第548話~ナウル火山の遺跡 第三階層 初期都市 前編 ヴィクトリアの買い食いもたまには役に立つものだ~
第三階層へ入ると、目の前には立派な城壁を備えた都市があった。
先程までの片田舎風の階層とのあまりの違いに驚きつつも俺はおじいさんに事情を聞いた。
「ヴィクトリアのおじいさん。ここは一体どこなのでしょうか?」
「ここは文明が進歩して人々が都市を作って集住し始めた時代だ。つまり目の前の都市は、文明初期の頃の都市という訳だ」
初期農村の次は初期都市かよ。
この世界の歴史を知る上ではいいのかもしれないけど、それにしても場所の変え方が極端すぎるな。
俺はそんなことを考えつつも、
「さて、それでは町の中へ入ってみるとしますか」
「はい」
と、仲間たちを連れて町の中へと入って行くのだった。
★★★
町の中は俺たちの時代でいう所の中堅規模の都市といった感じだった。
「初期の頃の都市だからもっと人が少ないのかと思ったが、結構賑やかだな」
町の大通りには多数の人が行き交い、屋台が並んで食べ物が売られたりしている。
そして、屋台と言えばヴィクトリアだ。
「あそこクッキーの屋台ですって。ピーナツが入っているらしく、とてもおいしそうですね」
と、今にもよだれを垂らしそうな感じで羨ましそうに見ていた。
こいつ、本当にしょうがないなあ。
こういう時のヴィクトリアは放って置くと禄でもないことをしかねないので、買って大人しくしておいてもらおうと考えた俺は、財布を取り出してお金を出そうとしたのだが、ここでハタと気がついた。
「ここって、俺たちが持っているお金って使えるんだっけ?」
そう。ここは大昔の都市。俺たちが持っているお金が使えるはずがなかったのだ。
★★★
ということで、とりあえずのお金を得るために俺は道具屋に駆け込んだ。
道具屋で何かを売ってお金を稼ぐためである。
とはいえ、買うのはお菓子くらいなので剣の一本でも売れば十分だと思うので、そうすることにする。
「ヴィクトリア。収納リングから適当な剣を見繕って出してくれ」
「ラジャーです」
ヴィクトリアに適当に鉄の剣を出させて、それを古道具屋の店主へ差し出し査定してもらう。
そこまでは良かったのだが、俺の出した剣を見た古道具屋が怪訝そうな顔をして、こう言って来たのだった。
「お客さん、これかなりいい剣みたいですけど、本当に売っても構わないんですかい?」
「え?別に構わないよ。そこまでの剣ではないし」
俺は何でそんなことを聞くのだろうと思った。
この剣は確かどこかの遺跡で見つけて売却用に置いておいた程度の品だ。
質としてはそこそこだが、店主がこんなセリフを言うような品ではなかった。
そういえば……俺はここである考えに思い至る。
そういえばここって初期文明の世界だった。だとしたら武器の質とかもそれほどではなくこの位の武器でも高級品なのかもしれなかった。
よく考えたら、前階層の村では鉄ではなく青銅器を使っていたくらいだからな。
だからこの位の武器でも十分高級品なのだろう。
そう考えるとしっくりして、俺は合点がいったのだった。
と、ここで店主が話を続けて来る。
「売ってくださるというのならもちろん買います」
「本当ですか?ありがとうございます」
「ところで、お客さん。これだけ立派な武器をお持ちで、しかもとても強そうだね。もしかして王宮の依頼を受けるつもりなのかい?」
「王宮の依頼?」
「なんだ、知らないのかい?実はこの都市にはちょっといた地下迷宮があるんだが、現在そこでトラブルが起きていてね。それを解決できそうな人を探しているんだ。ほら、そこの広場に張り紙があるだろう。町の警備隊で受付をしているみたいだから興味があるんだったら行ってみな」
なるほど、王宮の依頼ねえ。
これは俺の直感なのだが、この依頼を片付ければ次の階層に行けそうな気がする。
この依頼は絶対にやるべきだ。
そう思った俺はその依頼を受けてみることにするのだった。
★★★
「こんにちは。広場の張り紙を見て、依頼を受けに来たのですが」
店主に依頼の件を聞いた俺は警備隊へ行くとそう申し出た。
すると、すぐに係りの人が来て、
「どうぞ」
と、中に案内してくれた。
ちなみに他のメンバーは、さっき剣を売却した代金で狩ったクッキーを広場のベンチに座って食べている。
「ワタクシの目論見通りです。ピーナッツ入りのクッキー、とてもおいしいです」
