第598話~ヒノヤマヌーたちとの短い旅~
回収した三匹のはぐれタニヤマワイルドキャットの遺体をヒノヤマヌーたちに見せると大喜びしてくれた。
「ありがとうございます!これで、我々に再び平和な生活が戻ってきます」
ヒノヤマヌーのボスはそうやって、何度も頭を下げながら俺たちにお礼を言ってくれた。
さて、これで俺たちの報告は終わったので、約束通りヒノヤマヌーたちに『静かなる谷』まで案内してもらうことにする。
「さて、それでは約束通り『静かなる谷』まで案内してもらおうか?どっちへ行けば、近道なんだ?」
「それなのですが。我々はホルスト様たちに非常にお世話になりました。ホルスト様たちのおかげで、我々ははぐれタニヤマワイルドキャットたちの恐怖から開放されました。そんな大恩あるホルスト様たちを歩かせるなどとんでもないことです。『静かなる谷』まで我々が背に乗せてお運びしましょうと思いますが、それでいかがでしょうか?」
「おお、何だ。『静かなr谷』まで案内するだけでなく、乗せて行ってくれるって言うのか?」
これはありがたい話だった。
正直数日『火の山』を歩くだけでも熱くてたまらなかった。
目の前の岩石砂漠も、『火の山』より多少マシではあるとはいえ、とても熱い場所だ。
それが『ヒノヤマヌー』たちの乗せて行ってもらえるのなら、かなり速く移動できることになり、それだけ熱さに晒される時間が減り、体力的に楽そうである。
ということで、是非ともお願いすることにする。
「そういう事なら、お願いするよ」
「お任せください」
こうして、俺たちは『ヒノヤマヌー』に乗って、一気に岩石砂漠を通り抜けることになった。
★★★
『ヒノヤマヌー』に乗せて行ってもらうことになったので、まずはその準備をした。
「ヴィクトリア、馬用の鞍を出せ」
「ラジャーです」
ヴィクトリアに言って、馬用の鞍を出させ、それを『ヒノヤマヌー』たちの背に乗せて準備完了だ。
「それじゃあ、頼むな」
「はい、任せてください」
準備が調ったところで、ボスに話しかけ、出発する。
移動は群れ全員と一緒だ。
なぜかと言うと、ボスが一緒だからだ。
『ヒノヤマヌー』の群れは、ボスが統率して群れ自体が一つの生き物のように行動している。
だからボス無しで群れは成り立たないわけで、ボスが俺たちを案内してくれる以上群れも一緒に付いてくるのはむしろ当然だった。
そんな訳で、俺たちは『ヒノヤマヌー』の群れごと『静かなる谷』へと向かうのだった。
★★★
「うん。ヒノヤマヌーの乗り心地、悪くないね」
今アタシことリネットはヒノヤマヌーという牛に似た動物に乗っている。
牛に似た動物だけい乗り心地は良くないかなと思って最初乗ってみたのだが、思ったよりも乗り心地は悪くなかった。
いや、それどころか想像したのよりも大分良かった。
「『ヒノヤマヌー』って牛の仲間だし、見る限りでは暴走気味に走るので、乗る時にもっと揺れるのかと思っていたけど、それほどでもなかったね」
牛というだけあって、激しく揺れながら走るんじゃないかな?、と想像していたんだけど、実際は揺れで振り落とされるような心配もなく、安心して乗っていられたんだよね。
まあ、さすがに馬に比べると乗り心地的には劣るけれど、十分満足でき切るノリ心地だと思うよ。
それに十分に移動速度も速いしね。
「なあ、お前たちの足ならどのくらいで『静かなる谷』へ着くんだ?」
「三日と言ったところです」
「それはいいな。エリカの本によると、砂漠を抜けるのに歩いて十日くらいかかるという話だったから、大分時間の短縮になるな」
と、アタシの前でヒノヤマヌーに乗っているホルスト君が聞くと、ヒノヤマヌーたちからそんな返事が返って来たので単純に歩くのに比べて約三倍くらいのスピードが出ていると思う。
もちろん、『ヒノヤマヌー』たちは近道を通るらしいので、単純に速さが三倍という訳ではないと思うが、これで十分だと思うよ。
