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第52話~オリハルコン~

 この感覚は新しいな。


 『神強化』を頭に使ってみた俺は不思議な感覚を味わっていた。

 何というか。そう。体のことなら何でもわかる。そういう感じだ。


 今なら、筋肉一つ一つの動き、血管を流れる血の動き、そういう普段感じられないものまで知覚できる。

 そんな気がした。


 おっと、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。


 俺は自分の頭の中を覗こうと全神経を集中する。

 自分の頭の中の『神属性魔法』のリストを眺めてみる。


 そして、見つける。

 『神強化』の中に必殺剣が隠されていることを。


 俺はほくそ笑む。


 やはり、これで正解だったかと。


 さらに詳しく見てみると、必殺剣にはいくつか種類があるらしかった。

 これかな。

 その中から俺は今回の任務に最適なものを選ぶ。


 その時、エリカの声が聞こえた。


「旦那様、奴が今まさに攻撃しようとしています」

「わかった」


 エリカの声を聞いた俺は、剣を鞘に納めたまま、居合の構えでキングエイプの前に立つ。

 ぐっと手に力を籠め、キングエイプの攻撃に備える。


「ぐおおおおお」


 キングエイプが満を持して『極限超振動波』を放ってくる。

 その力は圧倒的で、この世のすべてを破壊するだけの力を感じ取れる。


 だが、俺は慌てない。


 圧倒的な力がぐんぐん迫っているというのに、自分でも不思議なくらい落ち着いている。

 多分、よくわかっているからだと思う。


 この必殺剣の威力がどのくらいであるかを、だ。


「旦那様!」


 エリカが悲鳴に近い声を上げる。見ると『極限超振動波』が目前に迫っていた。


 俺は剣を抜き、叫ぶ!


「行くぞ!『究極十字斬』!」


 その瞬間、世界が両断された。


★★★


 究極の技と技がぶつかり合う。

 力と力がぶつかることでスパークが発生し、空気を、大地を揺らす。


 俺はその光景をただじっと見守っていた。

 やれるだけのことはやったのだ。

 となると、後できることと言ったら、結果を待つのみである。


 力と力の均衡状態は永遠に続くかと思われたが、しばらくすると結果が出た。


 もちろん、俺の勝利だ。


 俺の放った『究極十字斬』は『極限超振動波』を貫くと、これを雲散霧消させてしまう。

 さらに『究極十字斬』は『極限超振動波』を消し去った後、一直線にキングエイプへと向かって行く。


「うき」


 キングエイプはとっさに腕を組んでガードするが、『究極十字斬』はそんなことはお構いなしに、キングエイプの太い腕をスパッと切断すると、キングエイプの胸に深い十字の傷を刻み込む。


