第58話~引っ越しました~
引っ越しするにあたってまず買い出しに出かけた。
とりあえず、今回家具を新調した。
最初はベッドからだ。
これはすべて新調した。
元々俺とエリカが使っていたベッドは備え付けの物だった。
「ワタクシもうちょっと大きいベッドがいいです」
ヴィクトリアのベッドは購入したものだったが、小さい部屋に合わせて小さいものを使っていたので、今回我儘を聞いてやって買い替えることにした。
リネットさんは元々使っていたベッドは実家に置いておいて、新しく買うつもりだという。
ということで、家具屋のベッドコーナーで各々希望に沿うものを選んだ。
俺とエリカは天蓋付きの豪華なベッドを選んだ。
「こういうベッドで旦那様と一緒に寝るのが夢だったのです」
と、エリカがかわいらしいことを言うのでこれに決めた。
夫婦になってもこういう乙女なところを発揮してくれるエリカは素晴らしいと思う。
「ワタクシは寝心地がいいベッドがいいです」
ヴィクトリアはベッドに寝心地を求めた。
いくつものベッドに何度も寝ころび寝心地を確認しながら、これはと思うものを選ぶ。
というか、それって店員さんに迷惑じゃないか?
まあ、店員さんは渋い顔一つせずに、ニコニコ顔で、どうぞお試しください、と言わんばかりに見ているだけだったので、まあいいか。
意外だったのはリネットさんだ。
「アタシはこれがいいかな」
そう言って顔を赤らめながらリネットさんが選んだのは、女の子らしいかわいいベッドだった。
リネットさんのイメージとは多少違う気もするが、いいんじゃないかと思う。
むしろ、リネットさんの女の子らしい一面を見られて、俺は満足だ。
ベッドの次はその他の家具を選んだ。
リビングに置くテーブルとソファーから選んでいく。
「大人が4人にプラスアルファ将来的に何人か増えることを考えると、最低でもこのくらいの大きさは
必要ですね」
エリカが選んだリビング用のテーブルはかなり大型の物だった。
これなら大人4人に子供が数名増えたところで問題なさそうだった。
「ワタクシはこのでっかいソファーがいいです!」
ヴィクトリアがこだわったのはソファーだった。
今のソファーでは横になるとちょっと狭いらしいので、今度は横になっても余裕がある大きいソファーをご所望のようだ。
ベッドの時もそうだったが、こいつにとって寝心地というのは相当重要な要素なようだ。
その点をツッコんでやると。
「ホルストさん、何を仰いますか。1日8時間寝るとして、更に昼寝の時間まで考えると、1年に3000時間以上寝る計算になるんですよ。寝るのにこだわるのはむしろ当たり前のことではないですか」
そんな風に開き直りやがった。
というか、シレッと昼寝の時間を加えるな。本当にしょうがない奴だ。
「このカーテンがかわいらしくていいな」
リネットさんは自分の部屋のカーテンを念入りに選んだ。
女の子らしくフリル多めのかわいらしいものを選んでいる。
さっきのベッドもそうだが意外に可愛いもの好きらしい。
その後も色々家具を買った。
タンスに食器棚、本棚に絨毯と色々買った。
「明日の昼にはお運びできると思います」
家具を明日に運んでもらうことにしてその日は帰った。
★★★
翌日は早朝から新居の掃除をした。
「私が台所周りとリビングを掃除するので、ヴィクトリアさんは廊下と階段を、リネットさんは庭と馬小屋をお願いします。旦那様はトイレと玄関を掃除してください」
エリカの陣頭指揮の下、全員が一斉に掃除を開始する。
「ラララ~、廊下を拭き拭き、階段も拭き拭き、腰を入れて磨けば、ほらキレイ」
ヴィクトリアは妙な歌を歌いながら、鼻歌交じりに掃除をしている。
新生活への期待で胸が高鳴っているのだろう。
目を輝かせている。
一方リネットさんは黙々と掃除をしている。
「……」
本当に一言もしゃべらない。
元来まじめな性格なので、ひたすら掃除に専念している。
俺は、この二人で言うと、どちらかというとリネット派だ。
黙々と自分の仕事をこなす。
2時間ほどで掃除が終わるとご飯にする。
今日は1日中忙しいので、これが朝飯兼昼飯となる。
「今日は時間が無かったので簡単なものにしました」
そう言ってエリカが出してきたのは、フソウ皇国で買ってきた米で作った大量のおにぎりだった。
フソウ皇国でも何度か食べたが、簡単に作れて腹も膨れるのでこういう時間がない時には最適な料理だ。
「ワタクシも頑張って手伝いました」
「アタシも」
ヴィクトリアとリネットさんが妙にアピールをしてくるが、それは知っている。
「ご飯、熱いです」
「中々、形が整わないな」
今朝、そうやって悪戦苦闘していたのを見たからな。
うん、えらいぞ。
「それは頑張ったな。期待しているぞ」
そう褒めてやると二人の顔がパッと明るくなる。
そんなにうれしいのか?
