第613話~ダムに魔力反応? ダムは何のために造られた?~
川を船で上って行き、ダムの近くに着いた。
ここからは船で行けないので徒歩で行くことになる。
まずは先遣隊として、俺と嫁たち、セイランとセイランの村の戦士団がダムに接近して様子をうかがうことになった。
「じゃあ、セイラン、行くか」
「ああ、行こう」
船を降り、手早く準備を調えた俺たちはすぐさま出発した。
★★★
歩いてダムまで半日ほどの所までやって来た。
もっと近くまで行ってもも良いのだが、相手に気づかれる可能性を考慮してこの位の位置で行動を開始することにする。
「ヴィクトリア。精霊たちを偵察に出してダムの様子を探って来い」
「ラジャーです。『精霊召喚 土の精霊 風の精霊 水の精霊』」
俺の指示でヴィクトリアが精霊を呼び出して偵察に放った。
ヴィクトリアに命令された精霊たちは音もなくダムへ近づいて行くとダムの様子を探り始めた。
まあ、偵察任務としてはこれだけでも良いのだが、俺としては直に自分の目で様子を探りたかった。
ということで。
「エリカ、頼む」
「はい、旦那様。『姿隠し』。『遮音』」
エリカに魔法をかけてもらい、姿を消してから俺は航空偵察に出たのだった。
★★★
上空から偵察すると神聖同盟が造ったダムは非常に大きく見えた。
あまり見たことがないような灰色の材料、後でヴィクトリアに聞いた話だとコンクリートという素材らしい、でできており長さは三キロくらいあり、それで川の本流をせき止めていた。
こんな水量の多い川これだけの建造物を半年という短期間で建造するとは、簡単なことではない。
そう考えると、神聖同盟の技術力の高さに改めて感心するのだった。
さて、ダム本体の観察はこのくらいにして、周囲を観察することにする。
周囲を観察してまず気がついたことは、ダムを守るためにかなりの数の神聖同盟の連中が見張りをしているという事だった。
「ダムの周囲に見えるだけでも二百人以上入るかな?」
ダムの周辺を警備している人数だけで二百人はいたので、結構な数がいると思う。
施設の中に待機している数を考えれば、もっとたくさんいることが考えられる。
さらに。
「ふむ。ダムの周囲ではたくさんの蛇人たちが働かされているな」
周囲には多分ダムの補強工事をしているのだろう。
神聖同盟の連中に鞭を打たれながら働かされている蛇人たちの姿も散見された。
中には立っているのがやっとの状態の蛇人たちも多くいて、ここがかなり過酷な労働環境の場所であるのが手に取るようにわかるのだった。
それらの人たちを見ていると助けてあげたい気持ちになるが、今それをやると神聖同盟の連中に完全に気付かれてしまう。
そうなると蛇人たちをどこかに隠されたり、最悪口封じのために殺されてしまい、全員を助けてあげられなくなってしまう。
そうなっては元も子もないないので、ひとまずここは我慢だ。
蛇人のみんな。必ず助けてやるから、もう少し辛抱してくれ。
そう心の中でつぶやきつつ、俺は一旦仲間たちの所へ帰るのだった。
★★★
俺が仲間たちの所へ帰ると、ちょうどヴィクトリアの精霊たちも偵察から帰って来ていた。
ということで、早速各々が偵察内容に対して報告し合うことにする。
俺はダムの造りや警備の状況、さらには蛇人たちの悲惨な労働環境について話した。
それを聞いてみんなが怒っている。
「「「「何と酷いことをする連中なのでしょうか!」」」」
俺の嫁たちはそうやって非常に腹を立てている様子だったし、セイランたち蛇人に至っては。
「おのれ、神聖同盟め!我らの同胞を奴隷扱いするとは!絶対許すまじ!」
と、怒りマックスで今にも殴り込んで行きそうな感じだった。
もちろんそんなことをされては計画が滅茶苦茶になるので。
「気持ちはわかるが、とりあえず落ち着け。今出て行ったら蛇人たち全員を助けるのが難しくなるぞ」
と、なだめてこの場を何とか収めるのだった。
こんな感じで俺の方の報告が終わったので、次はヴィクトリアの精霊たちの報告を聞くことにする。
★★★
「ワタクシの精霊たちの報告によると、ダムの中で巨大な魔力が発生しているとのことです」
ヴィクトリアがそんな報告をして来た。
ダムの中で巨大な魔力が発生している?
正直意味が分からない報告であった。
だって、ダムって水をせき止めて農業とかに使うために溜めて置くためのものだろ?
そこから何で魔力が発生しているんだ。
そう疑問に思ってしまったのだ。
と、ここで俺は考える。
そう言えば、そもそもの話、神聖同盟の奴らってなんでこんな所にダムなんか造っているんだ?
普通なら農地でも開拓しようとして造るんだろうが、上空から偵察した限りでは農地を開拓しようとした形跡は、一切見られなかった。
他に目的としては、蛇人を捕まえるための足掛かりとして、ダムを造って蛇人たちの力を弱めてから行動に移すといったようなことも考えられる。
だが、連中の力ならそんな回りくどいことをしなくても直接蛇人を捕らえに行った方が早い気もする。
だからこの線も無いような気がする。
本当、連中は何のためにダムなんか造ったのだろうか?
俺が悩んでいると、それまで黙っていたエリカがこんなことを言い始めた。
「ダムの中で魔力が発生しているのですか?となると、もしかして連中は水を利用して魔力炉を動かして魔力を発生させているのかもしれませんね」
魔力炉?一体それは何だ?
聞きなれない言葉に興味をそそられた俺は、エリカにさらに詳しい説明を聞いた。
★★★
エリカの説明によると、魔力炉とは次のようなものらしい。
「これは私の持っている魔術事典ヒエログリフに書かれていたことなのですが、この世には魔力炉というものが存在するのだそうです。この魔力炉を作動させると大量の魔力が発生するとのことで、かつてはこの魔力炉で作った魔力を使った魔道具や魔法であふれる魔法都市とかも存在したそうですよ」
「大量の魔力が発生するのか。それはわかったんだけど、それとダムに何の関係があるんだ?」
「これもヒエログリフに載っていたのですが、魔力炉を作動させる方法の一つに水の落差を利用した『水力発魔力』という方法があるそうです。だから神聖同盟たちはダムを造って『水力発魔力』を行っているのだと思います」
「なるほどなあ。エリカは賢いなあ。確かにそれなら連中が苦労してわざわざダムを造る理由にはなりそうだ」
こんな感じで連中がダムがつくった理由は大まかに推察できた。
となれば、後は……。
「後は連中がその魔力を何に使っているかが問題だな。それはエリカにもわからないよな」
「多分、魔力炉で発生した魔力を使って結界の装置を動かしているのだと思いますが、実際の所はどうなのか、分かりかねます」
「ふむ。ならば神聖同盟の誰かを捕まえてきて吐かせるのが手っ取り早いかな」
「そうですね。それは良い考えかもしれませんね」
「じゃあ、早速行動開始だ」
話し合いの結果、急遽神聖同盟の奴を捕まえてきて、そいつに魔力の使用目的を聞くことになった。
ということで、早速捕まえに行くことにする。




