第592話~ヤマタノオロチの話 後編 ヤマタノオロチの鱗~
『静かなる谷』に住んでいる謎の人々の正体は蛇人である。
ヤマタノオロチがそう教えてくれたので、今度は蛇人についてヤマタノオロチに詳しく聞くことにする。
「蛇人という人々が『静かなる谷』にいるというのはわかった。それで、その蛇人という人々はどういう人たちなんだ」
「蛇人は先程も言った通り亜人です。蛇のような鱗と尻尾を持つのが特徴の要するに蛇の獣人ですよ」
「蛇の獣人なのか?」
「その通りです。彼らは人間が湿地帯に適応して進化してそういう姿になった存在なのですよ。言語も人間たちと同じですから、話すこともできますよ」
「ふーむ」
ここまでの話を聞いた俺はこう思った。
そういうことならば、彼らと話し合いとかできたりしないだろうか?
不慣れな湿地帯を探索するのであれば、是非とも彼らの協力を得たいところである。
ただエリカが見つけてきた本によると、彼らはとても排他的な一族であるようだ。
それでも何か方法はないのかな?
ということで、次はヤマタノオロチにその辺のことを聞いてみることにした。
★★★
「それで、ヤマタノオロチ、一つ聞きたいんだけど……」
「何でしょうか?」
「俺たちがキョウの町で調べてきた情報によると、どうもその蛇人っていう連中とても排他的らしいじゃないか。その話は本当なのか」
「排他的ですか……それは……」
俺の発言を聞いたヤマタノオロチは一瞬口ごもった。
どうやら少し話しにくい内容だったみたいで、あまり口には出したくなかったようだ。
だが、それも束の間のことで、ヤマタノオロチはすぐに話を再開した。
「まあ、確かに彼らにはそういう一面はありますね。何せ彼らは数百年ほど『静かなる谷』に独立闊歩している狩猟採集民族です。数百年間、自分たちだけで生活が完結していて、その間外の人々と一切交流がありませんでしたから、あまり他の人々とは交流していないですね」
「やはりそうなのか」
「はい。ですから下手に彼らに近づくと、ホルスト様たちどいえども追い返されるかもしれませんね」
「ふ~ん。それは困ったな」
神聖同盟の施設を探すにあたってはなるべく現地の人の協力を得たいと思っていた俺としては、ヤマタノオロチの情報はあまり良い情報ではなかった。
無理かもしれないが、それでも何とか現地の人の協力を得られないものか。
そう考えた俺はヤマタノオロチに聞いてみた。
「でもなあ、ヤマタノオロチ。俺たちは神聖同盟の施設を探すうえで、なるべく現地の人の協力を得たいと考えているんだ。何か良い方法はないものかな」
「そうですね。う~む……そうだ!」
俺の質問を受け、ヤマタノオロチはしばらく考えた後、良いアイデアが浮かんだらしく、それを俺たちに話してくれた。
★★★
「実は彼らには一つの伝承があるのです」
「伝承?なんだ、それは?」
「まあ、よくある伝承ですよ。その伝承とは……」
そう言いながらヤマタノオロチはその伝承とやらについて教えてくれるのだった。
「その伝承とは、『蛇神の使者来たる時、蛇人に平和をもたらすであろう。蛇人、その使者を歓迎すべし』というものです」
蛇神の使者来たる時、蛇人に平和をもたらすであろう。蛇人、その使者を歓迎すべし。ねえ。
まあ、確かにどこの民族にもよくあるような伝承ではある。
今までの旅でも似たような伝承や、過去に現れて国を救ってくれた勇者や戦士の物語を何度も聞いてきたので蛇人の伝承とそっくりな話が多くの民族に共通しているのは間違いないと思う。
ということで、蛇人のこの伝承もありふれた話ではあるのだが、今回はこの伝承を使って蛇人たちと交流するきっかけにしたいと思う。
そんなわけで、もう一度ヤマタノオロチに聞いてみる。
「ふ~ん。そういった伝承がある以上、一見排他的な蛇人といえども、何か『蛇神の使者』であるということを証明できれば、俺達にも蛇人たちと接触できる可能性はあるという事かな?」
「はい、そういう事です」
「で、『蛇神の使者』と認めてもらう良い方法ってあるかな?」
「もちろんありますよ。是非こちらをお持ちください」
そう言いながら、ヤマタノオロチが渡してきたのは……。
「白い鱗?」
「ええ、それは私の鱗ですよ。」
なんとヤマタノオロチの鱗だった。
しかも結構大きかった。
何と言ってもヤマタノオロチは巨体だからな。
その鱗一枚だけでも普通の蛇とは比べ物にならないくらい大きく、しかも神獣の鱗らしく白く輝いていてとても美しかった。
「これを見れば、蛇人たちもホルスト様が『蛇神の使者』だと信じると思いますよ」
この鱗を見れば確かに蛇人たちも、俺たちが『蛇神の使者』だと納得してくれる可能性が高そうだった。
そんな訳で、こんな貴重な物をくれたヤマタノオロチに、
「ありがとう」
と、俺はお礼を言ったのであった。
★★★
さて、蛇人の話が終わった後は夜中まで飲んだ。
それはしこたま飲んだ。
何せ目の前のヤマタノオロチは酒に関しては底なし沼だし、そこまでではないがうちのメンバーにもよく飲むやつがいるからな。
「きゃははは」
「あははは」
そんな風に大笑いしながらじっくりとお酒を飲んだ。
おかげで次の日の朝、ほぼ全員二日酔いになってしまったのだが、楽しい思い出ができたので、良しとしようと思う。




