第600話~水の豊かな密林地帯『静かなる谷』に辿り着いたぞ さて、ボートで探索開始だ!~
『静かなる谷』の底へと降り始めた。
岩石砂漠の端の崖から『重力操作』の魔法を使って一気に『静かなる谷』の底へと降りる。
その高さおよそ五百メートル。中々の高さだ。
その降りる途中、ちびっ子二人組は大はしゃぎだった。
「うわー、地面がどんどん大きくなっていくよ。すごいねえ」
「あ、あそこの木の陰に鹿さんがいるよ。かわいいねえ」
と、俺の肩の上で騒いでいる。
「おい、お前たち。暴れると危ないから大人しくしていなさい」
「「は~い」」
そうやって俺が止めて、ようやく大人しくなるほどであった。
それに対して嫁たちはというと。
「やはり空を飛ぶというのは何度経験しても慣れないですね」
「か、風の精霊よ。もしワタクシたちが落ちそうになったら、すぐに助けるんですよ」
「ホルスト君、もうちょっとゆっくり降りて。怖いから」
「ホルストさん。怖いので、もうちょっと強くしがみついてもいいですか?」
と、全員がビビり気味だった。
そして、全員俺の体にしっかりとしがみついて離そうとしなかった。
嫁たちにくっつかれて俺としては嬉しい限りだが、多少窮屈でもある。
だから多少手を緩めてもらいたいとも思うのだが、嫁たちのことを思うと、中々言い出せず、どうしようかと迷うのであった。
まあ、そんなことを考えているうちに渓谷の底へ着いてしまったので、結局俺が良いを思いをしただけで終わったけどね。
★★★
さて、こうやってようやくたどり着いた『静かなる谷』の底ではあるが、ここは聞いた通りの場所だった。
「すげえな。この植物の密集具合は!ちょっとでも隙間があると、雑草でもなんでも植物が生えている。そんな感じだな」
「そうですね。前に遺跡で見た原初の森ほどではないですが、ここの植物も元気いっぱいで、生存競争が激しそうですね。現に私たちが降り立ったこの空地も木が生えていないというだけで、コケや背の低い雑草が密集していますからね」
「噂通りここには水が多いね。すぐそこにも結構大きな池があるみたいだね。そこの川で他のどこかと繋がっているみたいだね。原初の森は植物こそ多かったけど、こういう風に水はあまりなかったからその点が違うよね。これは移動が大変そうだね」
皆が口々に言うように、ここには本当に植物や池や沼が多かった。
さらに言えば、リネットが言うように原初の森にはそんなに水はなかったし、その辺の普通の森にももちろんない。
だから大量の植物と大量の水が混在しているという光景は、普通の森を見慣れた俺たちの目にはとても異様な光景に写った。
見渡す限りではずっとそういう光景が続いていて、歩いての移動は無理そうだった。
本当、ボートを買ってきてよかったと思う。
ヴィクトリアによると、こういう植物が必要以上に生い茂り、水が豊富でまた高い森のことを。
「他の世界では、密林、もしくはジャングルって言うんですよ」
ということらしかった。
他の世界のことはよく知らないが……ジャングル、何と言うか謎めいた雰囲気の言葉でこの場所にピッタリな気がした。
それはそうと、森を見た感想を述べるのはこの位にして、とりあえず移動しようと思う。
★★★
「ヴィクトリア。ボートを出せ」
「ラジャーです」
移動するにあたってヴィクトリアにボートを出させた。
これで、池や沼、川を移動するのだ。
え?移動するのは良いけど、どこへ移動するのかって?
そんなの決まっている。きれいな水のある場所だ。
何せヤマタノオロチの話によると、蛇人たちはきれいな水のある場所に集落をつくるらしいからな。
だから、俺たちはきれいな水のある場所を目指すのが当面の俺たちの目標だ。
え?きれいな水のある場所というのは漠然としすぎているって?
