第596話~ヒノヤマヌーたちとの話し合い 彼らを狙うのは?~
『火の山』から『静かなる谷』への旅の途中にある岩石砂漠のエリアで何者かが俺達に接近してきた。
とりあえず相手の様子を探るため近くの岩陰に隠れた俺達だったが、敵の様子を窺いつつも不測の事態に備えて準備することにする。
「おい!お前ら!すぐに武装しろ!」
「はい!」
俺の指示で仲間たちが武器を取って構える。
仲間たちの装備は武器は斧や杖などそれぞれいつも使っているものなのだが、服装だけは熱さ対策の薄着のままだ。
若干防御力に劣る気がしないでもないが、着替えている暇はなさそうなので仕方がない。
幸いなことに俺だけは通常の武装で過ごしていたので、いざとなれば俺が前に出て戦えばいいだけの話だしな。
ということで、この態勢のままもう少し様子を見ることにする。
★★★
「旦那様、あれは『ヒノヤマヌー』の群れですね」
何者かが接近していると聞き、近くの岩に隠れて周囲の様子を窺った俺たちは、こっちに向かって何者かの群れが向かって来ているのを発見した。
そして、その群れをエリカがテレスコープで観察し、図鑑と照合した結果、相手は『ヒノヤマヌー』の群れと判明したのだった。
「それで、エリカ。その『ヒノヤマヌー』とはどんな魔物なんだ?」
「それが旦那様。『ヒノヤマヌー』は魔物ではなく、牛の近親の草食動物です。『火の山』やその周辺に生息していて、普段は草を食べて大人しく暮らしているみたいです」
「え?魔物じゃない?それに大人しい?でも、目の前の連中、目を血走らせて走り回っているんだが……。それはどういう事なんだ?」
「さあ、それはわかりますね」
そうか。エリカにも理由はわからないか。
ただ、大体五十頭くらいはいるであろう『ヒノヤマヌー』の群れが岩石砂漠を走り回っているのは事実だ。
正直、あんな群れの近くを通ったりしたら、群れに襲われる可能性が高いので近づきたくはないが、それでは先に進めない。
もちろん俺達なら力づくで排除することは可能だが、魔物でもない本来大人しい動物を力づくで……というのは俺たちのやり方ではない。
「さて、どうしたものか」
俺がどう対応しようかと悩んでいると、ホルスターにピッタリとくっついて俺の様子を見ていた銀がこう言って来た。
「ホルスト様。ここはこの銀にお任せください。何せ、この銀は動物の言葉が分かりますからね。事情を聞いてみましょう」
★★★
銀が『ヒノヤマヌー』に今の状況を聞いてくれるというので、銀に頼ることにする。
「銀、準備はいいか?」
「銀の方は大丈夫なので、いつでもどうぞ」
銀の方の準備ができたようなので、『ヒノヤマヌー』の群れの方向へ行くことにする。
銀をひょいと俺の背中に負い。
「『重力操作』」
魔法で空を飛んで、『ヒノヤマヌー』の群れの方へ近づいて行く。
なぜ歩いて行かないのかって?
決まっている。そんなことをすれば、『ヒノヤマヌー』の群れに体当たりされてしまうだろうが!
俺はまだしも銀をそんな危険な目に遭わせるわけにはいかない。
ということで、空を飛びつつ近くまで接近して、話を聞くことにする。
さて、これでうまく行くと良いのだが……。
★★★
しばらく空を飛ぶと『ヒノヤマヌー』の姿が見えてきた。
『ヒノヤマヌー』は灰色に近い体色の角の生えた力強い感じの牛のような生き物だった。
体の色が灰色なのは、この辺りの環境に適応した結果で、この色なら周囲の背景に溶け込んで、目立たないからである。
それで、俺たちは話を聞くべく『ヒノヤマヌー』たちに近づいて行く。
狙いはこの群れのボスだ。
え?ボスがどいつだか分かるのかって?
もちろんだ。これは簡単にわかる。
エリカの情報によると、『ヒノヤマヌー』の群れでは一番強い雄がボスになり、群れはそいつについて行くという習性があるそうだ。
その観点で群れを観察すると、この群れでは一匹の雄の『ヒノヤマヌー』が群れの先頭を走り、他の個体がそれについて行っているという感じであった。
ということで、先頭の雄が群れのボスで間違いなかった。
俺達はこのボスに向かって近づいて行った。
★★★
群れのボスに十分に接近したところで、銀がボスに話しかけた。
「ヒノヤマヌーさん、ヒノヤマヌーさん。ちょっとお話さてもらっても良いですか?」
「!!!!!」
自分の顔の少し斜め上からいきなり話しかけられたヒノヤマヌーはビクッと反応し、驚いた顔をし、すごい勢いで走っていたのがピタッと止まった。
群れのボスが急に止まったので、ボスに続いて走っていた群れのメンバーも走るのを止め、群れ全体がその場に急停止した。
それを見て、これはチャンスだと思ったのだろう。銀がもう一度ボスに話しかけた。
「突然話しかけて驚かせてしまって申し訳ありません。私は神獣見習いの銀と申します。実は私のご主人様である女神ヴィクトリア様のご一行がここを通る予定なのですが、ヒノヤマヌーの皆さんが走り回っていて、このままだとトラブルのもとになりかねません。そこで、できる事ならトラブルは避けたいと思い、こうして話しかけさせてもらいました」
「なに?神獣見習い?それに女神様のご一行?それは本当ですか?証拠はあるのですか?」
「はい。私が神獣見習いというのは間違いないですよ。その証拠に、私が今背中に乗せてもらっているヴィクトリア様の旦那様であるホルスト様にもこの会話は伝わっています。もちろん、私の能力を使って、ヒノヤマヌーさんとホルスト様が直接会話することもできますよ。これは神獣にしかできないことです。これが証拠になると思いますよ。ということで、ホルスト様。ヒノヤマヌーさんに話しかけてください」
「そういう訳で、俺が銀が紹介してくれたホルストだ。今、俺の話がお前さんにもちゃんと伝わっているだろう?これこそが神獣の特殊能力だ。これで理解してくれると嬉しいんだけど」
「本当だ。人間であるあなた様の言葉が理解できます。どうやらあなた方は本当に女神様のご一行のようですね。いいでしょう。お話を聞きましょう」
そう言うと、ボスはぺこりと頭を下げ、俺の話を聞く態勢に入ったのであった。
★★★
ボスが話を聞く態勢になったので、事情を聞くことにした。
「それで、お前たちは何でこんな何もない岩石砂漠地帯を走り回ったりしているんだ?」
「私たちが走りまわっている理由ですか?それは単純な話です。私たちは私たちを狙う狩人たちから逃げているのです」
「狩人たち?」
「はい。数日前、私たちは『火の山』の方でのんびりと草を食べていたのです。そこへその狩人が突然襲ってきたのです!」
「ほう、つまりお前たちはその狩人たちに奇襲されたという訳か?」
「はい。まあ、その初撃は群れの雄たちが協力して何とか群れの仲間たちを守ることに成功しました。ただそいつらはしつこくて、それからずっと私たちのことを追い回していて、もう何日も逃げ回っているのです」
「それは確かに大変だな。で、そのお前たちを追いかけまわしている集団とは何者だ?」
「それは、『静かなる谷』から『火の山』の方に流れてきたと思われる『はぐれタニヤマワイルドキャット』という魔物の集団です」
『はぐれタニヤマワイルドキャット』ねえ。
どうやらそいつらを排除しないと、この先へ向かうのは難しいようだ。