と、非常に喜びながら食べていたので、俺が話を聞いてくるくらいの間は静かに待ってくれていると思う。
というか、ヴィクトリアが買い食いをしてくれたおかげで、古道具屋で依頼の話を聞けて、こうやって依頼を受けに来られたのだから、ヴィクトリアさん、今回は好きなだけ食べてくれと言いたい。
たまにはヴィクトリアの買い食いが役に立つこともあるものである。
それで、警備隊の奥へと行くと警備隊の責任者が待っていて、俺と会うなりこう言って来た。
「やあ、よく来てくれたね。とても強そうな人だね。さあ、座って、座って」
そう促されるまま俺は席に着く。
「俺はホルストと申します。よろしくお願いします」
「警備隊長のオクトだ。よろしく」
そう軽く挨拶を交わした後、本題に入る。
「実は、ね。この依頼誰も引き受けてくれないんだよ」
オクトさんはその点から話を始めた。
「そうなのですか?」
「ああ、何せこの国の命運がかかっている仕事だからね」
「国の運命?そんなに大変な仕事なのですか?」
「ああ、だから誰も引き受けたがらないし、おいそれと誰にでも任せられるような仕事ではないんだ。その点、君は装備も立派だしとても強そうだから、任せられそうだ」
そう言いながら、オクトさんは何度も俺を見て感心したようにうんうんと頷いている。
そんな見た目で判断されてもとは思うが、俺としてはこの仕事を引き受けたいので好都合ではある。
「それで、どのような仕事でしょうか?」
「実は……」
そして、オクトさんはその仕事について話してくれるのだった。
★★★
その一時間後。
「旦那様、町の規模の割には大規模な地下迷宮ですね。ここの奥に目的の魔物がいると?」
「オクトさんの話によるとそのようだ。何でも『クノッソスの地下迷宮』というらしい」
俺達はこの町、『クノッソス』という名前の町らしい、後かに存在する地下迷宮に向かうため町の中を歩いていた。
オクトさんに聞いた話によると。
「何でもこの先代の王様が町にいざということがあった時に、ここに立てこもって戦うために作ったらしいんだが、防衛を意識し過ぎてあまりに複雑に作り過ぎたせいで、誰もその全容を把握しきれなくなり、数年前に管理を放棄されたらしい」
「それで、放棄した後、ここに魔物が棲みつくようになった、と?一体何をしたかったんでしょうね」
「まったくだな。まあ、前の王様は建築が趣味だったらしいから割と気まぐれで作ったんじゃないか」
本当、王様とはいえ無駄なことをしたものだと思う。
まあ、それはいい。もう終わったことだから。それよりも。
「そして、ここ数か月ほど迷宮から魔物が出てくるようになって、町の住民を襲うようになり、ついには」
「『我々にこの町を引き渡さないと、魔界への大穴を出現させ、町ごと魔界に沈め、ここを魔物たちの地下迷宮都市とするぞ』と、魔物たちのボスが脅してきたということですか?」
「そういうことだ。おまけに、魔物討伐に派遣した部隊も迷宮の罠と魔物の手によって全滅したらしいからな。これでは誰も討伐に手を上げないはずだ」
「本当にどうしようもない人たちですね。町の人たちは大変迷惑していることでしょう」
「そうだな。ただ、町の住民には迷惑な話だが、俺達にはありがたい話だ。何せ『褒美は思いのままだ』という事らしいからな」
オクトさんの話だと王様はそう言っているらしかった。
ということで、オクトさんに褒美に『この辺の遺跡の情報をくれないか』と聞いてみたところ。
「お前たち、変わった褒美が欲しいのだな。まあ、よい。そういうことなら王宮にそういうのに詳しい学者がいるから、王様にお願いしてみるがよい」
と、言われた。
これで俺たちが遺跡を攻略すれば、この国も救われるし、俺たちも先へ進めるし、と良いこと尽くしなので、頑張ろうと思う。
★★★
迷宮の入口は、町の中心部、広場のすぐ側にあった。
なぜこんな人通りが多い所に入り口があるのかというと、この迷宮はそもそも住民の避難用に造られたものなのでこうやって人がたくさん集まれる場所に入り口が設置されているという訳だ。
ただ、迷宮に魔物が棲みつくようになった今となっては、こんな人の多い所に入り口がある方が危険になってしまったのであるが。
まあ、そんなの俺たちには関係ないか。さっさと『クノッソスの地下迷宮』に入るとしよう。




