第529話~ヴィクトリアのおじいさんの昔話 天空の塔の秘密と邪神プラトゥーンについて~
天空の塔最上階にて、ヴィクトリアのおじいさんに呼び出された俺は昔話をしてもらえることになった。
とは言っても、おじいさんの態度はそれほど重々しい感じではなく、懐かしい思い出話をする田舎に引きこもった老人と言った感じのもので、俺的には割と気楽に聞くことができたのだった。
それで、肝心の話の内容なのだが。
「お前、この天空の塔が建てられた理由を知っているか?」
「一応、監視用に作られたと聞いていますが……何のための監視用かまでは知りません。王国にもその辺のことは伝わっていないようですし」
「そうか。監視用というのは知っているが、何を監視しているのかまでは知らないか。まあ、無理もないか。この塔ができてからすでに千数百年という時間が経過してしまっているからな。千数百年という時間は人間には長いからな。だから、昔ここで何があったのかも忘れられてしまったのであろう」
「千数百年。この塔はそんなに昔から存在しているのですか?」
「そうだ。この私もこの塔の建造にかかわったから間違いないぞ」
神であるヴィクトリアのおじいさんが塔の建設にかかわっている?
そのことに驚いた俺は、思わずヴィクトリアのおじいさんに聞き返すのだった。
「クリント様が塔の建造にかかわった?主神であるクリント様が下界のことにかかわるとは、かつてここで何があったのですか」
「千数百年前、この地に大量の魔物が現れ世界が滅びに向かいかけたのだ」
「世界が滅びかけたのですか」
「そうだ。そして、その原因は私の父であるプラトゥーンが復活しかけたことであった」
千数百年前に邪神プラトゥーンが復活しかけていた?
その話を聞いた俺は、ゴクリと唾を呑み込むと、真剣な態度でおじいさんの話の続きを聞くのだった。
★★★
「お前も色々と聞いていると思うが、私の父のプラトゥーンは息子の私から見てもとても執念深い男なのだ。そんな奴を封印しておくため、私はこの世界に地脈やその他、厳重な封印を施したのだ。お前も”アルキメデスの鍵”は知っておるであろう?」
「アルキメデスの鍵、確かフソウ皇国の国宝ですね。ですが、あれは盗まれてしまって行方不明です。俺達も捜索の依頼を受けているのですが、行方はつかめておりません。というか、、アルキメデスの鍵。あれは何の鍵なのですか」
「あれはな。私のオヤジの魂を封印しておくための鍵なのだ」
「え?邪神の魂を封印しておくための鍵?それは本当の事なのですか?」
アルキメデスの鍵の正体がそんな危険なものであったと知り、俺は愕然とし、俺はおじいさんに聞き返した。
それに対して、おじいさんはコクリと頷くと、続きを話し始める。
「千数百年前もオヤジの配下の手によって鍵が盗まれてしまってな。そいつらの手によってオヤジの魂が解き放たれて大変なことになってしまった。今回も盗まれてしまったということは、多分オヤジの配下、”神聖同盟”だったかな?」
「はい、その通りです」
「連中の手に渡り、すでにオヤジの魂は解放されてしまっているのだと思う」
既にプラトゥーンの魂は復活しているかもしれない。
そのことを知った俺は漠然とした不安を感じ、思わず身震いする。そして、おじいさんに対処方法を聞くことにする。
千数百年前にプラトゥーンの魂が復活したというのに今の世の中があるということは、何かその時に手を打ったはずだ。そう考えたからだ。
「クリント様。プラトゥーンの魂が解放されているらしいというのはわかりました。それに対して何か手はないのですか。千数百年前はどうにかしたのでしょう?」
「手はある。鍵を取り戻してオヤジの魂を再び封印すればよいのだ」
「再封印?そのようなことができるのですか?」
「できるぞ。千数百年前、私は一人の人間の勇者に神属性魔法を授けた。その人間は授けられた神属性魔法を駆使して鍵を取り戻し、オヤジの魂を封印することに成功したのだ」
「神属性魔法?俺と同じ?」
「そうだ。そして、その人間の勇者の血はお前にも流れている。だからお前にもできるはずだ」
かつて世界を邪神の手から救った勇者の血が俺に流れている。
そう聞いた俺は興奮し、さらに詳しい話をおじいさんに聞くのだった。
★★★
「ヴィクトリアのおじいさん、それでその人間の勇者はどうやってプラトゥーンを封印したのですか?」
「その人間の勇者、確かエリオットという名前だったかな。もっともその名も長い年月の間にすっかり忘れられたようで、今ではおとぎ話の中に勇者という象徴的な名称でしか伝わっていないがな。おっと、話が逸れたな。それで、エリオットはまずは各地で仲間を集めた」
「仲間を?」
「そうだ。その中にはお前たちの先祖であるヒッグスもいたぞ」
「ヒッグス様も?」
「その通りだ。ヒッグスもエリオットの仲間だった。ちなみにエリオットには一人だけ子供がいて、娘だった。その娘がヒッグスの一人息子とくっついてな。その子孫がお前たちヒッグス一族という訳だ。そして、ヒッグス一族の中で神属性魔法の資質に目覚め、うちの孫から神属性魔法を授かったのがお前という訳だ」
