第526話~何だか、妹の様子がまたおかしいんだが……後編 妹よ!お前の根性は認めてやるが、罰は受けてもらうからな!~
近くのレストランに移動した俺たちは二十人くらいはいる大きな個室を借り切ってそこに移動した。
ちなみにホルスターと銀はヴィクトリアのおじいさんが外へと連れ出してくれた。
今回の話は子供に聞かせるような類の話ではないので、話を聞かさないように近くで待機してもらうことにしたのだった。
「ヴィクトリアのおじいさん。ホルスターたちのことはお願いします」
「うむ。任せるがよい」
「ホルスターと銀はおじいさんの言うことを聞いて大人しくしているんだぞ」
「「は~い」」
そうやって三人を見送った後は、残りの全員でレストランの個室に入り、妹の話を聞くのだった。
★★★
「レイラさん、とりあえず飲み物を頼みなさい。私も頼みますから」
「はい」
「他の人たちも何か頼みなさい。何ならデザートとかも頼んでも良いですよ。わざわざレストランの個室を借りたのに飲み物くらいしか頼まないのではレストランに申し訳ないですからね。だから遠慮せずに高いデザートを頼みなさい。ほら、この『季節のフルーツとアイスの盛り合わせ』何か、おいしそうですよ」
「はい」
そうやってエリカの指示で全員が飲み物やデザートを注文する。
しばらくしてデザートや飲み物が到着すると、皆でそれを食べた。
話し合いの最中にそれらを食べるのは場違いな感じだったし、折角頼んだ料理を食べないのは勿体ないし、レストランにも失礼だからだ。
ということで、それらを食べ、少し雰囲気が落ち着いたところで話し合いが始まった。
★★★
「それで、レイラさん。今度は何をしでかしたのですか?」
話し合いが始まると、エリカは妹の奴に単刀直入に質問した。
「え~と、実は競馬にお金を賭けて負けちゃったの」
それに対して、妹の奴は大人しく正直に話した。
妹の奴が正直に話したのは、多分エリカの追求からは逃げきれないと観念したからだと思う。
というか、競馬?このバカ妹は何に金をつぎ込んでいるのだろうか?本当にバカな妹だ。
妹のしでかしたことを聞いて俺はそう思ったのだが、それはエリカも同様だったらしく、エリカは妹をジロリと一睨みしてから、話を続ける。
「競馬ですか……。あなたは何にお金を使っているのですか?ギャンブルは基本的に胴元が儲けるように仕組みができているのですよ。それなのにそんなものにお金をツッコむとか、何をしているのですか?」
「だって、最初は儲かって仕方がなかったんだもん。屋台で豪遊したり、欲しかった物が買えたし。それに最初はお小遣いからしか出していなかったから、負けても問題なかったんだもん」
エリカの追及に対して、妹の奴は半泣きになりながら言い訳にならない言い訳で何とか乗り切ろうとしている。
というか、お前、『もん』っていう子供っぽい言い訳ではエリカから逃げきれないからもうちょっと言葉遣いをきちんとして反省の態度を示した方がいいと思うぞ。
それと、お前今さらっととんでもないことを白状しやがったな。
俺と同様にエリカもそのことに気がついたらしく、妹への追及の手を強める。
「あなた、ギャンブルの罠に完全にはまっていますね。そうやって最初にたまたまうまく儲けた人間というのは、『自分だけは他人と違ってギャンブルで勝てる!』という妙な自信を抱いて、最後には大きな負債を背負ってしまうものなのですよ。まさに今のあなたそのものです!何か間違っていますか?」
「うううう~~」
「それと、あなた今最初は自分のお小遣いから出していたと言っていましたね?では、何ですか?今はそれ以外のお金も使ってしまったということですか?」
「え~と、それは……」
エリカに競馬に使ったお金の出所を聞かれた妹の奴は、答えたくないのか、口ごもって誤魔化そうとしたが、エリカにそんなものが通用するはずがない。
すぐにズバッと核心を突かれてしまう。
