第604話~セイランに地底湖の水をあげる そして、蛇人の村へ連れて行ってもらえることになる~
なぜきれいな水を探しに来たんだ、という俺に質問に対して、セイランは驚くべき答えを返してきた。
「私が村を離れてここまできれいな水を探しに来た理由。それは村にある泉の水が枯れたからなんだ」
「村の泉が枯れたのか?」
その話を聞いて、俺は不思議に思った。
この周囲を見渡すだけでもわかる通り、ここ静かなる谷一帯は水が豊富な土地だ。
そんな中でも蛇人たちは特に水が豊富な場所に居住しているはずだった。
果たしてそんな場所の水が枯れたりするものなのだろうか。
そう疑問に思った俺は、セイランにさらに詳しく聞くことにする。
「なあ、セイラン。その話、もう少し詳しく聞かせてくれよ」
「ああ、構わないよ」
そう言いながらセイランはさらに詳しい話をしてくれたのだった。
★★★
「そもそもの話をするとだな。我がスネークヘッド族の村の真ん中には豊富な水が湧き出る泉があるんだ。そこにある時、私たちの先祖がやって来て、泉の周囲に村を作ったのが、うちの村の始まりなんだ」
「そうなのか。蛇人たちはきれいな水の側に集落をつくると聞いていたが、本当の事だったんだな」
「ああ、確かにそうだ。私たちはきれいな水を何よりも大切にする。私たちが信仰する蛇神様が水を大切にしているからな。だから私たちも信仰の対象として水を大切にしている。毎年、蛇神様の祭りの時には蛇神様に泉の水を捧げて来たし、普段から水が汚れないように気を使っているのだ」
「なるほどな」
俺はセイランの説明に頷いた。
そういえばヤマタノオロチの洞窟にも地底湖があって、ヤマタノオロチはそれを大切にしていた。
蛇人たちもそれにならって、きれいな水を大切にしているのだと思う。
「それに私たちがきれいな水にこだわるのは信仰の為だけではない。水は生きるためには必要不可欠なものだ。炊事や洗濯に使ったり、飲み物としても使っている。だから泉の水は私たちに無くてはならないものなのだ」
「生活のためにも必要か……まあ、それは蛇人ではない俺たちも同じだからよくわかるよ」
これも当然の話だった。
人間にとっても水の確保は重要な問題だ。
蛇人たちのように生活用水として使うほかにも、農業用水としても水は欠かせないからな。
水を巡っていさかいが起こることも珍しいことではない。
だから、セイランの言うことはよく理解できるのだった。
ここまで話したところで、俺は話の核心部分を聞くことにした。
「それで、そんなにお前たちが大切にしているという泉の水が枯れたのか?」
「ああ、そうだ」
「その辺を詳しく話してくれよ」
★★★
「あれは半年ほど前のことだった」
セイランが村の泉が枯れた件について話し始めた。
「ある朝、突然泉の水がよどみ始めたのだ。突然のことに村は慌てた。何せ村の大事な水源だからな。それは大騒ぎだった。蛇神様がお怒りなられたのでは?そう言う者もおり、蛇神様のお怒りを鎮めるための儀式なども開かれたが効果は無かった。そうこうしているうちに、泉の水はよどむどころかその水量がどんどんと減って行き、ついには枯れてしまったのだ」
「ふ~ん。そんなことがあったのか。でも、不思議な話だよな。ここ『静かなる谷』は水が豊富な土地なのにな。そこの水が枯れるなんてな。何か原因があるのか?」
「それが分からないんだ。急にそんな風に枯れてしまったんだ」
「そうなのか。それで、生活用水とかはどうしているんだ」
「一応近くを流れる川の水で代用していたのだが……」
そこまで言ったところで、セイランの表情が暗くなった。
それを見逃さなかった俺は、川の水にも何かあったのだと察し、そっちについても聞いてみた。
「だが、なんだ?もしかして川の水にも何かあったのか?」
「ああ。それが最近は川の水の方も水量が減って来てな。生活に支障が出てきたんだ」
「なるほど、川の水まで減ってきたのか。それは大変だな。それで、それはお前の村だけのことなのか?」
「実を言うとうちの村だけではない。他の村でも水不足が起きているんだ。それで蛇人全体が大騒ぎになっているんだ」
俺はやはりかと思った。
この水が豊かな土地で一か所だけ水がなくなるなんておかしいと感じていたからだ。
そして、予想通り蛇人の集落一帯が水不足だった。
これは何かが裏にあるなと俺は思った。
「そうか。蛇人全体が水不足になっているのか。それで、、お前は使えそうな水を探して村を離れたのか?」
「それはちょっと違うな。蛇人たちは今回の件を蛇神様の怒りを買ったためだと思っている」
「思っているって……一度怒りを鎮めるための儀式をやって効果が無かったんじゃなかったのか?」
「ああ、そうだ。でも、蛇人たちはそれは儀式をきちんとできなかったためだと思っている。その時儀式に使った泉の水は、一応浄化したもののよどんだ泉の水を使っていたからな。だからきれいな水を手に入れてきてもう一度やり直そう。ということになり、私がこうして探しに出ているのだ」
「ふむ。そういう事だったのか。それは大変だな」
きれいな水を求めて危険な旅に出る。
セイランは族長の息子らしいし、今まで話した感じでもとても責任感が強そうな男だ。
だからこそ責任感から一人で旅に出るウという真似をしたのだろうが、とても勇気のある行動だと思った。
「それで、肝心の水は見つかったのか?」
「いや、残念ながらまだだ。それどころか、お前たちも知っているように底なし沼の魔物に襲われてこの有様だよ。本当に情けない話だ」
まだセイランは水を見つけていない、と。
それならばここで知り合ったのも何かの縁。
あれを上げようと思い立った俺はある提案をしてみせる。
「そうか。まだ水を手に入れていないのか。それだったら、俺たちの持っている水を持って行かないか?」
「お前たちの持っている水?」
「そうだ。俺たちはお前たちが崇める蛇神様が棲む洞窟に存在する地底湖の水を持っている。その水をやるから持って帰るか?」
「蛇神様が守る地底湖?それはまさか我々の伝承に伝わる伝説の湖のことか?」
「多分そうだと思うぞ。蛇神様もそんなことを言っていたしな」
「蛇神様が言っていた?お前たちは蛇神様にお会いしたことがあるのか?」
「もちろんだ。で、今持っている湖の水も静かなる谷に行くって言ったら、蛇人が喜ぶだろうから持って行けと言われて持ってきた物なんだ。だから遠慮せずにもらってくれよ。まあ、とりあえずその水を見てくれ」
そう言いながら、俺はヴィクトリアに言って、湖の水が入ったタルを出してセイランに見せた。
タルを見たセイランの目つきが変わる。
「こんな聖なる力が宿った水は見たことがない。これは間違いなく伝説の湖の水だ」
何度も水を見返しながら、そう呟くのであった。
どうやらセイランも俺たちが持っている水が本物だと認めてくれたようだ。
そして、セイランはこう言うのだった。
「そういうことならば、お前たちの気持ち、ありがたくいただくとしよう」
「ああ、もらってくれ」
「ただ、もらうにしても私にはもう船がない。だが、生身で水を運ぶのは少々骨が折れる。すまないがうちの村まで一緒に来てくれないか?」
「ああ、構わないぞ」
ということで話がまとまり、俺たちはセイランに案内されて蛇人たちの村へと向かうことになったのだった。




