第637話~嫁たちとの作戦会議 霊山マウントオブスピリットへの冒険へ向けて~
さて、マウントオブスピリットに関する資料も集まったことだし、会議を始めることにする。
まずは集めてきた情報の整理から始めるとする。
「俺たちが今回受けた依頼で出てきたルッフとかいう魔物。どうやらマウントオブスピリットからやって来たらしい。そんな所の魔物がこんな所までわざわざ狩りにくるというのもおかしい話だ。だから、今その霊山で何かが起こっているのだと思う。なので、今回は霊山マウントオブスピリットでの活動方針ついて会議を行う。異論はないか?」
「異議なし!」
特に異論はないようなので、話を進めて行くことにする。
「それじゃあ、ヴィクトリア。お前たちが集めてきた地誌の情報を話してくれ」
「ラジャーです」
今回エリカたちが図書館で集めてきた情報を説明してくれるのはヴィクトリアだ。
ヴィクトリアも今回エリカと一緒に地誌を頑張って読み込んでくれたらしく、そのおかげで他の資料も並行して調査していたエリカよりも地誌の内容に詳しくなったようだ。
だからこうして今回説明することになったのだった。
ということで、期待しているから頑張って説明してくれよ。
★★★
どうもヴィクトリアです。
何かエリカさんにマウントオブスピリットの説明を任されてしまいました。
ワタクシにうまく説明できるのかとちょっと緊張しています。
しかし女は度胸。
ここは頑張って説明して、皆の期待に応えようと思います。
★★★
さて、そういう事で説明を開始した訳ですが、まずは地理の概要から説明したいと思います。
「え~とですね。今度ワタクシたちが向かうマウントオブスピリットなのですが、結構自然が厳しい場所のようです。とても寒い場所で真夏でも雪が残っている場所があるらしいです」
「ふ~ん。夏でも雪があるんだ。それは寒いね」
ワタクシの話を聞いたリネットさんが、聞くだけでも寒くなったのかブルッと震えます。
リネットさんの気持ち、ワタクシもわかります。
ワタクシも寒いのは苦手ですからね。
ですからエリカさんと二人で地誌を要約している時も、寒いのは嫌だなあと、秘かに思っていたりしました。
それはともかくワタクシの説明はこれで終わりではありません。
「はい、寒い所みたいですが、問題はそれだけではありません。ここには高い山が連なるようにそびえたっていて、道も悪く移動するのがかなり困難なみたいです」
そう。エリカさんと読んだ地誌によると、ここは通行が非常に困難な場所のようなのです。
ですから移動はとても大変そうなのでした。
ホルストさんがワタクシの話を聞いて渋い顔になります。
「そうか。そんなに険しい山々なのか。だとしたら準備をしっかりして行かないとな」
そんなことを呟きながら、凛々しい顔と真剣な眼差しで、色々と移動方法などを考えているみたいです。
この辺のホルストさんの行動の早さ、それに対する対応力の高さ。
とても頼り甲斐があって、男らしくてワタクシの好きな所です。
本当こういう時のホルストさんを見ていると惚れ直しちゃいそうです。
おっと、今は説明中でしたね。説明を続けましょうか。
「まあ、地理的には今言ったように厳しい環境の土地のようです。それで、この厳しい環境の山々には強大な力を持つ精霊がいるみたいです」
「精霊?ヴィクトリアさんが使役しているようなのですか?」
ワタクシの説明に対してネイアさんが質問してきたので、ワタクシは調べてきたことを答えました。
「そうですね。ワタクシが使役しているのと同じ精霊には違いないようですが、有している力は大分上みたいですね。これを見てください」
そう言いながら、ワタクシはホルスター君が見つけてきた絵本を見せます。
「この絵本にはこう伝承が書かれています。『山に住まう精霊。その力は大地を割り、山を崩し、その速き事一夜にて大陸を駆け巡る。その聖なる力は自然を支配し、砂漠を豊かな大地に変え、常夏の島を極寒の島へと変えてしまう事、容易き事なり』」
「ふむ、その伝承を聞く限りではその精霊は強大な力を持った存在のようですね。山に行ったからと言って会えるかどうかわかりませんが、もし遭遇した時のことは考えておくべきですね」
ワタクシの話を聞いたネイアさんは、ウンウンと頷きながら対応を考えているようです。
ワタクシもネイアさんのその考えには賛成です。
謎の強大な力を持った精霊。
悪しき存在ではないと思いますが、何があるかわかりません。
