閑話休題82~ヴィクトリアのおじいさんの復讐 デリックとルッツ、とある日の地獄~
これはホルストたちがミラのお披露目会に出席した後、エリカのお父さんの依頼で魔物退治に行く準備のためにエリカの実家で待機していた時のお話である。
この日、地獄はいつものように阿鼻叫喚の声に溢れていた。
「ギャアア、足がちぎれた~」
「もう二度と悪いことはしませんから助けてください!」
「生前の行いはもう十分反省しました。だから、許してください」
「もう針山に串刺しにされるのは嫌だ~」
「ジャッジメント様、どうかご慈悲を!」
そんな地獄の亡者たちの悲鳴と許しを乞う声がそこら中に溢れているが、その程度のことで地獄の獄卒たちが手心を加えてくれるはずもなく。
「反省しただと?嘘をつくな!お前は生前何度も反省したと抜かしながら、その度に犯罪を繰り返してきただろうが!よもや忘れたとは言わせぬぞ!」
「神に慈悲を乞うなど生意気な!お前は生きている時、ジャッジメント様の神像に小便をかけてバカにしていただろうが!それが今更ジャッジメント様に慈悲を乞うても許してもらえるはずがなかろう。片腹痛いとはまさにこのことよ!」
と、亡者どもの言い分を軽く論破し、亡者どもを厳しく罰して行くのだった。
まあ、地獄ではいつもの光景である。
★★★
そんな中、デリックとルッツもいつものごとく罰を受けていた。
「ネズミさんたち。もう俺たちを食うのは勘弁してください!」
「ああ、ちょっとずつ食われて行くのは、心が壊れるから許してください!」
今現在、二人は神獣のネズ吉の眷属である地獄のネズミたちに食われるという刑罰を受けている。
地獄のネズミたちの食欲はすさまじく二人は「「ギャアア」」と叫んでいる間にあっという間に骨だけにされてしまう。
されてしまうのだが、ここは地獄。三十分もしないうちに二人は元の姿に復活する。
「「ああ、すぐにまた次の罰が始まるのか……」
そして、いつもならすぐさま次の刑罰が始まるのだが、なぜか今回は始まらなかった。
それどころか地獄がいつもより静かだった。
いつもなら地獄の獄卒が叫ぶ声と地獄の亡者の阿鼻叫喚の声が聞こえてくるのだが、今はどちらもない。
実に奇妙な事態だったが、二人にこういう事態に見覚えがある。
それは前に軍神マールスが二人に会いにやって来た時だった。あの時も地獄の獄卒たちが仕事を中断し、マールスを歓迎していたので静かだったのだ。
ただ今回はあの時よりもさらに静かである。
あの時は二人がいる無間地獄だけが静かな感じだったが、今回は何と言うか地獄全体が静かな感じなのだ。
この異常事態に二人は震えた。
もしかしてマールス以上の大物が二人に会いに来たのでは?
そんな予感がしたからだ。
そして、二人のその予感は見事に的中したのだった。
★★★
とうとう二人の前にその大物がやって来た。
まず地獄の獄卒長と称する邪見鬼とか言うバカでかい鬼が現れると、
「お前たち、とっとと正座せぬか!」
と、無理矢理二人を正座させる。
次に数百人の地獄の鬼たちが現れたかと思うと、二人の前に道を作り、その道に沿って整然と整列した。
そして、その鬼たちが作った道を数十人の鬼に守られながら二人ほど馬に乗った人物がやって来る。
そのうちの一人には見覚えがあった。
冥府の王ジャッジメントだ。
何度か見たことがあるので間違いなかった。
それで、もう一人はというと。
「お前たち、頭が高い!すぐさま土下座せよ!『神々の王』クリント様の御成りであるぞ!」
何と二人を訪ねてきたのは最高神であるクリントだった。
★★★
クリントは馬上のままデリックとルッツの前まで進むと、二人に声をかける。
「お前たちがデリックとルッツか?」
「……」
二人が突然のクリントの出現に驚いて、土下座したまま、そんな風に何も言えないでいると。
「こら!貴様ら、クリント様がお前らに話しかけているというのに返事をしないとは、不敬にもほどがあるわ!さっさと返事をしろ!」
二人の後ろで膝まづいた姿勢でいた邪見鬼が二人を怒鳴りつける。
邪見鬼に怒鳴られた二人はハッとして我に返ると、
「「ははー。その通りです」」
と、地面に平伏したままの姿勢でようやく返事をした。
「うむ、そうか。では、やれ!」
それを受け、クリントは自分の愛馬であるスレイプニルに指示を出す。
クリントの指示を受けたスレイプニルは、その前足を大きく振り上げると、
「ブヒイイイインン!!!」
と、大きく咆哮をあげながら、自分の足を思い切り土下座している二人の頭目掛けて振り下ろした。
「「ぎゃああああ」」
スレイプニルに踏まれた二人の頭はザクロのように破裂し、二人は悲鳴をあげながら息絶える。
ただ息が絶えたと言ってもここは地獄。十分も経たないうちに二人は復活する。
それを確認したクリントが二人に再び声をかける。
「お前たち二人、私の孫であるヴィクトリアを手籠めにしようとしたらしいな?ヴィクトリア、言っていたぞ。『物凄く怖かったです』と、震えた声でな。あんなかわいい孫に酷いことをしようとしたお前たちを許しておくことはできぬ!さらには、お前たち、ヴィクトリアが大事にしている狐の銀を虐待したり、罪のない多くの人を殺めたそうだな。お前たちの所業こそ、『神をも恐れぬ所業』というべきよ。今、スレイプニルにお前らの頭を踏ませたのは、それらに対する復讐の最初の一歩である」
復讐の最初の一歩である。
クリントの発言を聞いた二人は震えあがった。
最初の一歩ということは続きがあるということだった。
一体どんな罰をクリントは用意してきたのだろうか?
