第509話~大海溝の遺跡 束の間の休息編 うん、やっぱり誰かと一緒に寝ると暖まるよね~
『大海溝の遺跡』地下三階の扉を抜けた先にはちょっとした空間があった。
それは縦、横、高さがそれぞれ十メートルくらいある洞窟だった。
この洞窟スペースを見て、ヴィクトリアがこんなことを言い始めた。
「ねえ、ホルストさん。この遺跡へ入ってから大分歩きましたし、そろそろ一休みしませんか?」
そのヴィクトリアの言葉を聞いて、俺はなるほどと思った。
確かにこの遺跡に入ってから大分時間が経過して疲労もたまってきている。
ヴィクトリアの言う通り、この辺りで少し休んでこの先のために英気を養うのも悪くはない。
そう考えた俺はすぐさま決断した。
「よし!それじゃあ、この辺りで一休みするとしようか」
★★★
「ヴィクトリア、野営道具を出せ!」
「ラジャーです!」
ヴィクトリアに言って野営道具を出させると、皆で手分けしてすぐに設置にかかる。
俺達は名の知れた冒険者だからこういう作業はお手のものだ。
三十分も経たないうちにテントの設営作業を終えてしまう。
この間に炊事場にお風呂それに全員分のベッドを設置した。
三十分でこれだけできるのだから、自分で言うのもなんだが、中々の手際の良さである。
それで、テントの設営が終わるとすぐに嫁たちが銀に手伝わせて食事の準備をする。
「銀ちゃん、さっきまで寒いところに居ましたからね。今晩は暖かいご飯を作りましょうね」
「はい!エリカ様」
「それじゃあ、銀ちゃんはスープに入れるジャガイモを切ってくださいね。あ、ジャガイモの皮をむくときは指を切らないように気を付けるのですよ」
「はい、気をつけます!」
エリカにジャガイモの用意をするように言われた銀が一生懸命に皮をむいている。
嫁たちに鍛えられたおかげか、銀の料理の腕は結構上がっていてすらすらとジャガイモの皮をむくことができている。
それを見てホルスターが感心して声をあげる。
「銀姉ちゃん、すごいね」
「ありがとう、ホルスターちゃん」
褒められた銀の方も満更でもないようで照れくさそうにはにかんでいる。
この二人は似合いの夫婦になると思う。
エリカと銀がスープを作っている横ではリネットとネイアがメインディッシュのシーフードグラタンを作っている。
「ネイアちゃん、アタシの方は具材を切るの終わったけど、そっちはどう?」
「私の方もオーブンの準備はバッチリです」
「じゃあ、容器に具材のシーフードとかを入れていくから、それが終わったらチーズをのせてオーブンに入れてね」
「了解です!」
そうやって二人で協力して、携帯用のオーブンを使ってうまい具合に作っているようだ。
さっきまで寒かったから、ここで熱々のグラタンを食べられるのは正直嬉しかった。
「ランララ~。新鮮卵でできた焼き立て熱々のパンケーキ。最後に甘~いハチミツとバターを乗せて出来上がり~。さあ、お熱いうちにお食べなさい~」
そして、残るヴィクトリアは主食としてパンケーキを焼いていた。
今日は暑かったり寒かったりで体力を消耗したからな。
甘いパンケーキは失ったエネルギーの回復に最適だった。
それで、ヴィクトリアは味見ついでにできたパンケーキをセイレーンとおじいさんに提供する。
「「おおおーー」」
ヴィクトリアにパンケーキを提供された二人は、満面の笑みでそれを受け取ると嬉しそうに食べ始める。
「ヴィクトリアが私のために作ってくれた料理はおいしいなあ」
「ねえ、ヴィクトリア。これ、おかわりくれない?」
そうやって、二人とも満足そうにヴィクトリアのパンケーキを食べていた。
というか、セイレーン様、しれっとおかわり要求しないでください。
まだ作っている最中なんですから、他の人の分ができてからにしてください!
