第70話~希望の遺跡、裏6階層 太古の町~
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「うわあ、たくさんの人ですね」
一つ目巨人を倒した後、遺跡にあった転移魔方陣を抜けた先は巨大な町だった。
祭りという雰囲気ではなさそうなのに、祭りの時のように街は大勢の人々が行きかっている。
ナニワの町の商業街も人が多かったが、あれよりもさらに多い感じだ。
建っている建物も、何か機能的なデザインで背が高い物が多い印象だ。
とにかく、俺たちが見たことがないような街並みだった。
それに。
「鉄のイノシシ?に人が乗っている?」
「ホルストさん、どこの田舎ものみたいなことを言っているんですか。あれは自動車というんですよ」
町にはあろうことか人を乗せた鉄のイノシシまで走っていた。
というか、ヴィクトリアによるとあれは自動車とかいう名前の乗り物で、馬車などの発展した形ということだ。
そんな物があるなんて。
「ここは、どこなんだあああ」
俺は思わず叫んでしまった。
俺の声を受け、周囲の人々の視線がこちらに向かう。
よく見れば、彼らも俺たちとは全然違う服装をしていた。
何というか、機能的で、デザイン性にも優れているというか、そういう感じの服だ。
寧ろ、ここでは俺たちの服装の方が異質ななのだ。
「旦那様、ここはとりあえず場所を移動しましょうか」
さすがのエリカもこの町の変わりように面食らっているのだろう。
そんなことを提案してきた。
「よし、そうするか」
俺たちはその場を離れた。
★★★
「はあ、はあ、はあ」
俺たちが駆け込んだのは近くの公園だった。
先程の通りよりは人影も少なく、閑散とした感じだ。
「ホルスト君、ひとまずベンチに座って休まないか?」
そのリネットさんの提案で、俺たちは空いているベンチに腰を下ろす。
「はあはあ。喉が渇きました」
走って息が切れたのだろう。
ヴィクトリアが肩で息をしながらそう呟く。
その意見には俺も賛成だ。
キョロキョロと辺りを見回してみる。
「おっ、あれは屋台か」
見ると、ベンチから少し離れた噴水の横にジュースやらスウィーツやらを売っているっぽい屋台があった。
「ちょっと、飲み物を買ってくる」
「あっ、ワタクシも行きます」
俺が席を立つと、ヴィクトリアもついて来た。
こいつのことだから、飲み物のほかに何か食べたいのかなと思っていると。
「クレープ、おいしそうですね」
案の定だ。本当にこいつは食い意地が張っている。まあ、そういうのもこいつらしくて、悪くはないとは思ってきてはいるが。
まあ、いい。
俺たちは屋台の前に立ち、メニューを見る。
「『ジュース1杯¥200 クレープ1枚¥500』か。何を書いているのはさっぱりわからん」
メニュー表には俺の知らない文字で何か書かれていて、俺には読めなかった。
代わりに、ヴィクトリアがふんふん頷いている。
「これは神代文字で書かれていますね。ジュースは1杯200円、クレープは1枚500円と書かれています」
「なるほど、神代文字か。なら読めるわけがないか」
そう自分で言って、ハッとする。
神代文字?それって天界で使われているとかいう文字では?それに円?それはお金の単位なのか?
そんなものが使われているなんてここはどこなんだ?
俺は軽くパニックになりそうになる。
が、無い頭を総動員し、ここがダンジョンの中なのを思い出す。
そうだ、ここはダンジョンなんだ。だから多少不思議な体験もありなのだと、考え直し少し気持ちが落ち着く。
落ち着いたところで財布を取り出し、金貨を1枚出す。
円という貨幣の価値はよくわからないが、ジュースやクレープを買うのに金貨で足らないということはないだろうと思い、出したのだ。
「これで、ジュースとクレープをください」
そう店のおじさんに告げるが、おじさんは渋い顔をする。
「お兄ちゃん、それって、金貨だろ?それはうちじゃ使えないよ」
「えっ、これじゃ、足りませんか?」
「そんなことはないよ。逆に価値がありすぎておいちゃんではいくらになるか判断できないよ。だから、こういう普通のお金でくれよ」
そう言うとおじさんはここで使われているお金を見せてきた。
紙?のお金?
