第6話~オーク戦~
「作戦会議をするぞ」
「はい」
「俺とエリカの二人ならオークと正面からやりあっても勝てるだろうけど、不測の事態が生じる可能性もある。だから、待ち伏せして安全に倒そう」
「待ち伏せですか?」
「俺がやつらをおびき寄せるから、エリカは待ち伏せて攻撃してくれ」
「わかりました」
「後、火の魔法は使用禁止だ。肉が焦げたら売れなくなるし、森が火事になったら大変だからな」
「では、『風刃』の魔法で切り裂いて見せます」
「頼んだ」
俺たちは配置に着いた。エリカは木陰に隠れ、俺はこそこそとオークに接近する。
「エィッ」
俺はオークに石を投げつけた。
「グオッ?!」
見事に命中した。オークたちがこちらを向く。その目は怒りで溢れていた。
「よし、かかったな」
予想通り何も考えていないオークが追いかけてきたので、俺は罠の方へ逃げた。
途中、石をさらに数発投げ、オークを挑発するのも忘れない。
そうこうするうちに罠のところまでオークをうまく誘導できた。
「エリカ!今だ」
「『風刃』」
エリカは魔法を3発放った。風の刃が空を舞う。
1発目は1匹目のオークの首を半分ほど切断し、2発目は2匹目のオークの左腕を切り飛ばした後、胸を切り裂いた。3発目は外れた。だが残った1匹も混乱しているのか、立ち止まって右往左往しているだけであった。
「うおおおお」
それを見た俺は急いで取って返した。
ブスリ。残ったオークの心臓に剣を突きさす。
ズドン。オークは倒れた。
「はあはあ、これで終わりかな」
俺は呼吸を整えながら剣をしまおうとした。
その時だった。
★★★
その時だった。
胸を切り裂かれたはずのオークがむくりと立ち上がった。
「うぎゃああああ」
オークは怒っていたのだろう。自分を傷つけたエリカの方へ向かっていった。
「ひっ」
油断していたエリカの顔が恐怖に歪み、一歩も動けなかった。
そんなエリカに対してオークは思い切りナタを振り下ろした。
ドゴオオン。
「何とか間に合ったな」
俺はエリカとオークの間に割り込む。が、オークの勢いはすごく、ナタは半分ほど盾に食い込み、盾を持っていた俺は吹き飛ばされる。そのまま木に背中から激突する。
俺の盾に武器を喰われた形になったオークだが、戦闘態勢を崩したわけでなく、今度は右手を振り上げエリカに振り下ろそうとする。
「いやあ」
エリカはいつの間にか腰を抜かしてその場に座り込んでいた。そこに向かってオークがまさに腕を振り下ろそうとしたその瞬間。
グサリ。
「隙だらけだぜ」
俺が投げつけた剣がオークの喉に突き刺さった。
ドサリ。そのままオークは倒れる。
今度こそオークは絶命した。
「やったな。おっと、今はエリカだ」
俺自身は大したけがをしていない。ちょっと背中が痛む程度だ。それよりエリカの方が重要だ。
「大丈夫か」
俺はエリカに近寄って声をかける。
「はい」
だが、返事と裏腹にまだ震えて立てないでいる。俺はエリカの隣に座った。
「旦那様?!」
「いいから。俺がついているから。大丈夫だから」
俺はエリカを震えが止まるまで抱きしめることにした。
★★★
私の名は、エリカ・ヒッグス。いえ、もう結婚したからエリカ・エレクトロンですね。
エリカ・エレクトロン、素敵な響きですね。
本日、私はとんでもない大失態をしでかしてしまいました。
あろうことか獲物であるオークを始末しそこね、死にかけ、いえ、私のことなどどうでもよいのです。
愛しい旦那様を危険に晒してしまったのです。
まさに痛恨の極み。奥さん失格です。
優しい旦那様は、
「エリカが失敗したときのことを考慮し忘れていた俺が悪い」
と、言ってくれますが、私がもうちょっと慎重であれば、3匹とも首を切り飛ばして終わりだったはずなのです。
ああ、私のバカ!本当、どこかに消えてしまいたい!
