第618話~セイラン 神聖同盟の装置への同行を申し出る~
ダムの破壊が完了したので、ベースキャンプを撤去し、救出した蛇人たちを連れてセイランの村へと戻った。
まあ、救助した蛇人には女性や弱っている人も多いからな。
一応既に治療はしているとはいえ、ちゃんとした場所でしっかりと休ませてやりたかった。
それゆえ、このような措置となったのだ。
「『空間操作』」
ということで、魔法で転移門を作り出し、セイランの村へと一気に移動したのだった。
★★★
俺達がセイランの村に到着するとたちまち大騒ぎになった。
「お~い!若様が同胞たちを連れて帰ってきたぞ!」
「同胞たちは腹を空かせているらしいぞ。飯の用意をしろ!」
「同胞たちの中には弱っている者もいるぞ!弱っている者は族長の家の広間や道場に布団を敷いて寝かせろ!それ以外の者は、とりあえずテントを立てて収容しろ!」
といった感じで、のどかな村が急に大忙しとなった。
助けた蛇人は軽く三百人を超えていたので、炊き出しなどの準備は大変なようだったが、幸いにも他の村からも応援が来ていたらしく、それらの用意は順調に行われたようだった。
そうやって村人たちが助けた蛇人たちの世話をしている間、俺達や戦いに参加した蛇人たちは休ませてもらっている。
俺達は宿舎で寝かせてもらったし、戦った蛇人たちも村の空きスペースにテントを張り休んでいる。
徹夜で仕事をしていたから体力的にきついので、ここはさすがに休ませてもらうことにする。
「お帰りなさい、パパ」
「お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま」
宿舎ではホルスターと銀が出迎えてくれた。
死ぬほどうれしかったが、今は相手にする気力がなかったので。
「ホルスターと銀は良い子にしてたか?ここの子たちと仲良く遊んでいたか?」
「「うん」」
「そうか。それは良かった。本当なら一緒に遊んでやりたいが、パパたちは少し寝たいからまたここの子たちと遊んでもらいなさい」
「「うん、わかった」」
そう二人に言い聞かせると、二人の頭を軽く撫でてから遊びに行かせた。
疲れて遊んでやれないとか親としては情けないが、後でたっぷりと遊んでやるつもりだからこれで我慢してもらうことにする。
とりあえず今は休憩だ。
★★★
半日ほどで目が覚めた。
周囲を見るとすでに空は茜色に染まっていた。どうやらもう夕方になったようである。
布団から出て居間の方へ行くと、すでに嫁たちは起きていて銀と一緒に食事の準備をしていた。
ホルスターは一人テーブルでおもちゃで遊んでいた。
「旦那様、起きられましたか」
「ああ、起きたよ」
「今食事の準備中なので、少しお待ちください」
俺が起きてきたのを見つけたエリカが声を掛けてきたので、そう返事をすると、ホルスターと遊んでやるために近づいて行く。
「ホルスター、パパと一緒に遊ぶか?」
「うん」
ホルスターは俺の遊びの誘いに喜んで返事し、俺たちは二人で食事ができるまで遊んだ。
久しぶりに親子水入らずで遊べてよかったと思う。
★★★
その後、食事が終わった頃、セイランがやって来た。今後の打ち合わせをしたいという事だった。
セイランはまず今回のお礼を言って来た。
「ホルスト。お前たちのおかげで同胞たちを助けることができたし、ダムを破壊することもできた。川の水量も少しずつ戻ってきているので、やがて村の泉も復活するだろう。これもすべてお前たちのおかげだ。蛇人を代表して、感謝する」
「そんなお礼を言われるようなことでもない。俺たちにとっても神聖同盟のダムは邪魔だったからな。俺達はやることをやっただけに過ぎないさ」
「それでもお前たちに助けられたのは間違いない。お礼を言わせてもらう。本当にありがとう」
そう言うと、セイランはぺこりと頭を下げてきた。
友人にこうやって改めてお礼を言われた俺は、何だか気恥ずかしい気分になりつつも。
「どういたしまして」
と、きちんと返事をして、礼儀は通しておいた。
さて、セイランがお礼を言い終えたので、話は本題に入って行く。
「それでホルストよ。お前たちはこれからどうするのだ。予定通り例の装置とやらを破壊しに行くのか?」
「もちろんだ。ダムを破壊して装置のエネルギー源を断つことには成功したが、装置は残っている。もし連中が再びエネルギー源を確保できたらまた装置が稼働し始めてしまう。そうなってはダムを破壊した意味がない。だから装置も必ず破壊するつもりだ」
「やはりそうか。あの技術者の話ではその装置には強力な守護者がいるという話だったが、それでも行くのか?」
「当然だ。いくら強力な敵が待ち構えていようが、行くつもりだ」
「そうか」
俺の絶対に装置を破壊するという発言を聞いたセイランは大きく頷くと、こう言って来た。
「ホルストよ。そのお前の旅に私も同行させてもらえないか?」
★★★
神聖同盟の装置の破壊にセイランが付いて行くと申し出てくれた。
非常に嬉しい申し出ではあるが、神聖同盟の装置のある場所へ行くのはダムへ行くのよりはるかに危険だ。
そんな場所にセイランを連れて行きたくないと思った俺は、この申し出を断ることにした。
「セイラン、お前の気持ちはありがたいが、それは止めておけ。結界を維持する装置は神聖同盟にとって本当に命綱なんだ。だから防衛体制もダムとは比較にならないくらい強力だと思う。そんな所にお前を連れて行く訳には行かない」
そうやって断ろうとする俺に対して、セイランはこう言ってあくまで同行を申し出てくるのだった。
「危険なのは百も承知だ。だが、それでも私は行かなければならない。お前たちは私の命を救ってくれた。それだけではなく、邪悪な人間たちにさらわれた同胞たちも助けてくれたし、お前たちのおかげで水もやがて戻って来るだろう。それほどのことをしてくれたお前たちに是非お礼をしたいんだ。それに何より……」
「何より?」
「友人が死地へ行こうとしているのを放って置くことなど私にはできない。私の腕ではお前たちの足手まといになるかもしれないが、お前たちもここの地理には不案内だろう。だから、せめてその装置の近くまで案内させてくれ。後生だ。私も一緒に行かせてくれ」
セイランがそうやって必至の形相で俺に頼み込んで来るものだから、俺の心も動いた。
セイランとは『静かなる谷』について以来ずっと一緒にやって来た。
ならばここは最後まで一緒にやろうじゃないか。
そんな気分になった。
だから俺はセイランにこう言った。
「言っておくけど、命の保証はできないぞ。それでもついて来てくれるのか」
「もちろんだ。是非お願いする」
「お前の覚悟はわかった。ならば一緒に行こう」
これで、話はまとまった。
こうして俺たちはセイランに道案内してもらいながら、神聖同盟の装置まで行くことになったのであった。