それは見たことがない紙のお金だった。
青色のインクで数字と人の肖像画が印刷されており、芸術的な価値の高そうなものだった。
成程ここではこういうのが使われているのか。
それがわかったのはよかったが、さて困った。このままだと俺たちは無一文ということになる。
俺はおじさんに聞いてみた。
「どこかこの辺で金貨を両替できたりしませんかね?」
「両替ねえ……、そうだ。公園を出てすぐのところに確かリサイクルショップがあったから、あそこで買い取ってもらえるかも」
「そうですか。それでは、お金を手に入れたらまた来ますので」
「ああ、頼むよ」
俺たちは一旦屋台を離れ、エリカたちに事情を離した後、リサイクルショップへと向かった。
★★★
「100万円になります」
俺の持っていた金貨はあっさりと売れた。
正直見たことも無いであろうお金を買い取ってくれるのか不安でしょうがなったのだが、無用な心配だったようだ。
どうやら店員さんは金貨がどうこうよりも、金貨に含まれる金の質と量を計算して値段をつけてくれたみたいだった。
「いやー、最近金相場が急上昇しておりましてね。うちとしてもいい商売をさせてもらいましたよ」
応対してくれた店員さんは終始ニコニコ顔だった。
多分、金の相場が上がったら金貨を鋳つぶして金として売るつもりなのだろうと思った。
売った物を向こうがどうしようと知ったことではないので、ご自由にと思った。
適正価格で買い取ってもらえたのかについてもどうでもよかった。
どうせここにも長くはいないだろうし、当面の資金があれば別によかった。
「さて、金も手に入ったことだし、さっきのクレープ屋に行くか」
「はい」
俺たちは再びクレープ屋に行った。
「毎度。あっ、さっきの兄さんたちだね。ご注文は?」
「アップルジュースを3つと、オレンジジュースを1つ。バナナチョコクレープを3つと、生イチゴクレープを1つください」
「えーと、全部で、3300円ですね」
「じゃあ、これで」
俺は先程もらった札束の中から1枚出すと、店主に渡した。
「1万円かい?それじゃあ、お釣りを」
「いや、別にいらないです」
お釣りをいらないという俺を見ておじさんが驚いた顔になるが、本当にいらないのだ。
だって、ここを出ればここのお金などいくら持っていても仕方がないのだから。
荷物になるだけなのだから。
だから、本当にいらないのだが、おじさんは困惑したように返してくる。
「そう言われても、それにお釣りより商品の値段の方が少ないじゃないか。せめて、何か追加で頼んでくれないか」
「そうだな。俺たちは他にはいらないけど、ヴィクトリア、なにかいるか?」
「そうですね。それでは、マスカットのジェラートが欲しいです」
「では、それも追加で。残ったお金はさっき色々教えてもらったお礼として差し上げるので取っておいてください」
「わかったよ。そこまで言うのなら貰うとするよ。すぐに商品を用意するから、少しお待ちください」
10分ほどで商品が出てきたので、俺たちはそれを受け取ると、ベンチへ帰る。
「毎度、あり~」
去り際に店主の声が大きかったのが印象的だった。
「「「「いただきます」」」」
ベンチに戻った俺たちは早速おやつをいただいた。
「おっ、美味いな」
「おいしいです」
「いい感じだな」
「結構食べ応えがありますね」
結構みんな気に入ったようで、あっという間になくなってしまった。
「これで、人心地付いたことだし、これから」
「ワタクシは、折角お金も手に入ったことだし、買い物したいです」
おい、おい。お前は何を言っているんだ。ここはダンジョンの中だぞ。
俺はそう言おうとした。だが。
「いいですね。私も不思議なこの街で買い物してみたいです」
「アタシも買い物したいな」
何とエリカとリネットさんもヴィクトリアに賛成の様だ。
このよくわからない場所で買い物をする気になるなんて。女性の買い物に対する執念はすごいものがあるな。
「わかった。それじゃあ、買い物でもしようか」
「「「はい」」」
ということで俺たちはショッピングすることになった。
★★★
俺たちが入ったのは近くの雑貨屋さんだった。
食器とかタオルとか生活するのに必要不可欠な商品が所狭しと並べられている。
「この花柄のハンカチ、素敵ですね」
「私はこの青いのが可愛くていいです」
「アタシはこのチェック柄のが渋くていいと思う」
3人がその中で目を付けたのはハンカチだった。
ここのハンカチはあまり見たことがない艶やかなデザインの品が揃っていて、どれも女の子が喜びそうだった。
これに目をつけるとは、彼女たちの美的センスもなかなかのようだ。
「「「これにします」」」
20分後、どうやらお気に入りの物を選び終えたらしい。各自数点の商品を手に持っている。
「じゃあ、金払うからな」
俺はレジカウンターへ行き、店員に代金を支払った。
「ありがとうございます」
店員はニコニコ顔で商品を紙袋に詰めてくれた。
これもセンスの良いかわいい紙袋だった。
当然、うちの女性たちもニコニコ顔になる。
さて、買い物も終わったことだし、店を出た。
すると、通りで人々が集まり騒いでいた。
何だろうと思って近づいてみると、突然ヴィクトリアが町の中心の方を指さした。
「ホルストさん、あれを見てください」
ヴィクトリアの指さす方を見ると、巨大な光の柱があった。
「あれはなんだ」
俺がそう思った次の瞬間。
世界は光に包まれた。




