第532話~エルフの国での休日 妹が野菜ジュースを飲まされているのを横目に俺たちは狩りを楽しむ~
さて、天空の塔がある町『シエラ』で一泊した俺たちは、翌日の午前中シエラを立って次の目的地へと向かった。
いつものように馬車で町の外へ出てから魔法で移動するつもりだ。
それで、その道中妹の奴が腹を抑えて苦しんでいる。
「う~ん、う~ん」
と、横になって大人しくしていた。
聞く話によると、冷たいお茶を飲み過ぎて調子が悪くなったらしかった。
こいつ!何をやっているんだ!食い意地が張り過ぎだ。
寝込んでいる妹を見て俺はそう思ったが、寝込んでいる妹の奴を怒る訳には行かず、それどころか背中を優しくさすってやりながらこう励ましてやった。
「レイラ、しっかりしろ!ネイアの薬も飲んだみたいだから直に良くなるだろうから、頑張れ!」
「ありがとう。お兄ちゃん」
こいつにもお礼を言える口が付いていたんだな。
そうやって普段とは大分違う妹の態度に感心しつつも、先を急ぐ必要があるので妹から離れ、俺は馬車を走らせるのだった。
★★★
さて、そんなこんなで馬車をしばらく移動させた後、『空間操作』の魔法で俺は場所を変えた。
その行き先はというと。
「ファウンテン・オブ・エルフの町。ここへ戻ってくるのも久しぶりですね」
久しぶりに見たエルフの国の王都『ファウンテン・オブ・エルフ』の町を見て、ネイアが懐かしそうな顔をする。
そう俺たちがやって来たのはネイアの故郷エルフの国だったのだ。
★★★
「ネイアの叔父さんと叔母さん、それにマロンも。お久しぶりです」
エルフの国へついた俺たちは、ファウンテンオ・オブ・エルフの町を素通りすると、そのままの足で町の郊外にあるネイアの叔母さんの家へ向かい、そうやって叔母さん夫婦とネイアのイトコのマロンに挨拶をした。
「あら、ホルスト君、いらっしゃい」
「よく来たね」
「はい、お久しぶりです。ホルストさんやネイア姉さんも元気そうで良かったです」
それに対してネイアの叔母さん夫婦たちも気持ちよく挨拶し返してくれたのだった。
そんな風に挨拶が終わった後は。
「これ、海底王国のお土産です」
「これは、これは。いつもありがとうね」
そうやって海底王国のお土産を渡し、昨日宿泊したホテルで今朝買ってきたオードブルで食事会をする。
「これは……とても豪勢なオードブルね」
買ってきたオードブルは観光地の一流ホテルの物だけあってとても品質が良く、ネイアの叔母さんたちもとても喜んでくれ、皆で楽しく食事をすることができたのだった。
そうやってみんなで楽しく食事をする一方で、一人だけ楽しくなさそうなやつがいた。
「ああ、またこれを飲まなければいけないのか……」
誰あろう俺の妹である。
相変わらずお腹の調子が悪いらしい妹の奴は、一人だけオードブルを食べさせてもらえず、エリカから手渡された緑色の飲み物を飲んでいた。
……あの緑色の飲み物、見覚えがある。
ネイア特製の体に良い野菜ジュースだ。
薬草や野菜等体に良いものがたくさん入っているジュースでとても健康的な飲み物だ。
実際、リネットがお酒を飲み過ぎて調子が悪くなった時にこれを飲んだら一発で良くなったしね。
以来、このジュースは嫁たちのお気に入りになったようで、時たま飲んでいるみたいだ。
ただ、俺は正直あまり好きではない。
というのも、一度飲まされた時にすごい味がして、俺のブラックリストに入ってしまったからだ。
それからは嫁たちに勧められてもなんやかんやと言い訳して飲んでいないのだった。
それを妹の奴が飲まされてた。
とても暗い顔で渋々という感じで飲んでいた。
なぜそんなことがわかるかって?
