第632話~獣人の国で情報収集するついでに依頼を受ける~
警備隊に偽薬屋の件を通報してから数日後。
俺達は妹のパーティーと一緒に獣人の国へとやって来ていた。
「ここが獣人の国?初めて来たけど、本当に獣人が多いんだね」
獣人の国の王都ブレイブの入口で、妹の奴がそうやって初めて来た獣人の国にはしゃいでいた。
まあ、俺も最初来た時はそう思ったから妹の気持ちはよく分かる。
ただあまりキョロキョロするんじゃない。
田舎者だと思われるだろうが!
ということで。
「ほら。レイラ。さっさと目的地へ行くぞ!」
「え~もうちょっと町を見ていたいよ」
「それは後でもできる。とりあえず荷物を置きに行くぞ」
「は~い」
俺は妹の腕を引っ張って目的地へと急ぐのだった。
★★★
俺達はとりあえずの目的地であるブレイブの町のヒッグス家の商館へと来ていた。
ここは前にも泊ったことがある場所でネイア本来の職場だ。
今はエリカのお父さんの許可をもらって俺たちと共にプラトゥーンを追っているが、本来の職場はここなのだ。
そんな訳で、商館へ着くと同時に俺とネイアの二人で支配人であるコッセルさんに挨拶に行った。
「コッセルさん、お久しぶりです」
「支配人、ご無沙汰しています」
「やあ、ホルスト様。それにネイア君、よく来てくれたね。会長から聞いている大事な仕事の方は順調かい?」
「はい、順調ですよ」
「そうか、それは良かった。早くそっちの仕事が終わってネイア君がまたここで働いてくれるようになるのを楽しみにしているよ」
「ええ。その時は俺が家からネイアを送り迎えするので、よろしくお願いします」
予定としてはネイアがここの仕事に復帰したら俺が毎日転移魔法でネイアを家から送り迎えするつもりなのでそう言っておいた。
さて、挨拶が終わった後は宿舎に案内してもらった。
ここは前に来た時にも使わせてもらっているので、気分的にゆっくりできるのだった。
そんな訳で。
「今日はここでのんびり休んで、明日から行動開始だな」
「異議なし!」
ということで話がまとまり、その日はのんびりと過ごしたのだった。
★★★
その翌日。
「旦那様、それでは行ってきます」
朝食を食べた後、エリカとヴィクトリア、それにちびっ子二人が出かけた。
行き先は図書館だ。
前にフソウ皇国の図書館で地誌を見つけて『静かなる谷』の情報を調べてきたように、ここの図書館で情報を入手する予定なのだ。
エリカが主に探すはずだが、一人では手に余るはずなのでヴィクトリアが手伝う予定だった。
ちなみに子供たちがついて行くのは。
「僕、本を読みたいな」
「銀も読みたいです」
と二人が本を読みたがったからだ。
この町の図書館には子供向けの絵本も置いているのでそれを読みたいのだと思う。
「行ってらっしゃい」
そして、そんな風に四人を見送った俺たち残りのメンバーは。
「それでは行くぞ」
俺達の用事をこなすために出掛けるのだった。
★★★
俺達が出かけたのはブレイブの町の冒険者ギルドだった。
ここへ来たのはギルドマスターのリングストンさんに挨拶して、適当に依頼でも受けて友好関係を構築して、今回の目的地である霊山の情報を得るためだった。
え?以前に大きな仕事を受けているから、友好関係の構築ってすでにできているんじゃないのかって?