「あなたが答えたくないというのなら、私がはっきりと言ってあげましょうか。私に貯金の引き出しを制限されているあなたが競馬に使うお金を得る手段。それは借金しかないでしょう。あなた、借金したお金でギャンブルをしましたね!正直に言いなさい!」
「うわあああああんんんん!!!!!ごめんなさああああい!確かにお金を借りて競馬をしちゃいました。許してくだあああいい!!」
エリカの圧力に耐えきれなくなった妹の奴は、最後には泣きながらそうやって自分の非を認めたのだった。
それを見て俺は思ったね。
妹よ。泣くくらいなら最初から借金してまで競馬なんかするなよ、と。
★★★
その後もエリカの妹の奴に対する事情聴取は続いた。
「それで、いくら借金をしたのですか?」
「銀貨百枚です」
「その借金はどうやって返していくつもりなのですか?」
「銀貨三十数枚ほどは持ち物を処分して返しました」
持ち物を処分した。そう答えた時に妹の声が若干震えていた。
その妹の態度を見て事情を察したのであろうエリカが妹の奴にこう聞き返した。
「持ち物を処分した?それで、その持ち物の中にはあなたの髪の毛も入っているということですか?」
「はい。銀貨十枚で美容室に買い取ってもらいました」
その話を聞いた俺は、それで妹の髪が短くなっていた理由が分かった。
まあ、女性の髪の毛って高く売れるからな。
妹の髪の毛も、妹が大事に手入れしていたせいか、黒く輝いていて、艶もコシもあって、それでいて十分に長かったからな。
銀貨十枚で売れる程度には価値があったということなのだろう。
それにしても妹の奴、思い切ったことをしたものだと思う。
何せ髪は女の命というからな。
それを売ってまで借金を返済しようとした妹の奴、今回に限っては十分に根性を見せたと思う。
エリカもその妹の行動には思う所があったようで。
「まあ、よく嫁入り前の女の子が大事な髪の毛を売ってまで借金を返そうと思いましたね。私、少しあなたのことを見直しましたよ」
と、妹の根性を褒めていたしね。
「それで、持ち物を売っても返せなかった借金はどうするのですか?」
「仕事の合間に単発のアルバイトをして返済して行くつもりです。すでに銀貨三枚くらいは返しました」
「なるほど分かりました。一応返済できる見込みはあるということですね」
妹の返済計画を聞いたエリカは、大きく頷きながら、もう一度妹奴のことをジロリと睨みつけた。
睨まれた妹の方は、これからみっちりお説教タイムが始まるものだと思い込みブルブルと体を震わしていた。
それを見て、俺も妹の奴がこれからエリカに〆られるものだとばかりに思っていたが、エリカの反応は意外なものだった。
「まあ、借金をしてまでギャンブルをしたのは許せないですが、自分の大事な髪の毛を売ってまで借金を返そうとしたことは認めてあげます」
と、一方的に怒ったりせず、妹のことを褒めるような言動をしたのだった。
俺はどういう風の吹き回しだと思ったが、エリカがその理由についてとうとうと話し始めた。
「実はですね。私も以前、自分の髪の毛を売って生活費の足しにしようと思ったことがあるのですよ」
「え?エリカお姉さんも髪の毛を売ろうとしたことがあったのですか?」
「ええ。かつて旦那様と一緒に駆け落ちした最初の頃、お金がなかったので自分の髪の毛を売ろうかと悩んだことがあったのですよ」
エリカのその話を聞いて、そういえば駆け落ちする時にエリカがそんなことを言っていたのを思い出した。
なるほど。そのことに思い至ったからこそ、エリカも妹の奴に対して妙に同情的な発言をしているのだと思う。
「もっとも、あの時は幸いにも最初からうまくお金を稼げていたので、結局髪の毛を売りませんでしたが。……まあ、そんな私の思い出話はどうでもいいですね。それよりも……」
そこまで言ったところで、エリカはもう一度妹のことを見た。
ただその視線は先程の厳しいものではなく、優しさの込められた柔らかいものだった。
