第68話~希望の遺跡、裏4階層 砂漠のオアシス~
「暑いですね」
そう言いながら、ヴィクトリアが水筒の水をがぶ飲みする。
「これは、……堪らないですね」
「汗が止まらない」
エリカとリネットさんもヴィクトリア同様水を飲み続けている。
全員水を含ませたタオルを頭からかぶっているが、暑さのせいですぐにタオルの水は蒸発してしまう。
さらに。
「目に砂が」
風が吹くと大地を覆う砂が砂塵となって俺たちに襲い掛かってくる。
そう、裏4階層は砂だらけの砂漠地帯だった。
★★★
「このままでは埒があかないな」
裏3階層は木が多すぎて迷ったが、ここは何もなさ過ぎて迷いそうだ。
「なにか、いいアイデアはないか」
俺は3人に相談する。
「うーん、そうだな。ひたすら歩くしかないんじゃないかな」
「私もあまりいいアイデアが浮かびませんね。こう暑くてはうまく頭が働きませんね」
エリカとリネットさんには特にいい考えがないようだ。
だが、ここでヴィクトリアがいいことを言ってきた。
「航空偵察をしてはどうですか?」
「航空偵察?」
「そうです。航空偵察です。テレスコープがあるじゃないですか。ホルストさんの魔法で空に上がって、そこからテレスコープで周囲を観察するんですよ。高い所からだと、遠くの方まで見渡せるので、何か見つかるかもしれませんよ」
「おお」
お前、たまにはいいことを思いつくな。
「よし、ヴィクトリアのアイデアを採用だ」
ということで、俺たちは空から周囲を探ることにした。
★★★
「うわー、冷たくて気持ちいいです」
「この暑い砂漠にこんな最高の場所があるなんて、素敵ですね」
「うむ、ずっとここにいたいくらいだな」
1時間後。
俺たちは砂浜で海水浴?いや、水浴びを楽しんでいた。
ここは淡水だからまあ、水浴びの方が呼び方として合っていると思う。
航空偵察を始めてすぐ、俺たちはオアシスを発見した。
他に何もなさそうだったので俺たちはそちらに向かうことにした。
「ここで、少し泳いでいきませんか?」
オアシスに着くなり、ヴィクトリアがそんなことを言い出した。
「いいな」
「私も賛成ですね。汗だくなので、少し汗を流したいですね」
「異議なし」
全員が賛成したので今、こうして水浴びをしているのである。
「それにしてもまぶしいな」
何が?かって?
もちろん太陽じゃないよ。
3人の水着姿に決まっているだろう。
3人の水着はフソウ皇国のへの旅へ行く前に買った物なのだが、旅の途中では使う機会がなかったのだ。
それを今こうして有効利用しているわけである。
エリカはピンクのワンピースタイプの水着を着てパレオを着けている。
彼女らしくてとても似合っている。
ヴィクトリアは、白色の水着を着ている。水着の縁にはフリルの飾りが付けられており、かわいらしい。
ヴィクトリアの魅力を引き出せる良い水着だ。
リネットさんは上下に分かれたセパレートタイプの水着を着ていた。
何というか、体のラインがくっきり出る水着で、見ていてドキドキする。
そんな魅力的な3人が水辺で遊んでいる。
「えい」
「あっ、やりましたね」
「こうなったら水の掛け合いっこだ」
そうやって3人で楽しそうに水を掛け合ったり泳いだりしている姿を見ているだけで、心がほっこりしてくる。
「よし、俺も泳ぐか」
3人が楽しそうにしているのを見て、俺も一緒に遊びたくなったので、3人の所へ突撃していった。
★★★
予想通り水は冷たくて気持ちがよかった。
水面を背泳ぎで泳いでいると、ちゃぷちゃぷと水が揺れる音が頭に響いてくるのが心地よい。
「旦那様」
「ホルストさん」
「ホルスト君」
泳いでいると3人が近寄ってきた。
「おお、どうした」
「皆でビーチバレーをしませんか」
「ビーチバレー?」
「フソウ皇国で見つけたこの柔らかいボールを相手の陣地に投げ入れて、相手が落としたら得点になるという遊びです」
「いいな。やってみるか」
というわけで、急遽ビーチぼーえう大会が始まった。
組み合わせは俺・エリカチーム対ヴィクトリア・リネットチームだ。
これは素晴らしい勝負だった。
なにがって、もちろん勝負の行方などではなく、結構激しい運動だったので、その見えそうになるのだ。
胸とかあそことか、彼女たちのきわどい部分が。
本当堪らなかった。ただ泳ぐよりもずっと思い出に残る時間だった。
勝負?