だから遭遇した時のことは考えておく必要があると思います。
何なら遭遇した時に仲間にすることとかも考えておくべきでしょうね。
ワタクシたちはマウントオブスピリットについては不案内のですから、精霊の力を借りることができれば、とても心強いですからね。
十分考慮の余地のある話だと思います。
さて、簡単ながらワタクシの説明はこれで終わりです。
後はとても頼りになるホルストさんが話をまとめてくれると思うので、お願いすることにします。
★★★
ヴィクトリアの説明が終わったので、次は俺たちが集めた情報を披露する番だ。
とはいっても、俺たちの資料は冒険者たちの体験談や戦った魔物の記録が中心なので、冒険上の注意点といった参考にはなるがわざわざ口頭で説明するまでもない内容の話だった。
なので。
「エリカとヴィクトリアは俺たちがもらってきた資料を読みながら、意見があったら言ってくれ」
と、資料を二人に回し読みしてもらうことで説明に変えることにする。
あ、一つ言っておくと、リネットとネイアはもう資料を読んでいるから内容は把握済みだぞ。
さて、そんな訳でエリカたちが資料を読み終わるころを待って、大体十分くらい時間があった、いよいよ今後の方針について意見を話しあうことにする。
まず、最初に意見を言って来たのはエリカだった。
「旦那様。今回行く場所はとても寒い場所です。夏でも雪が残っているくらいですからね。となると、冬が近い今の季節、すでに目的地の山はかなり寒くなっていると想像できます。今読んだ冒険者たちの体験談にも寒さ対策は重要だとありました。ここは冬用の装備をきっちりと揃えて行くべきだと思います」
確かにその通りだと思った俺はこう答えた。
「そうだな。エリカの言う通りだ。暖かい防寒具を買い揃えて行くべきだな」
「服もそうだけど、野営道具も断熱効果が高くて頑丈なのを買って行こうよ。今使っているのも悪くないけど、そんな寒い山なら強い風が吹いているかもしれない。だからそういった強い風に耐えられて、かつ断熱効果が高くて寒さをしのげる野営道具が欲しいな」
「うん。リネットの言うことは正しいよ。是非そういう装備を買って行こうな。他に意見はあるか?」
「はい」
次に意見を出してきたのはネイアだった。
「そんなに移動が困難な場所なら移動手段もしっかり確保しなければならないと思います。場所の車輪に滑り止めなどの悪路をしっかりと走れるような装備やパトリックちゃんにも厳しい環境に耐えられるような装備を調えるよ必要があると思います」
移動手段の強化か……。それは確かに俺も先ほどから考えていたことだ。
俺も色々と頭の中で案を出していたが、それよりもネイアの提案の方が実効性がありそうだ。
という訳でネイアの提案も採用だ。
「よし。それじゃあネイアの案も採用して馬車とパトリックの装備も買おうか。他には?」
「はい、は~い」
と、元気そうに手を上げたのはヴィクトリアだった。
「何かあるのかヴィクトリア」
「は~い。今回寒い所へ行くんだったら、体が温まるような暖かなるような食べ物を持って行くべきだと思います。冒険者たちの体験談にもいつでも温かくなれるような食べ物を樹火しておくのが望ましいってありましたし。それで、そういう目的なら、お酒とか暖かいスープとかがいいと思います。ワタクシの収納リングならスープも暖かいまま収納して置けるので、ある程度作って行きましょう」
何を言うのかと思ったら、食べ物の話だった。
本当、こいつは食べ物に関してはこだわりが強い奴だ。
ただ、寒い時にすぐに体が温まるような食べ物を飲み食いできるようにしておくのは悪い話ではない。
だからこの案も採用だ。
「ヴィクトリアの言う事にも一理あるな。確かに体を暖める手段は持っておくべきだな。よし。じゃあ、お酒を買って、スープも作り置きしていつでも食べられるようにしておくか」
「はい、是非そうしましょう」
「他に何かあるか?」
「……」
俺の質問に対して、これ以上の意見は出てこなかった。
ということで、これで会議は終了だ。
「さて、それじゃあ、討伐依頼から帰って来て少し疲れていることだし、一日休憩を挟んで、明後日にでも買い出しに行くとするか。皆もそれでいいか?」
「「「「はい」」」」
という方針で意見はまとまった。
「さあ、それじゃあ。俺たちも酒でも飲んで楽しむとしようか」
そして、その後は嫁たちと酒を飲みながら楽しく過ごして、夜も大分良い時間になってから寝たのであった。