なるほどそういう経緯で俺の中にも勇者の血が流れているという訳か。
俺はおじいさんの話を聞いて非常に感動したのだが、そんな俺の気持ちを知ってか知らずかおじいさんは話を続ける。
「それで仲間を集めたエリオットは各地の遺跡を回って、まずは地脈の封印を強固なものにしたのだ」
「地脈の封印を?」
「そうだ。今のお前たちと同じだな。何せ地脈の封印は私のオヤジの本体を封印するためのものだからな。魂だけでも復活したオヤジの奴は、肉体を封印から解くために手下を使って各地の封印を揺さぶったのだ。これも今の神聖同盟という奴らが同じことをやっているようだな」
「そうですね。確かにやっていますね」
俺は今まで神聖同盟の連中がやって来たことを思い出し、あれは全部プラトゥーンの肉体を解放するための行動だったことを理解した。
「それで、勇者エリオットたちは地脈を再封印した後どうしたのですか?」
「地脈を封印されて地脈からの力の供給を断たれたオヤジから鍵を奪い返して、オヤジの魂を封じることに成功したぞ!」
「それはつまり、俺たちもうまく地脈を封印すればプラトゥーンの魂を封印できるということですか?」
「それで大丈夫だと思うが、下界に降りて来た後、お前たちの話を聞いて気になったことがあるので、話しておくぞ」
俺の問いかけに足して、おじいさんは一応大丈夫だとは言ってくれたが、、気になることがあったのかその点を俺に話してくれたのだった。
★★★
「気になる点とは何ですか?」
ヴィクトリアのおじいさんが気になることがあるというので、その点について聞いてみると、おじいさんはこう話してくれたのだった。
「お前たち、私のオヤジの分身である四魔獣のクローンと戦ったそうだな」
俺達が四魔獣のクローンと戦った件はおじいさんに話していた。
だから当然俺はこう答えた。
「はい、その通りです」
「それで、オヤジの配下の奴が注射器を自分に打ったら怪物に変身したとも言っていたな」
「はい、言いましたよ」
こっちは獣人の国の盗賊団の首領が自分に注射を打って怪物になった時の話だ。
これもおじいさんには伝えてあったので、当然イエスと答えた。
俺のその二つの回答を聞いたおじいさんは、「う~む」と一言唸ると、しばらく目を閉じて考えると、俺にこんなことを言って来たのだった。
「今回の件、遺跡の封印だけでオヤジを封印することができないかもしれないぞ」
「え?それはどういうことですか」
「今は詳しくは言えないな。私の想像したようなことができるかどうかも分からないし」
「そうなのですか?」
「ああ、わからん。だが、あの執念深くてしかもずる賢いオヤジの奴が前回と同じ失敗を繰り返すとも思えない。だから、慎重に事を運べ!私には今はそれだけしか言えないな」
「そんなあ、もうちょっと詳しく教えてくださいよ」
このままでは納得がいかなかった俺は情報のおねだりをしたが、おじいさんは詳しくは教えてくれなかった。
後で聞いた話によると、俺に憶測交じりのことを教えると、それが原因で俺の行動に迷いが生じる可能性があるという理由らしかった。
だから、代わりにこんなことを教えてくれた。
「もしこの先何か異変があった時には、この天空の塔を使え!」
「天空の塔を使う?……のですか?」
「この天空の塔は私がエリオットやヒッグスに作らせたこの世界を監視するための塔なのだ」
「おじいさんが勇者様やヒッグス様に作らせたのですか?」
「そうだ。そして、この塔の力を使えるのは神属性魔法を使えるお前のみ」
そこまで言ったところで、おじいさんは一旦話すのを止め、俺の肩を両手でつかむと、言い含めるような感じで俺に言うのだった。
「だから、世界に何か異変があった時、お前はこの塔へ来て世界で何が起こっているのかを探るのだ。天空の塔の最上階に立ち、天空の塔に神気を注ぎ込めば、塔がお前に道を開いてくれるだろう。わかったな?」
「はい」
おじいさんのアドバイスを聞いた俺は最後に力強く返事をすると、大きく頷くのだった。
★★★
俺に色々と昔話やアドバイスをしてくれたおじいさんは、最後に「もし状況に変化があったらまた情報をやろう」とだけ言うと、俺から離れてヴィクトリアやセイレーンの方へと行ってしまった。
どうやらおじいさん的には難しい話はこれで終わりで、後は娘や孫と楽しい時間を過ごしたいということのようだ。
「セイレーンにヴィクトリア。楽しんでいるか?」
実際おじいさんは笑顔で二人に声をかけているしね。
ただ俺は楽しむ気にならず、一人考えた。
地脈を封印しただけではプラトゥーンは止まらないかもしれない。
そう考えただけで頭が痛くなりそうだった。
そして、考えに考え抜いた末、これは一人では無理だなと思った俺は、今晩嫁たちを寝室に集合させ、皆で話し合うことに決めたのだった。
その結論に至った俺は嫁たちの側に行き、「今晩全員で会議だ」と伝えると、俺もおじいさんを見習って嫁たちとイチャイチャするのだった。
まあ、悩んでも解決する問題ではないし、今はこれでいいと思う。
ということで、今晩は嫁たちと仲良く作戦会議だ。




