第57話~ノースフォートレス帰還~
ようやくノースフォートレスの町に帰還できた。
町を出発した時には夏真っ盛りだったのに、帰ったらすっかり秋めいていた。
「3か月程度いなかっただけなのに、何だか5年くらいいなかった気がする」
「やっと家に帰ってこれましたね、旦那様」
「ワタクシは早くソファーで横になりたいです」
「久しぶりに町の皆に会えてうれしいな」
みんなが感慨深げに言う。
まあ、この3か月かなり濃かったので無事に帰ってこれて何よりだと思う。
「それじゃあ、とりあえずギルドへ行くか」
まず、ギルドへ行く。
ちょうど依頼ボードに依頼が張り出され、冒険者連中がたむろっている時刻だったので、知り合いが大勢いた。
「よお、ドラゴンの」
最初に声をかけてきたのは『漆黒の戦士』のリーダーのフォックスだった。
「お久しぶりです。フォックスさん」
「おう、久しぶりだな。しばらく顔を見なかったが、どこへ行ってたんだ」
「ガイアスの町まで荷運びの仕事に行ってて、その後はフソウ皇国へ行ってぶらぶらしてました」
「ほう、フソウ皇国へ行っていたのか。俺は行ったことないが、どんな国だった?」
「色々変わった国でしたね。建物とか服装とかいろいろ他とは違っていましたね」
「ふーん、そうなのか」
「ええ。ただ、食べ物はすごくおいしかったですよ。あっ、そうだ。おい、ヴィクトリア。お土産を出せよ」
「ラジャーです」
俺が指示すると、ヴィクトリアが収納リングからお土産のお菓子を取り出した。
俺はそれをフォックスに手渡す。
「大したものではないですが、フソウ皇国のお菓子です。『漆黒の戦士』の皆さんで食べてください」
「これは……珍しいものをありがとうよ。パーティーの皆で食わせてもらうぜ」
「なんだ。なんだ」
俺がフォックスに土産を渡しているのを見て冒険者たちが集まってきた。
皆、興味津々というか、珍しいものを食ってみたいという顔をしている。
うん、俺はお前らのそういう厚かましい所嫌いじゃねえぜ。
「皆、そんな顔をするな。お前らの分もあるからよ」
「本当か」
俺の発言を受け、冒険者たちが色めき立つ。
★★★
「今から渡してやるから順番に並べ」
それから10分後。
「大体知り合いには配り終えたかな」
知り合いの冒険者たちにお土産を配り終えた。
ただ、それでもまだこっちをじろじろ見ている奴らがいる。
本当欲深い奴らだ。
ただ、これは俺のことをよく知らない連中にも名を売るチャンスだと思う。
だから、配ってやることにする。
ヴィクトリアにさらにお土産を10箱ほど出させると、依頼ボードの横に置く。
「後はここに置いておくから、まだもらってないやつは食ってくれて構わない。ただし一人1個だぞ」
「さすが、ホルストさんだぜ」
「ホルストさん、素敵」
ギルド中が沸き上がり、早速冒険者たちがお菓子に群がってくる。
「じゃあ、後は適当にやってくれ」
そう言い残すと、俺たちは今度は受付の方へ移動する。
★★★
「どうも、お久しぶり」
「あっ、リネットさん」
受付で最初に挨拶したのはリネットさんだった。
ギルドの受付の職員、特に女の子たちが集まってくる。
「おかえりなさい、リネットさん」
「わーい、リネットさんだ」
集まってきた女の子たちがわいわい騒ぐ。
というか、リネットさんて人気あるんだな。
まあ、しっかりとしていて面倒見がいい人だから、年下の女の子から見れば頼りがいがあるように見えるのだろう。
自分ではお飾りの副ギルドマスターだと言っていたが、部下の掌握という点では、十分役割を果たせていたみたいだった。
「それで、リネットさんはこの後職場復帰なさるんですか」
「いや、現職の冒険者を続けるつもりだ。こうやって頼もしい仲間もできたことだし、お父さんも何も言わないだろうし」
「じゃあ、副ギルドマスターは」
「辞めることになると思う」
「え~辞めちゃうんですか。リネットさんがいなくなると寂しくなりますね」
「そんなことはないよ。ちょくちょく来るからさ」
しばらくそんな会話が続いた後。
「それじゃあ、アタシはギルドマスターに挨拶して来るから、これをみんなで分けてくれ」
リネットさんはそう言うと大量のお土産を机の上に置いた。
そして、俺たちはその場を離れた。
★★★
「結局慰留されてしまったな」
冒険者ギルドからの帰り道、リネットさんがぼやいていた。
「まあ、いいじゃないですか。それだけみんなが認めてくれているという証でもあるわけですし」
「そうかもしれないが、何も仕事をしていないのに副ギルドマスターってのもね」
結局、リネットさんは副ギルドマスターを辞められなかった。
ギルドマスターのダンパさんに頼み込まれて断れなかったからだ。
「別に仕事しなくていいからさ。名前だけでもいいから籍を置いといてくれよ」
そう懇願されて、リネットさんは仕方なく受けたのだ。
