第605話~蛇人の村への旅路~
セイランに彼の故郷である蛇人の村へ連れて行ってもらえることになった。
移動には相変わらずボートを使った。
セイランの話によると、セイランの村までは船で十日ほどかかるということだったのでそれまでの間のんびりと船旅を楽しもうと思う。
それでセイランとの船旅なのだが、セイランはとても働き者だった。
「お前たちの船に乗せてもらっているのだから、なるべく私が船を漕ぐようにしよう」
そう言って、二隻あるボートのうちの常に一隻を漕ぎ続けてくれたのだ。
朝から晩までずっとボートを一人で漕ぎ続けてくれたのだった。
「あまり無理をするなよ」
「心配するな。私は船を漕ぐのが得意なんだ。それに蛇人は普通の人間よりもはるかに頑丈で体力があるからな。それにお前たちのおかげで使命も果たせた。だから船の一隻の操縦くらい任せてくれ」
そう言うと、旅の間中ボートの操縦を引き受けてくれたのだった。
まあ、ここに来た当初ボートを漕ぐのは俺かリネットか、ネイアか。比較的体力のある三人が交代でやっていたのだが、三人とも別にボートを漕ぐのが得意という訳ではない。
だからボートを漕ぐのが得意だというセイランが一隻引き受けてくれるのは正直嬉しかった。
そして、残りの一隻のボートを例の三人で交代で漕いでいるという訳だ。
交代でボートを漕ぐ関係上、二隻のボートに乗るメンバーは度々入れ替わっているのだが、ホルスターと銀、ちびっ子二人組がセイランのボートに乗った時が大騒ぎだ。
「ねえ、ねえ。セイランお兄ちゃん。僕もボートを漕いでみたいな。僕にも漕ぎ方を教えてよ」
「ホルスターちゃんだけズルいよ。銀にも教えてください」
と、セイランに懐いた二人がセイランにボートの漕ぎ方を教えてくれるようにせがんでいたのだ。
セイランも子供には優しい性格らしく。
「ああ、構わないぞ。ただし、移動が遅くなるから、休憩の時に、だぞ」
「「わーい!ありがとう」」
そうやって親切に教えてくれるのだった。
それを見て、俺はこいつとの旅はうまく行きそうだと思ったのだった。
★★★
そうやって基本的に船で旅をする俺たちなのだが、夜に休憩する時には陸に上がって休憩した。
きちんとテントを張り、虫除け対策をしっかりし、聞く話だとジャングルには虫が多いらしい、万全の準備をしてから食事をする。
食事はパンとスープに肉料理にサラダといった極普通のものだった。ただ。
「うん、やはり俺の嫁たちが作ってくれる料理は最高だな」
さすがは俺の嫁たちが丹精込めて作った料理だけあって、とてもおいしかった。
セイランも俺の嫁たちの料理は気に入ってくれたみたいで。
「お前の嫁たちの料理はうまいな」
そう褒めてくれたのだった。
と、ここまでセイランの料理に対する反応は普通のものだったのだが、この後、デザートが出てきた時、その反応がガラリと変わった。
出てきたのはヴィクトリア特製のイチゴのケーキだったのだが。
「何だ!この料理は?初めて見るぞ!」
と、まるで初めて都会を見た田舎者のようにキラキラした目でケーキのことを見ていたのだ。
その反応はどちらかと言うと真面目というセイランの印象とはかけ離れたイメージで、こいつ意外にかわいい所があるんだな、と俺としてもびっくりしたのだった。
それはともかく。
「こんなうまいものは初めて食うな!」
そう言いつつセイランは目の前のケーキをぺろりと平らげると、名残惜しそうに空になった皿を見つめていた。
それを見たヴィクトリアが、
「おかわりありますよ」
と、声を掛けると、セイランは遠慮せず。
「いただこうか」
ケーキのおかわりを五回もしたのだった。
これは一人でケーキをワンホール分食っていることになる。
どうやらセイランの奴、うちのヴィクトリアに負けないくらい甘党みたいであった。
そんなセイランの意外な一面を知って、俺はセイランのことがますます気に入ったのであった。
★★★
船旅の途中、魔物に襲われることがあったが、そちらは特に問題はなかった。
「ホルストさん、水の精霊の報告です。魔物が近くにいるそうです」
そうヴィクトリアが報告してきたので。
「『神強化』。『神眼』発動」
すぐに『神眼』で確認すると。
「ワイルドアリゲーターにフライフィッシュ。それにヘルタートルか」
