第553話~ナウル火山の遺跡 第五階層 蘇る世界 前編 のんびりとした田舎の風景を楽しんでいたら……~
第五階層は第四階層の荒れ果てた世界と比べると、とてもきれいな世界だった。
「旦那様、あちらをご覧ください。色とりどりの花が咲き乱れて、とてもきれいですよ」
「ホルストさん、あちらから鳥たちが愛を囁く声が聞こえてきます。さっきの世界では絶対に聞けない声だったので、ワタクシ、何だかとても懐かしい気がします」
「ホルスト君、見てよ。空がきれいに晴れ渡っているよ。さっきの階層の灰色の空は陰鬱な気分にさせてくれていたけど、青空だと気分が晴れて良いよね」
「ホルストさん、あちらから鳥たちが愛を囁く声が聞こえてきます。。あっちの木の陰に隠れている小鹿がこっちを見ていますよ。やはり動物の子供は可愛いですね」
と、嫁たち全員嬉しそうにはしゃいでいるしね。
実を言うと、俺も嬉しい。
さっきの世界だとどうしても気分が滅入るからな。だからこういう何でもない世界でも先程の世界から出て来た後だとどうしてもうれしく感じるのだった。
それはそれとして、ここはどこなのだろうか?
俺がそう思っていると、セイレーンが説明してくれた。
「ここはおじい様の復活を人間たちが阻止してから数十年後の世界。混乱した世の中から蘇りつつある世界ね」
★★★
破滅から蘇りつつある世界。
今度の世界はそういう世界らしかった。
まあ、それはいいんだけど、これからどこへ行けばいいんだよ!
俺がそう思っていると、セイレーンがこう申し出てくれた。
「さっきはお父様が案内したから、今度は私が案内してあげるわ。こっちよ」
そう案内をかって出てくれたのだった。
こうなったらセイレーンについて行くしかないので、「ありがとうございます」とお礼を言いつつ、俺達はセイレーンについて行った。
★★★
セイレーンについて行くと、のどかな田舎の光景を見ることができた。
「ほう。小麦がたわわに実っているな。桜なんかが咲いているから、そろそろ春小麦の収穫の時期かな」
「ねえ、ねえ。パパ。あそこでお母さんのお馬さんが仔馬にお乳をあげているよ。かわいいね」
「本当だね。可愛いね。銀も仔馬ちゃんは好きですよ」
そんな風に麦が実ったり、生まれたての仔馬がいたり。
「ホルストさん。あそこで山羊のお乳を搾っていますよ。知っていますか?搾りたてのお乳はとてもおいしいんですよ。是非少し分けてもらいましょう」
「まあ、ヴィクトリアさん。ダメですよ。こんな小さな村では山羊のお乳は大切な収入源。タダでもらおうとしたらダメです」
「じゃあ、お金を出して買いましょう」
「それも無理ですよ。この世界もまた私たちの時代とは異なる時代。お金の種類が違うと思いますよ」
「そういえばそうでしたね」
と、山羊のお乳を手に入れようとするヴィクトリアをエリカが止めたりと、のどかな田舎の春の風景を楽しむことができたのだった。
そうやってのんびりと進む俺達だったが、村はずれまで行った所で異変が起きた。
★★★
異変が起こったのは、村はずれのとある川まで来た時だった。
川には橋が架かっていて、小さな男の子がそこで釣りをしていた。そこまでは良かったのだが。
「うわああああ」
突然釣りをしていた男の子が絶叫を上げる。
何だろうと思ってそっちを見ると。
「ビッグアリゲーター?釣り針に引っかかったのか?」
どうやら川の中に潜んでいたビッグアリゲーターに釣り針が引っ掛かったようだ。
ビッグアリゲーターは大した魔物ではないが、目の前の子供の手には余る魔物でもある。
「男の子を助けに行くぞ!」
と、気がついたら俺は男の子を助けに走り出していた。
俺が男の子に近づいている間にも、ビッグアリゲーターは川から出て男の子を襲おうとしていたが。
「何とか間に合ったな」
間一髪のところで男の子の元へたどり着き、ザクッと剣で一突きして、ビッグアリゲーターを仕留めたのだった。
★★★
「ボウズ。危ない所だったな。こんな人里近い所の川にビッグアリゲーターが出て来るなんて珍しいこともあるもんだ。そういう意味ではついてなかったな。まあ、そうそうビッグアリゲーターに出会うなんてことはないと思うが、次からは釣りをする前に遠くから川へ石を投げてみろ。ビッグアリゲーターは音に敏感だから、それだけで水面に顔を出す。そうすれば余計な危険から身を守ることができるはずだ」
「グス、グス。ヒック、ヒック。……うん、わかったよ。お兄ちゃん。次からはそうするよ。それから助けてくれてありがとう」
ビッグアリゲーターを倒した後、泣きじゃぐる男の子の頭を撫でてやりながら、そうやって慰めの言葉をかけてやると、男の子は素直にお礼を言ってくれたのだった。
「それで、ボウズ。釣りをして今日のおかずでも捕ろうとしていたのか?」
「うん。僕、そこの孤児院で暮らしているんだけど、今月分の食費が尽きてしまったみたいで、もうあまり食べるものがないんだ。多分、今日の晩御飯も黒パンとジャガイモのスープになると思う。それだと、お腹が空いてたまらないから、何とか魚でも食べられないかと思って釣りに来たんだよ」
「何だ。お前は孤児院の子だったのか」
目の前の男の子が孤児院の子だと聞き、この男の子も小さいのに苦労しているんだなと思った。
俺たちの時代でもそうだが、孤児院ってどこも苦しいからな。
たいていの所は、子供に与える食事や衣服の調達に苦労している。
俺も嫁たちもそれは良く知っていて、できる範囲でボランティアをしてあげたり、物品を寄付したりしている。
だから今目の前に現れたこの男の子のことも放って置く気になれず、こう言うのだった。
「そうか。お腹が空いているのか。わかった。そういう事なら今仕留めたこのビッグアリゲーター、孤児院に運んでやるから今晩のおかずにしてしまおうぜ。ビッグアリゲーターは焼いてもおいしいし、揚げてもおいしいからな。皆、喜ぶぞ」
「本当?ありがとう。お兄さん」
ということで、俺たちは近くの孤児院に寄って行くことにしたのだった。