だって、ジュースを飲む時、あいつ、目が泳いでいたからな。
これはあいつが嫌なことを仕方なくやっている時の仕草なのだ。
まあ、気持ちはわかる。
兄妹だけあって、あいつと俺の味の好みって割と似ているからな。あのジュースの味の凄さはあいつには耐えがたいのだと思う。
とはいえ、あいつがあんなものを飲む羽目になったのは自分の行いが原因だからな。はっきり言って自業自得だ。
だから俺があいつに言えることはこれしかなかった。
頑張れ!
★★★
さて、昼食が終わった後は俺とリネット、ネイアとネイアの叔父さん、それにヴィクトリアのおじいさんの五人でエルフの森へ狩りに行った。
エルフの森は豊かなことで知られていて、獲物が多く優良な狩場として知られていた。
俺達の今日の獲物は野鳥だ。
「ここエルフの国って狩りの本場でしょ?特にこの時期は野鳥がおいしいって聞くわあ。折角エルフの国まで来たんだし、是非食べたいなあ」
「ワタクシも前にここで食べた野鳥の味が忘れられないです。ホルストさん、お願いします」
と、セイレーンとヴィクトリアの二人が懇願してきたのだった。
そんなに野鳥が食べたいんだったら、お前らも狩りについて来いよ。
そう思った俺は二人を狩りに誘ったのだが。
「私はあれね。そう、折角昨日美容マッサージを受けてお肌がきれいになったのに、わざわざ日焼けしに狩りには行きたくないの」
「ワタクシは、今日のおやつ当番なので、皆のおやつを作らなければなりませんので」
と、にべもなく拒否されてしまった。どうやら二人とも狩りには行きたくないようだ。
その代わりに。
「私がヴィクトリアたちの代わりについて行こう」
と、おじいさんが付いてくることになったので、こうして五人で狩りに行くことになったわけなのである。
おじいさん以外の四人は狩りに慣れているのでその腕の良さについては知っているが、おじいさんについては知らない。
おじいさんの狩りの腕が良いといいんだがな。
そう思いながら、俺は狩りへと向かうのだった。
★★★
結論から言うと、ヴィクトリアのおじいさんの狩りの腕は中々のものだった。
俺達はここの狩場に慣れているネイアの叔父さんの案内で、叔父さんお勧めの狩りスポットへと向かった。
「ここだよ。ここ」
と、叔父さんが案内してくれた場所には大きな木が一本あり、その周囲からは無数の野鳥の鳴き声が聞こえていた。
その事実からもわかるように、この木の周囲には多くの野鳥がいるらしく絶好の狩場なのであった。
ということで、早速狩りの開始だ。
「よし!まずは私が行こう!」
まず口火を切って狩りを始めたのは意外なことにおじいさんだった。
どうやらおじいさん、狩りの腕には相当の自信があったらしい。
いきなり矢を二本取り出し、それを弓につがえると。
「うむ、あそこにちょうどブクブク鳥が二羽いるな。あれを狙うとしよう」
と、木の上に止まっていた二羽のブクブク鳥目掛けて矢を放ったのだ。
おじいさんの矢はビュッと風を切りながら庭のブクブク鳥へと一直線に向かって行き、気がついたら二本ともブクブク鳥に命中し木から落としてしまっていた。
見事な腕だった。さすがは『神々の王』を名乗るだけのことはあると思った。
その腕の見事さに、他の四人は思わずパチパチと拍手したものだった。
それを見ておじいさんは俺たちの前に立ち、こう聞いてきた。
「私の腕はどうだったかね?」
「いやあ、さすがです。二本同時に矢を放って二本とも命中させるとか、見事としか言いようがないです」
「そんなに褒めても何も出ないぞ。それよりもブクブク鳥が二羽では今晩のおかずには全然足りないであろう。早く次の獲物を捕らえるぞ」
おじいさんにそう言われて、そういえばそうだったなと思い出した俺たちはそれから本格的に狩りを開始した。
「リネットは右の木のブクブク鳥を。ネイアは右のだ。俺は真ん中のを狙う」
「「はい」」