「あなたが借金を本気で返そうとしていて、十分な覚悟を持っているのはわかりました。いいでしょう。あなたのその覚悟に免じて、あなたのその借金、残りは私が返済してあげましょう」
「え!?お姉さん、本当ですか?」
エリカが借金を肩代わりしてくれると聞いて、余程嬉しかったのか、妹の奴が席から立ち上がって小躍りして喜んでいる。
それを見るに、妹の奴余程借金返済に困っていたようだった。
そんな風に借金返済のめどが立って喜ぶ妹の奴だが、もちろんエリカが妹の覚悟の良さに感銘を受けたからと言って、それだけで妹の奴を完全に許すわけでがない。
借金返済を喜ぶ妹の奴に続けてこう言い渡すのであった。
「ええ、もちろん、あなたの借金は返してあげます。ただし、ギャンブルのために借金をして、うちの旦那様にまた迷惑をかけようとしたこと。このことの罰はちゃんと受けてもらいますよ!」
★★★
「え?罰があるんですか」
借金は返済してもらえるがきちんと罰を与える。
そのエリカの言葉を聞いた妹の奴は、自分は何をされるのだろうとドキドキしたのか、喜ぶのを止め、神妙な面持ちでエリカの言葉を待つのだった。
そんな妹に対して、エリカはこう言うのだった。
「あなたには今度の旅行中私たちの雑用係をしてもらいます」
「雑用係?それに今度の旅行中?……って、なんのことですか?」
エリカの発言に対して、妹の奴は当然の疑問を口にするのだが、その質問に対して、エリカはこう回答するのだった。
「実は、次の仕事まで少し時間があるので家族で旅行に行く計画なのです。それで、あなたやフレデリカさんたちも仕事やボランティアを頑張っているみたいなので、一緒に連れて行ってあげようと思っていたのです」
「え?エリカさん、それは本当ですか?」
自分たちも旅行に連れて行ってもらえると聞いて、フレデリカたちが驚いて、思わずエリカに質問している。
それに対して、エリカは優しく笑いながらフレデリカたちにこう言うのだった。
「ええ、本当ですよ。あなたたちは十分頑張っているのだから、たまには休息も必要です。だから私たちの旅行について来て、精いっぱい遊びなさい」
「「「ありがとうございます!」」」
エリカの発言を聞いて余程嬉しかったのか、フレデリカたちは三人そろって大喜びしていた。
まあ、彼女たちも俺たちがいない間頑張っていたみたいだからな。
たまには旅行くらい連れて行ってあげても良いと思う。
そんな三人の笑顔を見てエリカも嬉しそうな顔をしているので、エリカも俺と同じ思いなのだと思う。
ただエリカが笑ったのはフレデリカたちだけに対してで、妹の奴には一転厳しい態度をとる。
「ただし、レイラさんあなたは別ですよ。あなたには旅行中、雑用係としてきっちりと働いてもらいますからね!」
「そんなあ。エリカお姉さん、それはちょっと酷くないですか?私も旅行中くらい遊びたいです」
「何を言っているのですか?あなたには旅行中雑用仕事をしてもらう。それがあなたへの罰です」
「そんなあああ」
「まあ、安心しなさい。仕事をちゃんとすれば余った時間は皆と遊んでもらってもいいですからね」
「うううう、それでも酷くないですか?」
「それが嫌だったら、一人ノースフォートレスの町に残って仕事やボランティア活動に明け暮れたいというのですか?私は、そっちでも構わないですよ」
「わかりました。それでお願いします」
妹の奴は、エリカに抵抗して何とか旅行中に仕事をしないように画策したのだが、そんな浅はかな試みがエリカに通用するわけがなく、結局雑用係ということで俺たちの旅行についてくることにあったのであった。
というか、妹よ。
お前も知っている通りエリカの下で働くのは厳しいからな。
だから旅行中だからと言って手を抜いてもらえると思うなよ。
その点は覚悟しておくことだな。
二人のやり取りを見ていた俺は、最後はそんなことを思って、旅行中の妹の運命に思い至るのだった。