「エリカ、どうしたんだ」
私が頭を抱えながらそんなことを考えていると、オークの解体を中断して旦那様が声をかけてくれました。
「いえ、なんでもありません」
「そうか?顔が青いようだが」
心配した旦那様が私の頬を触ってくれました。ゴツゴツした固い手です。
魔法の使えなかった旦那様は暇があれば武芸の鍛錬をしていました。固い手はその鍛錬で出来上がったものです。
男の子のゴツゴツした固い手は武骨で嫌いという同級生もいましたが、私は旦那様の固い手が好きでした。
旦那様の固い手は旦那様の努力の証であるし、何より私には頼もしく思えてならなかったからです。
今日だってその手で私を守ってくれました。
左手に持った盾でオークの一撃から私を守り、右手から放った剣で私を襲おうとしたオークを始末しました。
そうだ。私はまだそのお礼を言っていない。早く言わなければ。
「いえ、大丈夫です。それよりも、まだ言ってないことがあります」
「言ってないこと?なに?」
「オークに襲われた私を助けてくれて、ありがとうございます」
「ああ、そのことか。別にいいよ。俺にできる手段なんてあのくらいだから」
どうやら本当に気にしていない旦那様を見て、私は焦りました。
言葉だけでなく態度で示さなければ気持ちが伝わらないと思いました。
「いけません。けがまでして私を助けてくれたのでしょう?そんな簡単に済ませては私の気が済みません」
「けがと言っても鎧の上から背中を打っただけだし、ポーションも飲んだからもう痛みも引いたし」
「それでもダメです。お礼をさせてもらいます」
私は旦那様にしがみついた。
「これからいっぱいキスしてあげます」
まず王道の口からキスした。
次に頬、首、もう一度口と順番にした。
もうこのくらいで十分かな?私は口を離した。
「私の気持ち、受け取ってくれましたか」
「ああ」
旦那様は恥ずかしかったのか、顔を赤くし照れくさく笑った。かわいらしかった。
そんな旦那様の顔を見ていると、いつの間にか自分の中から負の感情がなくなっているのに気がつきました。
オークで失敗したことをいつまでも悩んでいるのなんて馬鹿らしいと思えました。
オークのことなんてもうどうでもよかった。
いや、やはりどうでもよくない。オークのことを反省して次に活かさなければならない。
いつまでも自分の失敗を思ってうじうじするのではなく、失敗を糧にして前に進まなければならない。
私は旦那様に誓いました。
「旦那様」
「なんだい」
「私、次はオークなんかに不覚は取りませんから。魔法をたくさん練習して、次こそ旦那様の期待に沿うようにしますから」
私はひときわ声を大きくした。
「いつまでも旦那様のお側に置いてください」
「ああ。むしろ俺の方こそ頼むよ」
やはり旦那様は優しい。
「旦那様!」
私はもう一度しがみついた。
★★★
エリカにいっぱいキスされた。
あのくらいで大げさなとも思ったが、それはそれ。滅茶苦茶うれしかった。
夫婦の絆が深まった気がした。
まあ、それは置いとくとして、オークの処理が終わったので帰ることにした。
帰り道では特に魔物が出ることも無かったので。予定通り1時間ほどで着いた。
冒険者ギルドに行く前に商業ギルドに寄った。
「こんにちは」
「はい、どういったご用件でしょうか」
「実は買取をお願いしたいのですが」
獲物のオークを3匹出しカウンターに並べた。
「では身分証の確認をお願いします」
俺はギルドカードを提示した。カードを見た女性職員が驚いた顔をする。
「えっ、Eランク?2人とも?しかも新人?信じられません。オークって普通Dランクの上位パーティーくらいが狙う魔物なのに」
「そんなに珍しいことなの?」
「いないとは言わないですけど結構珍しいですね。オークはそんなに弱いモンスターではないですから、ペーペーの新人が挑んだら返り討ちに会う可能性が高いですね」
「ふーん」
「お客さん、結構な実力者なんですね」
なるほど、俺たちって割と実力があるのか。まあ、だからと言って慢心する奴はバカだから努力は怠らないけどね。
「では査定するのでしばらくお待ちください」
査定は10分で終わった。
「それでは銀貨10枚になります。ご確認ください」
俺は思わずにんまりした。
ほんの数分の戦闘で1か月分の家賃が稼げるのか。この仕事を選んだのは正解だったな。
「さて、あとは依頼の報告だな」
商業ギルドを出て隣の冒険者ギルドに行った。
「おや、お帰り」
階段を上って2階に上がると、なぜかリネットさんが入口の扉を拭いていた。
というか、なんでもするって本当だったんだ。
「ただいまです。依頼を達成したので報告をしたいのですが」
「まかせな」
俺たちは受付カウンターに向かった。途中何があったか話したので、席に着くなりほめてもらった。
「オークかあ。やるじゃないか」
「途中危険な目にもあいましたけど、それもよい経験になりました。もっとうまくやれるように頑張ります」
「うん、やはりアタシの見込み通りだったね。あんたたちはやれる子だね。ギルドはいつも人材不足だから、強い子は大歓迎だよ」
「それはどうも」
「それと……」
リネットさんが話題を変える。
「結婚したんだってね。不動産屋さんから聞いたよ。おめでとう」
「ありがとうございます」
「奥さんがいるんだから責任重大だよね」
「はい」
「おっと、依頼の報告だよね。うん、いいね。ばっちりだ」
リネットさんは奥へ行って報酬を持ってきた。
「はい、報酬の銀貨3枚ね。この調子で次も頑張ってくれよ」
一日で銀貨13枚。十分だった。これでまた一歩幸せに近づくことができた。
「それでは、また」
俺たちはウキウキしながら家に帰った。
午前中の投稿は以上になります。
次は夕方18時に投稿の予定です。
次話はホルストたちから少し離れて、エリカの実家ヒッグス家のお話になります。
ご期待ください。