「ぐぎゃあああああ」


 キングエイプが絶叫を上げる。


 本当散々苦労させやがって。本当にいい気味だ。

 そう思った。


「さて、これからどうしようか」


 大ダメージを負ったが、キングエイプはまだくたばっていない。本当にタフな奴だ。

 こいつにどうやってとどめを刺すべきか。

 そう考えていると、ヤマタノオロチが割って入ってきた。


「もしかして、ホルスト殿はキングエイプにとどめを刺そうとしているのですか」

「そうだが」

「残念ながそれは難しいと思います。見ての通り、キングエイプは非常にタフな魔物です。今のあなたでは倒すのは難しいと思います」

「じゃあ、どうすればいい?」

「再封印するのが一番かと。前の『神属性魔法』の使い手もそうしていましたし」

「おお、そんなことができるのか」

「我ならば可能です。そもそも我がこの地にいる理由は封印を守るためのかなめとなるためなのです。まあ、今回は不覚を取ってしまったので封印を解除されてしまいましたが」


 そういうヤマタノオロチの声はどこか悔しそうな感じがした。

 俺は気を使ってそれをスルーすると、オロチに頼んだ。


「じゃあ、お願いするよ」

「畏まった!後は我にお任せを!」


 そう言うと、ヤマタノオロチが祈り始めた。

 すると、キングエイプが現れた時と同じように空中に黒い点が現れた。

 黒い点は現れると瞬く間にキングエイプを飲み込んでいく。


「ききいいい」


 再び自分が封印されると知り、発せられるキングエイプの断末魔が非常に心地よかった。

 最後は割とあっさりしていたが、こうして俺たちとキングエイプの戦いは終わった。


★★★


「ほう、ホルスト殿たちはオリハルコンを求めてこの地まで来られたのですか」


 キングエイプとの戦いは終わった。

 で、今はヤマタノオロチとお話をしている最中だ。


 その中で旅の目的を聞かれたので、オリハルコンを探しに来たと答えておいた。


「そういうことでしたら、これをお持ちください」


 そう言うと、ヤマタノオロチは一旦自分の棲家としている洞窟に入って行った。

 しばらくすると、その背中に大量のオリハルコンの鉱石を積んで戻ってきた。


「これを差し上げますので、どうぞお使いください」

「えっ、こんなにたくさんもらっても構わないの?オリハルコンは貴重だって聞くけど」

「構いませんよ。むしろ、我はあなた方の働きの報酬に対しては安すぎると思っているくらいです。……だから、報酬代わりに一つ良いことを教えましょう」


 あまり余人に聞かれたくないことなのか、オロチの声量が少し小さくなる。


「『熱砂のハンマー』を探しなさい」

「『熱砂のハンマー』?それは何だ?」

「オリハルコンの真の力を引き出すために必要な道具です。オリハルコンは普通に鍛えただけでは、ただの頑丈な武器の材料にしかなりません。真の力を引き出すためには『熱砂のハンマー』が必要となるのです」

「ふーん。で、それってどこにあるの?」

「『希望の遺跡』というダンジョンにあると聞き及びます」

「『希望の遺跡』ねえ」


 『希望の遺跡』か。

 うん?どこかで聞いたことがあるような。

 ……って、ヴィクトリアと出会ったダンジョンじゃないか。


 ヴィクトリアが行きたくないというので、最初に行って以来ずっと行っていなかったが、これは行く価値が出てきたな。


「わかった。頑張ってみるよ」

「皆様のご検討をお祈りしております。それでは我はこれで失礼します」

「これからどうするんだ」

「はい、この度の戦いで我も大分消耗しました。ですからここの地下深くにある地底湖にでも潜って力を回復したいと思っています。しばらく、時間がかかるので、皆様とお会いできるのもこれが最後でしょう」

