閑話休題87~神聖同盟の現在 とある日のプラトゥーン~
ヴァレンシュタイン王国死出の森。
そこに転移魔法陣の結界によって守られるように存在する神聖同盟の本部。
ここはホルストたちがかつて予想した通り、一年ほど前にできた建物だ。
前の建物は、世の中から隠蔽するために複数の建物を渡り歩いていた、山の中にあったり荒野にあったりとかなり辺鄙な場所にあった。
それが転移魔法陣の結界が展開できるようになり隠蔽が容易くなったので、ここへ移転してきたのだった。
まあ、今も辺鄙だがここからなら王国の中心部まで近いので今までの場所よりはましである。
それはそれとして、この建物の一室ではプラトゥーンがガラスの中で溶液に浸っているクローン体を見つめながら。
「早くできないかな?今から楽しみだ」
と、目の前のクローン体の調整が終わるのを今か今かと待ちわびていた。
ホルストとの戦いの時使用していたクローン体は海底火山の遺跡に捨ててきた。
クリントとの戦いで傷つき、その上でホルストたちと戦ったため使用不能になったからだ。
それでプラトゥーンはとりあえず使用可能なクローン体、性能は劣るがとりあえずプラトゥーンの魂を入れておくことだけはできるクローン体の中に入って、目の前のより自分に合っているクローン体の調整が終わるのを待っているのだった。
「しかし、この私の力を十分に発揮できるクローン体が目の前の一体だけとは!世の中うまく行かないものよ」
自分のクローン体の調整がうまく行っているのを喜ぶ一方で、プラトゥーンは製造したクローン体のほとんどが失敗作であることを嘆いていた。
ヴィクトリアのおじいさんであるクリントが言っていた通り、神の魂を入れるにふさわしいクローン体を作るのは困難な作業であった。
プラトゥーンは百を超えるクローン体を作らせたが、プラトゥーンの魂を何とかその内に納めることができたのはそのうち三体だけだった。
さらに神としての力を十分に行使できたのはその三体の中の二体だけであった。
その二体のうちの一体、神聖同盟の盟主の肉体にプラトゥーンの細胞を移植することによって無理矢理クローン体にしたクローン体のオリジナルは、すでに述べた通りホルストたちとの戦いで失ってしまっている。
そして、残りの一体は現在調整中だ。
ということで、プラトゥーンは残りの自分の魂を何とか入れておくことができるだけのクローン体の中に魂を宿し、こうして時が満ちるのを待っているのだった。
★★★
「我が神よ。失礼いたします。お茶の時間になりましたので、お茶とお茶菓子をお持ちしました」
プラトゥーンが自分のクローン体を眺めているうちにお茶の時間になったので、部下がお茶を運んで来た。
「うむ。ご苦労。一日中ここに立っているのにも飽きてきたし、そろそろ休むとするかな」
部下がお茶を運んで来たのを見たプラトゥーンは、一休みするため椅子に座り、テーブルに置かれたお茶とお菓子に手をつける。
「ふむ。やはり甘いお菓子はうまいな」
そして、うまそうにテーブルのお菓子を食べるのだった。
こう見えてもプラトゥーン実は甘い物好きだったりする。
彼の息子のクリントや孫のマールスとセイレーン、ひ孫のジャスティスやヴィクトリアも甘い物が好きなので、この辺がプラトゥーンと彼らの血のつながりを感じる部分ではある。
もっともプラトゥーンはひ孫のことはよく知らない。
ジャスティスもヴィクトリアもプラトゥーンが封印されてから生まれたからだ。
ただまだジャスティスの方は下界でも名の知れた神であるので、その存在くらいは知っているのだが、ヴィクトリアのことは全然知らなかった。
まあ、ヴィクトリアの方もプラトゥーンについてはよく知らないのだからそこはお互い様ではあるのだが……。
それはともかく、プラトゥーンはお茶とお菓子を食べながら午後の一時を楽しむのであった。
★★★
「我が神よ!ご報告があります」
そうやってお茶を楽しんでいるプラトゥーンの所にまた部下がやって来た。
今度はどうやら何やら報告に来たようである。
部下がこのタイミングで報告に来たのには理由がある。
今回の部下の報告内容にはあまり芳しくない報告が含まれていたからだ。
これをプラトゥーンの機嫌が悪い時に報告すると、物凄く叱責されるのだった。
機嫌が良い時に報告しても叱責はされるのだが、悪い時にするよりはまだマシなので今報告しているという次第である。
それで、その内容はというと。
「例の我が神と戦った不遜な人間どもの捜索の結果なのですが……」
不遜な人間ども。もちろんホルストたちのことである。
執念深い性格であるプラトゥーンが自分に逆らうホルストたちのことを放って置くわけがなかった。
だからこそ部下たちにホルストの捜索を命じていたのだが……。
「おお、その件か。して、どうなった?」
「それが全く成果が得られておりません」
その件に関しては部下の言う通りに全く成果が得られていなかった。
それを聞いたプラトゥーンは、すぐさま部下を詰問する。
「なに!それはまことか!どういうことなのだ?」
「はい。手の者を送り込んでは奴らの情報を探っているのですが……何かと邪魔が入りまして……」
「邪魔?それはやはり息子や息子の嫁たちが探索の邪魔をしているという事か?
「おそらくは……」
「フーム。あの愚息め!あくまでこの私の邪魔をしてくるのか!忌々しい奴め!」
ホルストたちの探索がうまく行かないことにプラトゥーンはいら立ちを隠さなかった。
キングエイプがやられた後くらいから、神聖同盟はホルストのことをずっと探っていた。
そして、ホルストたちと海底火山で出会ってからはその探りを強化したのだが、やはり探索に成功していない。
これらの事象の原因がクリントたちの妨害のためだと知り、プラトゥーンはさらに憤ったがこれはどうしようもなかった。
現在のプラトゥーンは完全ではない。
クリントたちの妨害を完全に排除するだけの力はないのだった。
だから、ホルストたちのことをこれ以上探ることはできないので、プラトゥーンにとってはこれ以上考えてもイライラが募るだけの話であった。
というわけで、ホルストたちのことを考えても余計腹が立つだけだと悟ったプラトゥーンは別のことを部下に質問した。
「それで、もう一つの計画はどうなっている?」
「はっ。そちらの方は時間をかければ何とかなります。幸いなことにここの本部を守る転移結界の作動は順調です。この地を中心に各地から地脈のエネルギーを順調に送り込むことに成功しております。特に東の『静かなる谷』では例の建造物が完成しており、予想以上のエネルギーが送られてきており、結界のエネルギー源である魔石を常にエネルギー満タンの状態にできております。この調子なら十分に時間稼ぎができると思います」
「そうか。ならば良しとするか」
そう言うとプラトゥーンは立ち上がり、調整中の自分のクローン体の前へ立つと、再びクローン体を眺め始めた。
そのプラトゥーンの目は歓喜の色に満ちていた。




