第71話~希望の遺跡、裏7階層① 凶悪な魔物を倒したと思ったら……~
気が付くと俺たちがどこか暗い空間にいた。
先程までいた場所。あれは何だったのか。
もしかして夢でも見ていたのだろうか?
そうも思ったが、それは違うと断定できた。
なぜなら、エリカたちの手には先程買ったハンカチが入った紙袋がしっかりと握られているからだ。
それに。
「うん、やはりあるな」
俺の財布には先程あそこで手に入れたお金がきっちり残っていた。
これらを総合して考えるに、あれは夢などではないと断言できる。
「いかがでしたか」
その時どこからともなく声がした。
「誰だ?」
俺は問いかけたが、返事はない。ただ、一方的に続きを話すだけだ。
「あの世界は邪悪な存在の手により滅びました。あなた方が見た光景。あれはあの世界が滅びる瞬間を再現した仮想現実の世界で起きた光景なのです」
仮想現実?なんだそれは?あれが作りものだったとでもいうのか?
「つまり、あの世界はとっくに滅んでいて、俺たちはそれを経験したと?」
俺の質問には答えず、声は続ける。
「この世界で、あれを引き起こした邪悪な存在を復活させようとしている者たちがいます。あなたたちに与えられた力はそれを阻止するためのものです。さあ、この遺跡も残りわずか。勇者たちよ。先へ進みなさい」
そこまで言うと、声は聞こえなくなった。
ふと、前を見ると、いつの間にか転移魔方陣が出現していた。
「ここまで来たら、行くしかないか」
俺たちは先へ進むことにした。
★★★
裏7階層は単純な構造だった。
何せ1本道なのだから。
というのも、ここの階層には1つの大きな大穴があって、その上を1本のつり橋が通っているという
構造になっているのだった。
しかもその穴はとても深いようで、全然底が見えなかった。
「ちょっと、怖いです」
「私もです」
「アタシもさすがに」
ということで、穴を怖がった女性陣が先程から俺に引っ付いてきている。
本当に隙間なく、ぴったりと引っ付いている。
それほどこの穴が怖いということなのだろう。
現に、ちょっと風が吹いてつり橋が揺れただけで、
「きゃっ」
「あわわ」
「ひっ」
と、悲鳴をあげるくらいだ。
……3人には悪いが、ちょっとかわいらしいと思ってしまった。
ヴィクトリアに言わせると、こういうのをギャップ萌えとかいうらしい。
確かに普段の3人ならあまり出さない種類の声なので、たまにこうして聞くと、庇護欲をそそられていとおしく感じてしまう。
俺は3人をそっと抱きしめてやる。
「俺が付いているから安心しろ」
なるべく優しく声をかけてやる。
「「「はい」」」
なんか、3人がますます引っ付いて来た。
ちょっと動きづらくなったが、まあいい。
それよりも、まだまだ、つり橋は長い。
★★★
しばらくつり橋を進むと、ようやく先が見えてきた。
「島?と呼ぶべきなのかな」
そこはちょっとした広さ、上級学校の練兵場くらい、の台地だった。
面倒くさいので便宜上島と呼ぶことにする。
これで、一息つけるかなと俺たちは思ったが、残念なことに島には先客がいた。
「デススコーピオンですね」
デススコーピオン。
猛毒を持った巨大なサソリだ。
さらに毒だけでなく、頑丈な甲殻で身を守り、そのハサミは鉄をもたやすく切り裂くと言われている。
そんな怪物が島で通せんぼをしていた。
「厄介だな」
この場合、何が厄介かと言うと、敵の強さもそうだが、何より場所の狭さである。
上級学校の練兵場だと、100m×100mの位の広さがあり十分広く、普通に戦えば狭いと思うことは無いのだが、今回は事情が異なる。
「15メートルくらいあるね」
そう、敵であるデススコーピオンがでかかったのだ。
このさして広くない場所で、そんなでかいのと戦う。
あまり想像したくない事態だった。
「でも、行くしかないか。みんな、気合を入れろ」
「「「はい」」」
俺たちは武器を構えると、デススコーピオンに立ち向かうのだった。
★★★
「『火球』」
「『天火』」
