第647話~満月の夜 ついに霊山の神域への道の扉が開く!~
妹の育毛剤のための薬草を採取して五日後。
「ホルストさん、目の前に雪で覆われた真っ白な山が見えます。あれがマウントオブスピリットではないですか」
御者台で俺の横に座っていたヴィクトリアが少し先に見える雪山を指さしながら、そう言ってはしゃぎ始めた。
ヴィクトリアが指さす方を見ると、真っ白な雪化粧をした険しそうな山が目の前にそびえたっていた。
俺は急いで地図を取り出して場所を確認する。その結果。
「確かにあそこがマウントオブスピリットらしいな」
「やっぱりそうですか」
どうやら目の前の山がマウントオブスピリットらしいことが確認できた。
念のため馬車の中に声を掛け、オルトロスを呼び出して確認してみると。
「はい、間違いありません。あそここそが霊山マウントオブスピリットです」
とのお墨付きをもらえた。
ようやくマウントオブスピリットに辿り着けたことにホッとした俺だったが、まだここはゴールではない。
ここは今回の旅の目的の開始地点に過ぎないのだ。
「お前たち、ここからが本番だ。気合いを入れろよ」
俺は仲間たちに声を掛けると、自分も気合を入れ直して再び馬車を進ませるのだった。
★★★
マウントオブスピリットに着いてから一時間後。
「ホルスト様。ここです。ここがマウントオブスピリットの神域に繋がる道の入口です」
オルトロスの案内で、山の神域に繋がっているという道の入口に着いた。
道と言っても目の前には切り立った岸壁が俺たちの行方を遮るようにそびえたっているだけで進めるような道はない。
多少特徴的なことがあるとすれば、崖の側に大きな丸い岩が一つあるだけだった。
本当にここに道があるのだろうか?
そう思ったオルトロスに聞いてみると。
「前にも言った通り、ここの道は満月の夜でないと道を示してくれません。今日はちょうど満月の日。夜まで少し時間があるのでお待ちください」
とのことだったので、夜まで待つことにする。
★★★
夜まではまだ時間があったので、皆で馬車の中でのんびりと過ごした。
それぞれが思い思いのことをして夜まで過ごした。
ちびっ子二人組は積み木で遊んでいた。
「ホルスターちゃん、立派なお城ができたね」
「うん、カッコいいよね」
二人は積み木で立派なお城を作っていた。
童話に出てくるようなデザインのお城で、親である俺から見ても、結構うまく作ったなと思わせる物であった。
二人はそんなお城を眺めながら。
「将来はこんなお城にホルスターちゃんと住みたいなあ」
「僕もだよ。銀姉ちゃん」
そんな風に将来を語り合ったりしている。
本当に仲が良い二人だな。
俺は二人を見ながらそんなことを思いつつ、二人がいずれ孫の顔を見せてくれるのを楽しみにするのだった。
ちびっ子二人が積み木をしている横では、嫁と妹たちがゲームをしている。
今日嫁たちが遊んでいるのは、前に海底の遺跡で見つけた『ヤキュウバン』とかいうおもちゃを使ったゲームだ。
よく知らないが、異世界でやっているヤキュウとかいうスポーツをモチーフにしたゲームらしい。
ヤキュウはボールを使ってやるゲームで数人ずつのチームでやるスポーツらしかった。
なので今回嫁チームと妹チームで競い合っているようだ。
「かっ飛ばせ!ヴィクトリア!、目指せ、ホームラン!」
「はい!頑張ります!」
「さあ、レイラ。ここを抑えれば私たちの勝ちよ。頑張ってね!」
「任せといて!」
現在の状況は九回裏。妹チーム四点、嫁チーム一点、嫁チームの攻撃の番。ツーアウト満塁の場面。ヴィクトリアがが妹の奴からホームランを打てば逆転という状況だった。
ヤキュウのルールはよく知らないが、今が緊迫した場面であるというのはよく分かった。
それで、肝心の試合の行方はというと。
「さあ、ヴィクトリアお姉さん。追い詰めましたよ。とどめです。食らえ!剛速球!」
「何の!負けないですよ!!」
妹が投げた球に対してヴィクトリアが思い切りバットで打ち返す。
カキーンという音と共にボールが飛んで行った方向は……。
「やった!ホームランゾーンに球が入りました!ワタクシたちの勝ちですね!」
「そんな負けた……」
ホームランのゾーンだったらしい。
どうやら嫁たちの勝ちのようだった。
「やったああ。ヴィクトリアちゃん、やるう」
「さすがですね」
「これでチョコチップクッキーは私たちのものですね」
勝った嫁たちは大喜びだ。
そして、喜びながら賞品のクッキーをおいしそうに食べていた。
一方の負けた妹チームはというと。
「残念だったね」
「また次頑張ればいいよ」
と、残念がりながら嫁たちがクッキーを食べるのを羨ましそうに見ていた。
若干かわいそうな気もしたが、まあ勝負なのだから仕方なかった。
そうやって嫁や子供たちが遊んでいる一方、俺はそれらを見学しながら趣味の武器の手入れをしていた。
俺の横ではオルトロスが「ZZZ……」と、寝息を立てながらグッスリと寝ている。
え?一人だけ遊ばなくてよいのかって?
そんなことはないちゃんと遊んでいるぞ。
ホルスターたちが積み木遊びをする前は、二人のおままごとに付き合っていたし、嫁たちのゲームには代打として参加しているしな。
ということで、俺としてもゆっくり休憩できたので、十分満足した時間を過ごせたのだった。
★★★
さて、そうこうするうちに夜になった。
さっきまで寝ていたオルトロスが起き上がると、皆にこう言った。
「さて、それでは儀式を始めたいと思いますので、皆様外の岩の所へ集合してください」
★★★
オルトロスに促され全員で断崖絶壁前の岩の前に集合する。
全員が集まったのを見たオルトロスが早速儀式を開始する。
「我が名は神獣オルトロス。さあ、精霊の棲まう山よ。我が前に道を開け!」
オルトロスがそうやって言葉を発すると、目の前の岩に魔法陣が浮かび上がる。
そして、それと同時に地響きが起こり。
「ホルストさん、見てください。目の前の断崖絶壁が割れて行きます」
ヴィクトリアの言うように目の前に立ち塞がっていた断崖絶壁が割れ、道ができて行く。
それを見てオルトロスが言う。
「さあ、ここが山の神域へ通じる道です。それでは進みましょう」
「よし!行くか」
オルトロスのその言葉に促され、俺たちは神域への道を進み始めたのだった。