そうかもしれないが、依頼を受ける理由はもう一つある。
「レイラ。今回の依頼。お前たちのテストも兼ねているからな。しっかりやれよ」
「わかっているわよ。お兄ちゃん」
それは妹たちのテストだ。
今回妹の奴は育毛剤を作ってほしくてついてきたわけだ。
それで、ヒッグス家の商館で問題の薬草の在庫を調べてもらったところ。
「すみません。ないです」
とのことだった。一応周囲の薬問屋にも問い合わせてもらったが、そちらも。
「どこにもないですね」
という結末になったのだった。
ただ妹の奴は今すぐにでも育毛剤が欲しいらしかった。
そこで。
「その薬草というのは俺たちが行く霊山の近くに生えているらしい。ということで、薬が欲しいんだったらお前たちもついてくるか?ただし、ついてきた以上は霊山の探索が終わるまで帰れないぞ。それでもいいか?」
「私はいいわよ。みんなも私について来てくれる?」
「「「いいよ」」」
といった感じで妹のパーティーと話がまとまり、妹たちも俺たちについて霊山に行くことになったのだった。
とはいえ、妹のパーティーに神聖同盟と戦ってもらうつもりはない。
妹たちの実力では危険すぎるからだ。
なので。
「言っておくけど、ついてくる以上お前たちにも仕事をやってもらうぞ。お前たちの主な仕事は食事作りなどの雑用係だ。霊山の探索は俺達でやるから、お前たちは雑務をこなしてくれ。もちろん雑用仕事をした分の給料は払うし、冒険途中で手に入れた素材の売却代金とかは少し分けてやるからな。この条件でいいか?」
「うん、いいよ」
という条件で妹たちを連れて行くことにしたわけだが、その前に一応確かめておく必要があった。
「もう一つ言っておくと、霊山ってとても危険らしいからついてくるだけでも危ないらしいんだ。お前たちが魔物との戦闘に巻き込まれる可能性も十分にある。だからお前たちがついて来ても大丈夫か、ギルドの仕事を受けてテストするからな」
そんな訳で、今回ギルドの依頼を受けるのには妹たちのテストという意味合いもあるのであった。
★★★
さて、ギルドのやってきた俺はリングストンさんに面会を申し込んだ。
「ホルスト様。ギルドマスターがお会いになるそうです。こちらへどうぞ」
以前のこともあってリングストンさんはあっさりと会ってくれることになり、リングストンさんの部屋へと通される。
「リングストンさん。お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
「ホルスト殿こそ、お元気そうですね。久しぶりにこうして会えてうれしいです」
そうやって挨拶を交わしてから本題に入る。
「ところで、ホルスト殿。本日はどのようなご用件でいらっしゃったのですか?」
「実は今度獣人の国の北にあるという『マウントオブスピリット』という霊山に行くことになりまして。そこの情報を集めようと思ってギルドに来たのです」
「『マウントオブスピリット』ですか?確かあそこはとても険しい山で、獣もあまりいないような場所だとか聞きますね」
「そんなに険しい山なのですか?できればもっと詳しい情報を聞かせてもらえないでしょうか」
「もちろん、いいですよ。……と言いたいところだけど、実は私もあまり詳しいことは知らないんですよね」
「そうなんですか。それは残念です」
どうやらリングストンさんも霊山についてはそう詳しくないようだった。
その答えを聞いて俺は残念な気持ちになったが、そんな俺を見て、リングストンさんがこう提案してくれた。
「まあ、そんなに残念がらないでください。私は詳しくないですが、冒険者ギルドにはその辺りについて詳しい者もいるはずです。ホルスト殿には以前にもお世話になりました。そのお礼と言っては何ですが、私が自分の権限を使ってその辺の情報を集めましょう」
「本当ですか!是非お願いします!」
リングストンさんが情報収集をかって出てくれたので、俺は是非お願いすることにした。
「もちろんです。ただ少し時間がかかりますよ。二、三日ほど待ってください」
「はい。待ちますよ。何だったら、その間暇なので、何かギルドの仕事とかあったら受けますよ」
「ほう。ホルスト殿が依頼を受けてくれるのですか。でしたら、一つ是非やってもらいたい依頼があるのです。少し難しい依頼で誰も受けてくれないのです。どうかやってくれませんか」
「それは構いませんよ。どのような依頼でしょうか?」
「実は……」
その後、リングストンさんから依頼の詳細を聞いた俺は結局その依頼を受けることにし、すぐさまギルドを出て、依頼の場所に向かうのだった。