俺とエリカが先制の魔法を放つ。
「ぐおおお」
火に煽られ。デススコーピオンが身悶えする。
デススコーピオンは火属性の魔法に弱いという話なので放ってみたが、効果は十分なようだ。
このまま火の魔法を放つだけでも十分に勝てそうな気がするが。
「リネットさん、行きますよ」
「おお」
デススコーピオンが怯んだ隙に俺とリネットさんで突っ込む。
なぜなら、ここは狭いからだ。
こんな狭い場所で向こうから襲って来られたらこちらの逃げ場所が無くなってしまう。
そうなると、特に防御力の弱いエリカとヴィクトリアが危なかった。
だから積極的にこちらから打って出ることにしたのだ。
「キシャアア」
デススコーピオンがハサミを振り回して俺たちに襲い掛かってくる。
結構鋭い攻撃だが、この程度の攻撃は今まで何度も受けてきた。
サッと、剣で攻撃を受け流すと、逆にハサミに一撃加えてやる。
バシュッ。
デススコーピオンのハサミから青色の鮮血が噴き出る。
さすがに硬くて一撃で斬り飛ばせなかったが、これでも十分だ。
「リネットさん!」
「おう」
俺の背後からリネットさんがデススコーピオンに躍りかかる。
「シャアアア」
それを見たデススコーピオンは残った1本のハサミで慌てて迎撃にかかる。
カン。しかし、うまくリネットさんに盾で防がれてしまい、リネットさんの勢いを殺せない。
ブチュ。
何かが潰れる音がする。
リネットさんの斧がデススコーピオンの目に直撃し、眼球が潰れる音だった。
「ピギャアアア」
デススコーピオンが痛みに悲鳴をあげる。
「とどめだ」
完全に無防備になったデススコーピオンにとどめを刺すべく、俺も飛び上がる。
目標はデススコーピオンに背中にある心臓だ。
「『神強化』」
剣に火と風の属性を付与し、デススコーピオンの神像に突き入れる。
ブス。
俺の強化された剣はデススコーピオンの固い甲殻を突き破ると、心臓に突き刺さり破壊する。
ピク、ピク。
心臓を潰されたデススコーピオンは、しばらくの間そうやって全身を震わせ続けていたが、やがて動かなくなった。
「終わったな」
俺はほっと胸を撫でおろした。
だが、その次の瞬間。
★★★
だが、次の瞬間。
「ぐおおおお」
心臓を潰され死んだはずのデススコーピオンが襲いかかってきた。
その巨大な尾を振り回し、その先の毒をもった針で俺を突こうとしてくる。
心臓を潰したはずなのになんてやつだ。
俺は驚愕せざるを得なかったが、驚いてばかりもいられない。
すっと尾による攻撃をかわすと、ピュッと逆に尾を中ごろから切断してやる。
本当まだ剣にかけた魔法を解除していなくてよかったと思う。
斬り飛ばされた尾は地面に転げ落ち、まな板の上にあげられたエビのように跳ねまわっている。
しかし、デススコーピオンの攻撃はこれで終わりではなかった。
「ブオオオオ」
今度はリネットさんへ向かって突進を始めやがった。あの巨体の攻撃をリネットさん一人で防ぎきれる気がしなかった。
「『神強化』」
魔法をかけ直し、デススコーピオンとリネットさんの間に割って入る。
ガシン。何とか間に入ることに成功した俺はデススコーピオンの攻撃を受けることに成功する。
だが、ダメージこそなかったものの、突進の勢いを殺すことはできず、デススコーピオンもろとも大穴に落ちてしまった。
「リネットさん」
「うん」
俺の言葉を受け、リネットさんが俺にしがみついて来た。
リネットさんを抱きかかえた俺は『重力操作』の魔法を使用する。
このまま空を飛んでこの苦境を脱するつもりなのだ。
「?」
だが、うまく魔法がかからない。
どうやらデススコーピオンまで俺の魔法の対象になってしまったようなのだが、デススコーピオンがでかすぎるせいでうまく魔法が働かないようだった。
このままでは空を飛べない。
そう判断した俺は、全魔力を使って『神強化』を使い、背中の防御力を上昇させる。
そして、リネットさんを正面に抱きかかえたまま、俺は背中から大穴へと落下して行くのであった。




