第515話~大海溝の遺跡 ボス部屋の前 三途の川って亡者が巣食っているんですね~
古代海底都市があったエリアの扉を抜けると、細長い洞窟が続いていた。
その様子を見た俺はヴィクトリアのおじいさんに問いかける。
「ここは地獄風ダンジョンではないみたいですが、そういうのはもう終わりですか?」
「ああ、一番重い地獄である無間地獄までもう出してしまったからな。地獄はもう終わりだ。後はこの道を抜けてダンジョンのボスと戦ってもらおうか」
おじいさんの話を聞く限りではもう地獄風ダンジョンは終わりらしかった。
あんな熱かったり、寒かったり、風が吹いていたりと、バラエティー豊かなダンジョンにもう付き合わないでよいのかと思うと、正直安心した。
嫁たちも俺と同じ思いのようで。
「良かった。もうあんな熱い場所を歩かなくても良いのですね」
「寒くてうっかり凍死してしまいそうなダンジョン。もうこりごりです」
「ふう。もうあんな針山の中を重い装備をつけて歩かないで良いと思うとせいせいするね」
「これで暴風の中、武道着が脱げそうになるのを心配しなくて良さそうです」
と、これ以上変なダンジョンに付き合わなくてよくなったことに喜んでいた。
さて、これ以上変なダンジョンもなさそうだし、先へ進むとしよう。
★★★
「おや。川ですね」
洞窟を進んでいると、ヴィクトリアが前方に川らしきものがあるのを発見した。
川と言ってもそんなに大きなものではなく、せいぜい幅が数十メートルくらいの小さなものだ。
それが洞窟の壁から壁へと繋がっていて、俺たちの行く手を阻んでいた。
こんな所に川?
そう思った俺はおじいさんに聞いた。
「ヴィクトリアのおじいさん。あの川には一体どんな意味があるのですか?」
「ああ、あれは三途の川じゃよ」
「三途の川?というと、死者が死んだら通ることになるというあれですか?」
「その通りだ。とはいえ、三途の川そのものではないな。三途の川から水を引いてきている。ただそれだけのオブジェだ」
「オブジェですか。ということは三途の川と言っても特に何もないのですね」
「ああ、ないな」
「そうですか」
ここまでおじいさんの話を聞いたところで俺はホッとした。
三途の川と聞いて何かやばいことが起こるんじゃないかと心配になっていた俺は、そんな感じで安心したのだが、ここでおじいさんが余計なことを言って来た。
「ただし、この川を渡る時には気をつけるんだな」
「気を付けるのですか?」
「ああ、何せここの水は三途の川から引いてきたものだからな。そのせいか、ここの水には三途の川を渡ることができなかった亡者の魂が混ざっておる。そこの川を渡ろうとすると、そいつらがアンデッドとなり襲い掛かって来るぞ」
★★★
「アンデッドが襲ってくるから注意しろ!」
そんなおじいさんによる忠告に気を付け、いよいよ三途の川風オブジェを渡ることにする。
「『重力操作』」
ほんの数メートルの距離なので一々船を出したりせず、皆で空を飛んで移動する。
『重力操作』の魔法を使っている俺以外は臨戦態勢だ。
おじいさんの話によると、この川には迷える亡者たちが溢れているらしいからな。
そいつらが襲って来るかもと思うと警戒するべきだろう。
そうやって警戒しながら川の三分の一ほど進んだ所で。
「旦那様、来たようですよ」
エリカがそんな警戒の言葉を発すると同時に川の水面がドバっと盛り上がる。
「グギャアア」
そして水面から大量の亡者たちが現れ、俺たちを川の中へ引きずろうと、山なりに連なって襲い掛かって来る。
この亡者たちは三途の川を渡るための船賃を払えず、魂を川の中に引きずり込まれた連中らしい。
こいつらは仲間を増やそうと、無断で三途の川を渡るやつらを川の中へ引きずり乞おうとするのだ。
本当死んだ後まで執念深い連中である。
それで、そんな連中が襲ってきたわけだから俺たちも全力で抵抗する。
「『極大化 光の矢』」
「『極大化 聖光』」
「『極大化 光の矢』」
「『極大化 鬼火』」
エリカたち魔法組がそうやって取りつかれないように魔法で攻撃して行く。
「ウギャアアア」
エリカたちの攻撃を食らって、次々と亡者たちが脱落し、川の中へと戻って行く。
それでも亡者どもの数が多いせいか、大体万を超える数がいると思う、魔法攻撃を潜り抜けて近づいてくる連中がいる。
そういう奴らには。
「行くよ、ネイアちゃん。はああああ」
「はい。おりゃあああああ」
リネットとネイアが力で対応だ。
聖属性を付与された剣とカイザーナックルで、亡者たちを次々と撃墜して行く。
「グヘッ」
「ドボッ」
リネットたちにボコられた亡者たちは、そうやってうめき声を残しながら、これまた川の中へと戻って行くのだった。
こんな感じで川に巣くう亡者どもを撃退しながら、俺たちは三途の川風オブジェを渡り切ったのだった。
★★★
三途の川風オブジェを渡り切ってしばらくすると扉が現れた。
扉には鬼のマークが描かれているので、ここがこのダンジョンのボス部屋で間違いないと思う。
これまで戦ってきた赤丸や青丸、ケルベロスと言った連中はかなり手強かった。
ここがこのダンジョンの最後ということは、ここのボスは今まで奴らよりも強いはずだ。
そう思った俺はヴィクトリアを呼ぶ。
「ヴィクトリア、頼むよ」
「ラジャーです」
すぐに俺の意図を察したヴィクトリアが俺にキスをしてくる。
ヴィクトリアのおじいさんが一瞬俺のことを睨んできたが、今はそれどころではないので無視だ。
ヴィクトリアにキスされてすぐに俺の体が発光しだす。
『シンイショウカンプログラムヲキドウシマス』。いつもの声が聞こえてきて、俺の中に力がみなぎって来る。
これで神意召喚も完了したし、準備は完了だ。
「さあ、行くぞ!」
俺は扉を開けてボス部屋へと入って行く。