狩りはそんな風に交代で順番にブクブク鳥を狙っていくやり方で進んで行った。
俺達の弓の腕は確かなので、おじいさんみたいに二羽同時は無理だが、ブクブク鳥を落とすくらいは訳なかった。
こんな感じで夕方くらいまで狩りをし、十分な量のブクブク鳥を捉えると、俺たちはネイアの叔母さんの家へと帰ったのだった。
★★★
叔母さんの家へ帰ると、女性陣が晩御飯の準備にいそしんでいた。
「銀ちゃん、ヴィクトリアさん。デザートのケーキに使うスポンジは焼けましたか?」
「「もうすぐです」」
「マーガレットさん、ベラさん、フレデリカさん。リビングの掃除は終わりましたか?」
「「「はい」」」
「それでは、後はケーキが焼けたらヴィクトリアさんたちと一緒に盛り付けをしてください」
と、そんな感じでみんな働いていたわけだが、特に妹の奴が一番忙しそうだった。
妹の奴は朝の不調はどこへやら、すっかりに元気になっていた。それで、その元気さをエリカに見込まれてこき使われていた。
「レイラさん、ここにある野菜を全部切ってください」
「全部?結構量があるみたいなんですけど」
「文句を言わない!一応あなたはメイドとして私たちについてきたのですから、文句を言う前に私の指示通りにやりなさい!」
「え~。でも量が多すぎじゃあ」
「当たり前です。今日の料理はご近所さんにもおすそ分けをする予定なんですからね。だから頑張って作らないと今日中に終わらないですよ」
そうやってエリカに滅茶苦茶働かされていた。
あ、言い忘れていたが、今日の料理はネイアの叔母さんちのご近所さんにも配る予定だったのだ。
まあ、今日は大人数で叔母さんの家に泊まるのでその分賑やかな訳で、ご近所さんにも迷惑をかけてしまうかもしれない。
だから迷惑料代わりに夕食を配るという訳なのだった。
ということで、妹の奴は汗水たらして野菜を切っているわけだが、そんな頑張る妹に優しい兄からプレゼントをやろうと思う。
「おい、レイラ」
「なに?お兄ちゃん」
「ほら今日の夕飯の材料の鳥だ。これも切っといてくれよ」
「え?鳥肉も私がやるの?」
「当たり前だろうが。あ、一応森の中で血とモツと羽毛は処分しておいてやったから、後は適当に切るだけで終わりだぞ。どうだ。優しいお兄様がここまで作業を簡単にしておいてやったんだからありがたく思えよ」
「え~、これ以上仕事したくないよ」
肉を切るという仕事を追加してやった俺に対し、妹の奴が文句を言って来たが、食材を切るという自分に与えられた仕事を放棄するなどという真似が許されるはずがなく、すぐにエリカが飛んできて。
「レイラさん。肉を切るのもあなたの仕事ですからね。ちゃんとしなさい!」
と、怒られてしまい、「何で私が……」とブツブツ言いながらも、妹の奴は仕事をしたのだった。
哀れな気もするが、それもこれもお前がギャンブルで借金なんかしたせいだからな。
だからそのことを反省して、旅行中はエリカの言いなりになって仕事を頑張れよ。
と、汗水たらして働く妹を見て、俺は心の中でそう励ましてやるのだった。
★★★
そんな風な経緯で造られた晩御飯だったが、とてもおいしかった。
「このブクブク鳥、脂が乗っていてとてもおいしいです」
「本当ね。ほっぺたが落ちそうなくらいおいしいわね」
と、頑張って捕ってきたブクブク鳥は皆に好評で、俺としては苦労した甲斐があったというものだった。
食事の後は風呂に入り、その後リビングでみんなで談笑した後、明日に備えて寝た。
今日はネイアとの日だったので、俺はネイアと一緒に寝た。
明日は重要な用事があり忙しくなる予定なので、夫婦生活はしなかった。
その代わり、ネイアは俺にとても甘えてきた。
「ホルストさん。今晩はずっと抱き着いていてもいいですか?」
そう言いながら俺の胸にギュッと抱き着いて来て、一晩中離れなかったのだ。
俺的には、一日の最後にネイアの俺への愛情を感じることができ、良い一日を過ごすことができたのだった。