どうやらギルド的には、Sランク冒険者パーティーの一員であるリネットさんが副ギルドマスターでいてくれる方が、変なのを副ギルドマスターにするよりも、箔がついて良いという判断の様だった。
「まあ、もう決まっちゃったものはしょうがないです。それよりも、さっさと次行きましょう」
そうして俺たちが向かったのは前にお世話になった不動産屋さんだった。
というのも、リネットさんは今実家暮らしなのだが、前々から実家を出て暮らしたいらしく、今回俺たちのパーティーに加わったことを機に実家を出るつもりらしかった。
そこまでは別によかったのだが、そこでヴィクトリアがこんなことを言い出しやがった。
「リネットさん、実家を出るつもりなんですか?だったらワタクシたちと一緒に暮らしませんか?」
お前何を言っているんだ。
リネットさんは一応未婚の大人の女性だぞ。
同じパーティーで既婚者とはいえ、男である俺とひとつ屋根の下で暮らしていいと思っているのか。
そう俺は主張したが。
「ワタクシがすでに一緒に暮らしているのに今更じゃないですか。ワタクシだって、魅力的な大人の女性ですよ」
そうヴィクトリアに開き直られてしまった。
「アタシは別に気にしないよ。それよりもどうせ外に出るなら楽しく過ごしたい」
リネットさんも俺たちと暮らすのは別に構わないようだ。エリカも。
「いいではないですか。同じパーティー同士仲良くやりたいですし、一緒に暮らしていた方が仕事とか
受けるのにも便利だと思いますよ」
そんなことを言い出す始末である。
あれ?反対俺だけ?俺の方が感覚おかしい?
とにかく俺一人だけの意見が通るはずがなく、4人で一緒に住むことになった。
「リネットさんのお父さんとかは大丈夫なんですか」
一応そういうことも聞いてみたが。
「前に別のパーティーを組んでいた時もそのメンバーと一緒に暮らしていたことがあったんだけど、その時もお父さんは、勝手にしやがれ、って感じだったから問題ないと思うよ」
とのことだったので、これ以上俺に言えることはなかった。
ただ、4人で暮らすにしては今いる家は小さかった。
「それに、将来家族が増えた時のことも考えないといけませんよ」
家族。近い将来生まれる可能性が高い俺とエリカの子供のことである。
なるほど、そういうことも考えると、やはり家は広い方がいいか。
そんなわけで、俺たちはこうして不動産屋に来たのだった。
★★★
「わー、ここ、新しくて、広くて、庭もあって、いいですね」
「うん。ここならキッチンもリビングも広くて使い勝手がよさそうですし、部屋の数も十分ですね。ここなら申し分ないですね」
「中身もそうだけど、ここならギルドにも近いし、買い物とかにも便利だから、住むにはいい場所だと思うよ」
内覧10件目。
ようやくうちの女性陣全員が納得する物件が出てきた。
ここの物件はまだ新しくてきれいで、台所やリビングも広く、庭もある。
部屋の数も十分あるし、馬小屋まで付いている。
俺たちの希望が詰まった家だった。
ちなみにうちの女性陣の希望はというと。
「私はとにかくリビングが広くてみんなで楽しく過ごせる家がよいですね。ついでに家族の数が増えても大丈夫なように、部屋の数もそれなりに欲しいです」
というのが、エリカの希望だ。
まとめると、家族で仲良く暮らせる家がいいということだ。
エリカらしい考えだと思う。
「ワタクシは今より広い部屋が欲しいです。後、昼寝ができるような庭がある家がいいです」
これがヴィクトリアの意見だ。
確かにヴィクトリアの今の部屋は広くない。それどころか狭い。
というのも今のこいつの部屋は物置部屋を流用したもので、ベッド一つ置くだけでスペースがほとんどなくなるくらいの広さしかないからだ。
だから広い部屋が欲しいという気持ちはわかる。
ついでに庭で昼寝がしたいか。
こいつは食うのも好きだがゴロゴロするのも好きだ。
庭で風にあたりながら寝るのはさぞ気持ちがよいように見えるのだろう。
本当、こいつらしい意見だ。
「アタシは部屋とかは多少狭くてもいいから、生活に便利な所に住みたいな」
というのがリネットさんの意見だ。
確かにここは便利がいい。
ギルドに近いし、近くに商店街もある。
年上で実利的なリネットさんはどうやら生活に便利なところが良いらしく、ここが気に入ったようだ。
俺の意見?
俺はうちの女性たちが気に入ってくれるところならどこでもいいと考えていたので、ここでいいと思う。
「ちなみに、ここの家賃ておいくらですか」
「月に銀貨50枚となります」
不動産屋さんに家賃を聞くとそう答えてくれた。
銀貨50枚。今住んでいるところの5倍である。
高いような気もするが、広さとか利便性とか考えるとそこまででもないのかもしれない。
「みんな、本当にここでいいのか」
俺が最終確認をすると。
「「「はい」」」
一斉に元気のいい返事が返ってきた。
よし、ならばここで決めるか。
「それでは、ここを借ります」
「毎度、ありがとうございます」
こうして俺たちは新居を借りた。
次は引っ越しする番だ。




