。


「よし、それじゃあ、家に帰るか。っと、その前に」


 俺は早速覚えたての魔法を使ってみることにする。


「『空間操作』」


 俺が魔法を使うと、目の前に半透明の幕が出現する。


「行くぞ」


 4人と1匹でそれを通過すると、そこはノースフォートレス近くの街道だった。


「やった。成功だ」


 これは素晴らしい魔法を手に入れたな。

 俺は高揚感で胸がいっぱいになった。


「では、旦那様。帰ってご飯にしましょうか。銀ちゃんの歓迎会も兼ねて、今日はおいしいご飯を作りますので、楽しみにしてくださいね」


 エリカの言葉で俺は現実に帰る。


「ああ、そうだな。それじゃあ、久しぶりのわが家へ、帰るとするか」


 そして、俺たちはわが家へと向かって、歩み始めるのであった。

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