そう想像しただけで、二人は恐ろしくてたまらないのだった。
そんな二人の思いをよそに、クリントはこう宣言するのだった。
「さて、復讐の最初の一歩も終わったことだし、そろそろお前たちのために用意した刑罰を披露してやろう」
★★★
「おい、お前ら、こっちだ!」
クリントの言葉を受けて鬼たちがデリックとルッツを連れて場所を移動する。
二人が移動した距離はそれほどではない。
ほんの数分。同じ無間地獄の中、針山地獄だ。
……針山地獄なのだが、特別な何かが用意されているわけでもなく、至って普通の、二人がいつも投げ飛ばされている針山地獄だった。
一体何の目的でここへ連れて来たんだ?
そんな風に怪訝に思った二人だったが、地獄の鬼たちは二人のそんな思いに関係なく、二人を針山の針にロープで固定する。
そうなった二人を見たクリントがにやりと笑いながら二人に話しかける。
「お前たち、腹が減っているのではないか?」
「「はあ」」
クリントにそんな質問を投げかけられた二人は、質問の意図が分からずに、何とも言えない曖昧な返事をした。
それを肯定の返事ととらえたクリントは続けてこう言った。
「うむ。腹が減っているようだな。では、今日は特別に腹一杯食わせてやろう。おい!」
「はっ!」
クリントの命令で大きな壺を持った鬼が二人に近づいて行き、二人の口を無理矢理開けると、壺の中身を二人の口の中へと注ぎ込む。
ちなみに壺の中身はハチミツだ。
「あ、甘い!」
「生き返る!」
久しぶりに食い物を与えられた二人は最初こそそうやって喜んだものの、やがて。
「や、止めて!もう飲めない!」
「く、苦しい。呼吸ができない!」
腹がタプタプになって、もうこれ以上飲めない状態になっても鬼たちが二人にハチミツを飲ませるのを止めないものだから、逆に苦しみ始めた。
もちろん、鬼たちは二人の抗議程度でハチミツを注ぐのを止めたりせず、
「久しぶりの食事はうまいだろう?もっと飲め!」
と、笑いながら二人の口にハチミツを注ぎ続け、二人の口からハチミツが溢れ、二人の体がハチミツまみれになるまでそれは続いたのだった。
★★★
二十分後、全身ハチミツまみれになってしまった二人を見て、クリントが言う。
「ほほう。全身ハチミツで覆われてすっかり男前になったではないか」
「「……」」
口の中から尻までハチミツまみれになった二人は、意識がもうろうとし、満足に口も開けられなくなっていて、クリントにまともに返事をしなかったが、クリントはそんな二人に構わず話を続ける。
「そんな男前になったお前たちに一つ良いことを教えてやろう。人間の世界には蟲を使った処刑方法があるそうだ」
「「……」」
「何でも罪人に溢れるほどのハチミツを飲ませた上で、逃げられないように縛り付けて放置しておくのだ。するとハチミツの匂いに誘われて段々と蟲が寄って来てな。その罪人は虫たちに刺されまくるわけだ」
「「……」」
「さらに言うと、その蟲たちはハチミツを吸うついでに罪人に卵を植え付けるのだそうだ。そして、卵がふ化し幼虫が出てくると、その幼虫たちが罪人の体を貪り食い、やがて罪人は死ぬのだそうだ。その痛みは筆舌に尽くしがたいものだそうだ」
「「!!!」」
そこまで聞いたところで、二人は我に返り蒼ざめた。
生きたまま無数の蟲に食い殺される!
それは、生きたままケルベロスやネズミたちに食われるのにも勝るとも劣らない恐ろしくて残酷な刑罰だったからだ。
当然二人は慈悲を乞おうとするがハチミツのせいで口が上手く動かせず、「あ~」とか、「う~」とかしか声が出なかった。
しかもクリントはその声をあろうことが喜びの声だと曲解し、二人にこう言うのだった。
「そうか。そんなに喜んでもらえるとは、お前たちのために準備して来た甲斐があったよ。今日は時間がないのでもう帰らしてもらうことにするが、お前らが蟲に食われて喜んでいる様子はジャッジメントに頼んで録画してもらっておいて、後で見させてもらうよ」
そう言うと、クリントはスレイプニルに命令して踵を返して帰ろうとしたが、数歩歩いたところで何かを思い出したのか、頭だけ二人の方へと向けると、二人にとどめの言葉を刺してきた。
「そうそう、一つ言い忘れていたが、地獄の蟲たちは地上のそれに比べたらはるかにどう猛だ。ハチミツどころか、罪人の肉でもバクバク食う奴らだ。ということで、お前たちは成虫と幼虫、二回も虫に食べられるという喜びを味わうことができるという訳だ。お前たちは本当に幸せ者だなあ」
そんなのを幸せだと思ったことはない!
二人はそう言ってやりたかったが、ハチミツのせいで満足に口を動かせない二人にそんなことが言えるはずがなく、ただ黙っているしかないのだった。
そんな二人を見て、クリントは満足したかのように頷くと、
「それじゃあ、達者でやれよ」
と、言い残して、今度こそこの場を去っていくのだった。
★★★
その後の二人の状況は哀れだった。
「ぎゃあああ」
「ぐえええええ」
二人は何度も蟲に体を刺された上で体を食い荒らされ、そうやって叫び、苦しみ続けることになるのだった。
その様子はもちろん録画され、クリントが見ることになり、それを見たクリントは満足げに頷くのであった。




