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閑話休題90~その頃の神聖同盟 プラトゥーンクローン愚痴る~

 ヴァレンシュタイン王国『死出の森』の中。


 この地にある結界で隠蔽された神聖同盟の本部の一室。

 この部屋ではプラトゥーンのクローンがいつものように自分の実力を発揮できるだけの優秀なクローン体が完成するのを眺めていた。


「さあ、我がクローンよ。早く完成するのだぞ」


 そう声を掛けながら、培養液に入ったクローン体を眺めてにやついた顔をしていた。

 その様子は生まれたばかりでベッドでスヤスヤ寝ている赤子を眺める親のようで、ある種の微笑ましさすら感じさせるものであった。


 まあ、そんなプラトゥーンクローンの気持ちはわからなくもない。

 ホルストとクリントの手により前のクローンが破壊されて以来、彼にとっては目の前のクローンが完成する事だけが唯一の楽しみなのだから。

 だから一日中こうやって作成中のクローン体を見ても飽きることを知らないのだった。


 ただ、世の中というのは常に動いて行くものである。

 それはプラトゥーンのクローンにとっても例外ではない。


 バンッ。


 静かに培養液に入っていたクローン体を眺めていたプラトゥーンクローンの耳に、突然大きな扉を開ける音が響いてきた。

 驚いたプラトゥーンクローンがそちらに振り向くと、そこには顔色を変えた部下が立っていて、こう言うのだった。


「我が神よ。ご報告があります」


★★★


「まあ、座れ」


 部下の報告を聞くにあたって、プラトゥーンクローンはまず部下とともに椅子に座った。

 というのも、部下の表情を見るにあまり良くない知らせだという予感がしたので、立ったまま聞くと自分でも感情を抑えられなくなる気がしたので、座れば多少マシかなと思い、座ったのだった。


 ただその配慮は全くの無駄だった。


★★★


「で、どのような報告だ?」

「はっ。それが『静かなる谷』にあった結界への魔力供給装置が破壊されてしまいました」


 やはり嫌な知らせだったか。


 自分の予感が的中したプラトゥーンクローンははらわたが煮えくり返るような感覚を覚え、たちまち胸の中が怒りの感情で満たされる。

 プラトゥーンクローンはその怒りをまったく隠そうともせず、負の感情が混ざった鋭い声で部下を詰問する。


「『静かなる谷』の魔力供給装置が破壊されただと!それだけではわからん!もっと具体的に説明せよ!」

「(ひっ、)は、はい」


 自分たちの主の剣幕ににビビりまくりの部下は、ビビり過ぎて悲鳴をあげそうになったが、何とかそれをこらえて、かろうじて返事をした。

 そして、聞かれたことの説明を始めた。


「はい。数日程前、魔力供給装置を設置してある施設から連絡がありまして、施設の近くに設置してあった地脈エネルギー供給用のダムから突然地脈のエネルギーの供給が途絶えた、と」

「何だと‼ダムからのエネルギー供給が途絶えただと!一体どうなっているのだ!」


 ダムからのエネルギー供給が途絶えたと聞いたプラトゥーンクローンは怒りに打ち震え、部下に更なる説明を求める。


「わかりません。ダムにも連絡したようですが、返信はなかったようです」

「それではどうなっているかわからないではないか。施設の連中は何をしておるのだ!」

「それが、一応調査団を編成して調査するという連絡はあったのですが、その直後に施設の連中とも連絡が取れなくなりました。そして、静かなる谷からの魔力の供給も止まってしまいました」


 なんという事だ!


 部下の説明を聞いたプラトゥーンクローンはそう思った。

 あそこの装置はここ神聖同盟の本部を守る結界に魔力を供給する大切な装置。

 そこからの魔力供給が止まったとなれば、ここの結界もどうなるかわからない。


 プラトゥーンクローンは部下に更なる説明を求める。


「施設からのエネルギー供給が途絶えただと?一体どういうことなのだ!」

「施設からのエネルギー供給が途絶えると同時に、施設から魔力を送るための転移魔法陣も消えていますので、おそらく施設が破壊されたものかと」

「破壊された、だとと?そんなバカな!あそこには私が技術供与して作らせた強力な魔竜の像を守護者として置いていたはずだが、それはどうなったのだ?」

「わかりませんが、多分やられたのではないのかと」

「やられた。一体誰がそんなことを……はっ!」


 そこまで言ったところでプラトゥーンクローンはあることに思い至る。


「もしや、前に私の前に現れたクリントの手下どもの仕業ではないのか。いや、それ以外に考えられまい。何せあいつらは弱っていたとはいえ、私のクローンを退けるくらいの力は持っているからな。きっとそうに違いない。お前はどう思う?」

「はい。我が神のおっしゃる通りではないかと思います」

「ふうむ」


 部下の答えを聞いてプラトゥーンクローンは考えた。


 どこでかぎつけけたのかは知らないが、あそこの施設を破壊したというのなら連中はここの本部のことも知っているだろう。

 本当なら本部の場所を移したいところだが、下手に場所を移すと培養中のクローンの性能に影響を及ぼす可能性もある。

 となると、クローンの培養が完了するまでここを守り切らなければならない。


 プラトゥーンクローンは部下に尋ねた・


「それで、静かなる谷の施設が破壊されたとしてここの結界は大丈夫なのか?」

「はい。ここの地下には巨大な魔石を設置しかなりの魔力を蓄えておりますので、四つある魔力供給施設が一つや二つ消えたくらいでは、すぐに結界が消えることはありません」

「ふむ、そうか。だが、クリントの手下どもは中々やる連中だ。すべての施設を探し出して破壊しに来るだろう。全ての施設が破壊された場合、結界はどうなる」

「さすがにそううなっては結界は持たないと思います」

「そうか」


 部下の答えを聞いたプラトゥーンクローンはしばらく考えて、部下にこう指示を出した。


「そういう事ならば、他の施設の警備を厳重にせよ!」

「ははっ」


 プラトゥーンクローンの指示を受けた部下はすぐに主の命令を実行っすべく部屋を出て行った。

 部下が出て行き、再び一人になったプラトゥーンクローンは窓の外から外を眺め、こうつぶやくのだった。


「あと少し。あと少しでクローンが使えるようになる。そうすれば……」


 そこまで言ったところでプラトゥーンクローンはしゃべるのを止め、椅子に座ると目を閉じるのだった。

 その胸の内に自分の復活への執念の炎を燃やしながら。

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