そんなことはないぞ。
何せうちにはヴィクトリアの水の精霊がいるからな。
きれいな水のある所には水の小精霊がたくさんいるらしいく、水の精霊にはその存在が何となくわかるのだそうだ。
なので、水の精霊に案内してもらえば蛇人の集落に辿り着ける可能性はグッと上がるわけなのだ。
「そんな訳で、ヴィクトリア。お前が頼りだから頼むな」
「はい!ワタクシに任せてください!」
水の精霊の主人であるヴィクトリアも活躍の場が来て張り切っているようだし、ここはヴィクトリアに頼って移動するとする。
★★★
「ララララ~。今のワタクシとってもいい気分。やはり涼しいのって最高ですね~」
思ったよりもボートでの旅が快適過ぎたので、ワタクシことヴィクトリアは思わず鼻歌を歌ってしまいました。
まあ、『火の山』や岩石砂漠は熱かったですからね。
それに比べたらここには水が多くて多少の風が吹いているため、はるかに過ごしやすいです。
「リネットさん。ここは過ごしやすくていいですね」
「本当だね。ボートを漕ぐのは疲れるけど、涼しいから汗もあまりかかないし本当にいいよね」
「やはり水辺に吹く風は涼しげでいいですね」
二艘使っているボート一艘では、エリカさんとリネットさん、ホルスター君と銀ちゃんたちがそうやって涼しそうな顔でのんびりとやっているのが見えます。
とても楽しそうな顔をしているので、エリカさんたちも船旅を満喫できているのが分かります。
もちろん、ワタクシだって負けていません。
「あ!あそこに果物が生えていますね。風の精霊、あれを取って来なさい」
「……」
「はい、ご苦労様です。お、これはマンゴンというおいしい果物ですね。早速切って皆で食べましょう」
と言った感じで、おいしいそうな果物があるのを見つけては。
「さあ、果物を切りましたよ。みんなで食べましょう」
と、皆で食べました。
「これはおいしいですね!」
と、皆さんに好評なので、見つけ出したワタクシとしても嬉しかったです。
ちなみに、ボートを漕ぐのに忙しいホルストさんにはワタクシがっ食べさせてあげました。
「はい、あ~んしてください」
「あ~ん」
と、おいしそうに食べてくれるホルストさんの顔を見ると、ワタクシとしては言うことがなしに嬉しかったです。
この幸せをずっとかみしめていたいなあ。
そう思いつつ、心の中に幸せが湧いてくるのを止められないワタクシなのでした。
★★★
ちなみに、ワタクシの精霊は今回薬草採集にも活躍しました。
ここのジャングルには珍しい薬草が多く生えていて、それを見たネイアさんに頼まれて。
「あ、あの薬草はもしかして……。ヴィクトリアさん、あの薬草を取ってくれませんか?」
「ラジャーです」
「……やはり、これは『ドクダミソウ』。良い薬草が手に入りました」
ジャングルの木に生えている珍しい薬草を風の精霊の回収させました。
ネイアさんの薬はワタクシたちの役に立つ品物ばかりです。
この前、ワタクシも二日酔いの薬で助けてもらいましたしね。
だからネイアさんの役に立ててワタクシも嬉しかったです。
こうして、ワタクシたちはジャングルの旅を楽しみながら、ボートを先に進めるのでした。
★★★
ただ、そののんびりとした船旅も長くは続きませんでした。
前方を警戒していた水の精霊から報告が来ます。
「え?前方に何かいる?」
そう報告を受けたワタクシはホルストさんに報告します。
「ホルストさん。前の方に何かいるみたいです」
「なに?『神強化』。『神耳』発動」
ワタクシの報告を受けたっホルストさんは、『神耳』を発動させ、すぐに探りを入れます。
すると……。
★★★
ヴィクトリアの報告を受けた俺は、『神耳』を使い、前方の方の状況を把握することにした。
すると。
「ぐほおおおお」
ボートの進行方向から人の悲鳴が聞こえてきた。
かなり苦しそうな悲鳴である。
普通に考えて、こんな所に普通の人間はいない。
ということは、これは蛇人の悲鳴?
いや、それはわからないけど、この悲鳴を発している人物がピンチなのは間違いなさそうだ。
となると、放って置くわけにはいかなかった。
「お前ら準備しろ。悲鳴をあげている人を助けるぞ」
俺は剣を抜くと、人命救助に向かうのだった。