まあ、努力が認められると人間嬉しいものだからな。
「それでは、食べますか」
早速おにぎりに手を伸ばす。
朝飯を食べずに働いていたので、お腹は空腹で悲鳴をあげている。
「いただきます」
エリカたちが一生懸命作ったおにぎりはおいしかった。
「これは焼き魚の身を入れているのか」
「はい、魚のほかにも佃煮とか、おかかとか色々入れてますよ」
おにぎりに中にはいろいろ具が入っていて多くの味を楽しめるようになっていた。
こういうちょっとした配慮はとてもうれしい。
バクバク。食が進む。
どんどん食べる。
俺以外の3人も腹が減っていたみたいで、やはりどんどん食べた。
気が付くと20分もしないうちに大量にあったおにぎりは無くなっていた。
★★★
「ちわ~、家具をお届けに参りました」
飯を食い終わってお茶を飲みながらのんびりしていると、家具が届いた。
「それは、ここ。これはあちらに置いてください」
事前に置く場所を決めていたので、家具屋さんに大体の位置に運んでもらう。
その後は一通り家具を拭き、きちんと設置する。
「もうちょっと慎重に動かせよ」
床や家具に傷がつかないように注意を払いながら移動させる。
「それでは荷解きをしましょうか」
家具の設置が終わったら前の家から持ってきた荷物を開ける。
「ヴィクトリア、荷物を出してくれ」
「ラジャーです」
ヴィクトリアが収納リングから梱包された荷物を出し、全員でそれを開けて、中身を取り出し、
並べていく。
まず共通の食器やら鍋やらを片付け、次に個人の私物を整理する。
「こんなものかな」
それが終わった後は買い出しに出かける。
人数が一人増えたので足らない物ばかりだ。
幸い近くに商店街があるのでそこへ行く。
「ここもたくさん人がいますね」
ノースフォートレスは100万人都市だけあって、商店街の数も多く、どこも賑やかだ。
「それでは順番に回りましょうか」
エリカの指示の下、俺たちは順番に商店を回っていく。
まず足りない食器類や日用品を買い込む。
「わー、今晩はごちそうですね」
雑貨類の後は食料品を買う。
ヴィクトリアの言う通り、今日は気合を入れて料理を作るつもりの様で、質の良い食材を結構買っていたみたいだ。
みたいだと言ったのは、食材はエリカ中心に買っていたので、俺はほとんどタッチしてないので、よくわからないからだ。
「それでは帰りましょうか」
買い出しが終わると、俺たちは家に帰り、また引っ越し作業を再開する。
「さあ、あと一息だ」
気合を入れ直し、作業をする。
こうして引っ越し作業は夕刻まで続くことになる。
★★★
「さあ、たくさん食べてくださいね」
晩御飯の時間になるとたくさんの料理が新品のテーブルの上に並べられる。
「おおおー」
それを見て俺は喜びの声を上げる。
テーブルにはたくさんのパン、肉料理、魚料理、サラダ、スープ、麺料理、煮物類などが所狭しと並べられていた。
「頑張って作ったので遠慮せずに食べてくださいね」
「ワタクシも、一生懸命頑張りましたから」
「アタシもたくさん手伝ったからね」
エリカが言うのに合わせ、昼に引き続き、ヴィクトリアとリネットさんがアピールしてくる。
えらく褒めてほしそうな顔をしているので、褒めてやることにする。
「よく頑張ったな。じっくり味合わせてもらうよ」
そう言ってやると、パっと二人の顔が明るくなり、なんか独り言を言い始める。
「やった。褒めてもらえた」
「これで、野望に一歩近づきましたね」
ちょっと何言っているのか意味が分からないセリフもあるが、喜んでくれて何よりだ。
ちなみに、俺も料理を手伝おうとしたが拒否された。
「旦那様はそんなに料理がお上手ではありませんので、邪魔です。なので、旦那様は何か飲み物でも飲みながら、のんびりなさっていてください」
そうエリカにはっきり言われてしまったからだ。
邪魔って、そんなにズバリ言わなくてもとも思ったが、エリカに逆らうと怖いので、黙って大人しくすることにした。
そうこうしているうちに食事が始まった。
「かんぱ~い」
とりあえず最初に1杯やった後は、どんどん食っていく。
「この魚のムニエルはワタクシが作ったんですよ」
ヴィクトリアが自分が作った料理を俺に差し出してくる。
「このスープはアタシが作ったんだ」
リネットさんもやはり自分が作った料理を俺に渡してくる。
「おい、おい。そんなに一度に食べられないだろうが」
「「いいから、食べてみてください」」
女性二人からジト目で頼まれてしまった。
しょうがないので、二つを交互に食べる。
「おっ、うまいじゃないか」
二人の料理は結構おいしかったので、褒めてやると、
「「それはよかったです」」
二人は非常に喜んだ。
まあ、この二人は旅の途中からエリカに本格的に料理を教わって頑張っていたからな。
こういう機会にはその努力と成果をほめて喜ばせてやるべきだろう。
「また、おいしいものを作って食べさせてくれよ」
だから、おまけでそう言っておいた。
「「はい」」
それに対して二人は力強く返事をした。
うん、元気があってよろしい。期待しているからな。
その後も食事は続き、日付が変わるまで、俺たちは新居での新しい夜を楽しんだ。