「そうか。達者でやれよ」

「皆様の方こそ元気にやってください。それでは、さようなら」

「ああ、さようなら」


 こうして俺たちはヤマタノオロチと別れた。


★★★


 その後はずっと休憩場所として使っていた泉に移動する


「おかえりなさいませ」

「おかえりなさい」


 泉では白狐母娘が俺たちを出迎えてくれた。


「ああ、ただいま」

「ただいま帰りましたよ」

「ただいまです」

「ただいま、帰った」


 俺たちも白狐に挨拶し返すと、泉の側に張ってあるテントび一緒に入った。

 ヤマタノオロチ、キングエイプと連戦だったので、疲れ果てていた俺たちはすぐ椅子に腰かけ、テーブルに身を預け、グデッとしている。


 唯一の例外はアキラ皇子で、


「皇子様、お外で遊びましょう」

「うん、遊ぼうか」


と、フサフサの耳と尻尾を持つ狐少女に誘われて外で遊んでいる。


「じゃんけん、ポン」

「あいこで、しょ」


 そう元気よく遊ぶ声がテントの中までよく聞こえてきて、とてもほのぼのとする。


 そうやってのんびりしているうちに疲れも少しずつ取れてきた。


「ホルストさん、ここは甘いものでも食べて元気になるべきです」


 そうヴィクトリアがねだってきたので、収納リングからお茶とお菓子を出させてテーブルの上に並べる。


「おお、今日のおやつは饅頭とフソウ茶か」


 早速おやつに俺は手を伸ばそうとしたが、エリカに怒られてしまう。


「旦那様!お行儀が悪いですよ!食べるのはみんなが揃ってからですよ」

「あっ、はい。すいません」

「罰として、皇子様たちを呼んできてください」


 ということで、俺は皇子たちを呼びに行くことになった。


「たくさんあるねえ」

「おいしそうですね」


 皇子たちはおやつの山を見るなり目を輝かせるのだった。

 そのまま皇子たちもテーブルに座っておやつタイムとなるのかと思いきや。


「わたしたち、お遊びの最中だからお外で食べてもいい?」

「構わないですよ。好きなだけ持って行きなさい」

「わーい」


 どうやら外で遊びながらおやつを食べたかったらしく、皇子と狐少女はテーブルの上から手に持てるだけのお菓子を持ち出すと、再びテントの外へとダッシュしていくのであった。


「それでは、大人は大人でゆっくりと楽しみましょうか」


 子供たちが出て行ったあと、俺たちはおやつを食べながら話し始める。

 とりあえずは、キングエイプたちとの戦いでのことを話した。


「それは、大変でございましたね」


 俺たちの報告を聞いた白狐がねぎらってくれる。


「しかし、あのキングエイプを撃退してしまうとは……あなた方は私が見込んだ以上の方々でございますね」

「いや、たまたまうまくいっただけだよ」

「ご謙遜なさらないでください。あなた様方のおかげでヤマタノオロチも助かりましたし、本当感謝しかありません」


 そう言うと白狐はぺこりと頭を下げた。

 本当、礼儀正しい奴だと思った。

 まったく、どこかの女神に爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいだ。


「ところで、ヤマタノオロチを狂わせたという魔石とはどのようなものだったのですか」

「うん?見たいのか?ヴィクトリア、ちょっと出してやってくれ」

「は~い」


 俺に言われてヴィクトリアが収納リングから魔石を取り出す。

 それを一目見るなり白狐がブルブルと震え出した。


「これは……凄まじいですね。こんな物が体内にあったらと想像すると……身震いが止まりません」

「だろうな」


 俺も白狐の意見に賛成だ。

 俺だってこんなものは見たくもないからだ。


「それで、皆さんはこれをどうするおつもりですか」

「浄化して、聖石として使うつもりだ。一応、うちのヴィクトリアが浄化できるらしいのでやってもらうつもりだ。時間はかかるだろうが」

「それでしたら、ここの泉の水を利用されてはいかがでしょうか」

「泉の水?」

「左様でございます。実はここの泉の水はヤマタノオロチが潜ったという地底湖から湧き出してきております。それで、その地底湖というのが女神アリスタ様のご加護を受けた大変ありがたい湖でございまして。なので、浄化魔法と泉の水を併用して浄化すれば半日もかからず浄化できると思いますよ」

「おお。それはいいことを教えてくれたな」

「いえ、いえ。あなた方のしてくださったことに比べれば小さいことです。おっと。そういえば、私としたことが失念しておりました。皆様に何かお礼をしたいと思います。私に用意できるものなら何でもご用意しますので、何なりと仰ってください」

「うーん。欲しいものか。そう言われてもな」


 ここへ来たそもそもの目的はオリハルコンを手に入れることである。

 しかし、それは既にヤマタノオロチにもらっている。

 だから、特に欲しいものは思い浮かばなかった。


「う~ん。特に無いかな」

「そんな事を仰らずに、是非」

「……困ったな」


 俺は本当に困ってしまって渋面を作る。

 そんな俺を見かねて白狐がこんな提案をしてきた。


「それでは、こういうのはどうでしょうか。私、こう見えてもこの世界の狐族の長なのですが」

「えっ、そうなの」

「はい。それで、皆様への報酬としてわが眷属たちを自由に使う権利を差し上げましょう。私から世界中の眷属たちに申し伝えておきますので、皆様が心の中で念じるだけで、眷属たちがすぐに駆け付け、皆様の手足となり、働くようになるでしょう」

「それはすごいな」


 本当ににすごい報酬だった。

 なまじ何か物をもらうよりも、これからずっと役にたちそうな報酬だった。


「それじゃあ、頼むよ」

「畏まりました。お任せください」


 これに手俺たちと白狐の間の堅苦しい話は終わった。


 そして、その後はみなで歓談を楽しんだのであった。

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