今のような状況のことを、『情けは人の為ならず』と言うらしいね。良い言葉だと思うよ。
困っていた『ヒノヤマヌー』を助けたことで、速く移動できるのだからこちらとしても本当助かったと思うよ。
このまま無事に行けることを願うばかりだよ。
ちなみにアタシの前にホルスト君が座っているのは、鞍の数の問題で一つの鞍に複数人が乗っているからだよ。
ホルスト君は身長が高いから、小柄なアタシとの組み合わせがちょうどよかったんだよ。
まあ、ホルスター君とか銀ちゃんとかもいるのでこの組み合わせは変わるかもしれないけど、今のところ一緒に乗っているのはアタシだ。
だからここぞとばかりにホルスト君の背中に抱き着いて離さないようにしている。
ホルスト君の背中は筋肉質でがっしりとした肉付きでアタシの好みだ。
その背中に体を預けているとホルスト君の温もりが伝わって来てとても心地よい。
こうやってホルスト君の温もりを感じられるだけでも私はとても幸せだ。
できる事ならずっと、この幸せを感じていたいな。
そう思いつつ、アタシはホルスト君の背中を掴む手にさらに力を籠め、ホルスト君との距離を縮めるのだった。
★★★
『静かなる谷』へ向かう途中、俺たちは何度か休憩した。
当たり前だ。
いくら俺たちが頑丈でも、ずっと『ヒノヤマヌー』の背中に乗っているのはつらいし、『ヒノヤマヌー』たちも疲れるので、適度な休憩は必要だ。
休憩の時、『ヒノヤマヌー』たちには馬用の飼料をあげた。
この飼料は牧草を加工して製造する高カロリーなもので、少量でもお腹がいっぱいになるのだ。
馬に食べさせる餌のスペースの節約になるので、商人や冒険者、軍などが良く使う物である。
「我ら『ヒノヤマヌー』はとても飢えに強いのです。『静かなる谷』まで行って、そこから『火の山』に帰るまで食事をしなくても平気ですので、お気遣いなく」
ボスはそんなことを言って、俺たちに気を遣わせないようにしていたが、俺たちが食事をしているのに『ヒノヤマヌー』たちに何も食べさせない訳には行かない。
「そう言わず遠慮せず食えよ」
「そこまでおっしゃっていただけるのなら、いただきます」
頑張ってボスを説得すると、そうやってようやく食べてくれたのだった。
それで、肝心の飼料の評判はというと……。
「ほほう。これは普段『火の山』で食べる草よりも味が濃くておいしいですな」
と、『ヒノヤマヌー』たちにはかなり好評なようだった。
そして、群れで遠慮なく飼料をバクバク食うのだった。
その勢いはすさまじく一回の食事で、飼料のロールが三つも無くなるくらいだった。
飼料のロール一個でパトリックなら一か月くらいは持つくらいの量があるのだ。
それが、五十頭くらいはいるとはいえ、一気に三つも無くなるのだ。
それと一緒に大量の水も飲んでいるから、中々の食いっぷりであると言える。
ボスの『飢えに強い』発言は何だったのかと思うほどである。
「まあ、別にいくら食べてくれても構わんが……これは帰ったら牧草ロールを買わなきゃな」
と、『ヒノヤマヌー』たちの食いっぷりを見てそんなことを思いながら、自分たちもきっちりと酒や肉を食べるのであった。
★★★
そんな感じで『ヒノヤマヌー』たちに乗せてもらって旅をするうちに『静かなる谷』に着いた。
『静かなる谷』に着くとともに周囲の気候が一気に変わった。
「とても涼しくて、気持ちがいいです」
谷の方から吹いてくる涼やかな風が頬にあたってヴィクトリアが満足げにしている。
そうここへ来て、気温が一気に下がりとても過ごしやすい環境になったのだ。
ということで、嫁たちがとてもやる気になっている。
「さて、皆さん。涼しくなったことだし、頑張りましょう!」
「「「おおおおーー」」」
と、気合十分だった。
そんな嫁たちを見て、俺も頑張らなきゃな、と俺もやる気になり、『静かなる谷:に挑む気満々になるのだった。