俺たちの勝ちだった。ヴィクトリアはどんくさいし、リネットさんの力任せの攻撃は単調で読みやすかったからだ。
こうして、俺たちは砂漠のオアシスで楽しいひと時を過ごすのだった。
★★★
その晩は、オアシスの側にキャンプを張った。
砂漠の夜はよく冷える。
俺たちは焚火を焚き、その周囲に集まる。
「きれいですね」
エリカが呟く。夜空に輝く星々のことだ。
しばらく談笑しながら星の鑑賞会をする。
やがて眠気が脳を襲ってくると、俺たちはテントに入る。
左から、俺、エリカ、ヴィクトリア、リネットさん順に横になり砂漠の寒さに備えて身を寄せ合って寝る。
昼の暑さで体が疲れ切っていたのだろう。ぐうぐう熟睡した。
そして明け方。
ゴゴゴ。
突然の地面の揺れで目が覚めた。
「何だ?」
俺たちは飛び起きると、急いで装備を身に着け、テントの外へ飛び出した。
「サンドウォーム?」
外に出ると、砂漠の王者サンドウォームが暴れていた。
★★★
サンドウォームは砂漠に生息する芋虫型のモンスターだ。
普段は地中に潜んでいて、旅人などの獲物が通りかかると急に地中から這い出てきて獲物に襲い掛かるという特性を持つ。
「しかし、でかいな」
目の前に現れたサンドウォームのことだ。
俺が聞いた話ではサンドウォームはでかいのでも7,8メートルくらいの大きさだということだ。
「20メートルくらいはありますね」
だが、エリカの言う通り目の前のサンドウォームは最大サイズのそれの倍くらいの大きさがあった。
「もしかして、ここのボスじゃないかい?」
なるほど。
リネットさんの指摘に俺は頷く。
目の前のサンドウォームがここのボスだとするとこの大きさも納得がいくというものだ。
「みんな、行くぞ」
俺たちは気合を入れ直し、サンドウォームに立ち向かうのであった。
★★★
「『水刃』」
開始早々エリカが先制の魔法を放つ。
『水刃』は水に圧力をかけて飛ばすことで敵を切断する魔法だ。
『風刃』の魔法と似たような魔法だが、あちらは風属性でこちらは水属性だ。
それで、サンドウォームは水属性が弱点だと言われている。
だから、エリカもこの魔法を使ったのだろう。
バタン。バタン。
案の定、『水刃』の魔法を食らったサンドウォームが痛みでのたうち回る。
緑の気味の悪い色の血液が斬られた個所から噴き出る。
「キシャ―」
サンドウォームが口から白い糸のようなものを吐き出す。
この糸のようなものは粘々していて、間違ってくっついたりすると、意図が絡まって身動きが取れなくなり大変なことになるのだ。
だが、エリカは落ち着いていた。
「『水刃』」
立て続けに魔法を放つと糸を迎撃し、糸を真っ二つに斬り落とす。斬られた糸はその場にポッと落ちる。
「『水刃』」
更にエリカは追撃の魔法を放つ。
「ピギャー」
エリカの魔法によって傷を増やされたサンドウォームが悲鳴をあげ、身を悶えさせる。
エリカ、さすがだな。というか、強くなり過ぎてない?
俺は思った。
激しい戦いを乗り越えてきたおかげで、エリカの魔法は威力、精度、発射速度とすべての面において素晴らしく上達してきている。
エリカがそんなことをするとは思えないが、夫婦喧嘩をしたときに魔法でも使われたら、俺もただでは済まなさそうな感じだ。
ただ、ヴィクトリアを最初に連れてきた時にナイフで襲い掛かられたことがあるので、絶対とは言えないな……。あの時のエリカの目をまだ俺は忘れていない。
うん、怒らせないように気を付けるとしよう。そうしよう。
「旦那様、今です!攻撃を!」
エリカの言葉で俺は我に返る。
そうだった。今は戦いの最中だった。
「『神強化』」
俺は魔法で剣に水の属性を付与する。
そして突撃する。
「うおおおおおお」
一気にサンドウォームに迫り、頭の部分を切り落としてやる。
ドサッ。
斬り落とされた頭は地面に転げ落ちる。
こういう虫型の魔物は生命力が強いと聞くが、サンドウォームも例外ではなく、頭を切り落としたにもかかわらず、まだ口や目がギョロギョロ動いている。
正直見ていて気持ち悪い。
「『天火』」
俺は多めの魔力を込めた『天火』の魔法をサンドウォームの頭めがけて放つ。
「ピキー」
短い断末魔の叫びを残して、サンドウォームの頭が灰となる。
「残りも片付けないとな」
見ると、頭を失った体の残りの部分も、けいれんを起こしているのか、バタバタと動き回っている。
「はああああ」
俺は残った体の方へ近づくと、体をバラバラに切り裂いてやった。
「『天火』」
「『火球』」
そしてバラバラにした体は俺とエリカの二人で、きれいに焼却処分したのであった。
★★★
サンドウォームを倒すと、すぐに異変が起こった。
「ホルストさん、見てください」
ヴィクトリアがオアシスの水面を指し示す。
すると、オアシスの水位がどんどん下がっていくのが確認できた。
しばらくそれを見守ると。
「遺跡ですね」
オアシスの湖底に、祭壇の様な遺跡が出現した。
「行くぞ」
「「「はい」」」
全員で言ってみると、祭壇の所に転移魔方陣があった。
「これで、このエリアもクリアというところか」
俺たちは転移魔方陣に入って、次の階層に向かった。