と、こんな感じで食事の準備は順調に進んで行き、俺たちは楽しい一時を過ごしたのだった。
★★★
食事の時間は賑やかだった。
既に知っていると思うが、今日のメニューは熱々のスープにシーフードグラタン、焼き立てのパンケーキだ。
どれも体が暖まるメニューで、先程まで極寒地獄で寒さに震えていた俺たちにはありがたいメニューだった。
「いただきます」
料理をテーブルに並べ全員が座ったところで食事が始まる。
俺は早速スープを口に入れる。
……うん、うまい。
スープは味がとても濃く作られていて、今日のような寒さで体が凍えている日にはふさわしい味だった。
シーフードグラタンも味が濃くておいしかったし、パンケーキもハチミツとバターがたっぷりとかかっていてとても甘かった。
どの料理にも嫁たちの愛情がたっぷりと入っていて本当においしかった。
本当うちの嫁たちは料理が上手い。
その上、美人で優しい子たちばかりだから言うことはない。
こんな素敵な女の子たちを嫁にできて俺は本当に幸せだと思う。
俺がそんなことを考えている横では他のメンバーも楽しく食事をしている。
「銀姉ちゃんが作ったスープ、おいしいね。おかわり欲しいなあ」
「はい、はい。銀姉ちゃんが注いであげますね」
ホルスターは銀が作ったスープがおいしかったのかお代わりを要求して、それを聞いた銀が嬉しそうにおかわりを注いでやっている。
「今日の海老さんはプリプリしておいしいですね」
「イカも適度な固さで、コリコリして食べ応えがありますね」
「アタシは貝柱がおいしいと思うな」
「このチーズ、獣人の国産の物ですね。とてもコクがあっておいしいです」
嫁たちはシーフードグラタンが気に入ったようで、それについて賑やかに談義している。
「ヴィクトリア、パンケーキのおかわりもうないの?あるんだったらちょうだい」
「私もまだパンケーキを食べたいな」
「もう!セイレーンお姉ちゃんもおじい様も、パンケーキをすでに三枚ずつ食べているではないですか。いい加減にしないと、お腹の中がハチミツだらけになりますよ」
セイレーンとヴィクトリアのおじいさんはパンケーキが気に入ったようで、試食で二枚、本番で一枚食べたのにまだおかわりを要求していた。
というか、パンケーキ三枚って何ですか?
このパンケーキ、フライパン一枚くらいの大きさがあるから結構大きいんですけど……。
まだこの先もダンジョンが残っているというのに、食い過ぎて腹を壊しても知らないですよ。
俺はそんな感じでおじいさんたちの心配をしつつも、まあこの人たちもヴィクトリアの家族だから少々食いすぎたくらいでは何ともないだろうと思い直し、食事を続けたのだった。
と、こんな風に俺たちは楽しく食事をしたのだった。
★★★
皆で楽しい食事タイムを過ごした後は風呂に入った。
まずは子供たちと嫁たちが風呂に入った。
「ホルスターちゃん、銀姉ちゃんが洗ってあげるからジッとしていてね」
「うん」
「それじゃあ、銀ちゃんはワタクシが洗ってあげますね」
「ありがとうございます。ヴィクトリア様」
風呂ではホルスターと銀とヴィクトリアが体の洗いっこをしているようで、三人がそうやってはしゃぐ声が聞こえてきている。
風呂の外まで聞こえるくらいの声で騒ぐのはどうかと思うが、まあ三人とも今日は頑張ったからな。
多少うるさいのくらいは大目に見るとする。
「このフソウ酒、辛口でとてもおいしいですね」
「おつまみの干し魚を焼いたのも塩辛くておいしいよね」
「あら、エリカさんにリネットさん。お酒が空になりましたよ。新しいのを用意しますね」
残りの三人の嫁は、そうやって湯船に浸かりながらお酒を楽しんでいたようだ。
後で三人とも単に風呂に入ったというだけでは説明がつかないくらい体がほてっていたから、そうとう飲んだのだと思う。
そうやって嫁たちが入った後は俺が入った。
まあ、俺が風呂に入った話なんて聞いてもつまらないだろうから一言だけ言わせてもらう。
嫁たちが入った後の風呂は嫁たちの香りがしてとても良かった。
俺に言えるのはそれだけだ。
ここまでで大人数が入って湯船が大分汚れたので、一旦お湯を変える。
