第629話~パトリックの世話をしたご褒美に妹を食事に誘うと……~
セイランの村を離れ、ノースフォートレスの町へ帰って来た。
「やあ、お久しぶり」
「ホルストさん、こんにちは」
知り合いの町の門番に挨拶して町の中へと入って行く。
とりあえずは家へ帰ることにする。
途中。
「今日はご飯を作るのが面倒くさいことないですか?久しぶりに近くのお総菜屋さんで買って帰りましょうよ」
ヴィクトリアがそう言い出したので、近所のお総菜屋さんに行くことになった。
総菜屋に着くなり、皆が買い物を始めた。
「ここのサンドイッチおいしいんですよね」
そう言いながらヴィクトリアは嬉しそうにタマゴサンドを買っていた。
確かにここのタマゴサンドはフワフワしておいしいから、ヴィクトリアが食べたくなるのもよく分かった。
「皆さん、今日は好きなものを買って食べましょう」
「はい」
他の嫁たちや子供たち、それに俺も食べたいものを買って店を出る。
買い物を終えて家に着くと、季節がら家の中が寒かったので少し準備をする。
「さて、それではこの前海底の遺跡で手に入れたこの魔力カーペットというのを使ってみますか」
と、この前海底火山の遺跡で手に入れた魔力カーペットとかいう魔力の力で暖かくなる暖房器具を床に敷いた。
このカーペットは思っていたよりもとても暖かく、他の暖房器具を使わずともこれだけでも十分に暖かくなった。
そのカーペットの上にローテーブルを置き、そこに買ってきたご飯を並べて食べることした。
「うん。暖かい部屋でのんびりと食事をすると、気分良く食べられてお腹がいっぱいになるな」
部屋が暖かいこともあり、気分良く食事をした俺たちは、十分に腹を満たすことができた。
そして、人間腹がいっぱいになると眠くなるものである。
ということで。
「この魔力カーペットは非常に暖かくていいですね。銀ちゃんもそう思うでしょ?」
「はい、ヴィクトリア様」
と、ヴィクトリアと銀がカーペットに寝たのを皮切りに他のみんなもカーペットの上で寝ることになり、そのまま午後までゆっくりするのだった。
★★★
午後になって一休みできた俺たちは妹の所に向かった。
「旦那様、レイラさんたちもパトリックの世話を頑張ってくれたようですし、お礼に食事にでも連れて行ってあげたらどうですか」
と、エリカが言い始めたからだ。
確かに帰った時にパトリックの様子を見に行ったら、パトリックは毛のツヤもよくとても元気そうにしていた。
これは妹たちがきちんとパトリックの世話をしていた証拠であった。
だからエリカも妹たちにご褒美としてご飯を食べさせてやろうという気になったのだと思う。
エリカってきちんと仕事をすればちゃんと報酬を支払う真面目なタイプだからな。
こういうきちんとした真面目な子が俺の嫁なのは本当にありがたいことだと思う。
さて、そうと決めたことだし、早速妹に会うとするか。
★★★
その日の夕方ごろ、俺たちは冒険者ギルドに行った。
実は一度妹たちの家に行ったのだがいなかったので、多分ギルドの仕事でも受けているのっだろうと踏んで、その帰りを待ち伏せようと、ギルドに行ったのである。
「ギルドの職員さんたち、お久しぶりです。これお土産です」
「ありがとうございます」
そうやってギルドの職員さんにお土産を渡し、ついでに仕事から帰って来た冒険者の子たちにも「これ、食っていいぞ」と、お土産を渡しながら待っていると。
「ホルストさん。妹ちゃんが帰ってきましたよ」
と、ヴィクトリアが妹たちが返ってきたのに気がついたので、早速声を掛けた。
「よお、レイラ。元気だったか?」
★★★
俺に声を掛けられた妹は、こう言葉を返してきた。
「あ、お兄ちゃん。帰って来てたの。何の用?」
「実は、な。お前たちを飯に連れて行ってやろうと思って来たんだ。ほら、お前たち、パトリックの世話ちゃんとやってくれていただろ?だからそのお礼に美味しい飯を食わしてやろうと思うんだが、どうだ?」
「そうなんだ。ありがとう。もちろん、行くよ」
食事に誘われた妹の奴はとても喜んだ。そして。
「ギルドに依頼の報告してくるからちょっと待っててね」
と、ギルドの受付に飛んで行った。
しばらくして、報告が終わった妹が帰って来ると、そのまま受付を出て、下り階段を降りてギルドから出ようとした。
そして、事件はその時起こった。
★★★
妹の奴が先陣を切って階段を降りた。
美味しいただ飯を食えると聞いた妹の足取りは軽く、ダンスを踊るような軽快なステップで階段を滑るように降りて行った。
降りて行ったのだが……喜びのあまり妹の奴は足元に注意を払うのを怠っていた。
「ぎゃっ」
あまりにも速く降り過ぎたために、ものの見事に階段を踏み外したのだ。
ドッタンバッタンという音を残して妹の奴は階段の下に落ちて行った。
それを見て、妹のすぐ後ろを歩いていた妹の仲間のマーガレットが妹に駆け寄り声をかけた。
「レイラ、大丈夫?」
「うん、何とか。お尻を強く売っちゃったけど、傷とか出血とかは無いみたい」
どうやら転んだものの、妹の体に大した怪我はなかったようだった。
それを聞いた俺たちはホッとしたものだったが、エリカが怪我以外の異変に気がついて声をあげた。
「レイラさん。その髪、どうしたのですか?」
「え?髪?」
エリカに指摘された妹の奴が自分の頭を触る。すると。
「げっ。ウィッグが取れちゃったの!」
なんと妹が被っていたウィッグが取れ、ベリーショートスタイルの妹がそこにいたのだった。
この髪型は前に出会った時よりも短かった。
前にパトリックを預けに行った時、妹の髪の毛は耳にかかるくらいには伸びていた。
それが今は男のようなスッキリとしたベリーショートである。
髪の毛を伸ばすとかいつも言っていた妹がどういう経緯でこうなったのだろうか。
しかも切っただけではなく、ウィッグでそれを隠そうとしているなんて……こいつ絶対また何かやらかしやがったな。
その考えはエリカも同じだったようで。
「レイラさん。また髪の毛が短くなりましたね。しかもそれを隠そうとか、何か事情がありそうですね。聞かせてもらえますか?」
「はい」
「まあ、立ち話もなんですから、とりあえずあなたの家へ行きましょう。そこで聞かせてもらいますよ」
「はい」
エリカに事情を聞かれた妹の奴は観念したのか、そう短く返事をすると、エリカの指示に従い、渋々家へと向かうのだった。
さて、これから先妹の奴、エリカにどう問いつめられるのだろうか。
それは神のみぞ知るところである。




