第554話~ナウル火山の遺跡 第五階層 蘇る世界 後編 孤児院の宝物~
「うちの子がビッグアリゲーターに襲われていたところを助けていただき、おまけにそのビッグアリゲーターのお肉まで提供していただき、本当にありがとうございます」
孤児院へ行きそこの責任者であるシスター様に事情を話すと、シスター様はそう言いながら深々と頭を下げながらお礼を言ってくれた。
「いえいえ。俺たちは当然のことをしたまでです。シスター様が頭を下げられるようなことではありません。それよりも、ここにいるのは子供たちがほとんどのようですね」
「ええ、そうですね。ここの孤児院で子供たちの世話をしているのは私と、今は仕事に出かけられている神父様だけですね」
「そうですか。でしたら、ビッグアリゲーターを解体するのは苦労するでしょう。よかったら俺たちが手伝いますが」
「本当ですか!是非お願いします!」
そして、そうやって挨拶を交わすうちに、ビッグアリゲーターの解体作業も手伝うことになったのでそれもやっていくことにする。
★★★
その一時間後。
「『天風』、『重力操作』、『天土』。……ふう、やっぱ畑の開墾って大変だよな」
俺はなぜか孤児院の裏側にある畑を広げる作業をしていた。
『天風』の魔法で畑の周囲の森の木を伐採し、『重力操作』の魔法で木の根っこを掘り起こし、『天土』の魔法で土の掘り起こしと土壌の改良工事を行っていた。
ちなみに伐採した木は後でまとめて加工して、薪にしたり建築資材にしたりして売りに出し、孤児院の運営費として活用してもらう予定であった。
まさに完璧な計画である!
……まあ、それはいいのだが、なぜ俺がこんなことをしているのかというと、孤児院の台所から裏庭の畑を見たエリカがこんなことを言い出したからだ。
「シスター様。ここの畑って子供の人数の割に小さいですね。これではここで十分な食料を作るのは難しいのではないですか?」
「そうなんです。確かに小さいので、そんなにたくさんの食料を作れないのです。本当なら畑を広げたいのですが、うちには大人は私と神父様しかいないので、それも難しいのです」
「なるほど、そういうことですか。でも、大丈夫です。私たちの旦那様、畑の開墾とか得意なのです。良かったら、旦那様に畑の拡張工事をさせますよ」
「本当ですか?お願いします」
そんな会話がエリカとシスター様の間であり、急遽俺が畑の拡張工事に駆り出されたということなのだ。
まあ、確かに以前開拓村の仕事とかやったから畑を作ることはできるが……それを俺一人にやらせるのか。
リネットとか手伝ってくれても良くない?
そうも思ったが、リネットには刃物を振り下ろしてビッグアリゲーターをさばく仕事があるらしいので、無理だった。
そんなわけで、俺一人で畑の開墾をしているのだが、孤児院の中からは。
「きゃはははは。ビッグアリゲーターの足ってでっかいなあ」
「こんな大きなお肉初めて見た」
「これ、これ。お肉を持ち上げて遊んではダメですよ」
そんな風にうちの仲間たちと子供たちの楽し気な会話が聞こえてきていた。
正直羨ましい!俺もあっちに合流したい!
そう思いながら、俺は黙々と開墾作業をするのだった。
★★★
ガコン。
「うん?なんだ?」
『天土』の魔法で地面を掘り返す作業をしているとそんな音がして来た。
何と言うか、何かが壊れたような音だった。
気になって近づいてみると、そこにはぐしゃりと潰れた宝箱があり、中身が外に出ていた。
その中身を手に取り、確認してみると。
「本?何だか魔術書みたいだな」
魔術書っぽい本だった。
パラパラッと本を開いて見てみると、魔法陣やら魔方式やらが細かく書かれていたので間違いなかった。
「もしかして、結構良い物なのかも?後でエリカに見てもらおう」
そう考えた俺は一旦本をしまい、開墾作業を終わったらエリカに見せることにしたのだった。
★★★
夕方頃、開墾作業が終わり孤児院へ帰ると、ビッグアリゲーターの解体作業も終わり、夕食が出来上がっていた。
焼き立てのパンに、ビッグアリゲーターのステーキ、具だくさんのスープといったメニューだった。
あれ?食費が無いと言っていた割にはメニューが豪華だなと思っていると、
「ワタクシたちが食材を提供させていただきました」
と、ヴィクトリアが言っていたので、どうやら俺たちが食材を提供したようだった。
夕食の席にはさっきはいなかった神父様がいた。どうやら仕事から帰ってきたようだ。
神父様は俺を見るなり挨拶してきた。
「ここの孤児院の神父をやっておりますヨセフと申す者です。この度はうちの子をビッグアリゲーターから助けて頂けたうえに、畑の開墾をしていただき、さらにこのようなごちそうまで提供していただいて、本当にありがとうございます」
