第543話~ナウル火山の遺跡 第一階層 原初の森 前編 ネイアさん、珍しい薬草を手に入れてはしゃぐ~
「ここは……森か?」
『ナウル火山の遺跡』の入口にあった転移魔法陣を抜けた先は森だった。
森とは言ってもその辺の森や今までのダンジョンで通ってきた森とは大分雰囲気が違った。
何と言うか、森を覆う空気が違うのだ。
「何と言うか。植物が生えている密度がすごくて、空気も濃い気がする!」
そんな感想を漏らすと、ヴィクトリアがすかさず解説してくれる。
「それは植物が生い茂っているせいで光合成が盛んに行われているせいですね」
「光合成?」
「植物が酸素を作り出す活動ですね。それが活発に行われている状況だからホルストさんは空気が濃く感じられたのだと思います」
なるほどね。
ヴィクトリアの説明に俺は納得した。
「まあ、それはわかったけど、ここはどこの森なんだ?こんなに植物が生い茂っている森なんか初めて見るぞ」
ただ空気が濃い理由が分かったところで、ここがどこだかまでは分からなった。
ということで、俺は今度はそんな発言をしたのだが、それに対して答えをくれたのはヴィクトリアのおじいさんだった。
「ここがどこだか知りたいか?」
「はい」
「いいだろう。教えてやろう。ここは原初の森のコピー。原初の森とは私や多くの神々がこの世界を想像した時に最初に作り出した森のことだ。この階層はその原初の森を再現した場所なのだ」
★★★
「原初の森ですか?なぜそんな森をこの遺跡に?」
ここが原初の森と聞き、なぜそんなものを用意したのかと疑問に思った俺は、疑問に思ったことをおじいさんに率直に聞いた。
それに対しておじいさんはこう答えたのだった。
「ここは異世界に造られた迷宮。異世界だからどんな状況でも再現できる。だからそれを利用して、この世界の成り立ちとかつてプラトゥーンが復活しそうになった時に起こったことを説明してやろう。そう思って、このダンジョンの試練を作ったのだ」
つまりは試練を課すついでに今までの経緯を説明しようと思ってここを造ったという事か。
それは確かに一石二鳥な考えではある。
「さすがはヴィクトリアのおじいさんですね。考えることがすごいですね。ということは、ここのダンジョンはずっとそんな感じで昔に起こったことを再現した世界ななんですか?」
「全八階層のうち五階層までは、な。その後は海底火山らしい場所やお楽しみなんかも用意しておる」
「そうですか。……わかりました。それでは早速先へ進みましょうか」
おじいさんの説明を一通り聞いた俺は、妙にやる気が沸いて来て、一言そう答えると、仲間を引き連れて先へと進むのだった。
★★★
原初の森を進むのは困難を極めた。
何せ原初の森、この世界を創造した時に最初に作られた森というだけあって獣道すらなかったのだ。
ということで、俺たちは道を造成しながら前へ進んだ。
「風の精霊よ。行く手を阻む植物を伐採するのです」
「『風刃』」
「『天土』」
ヴィクトリアとエリカが魔法で行く手にある植物を伐採して行き、俺が魔法で道を固めながら少しずつ進んだ。
道を作るのはいいけど、どこへ進めばいいのかあてはあるのかって?
無論だ。
この階層に転移魔法陣で来た以上、絶対に次の階層へ行く転移魔法陣があるはずだ。
そう考えた俺は上空へと飛びあがり、『神強化』で身体能力を向上させた後、魔力感知を使って次の階層の転移魔法陣が放つ魔力を探ったのだった。その結果。
「東の方からそれらしい魔力を感じる」
ということが分かったのでそちらへ向かって進んでいるという訳なのだった。
道なき場所に道を造りながら進むのは大変な作業だが、こんな植物が生い茂る場所で強引に進むのははぐれる可能性があるので危険である。
ゆえに、ゆっくりでいいので確実に進んで行こうと思う。
★★★
ところで、ここは原初の森と言うだけあって、特別な植物が生えていた。
それに気がついたのはネイアだった。
「あら、あそこに生えているキノコ。もしかして伝説の『サチノタケ』では?」
と、木の根の部分に生えている茶色と赤色の地味な色のキノコを指さす。
そして、それを手に取ると「間違いないです」と、ウンウン頷いている。
あまりにもうれしそうにしているので、それが何か尋ねてみると。
「物凄く効果のある痛み止めの薬の材料なんですが、今ではこのキノコ環境の変化によって絶滅したらしくて二度と手に入らないんです。私のような調薬をする者にとっては憧れの品ですね」
とのことだった。
どうやらもう手に入らない薬の原料の様だった。
ネイアは薬の調合をして俺たちに色々と薬を提供してくれるので、これは珍しいものが手に入った、と俺たち全員喜んだものだ。
さすがは原初の森、物凄く貴重な植物が生えているんだな、と思ってしまった。
しかも、この森に生えていたのは『サチノタケ』だけではない。
「あ、あっちには『ゲッカビジン』が。こっちには『モリノイヤシ』がありますね。どちらももう手に入らない薬草で薬師にとってはお宝ですね」
その他今では絶対に入手不可能な薬草を見つけることができて、ネイアは子供のようにはしゃぎ、ピョンピョンと跳ねながら、たくさんの薬草を回収して行くのだった。
普段は大人なネイアでも、たまにはこんな風に子供みたいにはしゃぐことがあるんだなあ。
普段は見られないネイアの一面を見ることができて、俺はネイアのことをますます愛おしく思うのだった。