ノースフォートレスの町の近くでもよく見るビッグアリゲーターの上位種であるワイルドアリゲーターに、空を飛ぶ魚の魔物であるフライフィッシュ。それに亀の魔物であるヘルタートルがこっちに迫って来た。
どれも大した魔物ではないので、ここは子供たちの練習台にすることにする。
「ホルスターに銀。お前たち二人で片づけてしまえ!」
「「は~い」」
俺の命令の二人は元気よく返事をすると、早速攻撃を介する。
「『八門遁甲の術』」
まずは銀が妖術で近づいてくる魔物たちをかく乱すると。
「『氷弾』」
ホルスターが氷の弾丸を作り出し、魔物たちめがけて発射した。
「グギャアアア」
氷の刃は瞬く間に魔物たちを貫き、あるいは氷漬けにした。
銀の妖術の発動から魔物たちに攻撃するまでに要した時間はおよそ二分。
二人はあっという間に魔物たちを全滅させたのだった。
さすがは俺の子とその嫁。
素晴らしい手際の良さであった。
それで、その手際の良さにセイランが驚いていた。
「ホルスト。お前の息子たち、あの年ですごい戦闘力だな。あれだけの魔物を一瞬で片づけるとはな。さすがはお前の子であるだけのことはあるな」
「まあ、二人は俺たちがきっちりと鍛えているからな。この位は訳ないさ」
「そうか。お前たちの子の将来が楽しみだな」
「ああ、そうだな」
セイランにそうやって手放しでホルスターたちのことを褒められた俺は、妙にうれしくなるのだった。
と、こんな感じで魔物が現れても問題なく進めているのだった。
★★★
そうやってセイランと旅をしていたわけだが、ある時セイランに「そう言えば……」と、質問された。
「そう言えば、まだ聞いていなかったな。ここ『静かなる谷』は人間には過ごしにくい場所だ。だから人間は滅多に来ない場所なんだ。そんな所へお前たちは何をしに来たんだ?」
「ああ、そういやあまだそれを話していなかったな。ちょっと長い話になるかもしれないが、聞いてくれるか?」
「もちろん、聞こう」
そう言うと、セイランが聞く態勢になったので、俺は旅の目的を話し始めた。
「実は俺たちは女神アリスタ様の神命でこの世界に復活しようとしているとしている邪悪な存在の復活を阻止しようとしているんだ」
「女神アリスタ様の!?それはにわかには信じがたい話だな」
「まあ、普通はそう思うよな。でも本当の話さ」
「そうか。確かに信じがたい話ではあるが、私はお前がそんな神をも恐れぬ嘘をつくような男ではないと思う。第一お前がそんな噓つきだったら、蛇神様がお前に湖の水を与えたりするわけがない。それにお前たちは私の命の恩人だ。だからお前の言う事なら信じるぞ」
「そうか、信じてくれてありがとうよ」
俺はセイランが俺の話を信じてくれたことに対してお礼を述べた。
「それで、俺たちは邪悪なる存在を封印しようと行動しているわけだが、敵の本部を突き止める所までは行ったんだ。だが、その本部には特殊な結界が張っていて中に入れなっかったんだ。そして、その後の調査の結果、その結界を維持するための装置がここにあることを突き止め、それを破壊するためにここへ来たんだ」
「そうか」
俺の話を聞いたセイランはそう一言呟くと、しばらくの間目を閉じ、何やら考え事をした。
そして、しばらく考えた後、口を開くとこんなことを言って来た。
「私たち蛇人は人間のことが嫌いだ。なぜだか知っているか?」
「いや、知らない」
「数百年前、人間の集団がやって来て我らの仲間を攫って行こうとしたのだ。幸いにもその時は我らの仲間が一致団結して人間たちを追い返すことができた。だが、それをきっかけに我らは人間を嫌うようになり、今も嫌っている。それは私も同じだ」
そこまで言ったところでセイランは一旦話を止め、一呼吸置き、俺のことをじっと見ながらこう言って来たのだった。
「だが、お前たちは別だ。お前たちが、そのよくわからないが何か装置を探しているというのなら、私もできるだけ協力させてもらうことにしよう」
「そうか、ありがとう」
こうしてセイランが俺たちに協力してくれることになった。
右も左もわからない土地で、現地民であるセイランの協力を得られたのはとても喜ばしいことだった。
そうやって、セイランと友好を深めているうちに。
「あそこが私の村だ」
ようやくセイランの住む蛇人の村へとたどり着いた。
蛇人の村。果たしてどんな場所なのだろうか。