「ホルストと申します。いえ、いえ。ここで知り合ったのも何かの縁。大したことではないので、お気になさらず。それよりも神父様に見ていただきたいものがあるのです」
ちょうどよい機会だと思った俺は先程手に入れた魔術書をみんなに見せる。
途端にみんなが驚いた顔になる。
すぐにエリカが魔術書を手に取り、中を見てさらに驚いた顔になる。
「旦那様。これをどこで手に入れたのですか?」
「森を切り開いて開墾してたら、宝箱が出てきて、それに入っていた」
「まあ、こんな貴重な物がそのような場所に埋まっていたのですか?」
「埋まっていたものは埋まっていたんだからしょうがないだろう。それよりもその魔術書は貴重な物なのか?」
「貴重も何も、これは私が探していたものです。これは時空魔法に関する魔術書です。これがあれば私の研究も大幅に前進すると思います」
なんと魔術書は時空魔法に関するものだった。
エリカは時空魔法の研究をしているので、これがあれば研究が進むはずだった。
良い物を手に入れたな、と俺は思ったが、果たしてこれは俺たちの物にしてよいのだろうか。
一応孤児院の敷地から出てきたものだし。
そう思っていると、エリカが神父様と交渉し始めた。
「神父様。こちらの魔術書を私どもにお売りいただけないでしょうか」
「売るも何もそれは我々のものではありませんので、あなた方が必要だというのならお持ちください」
「でも、これは貴重な魔術書です。それに一応孤児院の敷地から出て来た物ですし、私としては孤児院に所有権があると思っています。どうか、いくらかでもお金をお受け取りください」
「いや、あなた方には子供を助けていただいたし、畑も開墾していただいたし、おいしいご飯もいただきました。これ以上何かを頂くわけにはいきません」
「でも、それでは私の気が済みません。……それでは、こういうのはどうでしょうか。魔術書の対価ではなくこの孤児院の運営の為、物品の寄付をするというのはどうでしょうか。それなら、ここの孤児院の子供たちも救われますし、私どもの気も晴れます。それでどうでしょうか」
「ううむ。しかし……」
神父様はそれでも渋ったが、ここでシスター様が助け舟を出してくれた。
「いいではないですか。神父様、受け取りましょう」
「でもなあ」
「エリカさんはとてもお優しい方で、今日も無償で子供たちの世話をしてくださいました。その優しさを私たちは素直に受け取るべきだと思います。さもないとエリカさんたちに失礼だと思います」
「そうだな。確かにこんなに一生懸命申し出てくれているのにそれでも拒絶するのは失礼だな。それではありがたくいただくとします」
「受け取っていただきありがとうございます。では、ヴィクトリアさん」
「ラジャーです」
交渉がまとまったので、エリカがヴィクトリアに言って収納リングから寄付する物品を取り出す。
ヴィクトリアが出したのは、孤児院の倉庫がいっぱいになるくらいの量の小麦粉と、子供たちの服を作るための布や糸、畑にまく野菜の種、畑仕事用のクワなどの農機具など多岐にわたった。
これだけでも神父様とシスター様は驚いていたが、エリカはさらにこんなものまで渡していた。
「神父様。こちらもお納めください」
「何ですかな。この釣り鐘のような物は?」
「アダマンタイトのインゴットです。一個売れば、この孤児院の半年分くらいの運営費になると思います。三個渡しておきますので、もしもの時にお売りください」
「こんな高価な物まで……これで孤児院の運営も楽になると思います。本当にありがとうございます」
そう言うと神父様とシスター様は何度も頭を下げるのだった。
うん、うん。これでここの孤児院の子供たちは多少なりとも救われるだろうし、俺たちも貴重な魔術書を手に入れることができた。
すべてが丸く収まった感じがして、とてもスッキリした。
俺はエリカたちを見ながらそんなことを思い、大変満足するのだった。
★★★
翌朝、孤児院で一泊させてもらった俺たちは孤児院から出て、再び転移魔法陣を目指し始めた。
「それでは失礼します」
「皆さん、お元気で」
「バイバ~イ」
神父様たちに見送られて孤児院を離れ、そこから歩くこと三時間。
「ようやく着いたようだな」
目的の転移魔法陣へと到着した。
ここまで来たらさっさと次の階層へ行くだけの話なので、順番に魔法陣へ入る。
魔法陣に入りながら俺は思った。
この世界は割とのんびりできて良かった。
貴重な品も手に入ってエリカも大喜びだし、いうことはないな。
ただ、ヴィクトリアのおじいさんの話だとこの世界の過去を見るのはここまでらしいので、次は普通のダンジョンなのだろう。
願わくば、簡単なダンジョンであってほしいな。




