第610話~族長に証拠を見せる ……って、この証拠で納得しないのなら、俺にも考えがあるぞ!~
あくまで俺たちと協力する気がない族長から、俺たちがヤマタノオロチの認められたという証拠の品を出せば協力しても良いという言質を取ったので、早速族長に証拠を示してやることにする。
まずは無難にセイランにも話していた湖の水から見せてみることにする。
「ヴィクトリア。湖の水を出してくれ」
「ラジャーです」
ヴィクトリアに言って、水が入ったタルを取り出して、族長に渡す。
それを見た族長は当初驚いた顔をした。多分、水の放つ聖なる気に驚いたのではないかと思う。だが、それも最初だけで。
「ふん。何が『伝説の湖の水』だ!ただの水ではないか!」
と、水が放つ聖なる力に気がついていないふりをして、俺たちのことを認めようとしなかった。
そんな父親を見たセイランは呆れたような顔をしていたが、この親父を言葉で説得するのは無理だと判断したのか。すぐにこんなことを言い始めた。
「父上はあくまでこの水が『伝説の湖の水』だとは認めないのですね」
「もちろんだ。こんなのただの水に決まっておる」
「そうですか。まあ、確かに見た目だけでは判断は難しいかもしれませんね。だったら村の司祭を呼びましょう。彼なら水の神真贋の判断できると思いますよ」
★★★
セイランの提案で村の司祭が水の真贋の鑑定を行うことになった。
セイランの村の司祭はいかにも司祭らしい清潔な感じの服を着た老齢の蛇人だった。
族長はあまり司祭を呼びたくはない感じだったが、まあ呼んで鑑定されたら湖の水が本物だとバレてしまうからな、セイランに説得されて渋々という感じで認めたのだった。
それで、その司祭による水の鑑定なのだが……。
「こんなとんでもなく神聖な気を放つ水は見たことがない!これは間違いなく蛇神様が守るという『伝説の湖の水』で間違いないでしょう!」
『伝説の湖の水』を見たことで興奮が止まらないのだろう。司祭は若干震えながらそうはっきりと言うのだった。
俺的には立場的に司祭が族長の肩を持ったりしないかと心配していたのだが、そこは司祭という神事を司る立場である。
蛇神関連では正直に発言するようだった。
それはともかく、司祭も本物だと認めたことだし、これで族長も折れるかなと思ったのだが、族長はしぶとかった。
「ふむ。司祭が本物だと言うのなら、これは本物の『伝説の湖の水』なのだろう。だが、だからといってこいつらが蛇神様に認められた者であるという証拠にはならぬ。勝手に湖に侵入して持ち帰ったのかもしれぬからな」
と言い張って、俺たちのことを認めようとしなかった。
「父上、いい加減にしてください!」
それに対してセイランが抗議しようとしてくれたが、「まあ、待て」と俺はセイランを止めた。
目の前の族長にはこれ以上抗議しても無駄だと思ったからだ。
「セイラン。お前の父上は水だけでは納得してくれないようだな。でも、俺達にはまだ他に蛇神様に認められたという証拠を持っているんだ。次はそいつを見てくれないか?」
★★★
俺達が湖の水の他にヤマタノオロチに認められたという証拠を持っている話を聞き、セイランが質問してきた。
「ホルストよ。他にも蛇神様に認められたという証拠を持っているのか?」
「ああ、持っているよ。飛び切りのやつを、な。今から出すから見てくれよ。ヴィクトリア」
「ラジャーです」
そう言って俺がヴィクトリアに出させてのはもちろん……。
「ありがとう、ヴィクトリア。じゃあ、セイラン早速これを見てくれよ」
「……ホルスト。この巨大な白い鱗は何だ?」
「それは蛇神様にもらった蛇神様の鱗だ。もし俺たちが蛇神様に認められた者だという証拠を示せと言われた時に見せろって、もらったんだ」
「これが、蛇神様の鱗……」
俺からヤマタノオロチの鱗を受け取ったセイランは、それが神聖なものであることを知ると、両ひざを床につき、恭しい手つきで伏し拝むように両手で持ち。
「これは、本当に蛇神様の鱗なのか?」
と、司祭に確認を求めた。
セイランに確認を求められた司祭は、鱗が発する神気にすぐに気がついたようで。
「これは……この輝くばかりの白さ。この鱗の見たこともない巨大さ。そして、何よりも溢れんばかりの強大な神の気。まさに蛇神様の鱗に違いない!」
司祭は興奮気味にそう言うと、鱗をテーブルに乗せて、それに対して拝み始める始末だった。
その司祭の態度を見た族長もさすがにこれが本物だと悟ったのだろう。
蛇神様の体の一部に対して礼を失する訳には行かないと考え、セイランも誘って、司祭と三人でヤマタノオロチの鱗に対して拝み始めたのだった。
いきなりそこまでするかとも思うが、蛇人たちにとって蛇神は神聖な存在だ。
このぐらいするのはむしろ当たり前のことなのかもしれない。
とはいえ、これで族長もさすがに納得しただろう。
必死にヤマタノオロチの鱗を拝む族長を見てそう思ったが、俺のその考えは少々甘かったようだった。
★★★
さて、セイランたちのお祈りが終わった後、再び話し合いが再開された。
族長もヤマタノオロチの鱗にお祈りをしていたことだし、さすがに俺たちのことを認めざるを得ないだろうと考えていたのだが、まだ族長は納得しきっていない様子だった。
「確かにこの者たちが持っているのは蛇神様の鱗で間違いなかろう。だが、この者たちがそれを蛇神様から授かったという保証はない。どこからか盗んできたのに違いない」
と、言いがかりをつけてきたのである。
これにはセイランと司祭も呆れて。
「父上、いい加減認めなされ」
「そうですぞ、族長。蛇神様の鱗を盗むことなど不可能です。となれば、この鱗はこの者たちが蛇神様から授かったのは間違いないと存じます。我ら蛇人には、『蛇神の使者来たる時、蛇人に平和をもたらすであろう。蛇人、その使者を歓迎すべし』という伝承があります。蛇神様の鱗を持った子の者たちこそ、蛇神様の使者だと思います。ならば、歓迎しなければ」
そう言って、二人して族長を説得してくれたのだが。
「お前たちは騙されている」
と、あくまで族長は俺たちのことを認めようとしなかった。
こうなっては仕方ない。
俺達も最後の手段を使うとしよう。
「セイラン。お前の父上は鱗くらいでは俺たちのことを認めてくれないみたいだな。だったら、こういうのはどうだ」
「と、いうと?」
「今から蛇神様を呼んでみるから、直接本人に俺たちが蛇神様に認められた者かどうか、聞いてみたらどうだ」