そして、セイレーンがお風呂に入る。
「温かくていいお湯だったわ。フソウ酒もおいしかったし、最高だったわ」
セイレーンも嫁たちと同じようにお風呂に浸かりながらお酒を飲んできたようで体を真っ赤にしてとてもほてって見えた。
というか、今のセイレーンってかなり色っぽい。
肌はつやつやだし、まだ髪の毛が少し湿っている姿などとてもかわいらしく感じらえる。
これだけかわいいのにどうしてセイレーンのやつは結婚できないのだろうと俺は思ってしまったが、まあよく考えたら外見はともかく中身はあれなので、男が寄って来たとしてもすぐ逃げ出すのではないかと思う。
……って、いかんなそんなことを考えては。
万が一本人にバレたら大変なことになるからな。
ここはこれ以上余計なことは考えないようにしよう。
そして、最後におじいさんが入ってお風呂は終わりだ。
「いいお湯だった」
と、おじいさんも満足してくれたようでよかったと思う。
さて、こうしてお風呂にも入って疲れを取ったことだし、後は寝るだけである。
★★★
ということで就寝時間になったので寝ることにする。
このテントを張っている場所は、極寒地獄が隣にある影響か、結構寒いので固まって寝ることにする。
ホルスターは銀と一緒に寝るらしい。
「銀姉ちゃんと一緒に寝ると暖かいから嬉しいな」
「銀もホルスターちゃんと寝るのは嬉しいな」
銀の本性は狐でふさふさの毛皮を持っているから一緒に寝るととても暖かいらしかった。
だからホルスターは銀と寝るのが好きだったし、銀もホルスターと仲良くしたいから一緒に寝たがる。
なので、二人は喜んで一緒の布団で寝るのだった。
エリカとヴィクトリアとリネットは三人で一緒に寝るらしかった。
「「「おやすみなさい」」」
そういうと、大きなベッドに一緒に入って行った。
三人も一緒に居ればさぞ暖かいと思うので、羨ましいと思う。
セイレーンとおじいさんは一緒のテントで寝た。
もちろんベッドは別だ。
いくら寒いとはいえいい年をした娘が父親と一緒のベッドで寝るのはどうかと思う。
ただそれでは寒いだろうから良い物を渡しておいた。
「ホルスト君、これ何?」
「布団の中に入れる暖房用の魔道具です。これなら寒い場所でも布団の中が暖かいですよ」
「本当?ありがとう。ありがたく使わせてもらうわ」
そうやって布団の中で使う暖房器具を渡しておいたのだった。
これなら一人でも暖かく過ごせると思う。
「「おやすみなさい」」
暖房器具を受け取ったセイレーンたちは喜んでテントに入って行っていた。
それで、残る俺とネイアが一緒に寝た。
まあ、今日はネイアの日だからな。昼間は冒険の最中だったのであまり一緒になれなかったので、寝る時くらいは一緒に過ごしたいと思う。
「ホルストさん」
布団の中に入るなりネイアが俺に抱き着いてくる。
「ネイア」
そんなネイアを俺は優しく抱きしめてやる。
今日のネイアはとても暖かかった。
風呂上がりな上に、風呂でエリカたちと一緒に飲んでいたからだと思う。
そんなネイアの体を何度も優しく撫でてやる。
それに対してネイアも反応して、力強く俺を抱きしめて来る。
ネイアに抱きしめてもらった俺はもう一度ネイアを抱きしめて、しばらくそのままの態勢でいる。
そして、そのうちにそのままの態勢で眠りに入る。
今は冒険中なので夫婦生活は無しだ。
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
二人でお休みの挨拶を交わした後、抱き合ったまま寝た。
ネイアの静かな寝息と暖かさを感じられて俺はゆっくりと寝ることができたのだった。
★★★
翌朝、起きてテントを出るとエリカたちがすでに食事の準備を終えていた。
「旦那様にネイアさん。食事の準備はできていますよ」
「ああ、そうか。それじゃあ食べようか」
「はい、食べましょう」
エリカに促された俺とネイアは席に着く。
さて、休憩はここまでだ。今日も頑張ってダンジョンを攻略するぞ!
「いただきます」
席に着いた俺はそう決意すると、皆と一緒に食事を始めるのだった。




